プロローグ
「私を…………、────噛んでくれる?」
出会って間もない少女の言葉に、僕は唖然とさせられた。
太陽のような笑顔を振りまいていた彼女が、今は血に染まっている。
ポタポタと血を滴らせ、虚ろな目で笑いかける赤髪の少女。
そんな彼女を、僕はそっとその身を抱き寄せることしかできないでいた。
不穏な風が、深い森で冷やされた空気を運んでくる。
日の光はスポットライトに変わり、舞台に上げられた僕たちを照らし出す。
これから始まるのは悲劇だ。
残酷で残忍な悲劇。
『ヴォォォ……』
地響きが体を揺らし、辺りの小石は細かく振動する。
白毛の剛腕をゆったりと動かしながら迫る魔獣。
ジリジリと距離を詰める魔獣の表情は、どこか僕らを嘲笑っているかのようで、口端をニヤリと裂いた。
『ヴォ、ヴォ、ヴォッ!!』
残された距離を僅かにして、ゴリラのような魔獣は両手を高々と空に向け、勝利の雄叫びを響かせる。
殺意の籠る眼孔と視線が重なり、いよいよ死刑が始まる。
逃げることを許さない断崖絶壁。
逃げ道も分からない深い森。
間違いなく数秒後には死が待っている。
「……お願、い」
一層真剣な顔つきになりながら、彼女は自分の右手を口元に近づけてくる。
意味?
そんなの考える必要なんてない。
彼女の願いを、断る?
そんなこと、できるわけない!
僕を救ってくれた彼女の願いを、受け入れなくてどうする!
「……わかりました」
振りかざされた剛腕を前にして、僕はその手を掴み取る。
『ヴオオオオオオオオォォォォォォォッッッ!!』
魔獣の叫びが、音を刈る。
振り下ろされた一撃が、風を切る。
微かに口に入った血の苦さが消え、少女から伝えわる温もりさえも無に帰す中で。
白く朧気になる少女が、笑みを浮かべる。
「……君だったんだね。私の──『運命の人』──は」
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
初投稿で緊張しながら書きましたが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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これからも頑張って書いていきますので、よろしくお願いします!




