117.不思議の国と怒れる者《ココアvsリリーシア》
回復及びライフストックスキルの制限。
それは不死を強みにしてきたココアにとっては、これ以上無く工科的な縛りであった。
防御をかなぐり捨てるまでとは言わず、時に大胆なまでに防御に対し無頓着にすらなる彼女は、今までになく慎重な立ち回りを余儀なくされた。
最早何戦何勝したかも定かでない、宿敵リリーシアを前にして。
「【サイクロンエッジ】!!」
「【クライシス】!!」
風が四散し光が飛散する。
(チッ、やっぱ手数で押される…。てかこんなにやりづらかったっけってくらいやりづらい。【オーバーライフ】の効果が消えてるからじゃない…リリーちゃんがレベチで強くなってる…)
(どんなに手数を増やしても一撃の重みで返される…。ったく、自力で強いんだからやってられないわ…)
互いの強さを疎ましく、同時に認め合う。
ココアとリリーシア。
ライバルたちは持てる全てで何度目かの決闘に熱中した。
【詠唱破棄】から繰り出される【陽光魔法】と【白焔魔法】を、リリーシアの【烈風魔法】が蹴散らす。
ときに、ココアとリリーシアの技量は同レベルである。
体術、魔法、戦術眼…どれを取ってもほとんど優劣はつかない。
なのにリリーシアがココアとのバトルに全敗を喫しているのは、手数の多さ故に決定打に欠けていたというのも大きな理由だが、【ライフストック】並びに進化した【オーバーライフ】という準不死スキルとの相性の悪さにあった。
「らしくないわね。どうしたのよ、随分縮こまってるじゃないの。やっぱりライフ一つは心許ないってこと?」
「はぁ?節穴かよ。めちゃくちゃヤる気なんだが?それともいい女すぎて目眩ませちゃった?ゴメンね」
「減らず口ウッザ」
「けどそういうとこが好きでしょ?」
「フッ…………いや全然好きじゃないわね」
「あっれれぇ?」
「年下のくせに生意気だし鬱陶しいし喧しいし、手のかかる妹っていうか。顔を見る度に泣かしてやりたい気持ちになる」
「はいはいツンデレツンデレ」
「デレたことないけど」
「今日が初めてになるかもよ」
「あんたアタシのデレたとこ見たい?」
「全ッ然興味無い」
「ハッハッハ」
「シッシッシ」
「死に晒せクソビッチ!!」
「返り討ちにしてやんよアバズレが!!」
「「モード!!」」
「【天照】!!」
「【風之精霊王】!!」
業火が烈風に踊る。
「今日負けても慰めてやんねーぞ!」
「いつも慰めてもらってるみたいに言ってんな!【サイクロンギガース】!!」
風の魔神を顕現し、渦巻く拳を叩きつける。
ココアは炎を纏わせた大鎌で一閃。
灼熱を迸らせた。
「【クリアバースサンシャイン】!!」
天壌から火柱が降り、魔神ごとリリーシアを焼く。
「【ウインドブラスター】!!」
「【ロストエンジェル】!!」
追撃で風を切り裂き、大地を割り炎を噴かせた。
「ウチのが……強い!!」
度重なる刃の撃ち合いに周囲が斬り刻まれ溶解していく。
世界が紅に染まる中で、リリーシアは負けじと瞳に熱を宿す。
「だから、あんたが強いのなんて…とっくにわかってんのよ!それでも…勝ちたいんだからしょうがないじゃない!!」
莫大な風をナイフの切っ先へ。
凝縮。
圧縮。
炎と熱を巻き込み渦を巻かせる。
未だかつてない何かが来ると、ココアは総毛立ちながら攻撃を先んじた。
刃に【天照】の炎の全てを乗せ地面を蹴る。
「終わり散らせ!!【フォールダウン・フレア】!!!」
「負けっぱなしで…あんたのライバルが務まるかぁ!!」
精霊の力により圧縮された風は、万物を貫通する神刃と化す。
更に突きのモーションから繰り出された神刃は、突風により超加速を齎され、至近距離からの回避は不可能。
それが連続でココアを襲う。
「【フォールエンジェルスレイヤー】!!!」
その攻撃の交差は、確実に勝敗を分けた。
勝ったと。
負けたと。
それぞれに明確な意思を植え付けた。
故に片や歯噛みし、片や先んじて口角を上げた。
リリーシアの勝利。
それでこのバトルは決着となった。
なるはずだった。
「――――――――!!!」
リリーシアの胴体が真っ二つに割られるまでは。
「リリーちゃん――――――――」
「ココ、ア――――――――」
手を伸ばすより早く、リリーシアは世界から退場した。
後に残ったのは呆然と炎を揺らめかせるココア。
そして、燃えるような赤髪の人ならざる者。
「あら?纏めて斬ったと思ったのに」
炎が揺らいでいるような真紅の瞳の少女は、土埃を払い身の丈以上の大鎌を肩に担いだ。
「おかしいわね気持ちが逸ったのかしら」
光の粒子がココアの真横をすり抜ける。
「人間ってこれだから嫌なのよね。弱すぎて歯牙にも掛からない。まあいいわ。一匹も二匹も変わらないもの。そこの人間。疾く跪きなさい。愛しきマスターのため、灰になる許可を与えてあげる」
獰猛に、ココアは少女へと飛びかかった。
「不敬よ人間。私を誰だと思っているの?刃を下げて頭を差し出しなさい」
「黙ってろクソ木偶。人の勝負に横から茶々入れておいて、ただで済むと思うなよ」
「プッ、アッハハハハ!人間ってこんなに低能なのね。可哀想なくらい愚か。バトルロイヤルの意味わかってるの?一対一を邪魔されたのがそんなに嫌だった?今の羽虫の友だち?それとも恋人?アハハハハハ、心配しなくてもすぐに同じところに送ってあげるわ。優しいでしょう私って。羽虫にすら情けをかけてあげるんだから」
「【ロストエンジェル】!!」
業火が少女を襲う。
しかし、
「不敬だと言ったのがわからない?」
「?!」
渾身の力で振った鎌を受けても微動だに背ず、業火さえも涼し気に払ってみせた。
「控えなさい。あなたが前にしているのは世界の帝王たるこの私よ。【嚇怒帝】ヴィルヘルミナ。崇高なる名を魂に刻みなさい」
「うるッせえんだよ人造人間!!」
「下等生物が吠えないでもらえるかしら。見せてあげる…本物の炎を。次元を焼き尽くす【星炎】を」
ココアが怒りのままに攻撃を仕掛けようとしたとき、黒いエネルギーが空から降り地面を崩壊させていった。
「…!」
「どうやらこのタイムアップね。このエリアは直に壊れるわ。あーあ、なんだか興が削がれたわ。あなたを潰すのはまたにしてあげる。灰になるまでの時間が延びた幸運を喜びなさい」
「……賞金首だったっけ。目の前の敵をみすみす逃がすわけねーだろ」
「見逃す?人間ってジョークまで下等なのね」
ヴィルヘルミナは悠然とココアの横を通り過ぎた。
振り返りざまに斬りかかろうとして、身体が炎に包まれる。
藍色と金色が混じった宇宙の色。
「【炎熱無効】が働かん…!なんだこれ…!」
「また逢いましょう。私の【星炎】があなたを生かしたなら」
「待て!ウチは――――――――!!」
「いいわ名乗らなくて。あなた、足元に這ってる虫の違いなんかわからないでしょう?フフフ、アッハハハハ!!」
高笑いを残し、ヴィルヘルミナは彼方へと消えた。
「モード……【輪廻王龍】!!」
巨龍へと姿を変え、炎を無理やり掻き消す。
崩落する地面を背にココアは飛翔し、ヴィルヘルミナが消えた空に咆哮する。
好敵手との一騎討ちを邪魔されたことへの、自分たちを見下した彼女への、強い怒りを込めて。
『さあここでエリアの一部が消滅!現在スタートから一時間が経過!一騎討ちに乱入した人造人間No.2、ヴィルヘルミナの手によって、リリーシア選手無念の敗退!続々と各地で戦闘が相次ぎ、徐々に徐々に脱落者が増えていく!残り生存人数九十五!まだまだバトルは始まったばかり!そしてそして……この渦巻く灼熱の中心!一番燃え滾る場所は――――――――!!』
「【コキュートス】!!」
氷と闇の協奏が空を覆うのに合わせ、レイは腕を薙いだ。
「【ルーラーズハイ】!!」
途端、ホロウの魔法が消え去る。
空間支配の最たるユニークスキル【天魔】によるあらゆる魔法の無効化だ。
「【氷皇女】は【天魔】と相性が悪いって、死ぬほどわかりきってるのに」
「私の一番であなたを捻じ伏せたいじゃない」
「そんな子どもっぽいとこあったっけ可愛いな」
「ある子に影響されたのかも、しれないわね!」
氷の剣と見えない刃とが幾重にも音を立てる。
「ていうかさ、嘘つかないでよホロウ。【氷皇女】がとっておき?何も変わり映えしないであたしに挑むとか、そんなわけないんでしょ。来なよ!ホロウの最強で!!」
「言われなくても…あなたを倒すのは私よ!誰にも譲らない…あなただけは!!」
瞬間、激昂が嘘のように時が止まったかのような静寂が訪れた。
氷の上に波紋が一つ。
その中心に立つ美の化身が剣を翳す様は、さながら一枚の絵画のよう。
背中に氷の翼を生やし、ホロウは慄えなさいと闇に身を落とした。
「モード【氷皇女】……フォーム【悪魔崇拝者】……!!エボリューションモード――――――――」




