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第18話:【魔法合戦】

「お、ようやくアカリ嬢ちゃんも参戦か?」

「はい」


 刀身を鞘から引き抜いたアカリは、疲労に顔を歪めるサレンの前へと出た。


「お待たせ、サレンちゃん。……負担かけちゃってごめんね?」

「いえ、それが作戦(・・・)でしたから……」


 それは試験開始直前に二人で交わしたものだった。

 サレンが注意を引き付け、アカリが勝利の一口を探る。

 モネフィラが見抜いたように、単純すぎるくらいの役割分担。

 本来、注意を引き付けるのに適するのはアカリであった。

 けれど、アカリは知っていた。

 結び人との出会いを求め、冒険者として放浪の旅を続けていた中で、訪れた都市で聞いていた。

 その都市の名は、『獣候都市ニールドール』。

 ダニル・ローレンツとイバナ・モネフィラを『神獣候補』に据える都市では周知の事実。

 【フェルドリス】……『植物』を用いて都市を守る────守護者であると。

 特に『蔓』を用いて戦うという情報は、サレンにも共有されていた。

 初見かつ戦闘を得意としないサレンが大胆な行動に出られたのも、これが理由。

 相手が『植物』を扱うのなら、『毒』を用いて対抗する。

 僅かでも観察する時間を稼いでくれるなら、培った戦闘経験と混ぜて勝機を探ることが出来ると踏んだのだった。


「次はどうすればいいですか! アカリお姉ちゃん」

「うっ、ぅぅ……」


 己を見上げる期待の眼差しに、アカリは呻きを上げる。

 アカリ自身もローレンツの魔法を見たのは初めてで、規模の大きさ、数、範囲については予想以上。

 そんな出たとこ勝負をさせられたとは知らないままのサレンに、尊敬の眼差しを向けられたとなれば、罰が悪くなるのも当然。

 ローレンツの魔法を打ち破る糸口を見つけられなかったアカリは、罪悪感を募らせたのだった。


「え、えーっと……、それについてもごめんね…………」

「え?」

「その……私にも、どうするべきかはわからなかったんだよぉ……」

「えー……」


 しゅんっと身を縮め、胸の前で指をいじり出すアカリに、温厚なサレンは珍しく遠い目を向けた。


「──だからさ」

「……っ、ぁ──」


 ふいに笑みを作ったアカリにつられ、サレンは後ろを振り向く。

 そこに映る少年の瞳は、遠くに感じていた傍観者のものではない。

 離れていても、背中を支えてくれる。

 戦友でも、恋人でもないけれど、胸に感じる絆を結び留めてくれる人。

 ただそこにいてくれるだけで胸が高鳴る。

 やる気に満ち溢れる。

 そしてサレンは再び決意を顔に張り付けた。


「三人で勝ちにいこう!」

「はい! アカリお姉ちゃん!」


 × × ×


「ガッハハハ! いいぞぉ、お前ら! どこからでも掛かってくるといいさっ!!」 


 再び揺れる大地から姿を現すのは、20を超える巨大蔓。

 雄叫びこそ上げないが、大型魔獣と変らない威圧感に体が震えそうになる。

 けれど、今はこの恐怖が嬉しい。

 立ち向かうというなら、お前も『敵』の一人だと。

 無言の圧力をかける蔓の視線が、アカリとサレンと共に戦っているのだと教えてくれる。

 直接戦うことのできない僕を、それでも一人の『戦士』と見なしてくれている気がした。


「サレンは『毒』で蔓を破壊っ! アカリはサレンの援護を!」

「わ、わかりました……!」

「了解、了解!」


 サレンを先頭にして、右手から回り込むように指示を出す。

 草原を駆ける二人の後には、漏れ出る藤と赤の魔力光が朧な線を描いて消える。


「また突進か! けど、意味ないぞ!!」


 光の申し子を体現する二人に、ローレンツさんは蔓の雨を見舞う。

 青空を覆い、放物線を描く緑の大蛇の衝撃に、二人は足を止めなかった。


「「っ!」」


 降り落ちる蔓の影から僅かに後退し、目の前に突き刺さる蔓の大槍を最小限の動きで回避する。

 足場が割れ、体勢を崩されようとも、目尻を吊り上げるサレンは小さな両手を伸ばした。


「うっ、うぅぅぅぅぅっ!!」


 サレンを包む藤色のオーラが、触れる蔓へと伝播する。

 途端にみずみずしかった新緑の身は、禍々しい紫へと変わって溶け始める。

 連鎖の波を止められない巨大蔓は、一部に混じった『毒』を全身に巡らせ、土煙を上げて地に伏せた。


「猛毒……。だが、隙が大きすぎだな!!」


 蔓と対面するサレンの背に、ローレンツさんは巨大蔓を叩き込む。

 しかし、


「させないよっ!」

「ほぉっ!」


 迫る蔓の先端を、アカリの長剣が切り落とす。

 大木並みの太さであろうと、硬度は柔らかい蔓のまま。

 魔力で強化されたアカリの一振りは、滞ることなく銀閃を描いた。


「アカリお姉ちゃん、次行きます!」

「じゃんじゃんやっちゃえ、サレンちゃん!」


 一つ仕事を終えるたびに滴たる汗を増やすサレンに、新たに数本切り落としたアカリは振り返って親指を立てた。

 前方を塞ぐ蔓に素早く『毒』を流し込んでは道をこじ開け、サレンに襲う蔓はアカリが叩き切る。

 アカリが守り、サレンが道を開く。

 勝利条件である『一撃与える』を達成するため、広範囲を網羅する蔓に対し、僕たちは一点突破を試みた。


「良い連携だ。だが、どんなに枯らそうと植物の繁殖は止まらないぞぉ!!」


 ローレンツさんの手を伝い、緑色の魔力が大地に浸透する度に『蔓』生まれ、産声の代わりに地鳴りを響かせる。

 毒に侵されても、刃に切られても、地中から芽吹く巨大蔓。

 ローレンツさんを起点に四方に展開される蔓を突破するため、右側面から攻めていたが、新たに生まれる蔓によって、壁がどんどん厚くなる。


「はぁっ、はぁっ……っ! 次ぃっ、です……!」


 疲労をごまかせないサレンの瞼は重く垂れ下がり、瞳は閉じかけている。

 それでも立ちふさがる蔓に、サレンは『毒』を盛る。


「サレン……、あと少しだ……!」


 進み続け、毒を打ち込み続けたサレンの功績によって、ローレンツさんとの距離は埋まり始めている。

 けれど、蔓の密度が増した。

 四方に散らばっていた蔓はローレンツさんと、サレン達を隔てるように集結し始め、その分後ろはがら空きに……。


(落ち着けっ! 惑わされるな! 僕の役目はそこじゃないだろ!)


 ここで僕が走り出して、ローレンツさんの背中に拳を当てれば試験が終わる。

 サレンの苦痛に染まる表情に、ありえない妄想を浮かべてしまう。

 そんな楽観的な思考を払おうと、僕は頭を振った。


(無理をさせると決めたんだ……。今更、甘い考えに浸るなっ!)


 魔法合戦において、僕に出来ることはない。

 だから考えることに徹するしかないんだ。

 ローレンツさんの魔法対策。

 神獣候補に、隙なんてないのかもしれない。

 あったとしても、糸ほど細いかもしれない。

 それでも見つける。

 僕だって勝ちたい!

 二人と一緒に戦いたい!!

 例え用意された配役が安全圏からの観察者だったとしても、一矢報いるための勝ち筋を見つける。

 アカリとサレンを救うための、一手を勝ち取る。

 それが僕の戦い。

 そのための布石を打つ瞬間は──


(──ここっ!!)


 ──全ての蔓が、ローレンツさんの前に訪れた時っ!!


「アカリっ! 今だ!!」

「了解っ! じゃ、やっちゃうよぉおおおおおおおおおっ!!」」


 僕の叫びに耳をピクリッと動かし、笑みを作ったアカリが小さく頷いた。


「へぇっ!? アカリお姉ちゃんっ!?」

「そのまま、じっとね!」


 切りつけていた蔓から身を翻し、アカリは片手でサレンを抱き上げる。

 中途半端に打ち込まれた『毒』では蔓は沈まない。

 どころか、魔力で強化された脚力で飛び上がったアカリたちは、遮蔽物のない空へと上る。

 その高さは、アカリ達を睥睨する蔓すら超えて。


「何のつもりだ? それじゃ、格好の的だぞ?」


 蔓の攻撃から逃げる先としてはおざなりだと、片眉を歪めるローレンツさんは見上げながら、全ての蔓の先端を空へと向ける。

 滞空するアカリとサレンに、逃げ場はない。

 けれど、それでいい!


「的にされてるのは、そっちも同じですよ。…………ローレンツさん?」


 サレンの努力が実を結び、想像通りの状況が生まれたことへの愉悦に、僕は笑みを作ってしまった。

 合格条件は『一撃与える』こと。

 捕まらないように逃げるだけでは勝ち目はなく、攻めようにも蔓が行く手を阻み体力を削る。

 長期戦になれば戦い慣れていないサレンは脱落し、綻びにつけ込まれてアカリも敗北するだろう。

 ならば、と思いついたのが一点突破なわけだが。

 サレンの戦いっぷりに、僕はハッとさせられた。


「大きさにばかり目がいって、本質を見れていなかったな」


 『神獣候補』だから魔法の扱いも、実力も、全てがアカリ達の上。

 試験という枠組みでなければ、勝てないのは確実。

 さらにローレンツさんの魔法は、本来の【ジェネレート魔法】を超越している。

 だから原理や、方法、規則性を探ろうと思ったが。


「【魔法】である限り、『魔力』に縛られているのは変わらない!」


 二対一という状況で、アカリ達がローレンツさんに勝る点は、『魔力総量』。

 原理や方法は、分からなくても、蔓を生成しているのは『魔力』なのだから、魔力切れに追い込むことこそ、解決策。

 そして『魔力』を注いで作った蔓の群生が、今一塊になっている。

 ならば!


「一掃されたら困るんじゃないですか?」


 これまで蔓を一本ずつ『毒』で沈めていたのは、(ブラフ)

 僕達に大規攻撃はできないと想像させるため!


「いっっっ、けええええええええええぇぇぇぇぇ!!」


 拳を突き上げて合図を送る僕に、アカリは【魔法】で答えた。


「おいおい、マジかっ!?」

「……これは、ウチも予想外だなぁ」


 神獣候補たちの驚嘆が、風に乗って聞こえてくる。

 彼らを出し抜くための、最大の切り札。

 『五大系統』で、最も希少。

 効果範囲、創造と自在操作、付与効果。

 系統分けされた特性を併せ持った上位魔法。

 『エレメント魔法』が一つ。


「うりゃあああああああああああああ!!」


 太陽と見間違うほどの──【大炎塊】。

 爆ぜる炎煌。

 拡がる灼熱。

 空気が震え、影が揺らぐ。

 空を喰う勢いで創造した業火を刀身に宿し、アカリは振り下ろす。


「────っっっ!!」


 直後、轟音と衝撃が草原を駆け抜けた。


「…………っ。……す、すごい……っ!?」


 肌を焼くような熱風が止み、両腕を下げた途端、飛び込んできた光景に目を見開いた。 

 そこにあったのは、焼き尽くされた巨大蔓。

 群生は炭へと変貌し、黒い山を形成する。

 けれど辺りの草原に燃え広がっていないのは、アカリが【炎】を操作したからだろうと、僕は感嘆を溢した。


「マコト、サレンちゃんをお願い」

「う、うん……!」

「今のうちに畳み掛けなきゃ!」


 着地を決めたアカリはサレンをその場に下し、ローレンツさんに追い打ちを掛けるべく、残り火が燃える炭の山へと駆け出した。


「サレン、大丈夫!?」

「は、はい……、ビックリしましたけど、平気です……」


 尻を付いて座り込んだサレンは、僕の問いかけに呆然と答える。


「聞いてはいましたけど、これがアカリちゃんの【(ちから)】……。サレンの【(まほう)】が霞んでしまいました……」

「比べるものじゃないんだろうけど、これはすごいね……」


 旅の途中で聞いていた現物を目にした僕たちは、揺らめく炎を前に揃って唖然とする。


「って、いけません!? サレンもアカリお姉ちゃんを手伝わなきゃ!」

「ちょっと待って、サレン! 今は一旦休んでいいから」

「でも……」

「あれだけ無茶をさせたんだ。ひとまず息を整えるくらいはして欲しいんだよ」

「……はい」


 手をパッと口に当て、肩を跳ねさせながら立ち上がったサレンを、僕は慌てて制止する。

 気概があるのは良いことだが、サレンの掻いている汗は尋常ではなかった。

 激しい戦闘に当てられ、気持ちが高ぶっているせいか、おそらくサレン自身は気づいていない。

 魔力切れ……『ダウンタイム』が近いことに。

 そんな状態で戦わせられるはずもなく、ようやく肩の力を抜いたサレンに、僕も安堵の息を吐いた。


(ひとまず蔓の群生はどうにかできたんだ。倒せないにしても、魔力は相当削れたはず……)


 現にサレンの魔力消費は著しい。

 『毒』による腐敗、そしてアカリの【炎】によって、ローレンツさんの武器である『蔓』を潰した。

 さっきまでの大規模攻撃は、…………早々できない、……はず。

 出来たとしても、それが本当に最後。

 こっちには魔力に余裕があるアカリがいる。

 もう一度吹き飛ばすくらいはわけない。


(魔力をケチり肉弾戦に切り替えてくれれば、…………勝機はあるっ!)


 僕らの優勢な点は、2対1であること。

 『魔力量』の次は、純粋な『数の利』で攻める。

 アカリの体術は申し分ない。

 そこにサレンを加え、…………最後の最後は、僕も参戦する……か?

 いないよりはマシになればと、最悪の場合を考えつつ、僕は顔を青くした。


「サレン、あと少ししたらアカリの所に行こう。時間が経っても蔓が出ない。だから、ここからは体術で『一撃』を狙いにいこうと思う」

「わかりました……」


 互いに顔を合わせ、頷き合う。

 そうして立ち上がろうとした時、徐々に大きくなる悲鳴が僕らの耳に飛び込んだ。


「──ぅ……ぅぅぅ……うううう、うわわわああああああ!!」

「っ!?」


 咄嗟に振り返った先。

 炭山から飛来する影と目が合った僕は、声の出し方を忘れた。


「「「ぐあっ!?」」」


 次の瞬間、黒い影に巻き込まれた僕とサレンは、まとめて後方へと飛ばされる。


「な、なにがぁ……?」


 重なった視線。

 混ざり合った三つの唸り声。

 体を押しつぶす、二人の重量。

 首だけで頭を起こし、胸に乗ったサレン……そしてアカリへと、困惑の声を上げた。


「ガァァァアアアア、ハッ、ハッ、ハッッ!!」

「っ!?」


 響く哄笑は、絶望を知らせる鐘のようで、僕は背筋を凍らせる。


「いやいや、まさか。アカリ嬢ちゃんまで相性最悪とはなぁ!!」


 空を舞う、黒炭と火の粉。

 騒がしく揺れる草原。

 最後にドンッと突き上げるような衝撃が、背中に響く。


「そ、そんな……こと……。『魔力量』でも、負けてるなんて……っ!?」


 這い出る巨大蔓。

 その数は…………40。

 これまで苦戦を強いられた倍の数に、僕の口元は痙攣を起こした。


牛獣人(アピス)……。体力や力が強い特性があるけど、『魔力量』にも優れた獣人なのよね」


 そして知る由もない情報を呟くモネフィラさんは、僕らに遠い目を向けるのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


魔法といえば、【炎】!

そんな強い思いがあり、物語の内容を考える以前から、アカリには『炎使い』になってもらおうと決めていました。

そんな勢いで決めた設定をなんとか形にできた今回は、ほとんど自己満足の塊ですが、読者の皆さんにも楽しんでもらえていたら嬉しいです。


けれど、『神獣候補』は一筋縄ではいきませんね!

最後の最後で倍返し、そして絶望……!

次回も続く3人の奮闘劇にご期待ください!!


ブックマークや感想、応援コメントが本当に励みになりますので、これからもよろしくお願いします。

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