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第1話:【始まりは逃走劇から】

 今時、異世界転生やら異世界転移なんて珍しいことではないかもしれない。

 だけど、だけど──、


『『ヴァウ、ヴァウッ!!』』


(──これは、あんまり過ぎるでしょぉおおおおおっ!?)


 背後から迫る獣の咆哮に、僕は地を蹴る。走るっ! 駆け抜けるっ!!

 命を振り絞って、ただ前へっっ!!


 足を止めれば最後。

 間違いなく人生最高速度を叩き出していた僕は、数分前の出来事に奥歯を噛み締める。


(なんのこれ!? なんなのこれ!? ほん~~~~~っと、どういうことっっ!?)


 一言でいうなら、穴に落ちたら森にいた。

 高校からの帰り道、突然現れた黒い穴に落ちたのが運の尽き。

 次に目を覚めした時、住宅街は見知らぬ森へと様変わり。

 そして悲劇の始まりを知らせるのは、猛獣の鳴き声。

 すぐさま振り返った先で、ジッと僕を見つめる二対の赤眼と視線がバッチリ重なり、逃走劇が始まった。


「はぁっ、はぁっ! はぁぁっ!?」

『『ヴァ、グァッ!』』


 目を見る、背を向ける、走り出す。

 猛獣に出会った時にやってはいけない動作三選。

 その全てをやってしまった僕に、野獣が追ってくるのは必然のこと。

 あっという間に息は絶え絶えに、呼吸で喉が擦り切れる。

 それでも生存本能にムチを打たれ、僕は悲鳴を上げながらも足を動かした。


『『ヴァウ、ヴァウッ!!』』

「ぃぎぎっ!?」


 僕は知らない。

 見た目こそ猿のようだが、上顎から30下長単位(センチメートル)ほどの白牙を伸ばし、四足歩行で猛追してくる白毛の生き物を、僕は知らない。


 こんなの現実なわけがない。

 木漏れ日も届かないで樹林の大迷宮。

 その中に混じる家よりも大きな巨大キノコを、認めるわけにはいかない。


 絶対違う、絶対違うっ、絶対違うぅっっっ!?

 これが元の世界な訳がない!!


(ここは、『異世界』…………! これが、『魔獣』っ!?)


 目を背けるのも限界に達し、最も納得のいく結論を浮かべてみるが、こんな状況でなければ唾を吐いていただろう。

 夢にまで見た状況(シチュエーション)だというのに、ちっとも嬉しくない。

 初期設定を教えてくれる女神様も、ステータス画面だって現れず、開幕早々喰い殺されそうになる。

 こんな理不尽、聞いたことがない!


 心臓の鼓動がこんなにも激しいのは胸の高まりじゃなく、ただただ恐怖からくるものだろう。

 あちこちに枝が引っかかり、服が破け、手や顔にも傷が増えていく。

 号泣しそうなのを噛み殺し、終わりの見えない逃走を続ける。

 けれど、ボロボロになってまで走った成果は現れた。


「も、森を抜ける……っ!」


 目の前の木々の隙間から、かすかな光が見え始める。

 暗闇に差す一筋の光が、希望になるとはまさにこのこと!


「────っ、……………………え?」


 なんて思ったけど、世の中そんなに甘くない。

 森からの脱却。

 その一歩を踏み出した僕の足は、地面を捉えることなく──、


「わぁっ、わぁっ!? わぁぁぁぁああああああああああああああああっっっ?!」


 ──空を切った。 


「ひいぃぃぃっっっ!?」


 光に飛びついた僕は、真っ逆さまに崖から落っこちた。

 視界に広がるのは大地。

 落ちれば、確実な死。

 必死に手足をバタつかせても、虚しく風は通り過ぎるだけ。

 間違いなく助からない、と数秒先の絶望に瞳がかっ開く。


(これが…………走馬灯っ!?)


 乱雑に並べられた写真のように、記憶が脳裏を駆け巡る。

 季節も時代もバラバラ、けれど場面はどれも同じ。

 逃げて、避けて、顔を伏せる僕の姿。

 人混みにポッカリと空いた空間を、魂律(プログラム)されたように皆が避ける。

 でもその中心には、いつも人がいた。

 ボロボロで膝を抱えた『誰か』が、潤んだ瞳を向けてくる。

 そんな人から……、──。


「──っ、はぁ!?」


 飛びかけた意識が引き戻される。

 けど、状況は何一つ改善されてない。


(……もう、無理だぁっ!!)


 終わる……っ。

 どうしようもない……っ。

 胃袋が飛び出しそうになるほどの吐き気と恐怖に、僕はギュッと目を瞑る。


「……っ!」


 視界を闇に変えた僕には、雑音のように流れ込む風しか聞こえない。

 引き伸ばされる一瞬。

 永劫のように感じる最後。

 生への執着が尽き、頭の中は真っ白。

 五感が薄れ、意識が遠のき始める。

 そんな僕の下に、


「──君は運がいいね」


 声が届いた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

主人公の激しい感情の動きが目立つばかりでしたが、いよいよ次から物語が始まります。

続きを読んでもらえると幸いです。

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