表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/124

118.不思議の国と天淵氷炭の愛を《レイvsホロウ》

 パキン

 どこか遠くで、氷が砕ける音が聴こえた気がした。








 森の中に建つ【不思議の国のアリス】専用のギルドホーム。

 発見したのは偶然だが、ここにたどり着いて、アリスはようやく心休まる気持ちであった。

 このログハウスは森の深い場所にあり、人目に付くことはまず無い。

 フィールドに回復アイテムがドロップしているという以上、何かしらがあることも期待出来た。

 案の定、棚の中には《包帯》を始めとし、《ポーション》なども幾つか揃っていた。

 HPを回復した後はソファーで一息つこうとして、

「すやぁ…」

 すでにソファーで寝息を立てているエルフ族の女性、【ROSELIA】第四部隊隊長、【眠れる森の悪魔】シャオを発見した。

「シャ、シャオさん…?」

 完全に眠っているらしく、アリスの気配どころか呼びかけにも反応しない。

 あまりに毒気が無いのでアリスも攻撃出来ずにいると、

「すぴぃ…むにゃむにゃ…」

「はにゃっ?!」

 寝ぼけているらしく、がっちりとホールドされて抱きまくら状態になってしまった。

「う、動けない…」

「すやぴだよぉ…」

 柔らかい。

 あたたかい。

 何故か振りほどく気になれず、アリスはポワポワとゆっくり微睡みに落ちていったのだった。

「雪…?」

 視界の端に、窓の外に降る氷の粒を捉えて。







「うーん」

 モンスターの亡骸の山の上で、【ROSELIA】の副リーダー、メルティアはマップに目を落とした。

 彼女が居るのは延々と続く浜辺のエリア。

 さざ波の音に心を落ち着かせながら、今後の動きを模索しているところ。

 メルティアの背後で、音も無く砂が盛り上がる。

 ナイフを逆手に持ったエルフ族の男性が飛び掛かり、もらったと切っ先を首に突き刺した。

 が、メルティアの姿がまるで蜃気楼のようにその場から消える。

「っ?!」

「【幻影術】。ダメだよ、もっと気配を消さなきゃ」

 至近距離から強烈な雷撃を放ち、男は短い悲鳴を上げて消し炭となった。

「まず一人っと。生存は…九十以上か、先は長いなぁ…。で、そんな中出会うのはなかなか運命的だと思うんだけど。どう?」

 と、メルティアは椰子の木の下に佇む女性に声をかけた。

 メルティアと同じく【ROSELIA】に在籍する、第三部隊隊長のウタだ。

「バトルロイヤルだし、やり合うのが道理なのは当然。出来ることなら知り合いは率先して叩きに行きたい…っていうのが、私的にはベストな意見なんだけど」

「わ、私は…その…戦えという、なら…戦い…ます。逃げてもいいなら、逃げ…ます…けど」

「逃げても他の誰かと遭遇したらバトルするんでしょ?ならここでやり合っても一緒じゃない?」

「それは…そう、ですね」

 ウタはおどおどとしていながらも、けして非戦闘員ではない。

 徒手格闘という一点においては国内トップ。

 【ROSELIA】においては最強の立ち位置だ。

 戦いを望まれれば戦う。

 至って自然な流れだ。

「で、では…やりましょう…か」

「恨みっこなしで」

「恨みっこ無しということなら、私も混ぜていただけますか?」

「私もな」

 突如姿を現したのは、【セイレーンの瞳】よりミルフィと、同じく副リーダーのオーマであった。

「タイマンをご希望でしたら、不躾をお許しください」

「我々とてチーム戦を望んでいるわけではないが、これが縁というなら興じるのみ。【ROSELIA】…相手にとって不足は無い」

「まだまだ序盤なのに、ランダム転移でこんなに集まる?」

「こ、これも…運命…ということでしょう、か…」

「はぁ、ならしょうがないか。一つ生き残った者勝ちってことで」






「じつにステキなアイデアだわ」






 突風が一陣。

 砂埃を巻き上げた。

「……おーいー、だからまだ序盤だって。混戦は想定してないんだけど…」

「連れないことを言わないでよ。せっかく楽しそうなのに、仲間はずれは酷いわ」

「まったく…好戦的で困るよ、【不思議の国のアリス】」

「【歌姫】…ナッツさん」

「とんだ来客ですね…」

 ナッツは剣を片手に、それはそれは優雅に四人へと歩みを寄せた。

「とんだ、なんて表現ははたして適切かしら。ここには強い人しか居ないのに。それだけ評価されているということならとても光栄ね。ああ、だからといって手は抜かないから安心して。【ROSELIA】に【セイレーンの瞳】…姫に辿り着く前のウォーミングアップ、なんて上からの物言いも恐れ多いけれど。四人纏めて姫への供物にしてあげる」

「どうぞ御手柔らかに」

 1v1v1v1。

 メルティアたちは当初そのつもりで戦うつもりだった。

 それが突如現れた脅威を前に、誰が言うでもなく自然と1v4の流れに。

 四人の矛先がナッツに向いたが、少女はニヤリと笑って砂を蹴った。

「御手柔らかに?無理よ。だってあなたたちが強いのは知ってるんだから」

 旋律ならぬ閃律。

 ナッツは剣舞を奏でた。

 





 時を同じくして。

 【The Replica】に()が訪れた。






 空全てに厚い黒雲がかかり、しんしんと雪が降り積もる。

 空気が冷え、建物が、木々が、大地が、火山までもが猛烈な勢いで凍てついていった。

 氷河期の到来さながらに。

「マジか…!」

 レイをしてリアルに戦慄した。

 歪曲した二本の角。

 透き通る悪魔の翼。

 絶対零度の氷の双眸。

 真っ白な肌に走る光の紋様。

 シャープに変形した青薔薇の大剣を携え、白氷で象られた純正の悪魔がそこに顕現していた。






「エボリューションモード――――――――【邪悪神王(アンリ・マユ)】!!!」







「《アルゴノート》を…耐魔に優れた星天の使徒(アストラルシリーズ)ですら完全に凍らせる…!それがとっておきかホロウ…!!」

「あまり長続きしないの。受けられるものなら受けてみなさい。【ゾロアスターズニヴルヘイム】!!」

「っ!【ルーラーズハイ】!!」

 エボリューションモード【邪悪神王(アンリ・マユ)】。

 曰く、吐息ですら絶対零度の冬を齎す氷の力の極点。

 剣の一振りが世界中を氷に鎖す。

 膨大な冷気は【天魔】を、魔法を消滅させる力をも凌駕し、レイは左腕を凍結させられた。

「【ルーラーズハイ】でも消しきれない魔法…!【アブソリュートセイバー】!!」

「【シルヴァーナ】!!」

 ホロウの防御に斬撃が凍る。

 次いで飛翔からの鋭い蹴りがニ連、レイの脇腹と顔面に見舞われた。

「速い…いや、こっちのスピードが落ちてる…!」

 膨大な冷気の代償に、自身のAGIをほぼゼロにする【氷皇女】。

 ステータス異常を他者に擲つ効果を持つ【悪魔崇拝者(サタニスト)】を経て、そのデメリットを完全に解消し、冷気由来の運動能力の低下を自分以外の全てに与えるのがこのモードチェンジスキル。

 レイは氷結した脇腹と顔を《ティル・ナ・ノーグ》の柄で叩き、極寒の中で高揚した。

「腕千切られてゾクゾクさせられたのは久しぶりだよ!」

 超長距離転移【次元踏破】と、完全座標指定【数理の法(アルキメデス)】を組み合わせて起こる無欠の瞬間移動を用いて、ホロウの死角を突こうとする。

 しかし、【邪悪神王(アンリ・マユ)】に死角は存在しない。

 そこに在るだけで、ただの必殺であるからだ。

「【ソウルイーター】!!」

「【カオスイーター】!!」

 怒涛の剣戟も、氷河の波濤が掻き消す。

「ッハハ!!いいじゃん、さいっこー!!狂ってるイカれてる!!これだよこれ!!テンション上がってきた!!」

「やれば出来ると、言いたければ言えばいいなさい…!あなたはいつも…そうやって笑っていたわね…!今の私は、あなたの本心を引き出せているのかしら…!それとも…これでもあなたは……!!」

「言ったでしょ!全部が嘘じゃないって!ちゃんと楽しいしちゃんと怖いよ!心の底からね!」

「けれど全部が本当でもなかった!私は言ったわ、あなたが全てを捨てて悪役になっても嫌いにならないって!それでも、嫌いになんてならなくても!この湧き上がる怒りは本物よ!私は世界を……この私を欺いていたあなたをけして赦さないわ!絶対に認めてなんかあげない!あなたを倒す!私がこの手で!!」

 現実、ゲーム……人生において、これ程までに情熱的になった瞬間があっただろうかと。

 吹き荒れる吹雪に負けないよう、ホロウは吠え立てた。

最強(そこ)から退きなさい!!あなたが苦しむのを望まないと言うのなら!!」

「うるっせえよ…!!」

 対し、レイは歯を軋ませて眉間に皺を寄せた。

「うるせえってんだよバカが!!それが出来ないから…皆がそうさせてくれないから、だから私が()()なんだろうが!!悪いのは私か?!私が強いせいか?!お前たちが弱いからだろ!!私の強さを受け入れない世界に問題があるんだろ!!跪かせてみろ!悔しがらせてみろ!負けさせてみろよ!!私にまだここに居ろって言うなら…居てもいいって思ってるんなら……本気で私を殺しに来いよ!!!」

 悪鬼の如く乱暴に。

 レイは激昂のまま獄炎を滾らせた。

「【アビスドゥームフレア】!!」

 続けざま、八つの風の渦に炎を攫わせる。

「【オクタグラムゼピュロス】!!」

 天災の衝突に、ホロウは目を剥いた。

「【劫火魔法】に【絶空魔法】……炎と風の古代種魔法を…!!この…【コキュートス・ゼロ】!!」

 【邪悪神王(アンリ・マユ)】の絶対冷気に、二つの古代種魔法で拮抗する。

 最強は伊達ではないと、強烈な蹴りをホロウの腹にめり込ませ、甲板の先へ吹き飛ばす。

 自身が凍り砕けることなど気にもせず。






「どうしたホロウ!!あたしはまだ立ってるぞ!!」

 NEOは未だその全容を明らかにしていない。

 全てのエリア、クエストはもちろん、スキルですら網羅されていない。

 エボリューションモード…スキルの特異点ですら、実装されていながら存在が明るみになったのはつい最近のこと。

 そして【邪悪神王(アンリ・マユ)】は、現存する全ての氷系スキルの頂点である。

 が、頂点を以てして最強は揺るがなかった。

「ぐっ…!!ステータスは下がってるはずなのに…炎の魔法で冷気を遮断して、風の魔法で無理やり身体にブーストを…!!」

 スキルの性能以前に、スキルの、そして魔法の使い方が抜群だと、ホロウは改めてレイの恐ろしさを実感した。

 やはり最強だと。

 天才だと。

 羨ましく、誇らしく。

 眩い光。

 それ故に闇は濃く深くなる。

「最強、天才…この言葉があなたを縛るなら、私があなたを越える!!」

 世界を鎖すだけのエネルギーを剣に宿す。

 闇を切り裂く終末の一閃。






「【ラグナローズ・コキュートス】!!!」






 氷の薔薇が咲き乱れ、甲板一面を花畑へと変えていく。

 幻想の光景の中心でホロウは猛り狂った。

 私がレイの妄執を終わらせるのだと。

 レイの腕が凍り、両の足が砕け、何度目かもわからないバトルに勝利の確信を得た。

 尚も手を緩めずレイの滅殺に全力を注いだ。

 そんな中、ああ至福だと恍惚に染まり、かくも穏やかな表情を浮かべレイは心から謝罪した。

「ゴメンねホロウ」

 強すぎて、と。



 

 

 

()()()()()()()()()()――――――――」






 冷気を呑み込んだかと思えば、砕けたはずの四肢が蘇る。

 薔薇の剣戟を鷲掴みに、身の毛もよだつ()()がホロウの腹に刃を突き刺した。

「――――――――!!!」

 冬が終わる。

 氷で覆われていた世界が熱を取り戻していった。

 氷の角が、翼が煌めきながら散る。

 刃を抜き払うと、レイは異形から元の姿へと戻り、腹を押さえて敗北を悟ったホロウに正面から向き合った。

「強かったよ」

「……切り札を簡単に封殺しておいて酷いことを言うのね。今の未知のスキル…どうせそれも切り札の一つにしか過ぎないのでしょう?」

「まあね」

 ふぅ、と小さく息と毒を吐く。

「つくづく腹立たしいわ。強いあなたが。それに弱い私が」

 HPゲージはレッドゾーン。

 赤い穴が空いた腹部が痛々しい。

「あと少しだったのに」

「ゴメンね」

「謝らないで。惨めになるわ。……今日は私じゃなかった。それだけでしょう」

 あなたに勝つのが。

 あなたを倒すのが。

「気を抜かないことね。あなたを狙っているのは私だけじゃない。あなたを狙う刃はまだまだ有る」

 小さな少女を脳裏に過ぎらせて。

「一つ一つは小さな可能性でしかないのかもしれない。あなたに比べれば未熟で荒削り。けれどその中の一つは、必ずあなたに届く。最強は永遠でもなければ、無敵でも無欠でもない。努々忘れないことね」

「うん」

 身体が砕けていった。

「そろそろね」

「ホロウ」

「なに?」

「ありがとう」

「こちらこそ。いいバトルだった……かは怪しいわね」

「最高のバトルだったよ。今まで一番熱かった」

「ならいいわ。色々乱暴なことを言われたのは、貸しにしておくわね。ああ、最後にもう一つ」

「?」

「好きよレイ。愛してる」

「うん。いつかまた聴かせて。世界があたしを受け入れてくれたなら」

 そのときは、また――――――――

 きっと――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ