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第14話:【白の光粒】

「おうおーぅ、ヒョロガキがいっちょ前に構えやがるぜぇ。こりゃ傑作だなぁ~」

「……っ」


 本当にその通りだ。

 僕に何が出来るっていうのか。

 酒気を帯びた巨漢の嘲笑に、僕は喉を鳴らす。

 そもそもなんで飛び出した?

 考えるまでもなく、店主を助けるためだ。

 なんで声を荒げた?

 漢の暴挙が許せなかったからだ。

 弁償すれば満足なのか、店主に土下座すれば納得するのか。

 そもそも僕にそんなことさせられるはずはないのだが……。

 この争いの行き着く先を想像し、背筋を凍らせる。

 そんな僕の背を押すのは、狐の仮面の少女だった。


「それでいいのです。でなければ、──力を貸すにも値しない」

「っ!?」


 文字通り、彼女の手が僕の背中に触れる。

 直後、視界を白の光粒が埋め尽くした。


(……温かい。いや、冷たい?)


 駄目だ、分からない。

 肌に触れる光粒を認識しようと、感覚は混乱を起こしたようで機能しない。

 ただ、体の震えは止まっていた。

 一瞬前までの不安が消え去り、湧き上がっていた怒りすらちっぽけに感じる。

 それほどまでの万能感に包まれたのだった。


「ぼーっとして、どうしたのでしょ? そんなに難しいことを言いましたか?」

「え……、いや……っ。……これ……って……」

「分かっているなら話は早いじゃないですか? ほら、あの者を一蹴しなさい。今なら簡単でしょ?」


 堪らずに振り返った僕に、少女は不思議そうに首を傾げる。

 責め立てる訳でなく、急かすわけでもない。

 ただ、なぜ動かないのかと。


「おい……っ。 聞き捨てならねぇーな、女」

「?」

「誰をやるのが簡単だって?」


 荒々しい男の囁きが、周囲をピリッと張り詰めさせる。

 店主は愚か、僕すら巨漢の目には映っていないのだろう。

 あるのは自分にとって不快な存在かどうかの線引き。

 そこを越えた者には容赦しないとばかりに、男が瞼を歪ませ、殺意を込めた視線で少女を見据える。


「……っ」


 一触即発。

 問いかけをミスれば、次はない。

 交わる少女と巨漢の視線の端で、僕は息を飲む。

 そんな僕の心配は、


「お前しかいないだろ、────汚物」

「ガキがああああああああっっっ!!」


 意味を成さなかった。


「死ねええええええええ!!」


 脅しでも、寸止めでもない斬撃。

 少女を生かしておくまいと、巨漢が大剣を振り下ろす。


「──っ!?」


 全身の血が沸騰する。

 考えるよりも先に、体が弾ける。

 血管を浮かび上がらせた巨漢の一撃から、少女を守ろうと強引に抱き寄せた。


「ぬうぅぅぅ、んんんんっ!!」


 直後、耳朶を打つのは爆発音。

 屋台を粉砕した男の一振りが、地面へと叩きつけられたのだ。


「ちょっと!? 何考えてるんですか!?」

「あらら、着物が」

「き、聞いてます!? 危なかったんですよ!?」


 店主の時と同じく、少女を抱きしめたまま地面に転げ、傷はないかと体を離す。

 大きな傷はない。

 けれど少女の楽観した態度に、僕は声を上げていた。


「オォォッ、ラァアァァァッ!!」

「ぅっ!?」


 躱したのも束の間。

 男の野太い声と共に、横薙ぎの二撃目が唸りを上げて僕たちに迫っていた。

 すぐさま旋回。

 再び少女を抱き寄せ、その場を離脱する。


(ギリギリっ!? でも、皮一枚掠めた……っ!)


 容赦のない2連撃。

 どちらもまともに受ければ大怪我では済まなかっただろう。

 それほどまでに漢の常軌は逸しており、少女の言う通り、説得して場を収める段階ではない。


「なんだ、体動くじゃないですか」

「言ってる場合!?」


 少女からの感心にまともな返事も出来ないまま、付かず離れずの距離で止まった僕は、漢へと振り返る。


「クソがぁ……、無駄に避けてんじゃねーよ…………」


 この漢がイカれているのか、世界の常識に問題があるのかは分からないけど、こうも躊躇なく人に刃物を振れるものなのか?

 自身を越す巨刃を振り回した反動で、漢は肩を上下させている。

 対する僕といえば、肝を冷やす思いはしたけど、疲労感とは無縁だった。


「ふむ。上々ですね」


 声の方に目をやれば、愉快そう笑う少女が顎に手を当てていた。


「何がですか?」

「【魔法】の効力ですよ。お気づきになっているんですよね?」

「……っ」


 歯切れを悪くする僕に、少女が指を差す。

 当たる指先は胸に触れ、白の光粒が溢れる。


「これが、……【魔法】」


 無数の光粒。

 僕と少女を包み込むように、微細の発光体が、僕の胸を起点に全身へと流れ始めた。


「君はディスター……、なんですか……?」

「えぇ、そうよ」

「でも……、僕は君のことを噛んでない。なのに、どうして魔法が?」

「変なことを言いますねぇ、カガヤ様? 貴方様は、(わたくし)の結び人ではないでしょうに」

「それは、そうだけど……」


 言いたいことはそうではないのだが、なんだがはぐらかされているようにも感じる。

 アカリとサレンが魔法を使った時と違い、腕に抱える少女からは魔力が溢れていない。

 口噛みなしに、魔法を扱う?

 となれば【還元魔法】?

 詠唱を口ずさんでいたようには見えなかったし、きっと違うだろうと首を振って口を閉じた。


「どのみち多くは語れません。それよりも今はあの不届き者を懲らしめてください。貴方様なら、十分あの者に勝てますよ」

「何を期待されているかわからないけど、僕は武人じゃない。武器を持った相手に勝てる未来は見えないんだけど……」


 観衆は皆怯え、誰も僕たちに手を貸そうとする者はいない。

 店主も燃える屋台を力なく眺めるだけ。

 味方と言っていいのかよくわかないけど、力を貸すと言った仮面の少女も、自分で何かをする気はなさそうだし。

 息を整えた巨漢は唾を吐き、「次は外さねー!」と再び構えを作って、僕らと対峙する。

 この男の悪行が許されていいはずがない。

 けれど、僕の脚は恐怖に震えている。

 魔力に包まれ、万能感に浸ろうとも、怖気づいた僕の心は変わらなかった。


「叩き潰してやるっ!!」


 怒声を飛ばし、大剣を担いだ漢が走り出す。

 目を血走らせる男は、僅かな距離を食らい、僕との間合いを測る。

 思わず一歩ひいてしまった僕に、心を見透かした少女が告げた。


「何も臆することはありませんよ。先ほど申したように、貴方様に力を与えました。それは比喩ではないんです」

「え?」

「必要なのは、戦う勇気だけですよ」


 迫る巨漢に意識を持っていかれ、少女の言葉がどこか遠くに感じる。


「死ねええええええええええっ!!」

「っ!?」


 大鉄塊の一刀両断。

 受け止める手立ても、力もない。

 相変わらず逃げの選択しかない己に憐憫を感じながらも、後方へと飛び上がる。

 …………はずだったのだが、


「……………………はぁっ?」


 視界が一変した。


(え……? なにこれ……? どうなってんのおおおおおっ!?)


 目の前に広がるのは、屋台通り。

 淡い橙光色に彩られ、賑わいを見せる町並み。

 その光景を、──空高くから見下ろしていた。


「──【身体強化(ティアフォーぜ)】──。身体機能を向上させる。それが(わたくし)の魔法です」

「それってつまり、……強化魔法?」


 近くに感じる夜空も。

 足元に広がる都市の一角も。

 生み出したのは、…………僕自身。

 巨漢の大剣を避けるための全力の回避が、彼女の【身体強化(まほう)】によって、空へと上る跳躍へと強化されたということだ。


「ここまでお膳立てしたのです。いい加減覚悟を決めてはいかがですか?」

「……っ」


 白の光粒を見たときから、【魔法】の類であるのは分かっていた。

【身体強化】であると言われた今なら、突如全身を包んだ万能感にも納得がいく。

 目下では、消えた僕達を探す巨漢が右往左往しながら声を張り上げている。

 さらに近くでは土煙が上がる。

 おそらく、僕の踏み込みが起こしたものだろうけど……。

 強化された自覚が無かったとはいえ、とんでもない被害を街へと出してしまったような……。

 少女の言葉、そして目下に広がる光景を目にしては、僕がただただ怖気づいているだけというのは頷けた。


「…………痛く、ない……?」


 間もなく訪れるのは自由落下。

 夜空を離れ、高所から落ちようとも、なんなく着地が出来た。

 どの瞬間に、どんな動きをすればいいのか手に取るように分かる。

 まるで今の力が、普段の自分であるかのように。


「初めての方だと力の調整が出来ないので、(わたくし)がそばを離れるわけにはいかなかったのですが、どうやら変わった才能をお持ちのようですね」

「あ、ありがとう……、ございます……?」


 姿を隠すために、舞い上がった土煙へと着地した僕に、少女が言う。

 突然の急上昇と急降下を味わおうと、特に心を乱した様子はない。

 妖艶に満ちた口調といい、本当に何者なのか。

 そっと下ろした少女からはついぞ答えは明かされず、ゆったりとした歩みで僕の下を離れた。


「使い方には十分ご注意を。さもないと簡単にあの者を殺してしまいますからね?」

「そんな忠告があるっ!?」

「では、付与した力を減らしましょう。これでどんなに力を振るおうと、人を殺めることはありませんので安心してください」

「はぁー……」


 本来大型魔獣に対して使われる力なのだから、人に使えば当然だろう。

 【身体強化】──魔力の付与。

 全力の跳躍で、およそ14、5長単位(メートル)まで上がれる力。

 魔法が使えないことに絶望したこともあったけど、いざ簡単に人を殺せる力となればむしろ恐怖。 

 少女の言葉通り、取り巻いていた光粒が減るに合わせて、万能感も薄れる。

 ひとまず僕が殺人を犯す心配は無くなったようで、ダラリと肩の力を抜いた。


「心配ごとは消えましたが、その分必要な物は増えてしまいましたね」

「必要な物……?」


 オウム返しと共に、僕は怪訝な瞳を少女に送る。

 こんな状況で、僕に何を用意しろと言うのか。

 薄れる煙の外では、今も巨漢が吠えている。

 一歩外に出れば、得物が火を吹く戦場だ。

 悠長に借り物競争をする余裕はない。

 【身体強化】を施して貰っているとは言え、初めて使う力でどこまでやれるのかもわからない。

 そんな不安に取りつかれる僕に、少女は告げた。


「──勇気です」

「え?」

「貴方様が(わたくし)や店主さんを救ってみせた時の勇気。それを用いることで、あの者を下せるでしょう」


 女神の代行者。

 いや。白の着物を纏う彼女は、女神の具現化と言っても過言ではない。

 そんな少女女神は、お告げを述べるかのように続けた。


「先んじて申したように、(わたくし)が力を貸すのは、貴方様の武勇に敬意を払っているからです。そのお心を(わたくし)自ら汚すような真似はしたくない」

「勇気……。それが、僕に力を貸す理由?」

「えぇ、そうですよ」


 なんてことはないとばかり、少女は首を傾げる。

 けど、僕自身に勇気を出したつもりがない。

 店主の時も、少女の時も、ただ必死だっただけ。

 ただ飛び込んだら、難を逃れたに過ぎない。

 算段を立てずに動いた結果が今だ。

 土煙の壁を失うのが怖い。

 男と対峙するのが怖い。

 そんなビビっているだけの僕を、勇気ある者と称した少女に違和感しかない。

 違和感しかなかったのだが、少女からの期待に胸を高鳴らせている。

 なんて単純なのか。

 期待に応えたい。

 ただそれだけの理由で、僕は拳に力を入れた。


「無自覚な勇気でも、貴方の周りはそうは思わない。感化され、募り、肥大化し、いつか貴方自身に戻ってくる」

「?」


 一体少女は何を言っているのか。

 どこか遠くの未来に向かって告げているような口調に、僕は呆気に取られてしまった。


「だから頑張ってくださいね」

「え……? あっ! ちょっと!?」


 突然の別れ。

 仮面の少女は土煙に溶けるかのように姿を消し、引き留めようと伸ばした僕の右手は空振りに終わる。


「って、言っても……」


 土煙の向こうでは怒号が響き、僕と少女を見つけようと巨漢が躍起になっている。

 すっかり標的は僕たち…………いや、今は僕だけとなってしまって、逃げだすことも許されない。


「……」


 少女を掴み損ねた右手に力を入れて、閉じたり開いたりを繰り返す。

 白光が薄まっても、普段以上の力が溢れてくる。

 さっきのような跳躍は無理だとしても、視線を少し上げた先に見える二階窓になら飛び込める確信があった。


「他人の力……。でも、やるしかないのならっ!」


 半信半疑を拭い捨て、僕は土煙から一歩踏み出した。


「おめぇー、一人かぁ?」

「はいっ」

「よく煙幕なんて持ってたな。それでメスガキだけでも逃がしたわけだ。良かったなぁー、惚れてもらえたかもしれねぇーぞぉー? ガアァ、ハハハハハっっっ!!」


 どうやら僕たちの一連の動きは見えていなかったようで、巨漢の勘違いによって僕は殿(しんがり)扱い。

 激しく顔を歪めた嘲笑が、爆音となって辺りに響く。

 

「……」


 借り物の力。

 そうだとしても、この人をどうにかしたい。

 弱い僕には不釣り合いな傲慢を抱き、二つの拳を顔の前に作った。


「僕は、あなたを許しません!」

「逃げまくってたくせに、急にイキがりやがって。きっちりシメてやるから覚悟しろ?」


 視線がゆったりと絡み合う。

 もっと賢い方法があったかも。

 もっと建設的なやり取りができたはず。

 最後とばかりに理性が歯止めをかけようとするが、今は邪魔だと頭の隅に追いやる。


「はああああ、ぁぁぁああああああああっ!!」


 張り上げた叫びを先行させ、巨漢へと突進を仕掛ける。

 脳が、熱い。

 身体が、燃えている。

 通り過ぎる風を押し返すほどの蒸気を吹かして疾駆する。


「へっ! 素人がぁっ!!」


 愚直な僕の走りを見るや、男は上段に構えた大剣を振り下ろす。

 今日何度も披露された大振り。

 自身の巨体を生かせる強力な一撃であるのは間違いないのだろうが。


(そっちこそ、単調だ!)


 同じ技を繰り返すだけなら、付け入る隙も見えてくる。

 となれば。


「ふん!」

「ぬおっ!?」


 大剣の間合いギリギリでの急停止、からの頭上への跳躍。

 斬撃の軌道をなぞるように弧を描き、がら空きとなった男の背に蹴撃を繰り出せば、重厚な鎧に凹みが生まれる。


「があああああっ!?」


 衝撃は衰えることなく、男をそのまま前方へと転がした。

 さすがにアカリが魔獣を吹き飛ばしたようにはいかない。

 それでもまずは一回。

 これまで店主にしたことへの報復が叶った。


「この野郎っ!」


 転んでも大剣を離さなかった漢は、出鱈目に一振り払う。

 けれど強化された動体視力を持つ僕には、当たらない。


「っ!」

「ぐわぁっ!?」


 もう一度頭上に飛び、男の兜に両足で踏み込む。

 胴体よりも薄い兜は大きく歪み、剥き出しだった顎は地面に突き刺さる。

 よっぽど効いたのか、上がるうめき声が濃さを増す。


「……や、やりすぎた……っ?」


 地面と接吻を続ける男に、僕はぴくっと肩を揺らす。

 防具の上からだし、人を殺せるほどの力ではないという少女の言葉を信じて頭を狙ってしまったのだが、打ちどころが悪かったのかもしれない。

 遠くの観衆から「死んだ……?」っと、縁起でもない言葉が聞こえて肝を冷やしていると、男の指先が僅かに震えた。


「ううぅぅぅぅぅ、がああああああああああああっっっ!!」


 地面から伏した体を引き剥がすように、勢いよく立ち上がった男は、潰れた兜へと手を置く。

 脱帽するやいなや、僕の二回りもあるだろう巨漢の手のひらが、兜を鉄塊へと変形させる。


「まさかっ!」

「うらああああ!」


 突然の投擲。

 男の手によって丸められた兜が、飛び道具となって放たれる。

 勝負が着いたと油断した僕は、避ける間もなく鉄塊の餌食にされた。

 けれど──、


(──受け止められる!)


 虚を突かれたと心臓を跳ねさせるも、屑鉄は未だ僕の下には届かない。

 下手に避けると被害が広がる。

 ならばと、真正面から近づく兜を、包み込むように受け止めた。


「がぁ!?」


 よほどの驚きだったのか、巨漢は口と瞳を大きく開ける。

 その全身をよく見れば、兜の下からは体躯に合わない小さな耳、そして凹んだ鎧の隙間からは濃い体毛。

 2長単位(メートル)にも届く巨体であることからも疑わしかったが、漢はヒューマンよりも力ある獣人だった。

 となれば、ヒューマンである僕の動きに驚くのも無理はないだろう。

 もちろん少女が施してくれた【身体強化(ティアフォーゼ)】ありきなので、偉そうなことは言えないのだが。


「……くっ、……ぅぅぅううううう、ぬんんんんんんっっ!!」


 顔を真っ赤に染めた巨漢は、流れる獣の血に相応しい雄叫びを上げる。

 視界の奥から迫る漢は野獣のそれで、覆い被さろうと両手を広げた。

 次の瞬間、


「ふぅんんんっ!」

「ぬぅううんっ!」


 互いの手のひらが、パンッと重なる。

 指の間を裂くように、強引に押し込まれた太い指が手の甲へとめり込む。

 加えて、伸し掛かる巨体の重み。

 大剣を捨て、単純な力勝負へと持ち込んだ漢は、僕を押しつぶそうとさらに咆哮を上げた。


(本当に【魔法】はすごいな……。こんな僕でも張り合える…………っっ!)


 結果は拮抗。

 押しも押されもしない停滞状態。

 本来であれば、ヒューマンと大柄な獣人の勝敗なんて最初から目に見えている。

 そんな瞬殺待った無しの力比べに、対抗したというのだから、気持ちの面で言えば僕の勝ちだろう。


「なっ!? ななな……っ!?」


 癇癪で赤くなった巨漢の顔が、みるみる青くなる。

 まるで得体のしれない者にでも遭遇したように、動揺する男から一瞬力が抜けた。

 その一瞬を、僕は見逃さなかった。


「くぅっ!」

「何っ!?」


 押し返すと同時に手のひらを解き、すぐさま腰を捻る。

 纏った白の光粒は残り僅か。

 戦い方だって分からない。

 ならばと僕は、全ての魔力を──拳に集めた。


「はぁぁあああああああああっ!!」

「ぬぁ、がっ!?」


 仰け反った男への、一撃。

 飛び跳ねてからの、一振り。

 当惑に染まった男の顔面に、力の限りの拳をぶつける。


「ぬぁ、がっ!?」


 地面に叩きつけられた男は、頬に拳の後を刻んで白目を剥いていた。


「か、勝てたぁ……っ」


 本当にギリギリだ。

 強化されたはずの拳が、男を殴ったことで赤くなる。

 力の使い所を間違えていたら、大人しくさせることはできなかったかもしれない。


「き、君っ! 大丈夫かい!?」

「え、えぇ……。なんと……、ぐぅっ!?」

「おい、大丈夫かい! しっかりするんだ! おい!」


 声を掛けてきた店主へと振り返ろうとした矢先、激しい睡魔に襲われた。


(これって……、アカリたちがなる……やつ……?)


 魔力切れによる意識消失。

 通称『ダウンタイム』。

 膝から崩れ落ちる僕を受け止めてくれた店主に、激しく体を揺さぶられようと、睡魔は収まらない。

 達成感に酔いしれる時間もなく、徐々に意識が薄れ、視界が細くなる。

 その中では、役目を終えた白の光粒が空へと舞い上がる。

 屋台通りでの大激戦。

 なんて呼ばれることはなく、僕の感じた危機感とは裏腹に、酔った獣人と通りすがりのいざこざとして処分されたことを、後日知ることになったのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回の話の肝は、まさに 「魔法が使えて良かったね、マコト!」 です。

人生、何が起こるか分からないものですね。

そして仮面の少女については、まだまだ謎のまま……。


次回からは セイバートゥース について掘り下げていきますので、続きが気になる方はぜひ読んでみてください。


ブックマークや応援コメントもお待ちしております。

これからもよろしくお願いします。

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