107.不思議の国と星の残照
《カシオペア》での飛行。
眼下に広がる街並みは、すぐに砂埃が舞う荒廃した景色へと変わった。
風化が進んで判別しづらいが、居住区に比べると技術的年代が前進的な様子だ。
「街の外は酷い有り様ですね」
シズクは【霊視】を発動し辺りを見渡した。。
「確かに街よりも《霊子核》が満ちているようですね」
微かに光る目には、この世のものならざる粒子が漂っているのが映っていた。
「《霊子核》の影響なのかしら。街に居たときより身体重いような気がするわ」
「確かに」
「サクラちゃん、お願い」
「了解。着陸します」
かつては大都市の一部であったのであろうそこは、今は荒れ果て文明の名残すら感じさせない。
「理想郷もいつかは滅び潰える…か」
「或いは理想郷だから、とも言えるのかもしれません。終ぞ誰からも理解されぬままコルフトは一人、その生涯を閉じたのですから」
「天才は孤独ってことなのかしら。寂しいというか、やるせない話ね」
アリスは落ちていた瓦礫を拾い上げた。風化したそれは手の上で崩れ塵となって風に攫われた。
場所を変えて尚、既視感が脳裏を過ぎる。
「やっぱり見たことある、よね…?」
けれどもその正体が掴めず腕を組んで唸る。
と、そんなとき。
ズシンと腹の底まで響く音がした。
地震。ではない。
一定間隔で音と振動はやって来る。
徐々に大きく。近く。
「足音…?」
そうして音の正体は、少女たちを捉えるなり傾いたビルの上に跳び乗った。
その巨体には不釣り合いな程あまりにも優雅に、鋼鉄の翼をはためかせて。
外装は光を映すことを忘れたかのような濃厚な黒。
瞳は血走ったように赤く少女たちを見下ろす。
堂々とした佇まいには高貴ささえ宿っていた。
「翼が生えた馬…天馬、でしょうか」
「おそらくペガサスでしょう。カシオペアにオリオン…星天の大地という名前が加われば必然、モチーフが星座だと予想が付きますから」
推測に異を唱える者は現れず、シズクの横でアリスは【鑑定】を使用した。
「《ペガサス・星の残照》…」
「星の残照…白とのバトルのときにも居たっけ。あっちは巨人だったけど。あれって何なの?」
「自立式星間戦略兵器星天の使徒…空の果てより飛来した星の命を基にコルフトが創造した八十八の史上最高傑作をそう呼びます。《カシオペア》もその一つ。そして、星天の使徒になり得なかった不完全体こそが星の残照。オリジナルに性能こそ及ばないもの、一個体が一夜にして国を滅ぼす力を保有しています。主を失った彼らは、ただ目に映るものを破壊する化身。……来ます」
赤い目が輝きを増すのと同時にビルを蹴る。
「【クライシス】!」
「【颪斬り】!」
ココアとルナが揃って受け止めるが、星天の大地という特殊な環境において動作が遅れ、超重量の突撃を受け止めきれず吹き飛ばされた。
HP総量が多いココアですら体力の半分が削られ、ルナに至っては瀕死の状態。身体の痺れや軋みなど、ほんの些細な問題だ。
「ココアちゃん!ルナちゃん!」
「くっそ…タイミングずれた!」
「身体が思うように動きません…!」
「それ抜きにしてもただの突進でしょ…なによこの威力は…!」
「【セイレーンの瞳】と【ROSELIA】、二つのギルドが全力を以てようやく一体を倒せるだけの敵…攻略が容易でないことくらい当然です…!出し惜しみはしません!モード、【月読命】!!」
青い月の光を銃口に宿し一気に放出する。
「【フルムーンフィニッシュ】!!」
聖なる光の浄化を受けてもまるで動じず、《ペガサス・星の残照》は翼にレーザーブレードを展開し、すれ違いざまにシズクを斬りつけた。
「ぐぅっ…!」
追い撃ちに機関銃の雨を浴びせ、アリスら三人を後退させる。
「【月読命】の【月魔法】は二属性の複合魔法…《霊子機関》には効果があるはずなのに…!」
「火力不足…?!シズクは【不思議の国のアリス】の最大火力なのよ?!」
「星天の大地の高濃度《霊子核》が彼らに力を与えるのです。そして」
「!」
《ペガサス・星の残照》が高らかに鳴くと更に五体。敵が空から降ってきた。
「星々は共鳴し、より高純度の《霊子核》に引き寄せられる性質を持っています」
《リンクス・星の残照》
《シータス・星の残照》
《アクィラ・星の残照》
《カニスミノル・星の残照》
《ユニコーン・星の残照》
あまねく星空に未だ自分たちの存在を確かなものにするかのように。
残照たちは君臨した。
「高純度の《霊子核》…サクラさんの存在や《フラスコ》、私の《ラプラス》が敵を呼び寄せる…」
シズクは傷付いた身体を起こし、首を振って乱暴に髪についた砂汚れを払った。
「いいではありませんか。こちらから敵を探す手間が省けて。このダメージは洗礼と受け取りましょう」
「そう、ですね…」
「ガラクタの分際でちょーし乗りやがって。スクラップになる覚悟出来てんだろーな」
満身創痍の身体を奮い立たせるココアとルナ。
アリス、ナッツ、サクラもそれに並んだ。
「ちょうど一人一体。洗礼というなら喜んで受けてやろうじゃない。サクラの反応を見るに、別段珍しいモンスターってわけでもないんでしょう。なら、このくらい一人で軽く倒せなきゃ先になんてとても進めないわ。ねえ、姫」
「うん。みんな、やろう!」
「仰せのままに、我が主」
アリスは混戦を避けるべく、全員をその場から転移させることにした。
「モード、【奇術王】!!」
用いるのは、ウサギの耳が生えたダイヤチェック柄のシルクハットに、同じ柄のジャケットを合わせた奇術師の姿。
白ウサギから受け継いだそのユニークスキルは、アリスに新たな力を与えた。
「【シャッフル】!」
コールの後、一瞬で五人と五体の星の残照がその場から消え、その場にはアリスと天馬のみが残った。
「さあ、腕試しだよ!」
動揺も無く。
《ユニコーン・星の残照》は転移の直後、サクラに向かって光の砲撃を見舞った。
防御よりも回避を選択し、横っ飛びでその場から退く。
砲撃により削られた地面が融解し一部はガラス化していた。
「さすがのAIです。転移後の一瞬の硬直を狙ってくるとは。そして高密度の《霊子光電》…《霊子核》に耐性のある私といえど受ければ被害は甚大でしょう」
優に十倍以上の体格差の敵を目の前に、サクラは微塵も焦燥しない。
「勝てという命令です。一角獣座の星の残照よ、すべからくマスターの礎となりなさい」
一角の先から高密度の射出される《霊子光電》に向かって駆け出すと、スキルを発動させてそれを逸らす。
「【マジシャンズサークル】」
光球はサクラに命中することなく空へと上っていった。
【奇術師の弟子】。
ユニークスキル【奇術王】の力の一端を、最小限のMP消費で行使出来るスキルだ。
無論、MPを持たないサクラは《霊子核》を消費している。
しかし、さしもの遠距離攻撃の軌道を変えるスキルも、あまりに膨大な熱量までは逸しきれず、僅かにサクラの髪先を焼いた。
「赤眼の個体なら破壊しても問題はありませんね。出し惜しみは無しということですので。モード、【屑鉄の亡霊姫】!【荷電粒子砲】!」
周囲の鉄屑を引き寄せることでより強大になる武装。
至近距離から放たれる威力を増した桜色の光線に合わせ、《ユニコーン・星の残照》は頭を振って剣状の一角をぶつけ相殺に至らしめた。
「ならば更に力を」
寄せ集めた鉄屑が巨大な二本の腕を形取る。
「【亡霊の鉄槌】!」
《ユニコーン・星の残照》はまたも一角で薙いだが、僅かにサクラの方が速く。
指を組み合わせた拳が真正面から振り落とされた。
すると今度は迎撃とばかり、開かれたポッドからミサイルが、脚部からは機関銃が射出される。
「パワー型のハイブリッドタイプでしたか。赤眼なのが何よりも残念です」
ミサイルの爆撃により【屑鉄の亡霊姫】の装甲が剥がれていく。
が、本来超重量を誇る【屑鉄の亡霊姫】が破壊されることで、サクラは機動力を取り戻す。
飛び跳ね身を翻し目まぐるしいスピードでミサイルからミサイルへと飛び移る。
アリスの戦闘を間近で見て学習した体術だ。
最後のミサイルを斬り伏せると、爆煙を突破しながら《フラスコ》の形態を変えた。
「【装甲可変:双剣形態】」
桜色の閃光が輝きを増す。
「【機導剣流:コード07-CHAOSSABER ALFIRIAS】!」
堅固な鋼鉄の身体に命中した剣が一瞬弾かれる。
サクラは構わずと力任せに連撃を見舞った。
一角の先端と根本を斬り裂いたことでメインウェポンを無力化。
ビルのような首を両断することは叶わなかったものの、活動を停止させることには成功した。
脚を畳んで頭から倒れ、地響きと砂埃を巻き上げる。
「一体倒しただけでこの被害」
傷付いた自身と、焦土と化した周囲を見渡して息をついた。
「これだけで済んだと喜ぶべきなのでしょう」
サクラは横たわる《ユニコーン・星の残照》に黙祷を捧げた。
自分の糧になってくれたことへの感謝を。
弱者は淘汰され、やがて滅びる。
いつ自分が淘汰される側に回るかなど誰にもわからない。
ここは災害が日常の世界なのだから。
モード【英雄王】。
円卓の領域において絶対の力を誇示する権能にして、ナッツの剣を一撃必殺へ昇華する。
だがしかし、
「はぁ、はぁ…!このっ…!」
子犬座…《カニスミノル・星の残照》は、幾度という剣を浴びても、反撃の弾丸をナッツに放った。
「【王家の紋章盾】!」
爆撃は展開した盾ごとナッツを押し返す。
のみに留まらず、爪の一薙ぎで呆気なく防御を破られ、細い身体は空を飛び建物数棟を貫通した。
「攻撃も防御も今までの敵の比じゃない…いいわ、そうこなくっちゃ」
廃墟の中で今にも倒れそうな身体を奮わせる。
「弱肉強食上等じゃないの。捕食する側の怖さを思い知らせてあげるわ犬っころ。なんて…」
ナッツから湧き出る黒いオーラが建物を倒壊させた。
「あなたたちに感情というものがあるのならね。モード、【創世王龍】!!」
翼を広げ飛翔し、燦然たる漆黒で広い範囲を押し潰す。
「【グラビティコラプス】!!」
《カニスミノル・星の残照》は、降り掛かる超重力を一身に受けた。
支えである四肢は耐えきれずにオーバーヒートを起こし前方両足の関節部分が爆発する。
「じゃれつく時間は終わりよ!」
ナッツ右手に小さな球体を生成した。
それは超高密度の重力球。
大地を抉る爪撃と同時に繰り出される、圧縮された破壊。
「【エヌマ・エリシュ】!!」
《カニスミノル・星の残照》は引き裂かれた後、発生したブラックホールに跡形もなく呑み込まれ、次元の狭間へと消えた。
流れるような美しい翼をはためかせながら、非力さを痛感し同時に心を滾らせた。
「なるほど…これが、この世界での今の私のレベルというわけね。おもしろいわ。どんな逆境でも輝く……それでこそアイドルよね」
遠くに聴こえる崩壊の音を耳に、ナッツは不敵に呟いた。
「せぇやぁぁぁぁ!!」
高速で飛翔する《アクィラ・星の残照》の《霊子防御壁》に、【四聖王:白虎】の烈風が阻まれる。
空から降る竜巻の牙も、目にも留まらぬ連撃もまた等しく届かない。当たらない。
ルナは【炸裂】の乗った【風刃】を連発することで、ビルの間を華麗にすり抜ける鷲座の残照のルートを誘導した。
「これならばどうです!」
暴風によって刀身を加速させ抜き放つ。
「【白刀・綾神裁刃】!」
空を断つ白の剣閃に、青白く光る《霊子剣刃》を合わせた。
激しい閃光と甲高い音が轟き、けして軽くはないルナの刀が弾き飛ぶ。
急速に旋回し、同じく《霊子剣刃》の爪でルナの背中を深々と斬り裂いた。
「っ!!」
自身の周りに暴風を渦巻かせ距離を取らせる。
「火力が足りていない上に身体が重い…普段のパフォーマンスが発揮出来ない…」
などという弱音を吐いた口を噤み頬を叩く。
「なにをバカなことを…普段満全のプレイが出来ているでなし…あなたはまだまだ途上でしょう!一戦一戦が昨日の自分を越えるためにある…私はいつだって挑戦者です!」
空気が澱む。穢れる。侵される。
その龍は一帯に腐蝕を齎した。
「モード、【救恤王龍】!!【マテリアルデス】
!!」
猛毒の熱線。
防御を貫通するブレスが翼に触れた途端、見る見る間に翼が溶け朽ちていく。
片翼を失ったことで飛行性能に不備を来した《アクィラ・星の残照》は、スピードのままビルの外壁に直撃した。
そこへ伸びる尻尾。先端は鋭く返しがついている。
尻尾の槍を突き刺し、毒を注入するルナ。
ルナの魔力によって精製された毒は体内で絶えず変質し、対象の動きを封じ続ける。
どんな解毒も意味を成さない必死必殺の王龍の毒だ。
「【レストインピース】!!」
死は苦痛でなく永遠の安楽。安寧である。
残照が稼働を停止する刹那、それを実感したかどうかなど、気に留める余裕はルナには無かったが。
割れたガラスに映るボロボロの姿を見て少女は、まだまだですねと苦笑した。
《シータス・星の残照》。鯨座の名を冠した巨大なそれは、戦艦のサイズを優に越えていた。
背中に搭載された幾百という大砲が、瞬く間に一帯を更地に変えていく。
その中から被弾しそうなものを選んで撃ち抜いていたシズクは、巨大な相手を見上げた。
「弾丸を百、二百と与えただけではびくともしないのでしょうね。骨が折れる事この上ありません。けれど…」
紅い瞳が妖しく光る。
「デカブツを粉々にする快感はさぞ気持ちよさそうです。モード、【絶海王龍】!!」
自身を中心に幾重もの波濤を逆巻かせる。
「【ディザスターストリーム】!!」
地平の彼方を撃ち抜く咆哮。
硬い装甲を貫くことはなく、山のように座する敵を押し返しただけに留まった。
四肢と翼を持ちながら、ヒレを兼ね備える海龍としての一面を持つ【絶海王龍】は、アリスたち龍のモードチェンジスキルの中でも随一の質量を誇っていた。
自身のMPの総量だけ辺りを水で満たすと、地面から空に向かって雨が昇った。
水はシズクが合わせた手の中で小型の龍を象ると、自ら意思を持ったかの如く敵へ突撃した。
初速にて光速。
空気の膜を突破する音が大きく響く。
【水魔法】をノータイムで連発するだけならば、【風魔法】で空間を制圧するルナの【四聖王:白虎】となんら遜色はない。
しかし、【絶海王龍】のそれは桁が違う。
例えるならば、海が空から降ってくるようなレベル。
龍となった水の塊が海さながらの質量で、隕石を思わせる突進を繰り出したならば。
被害など考えるべくもない。
「【ルティーヤー】!!」
鋼鉄の身体に風穴が空く。
激しい内部損傷を負った《シータス・星の残照》は、轟音と共に爆発した。
「鯨座…バハムートも本来は龍でなく鯨でしたね。何かと縁がありそうなことで。まあ」
髪を払う所作をする龍のシュールなこと。
シズクはボロボロでも毅然と残骸に目を落とした。
「私の方がずっと可憐で、ずっと賢しくて、ずっとずっと強いですけどね」
「あー…くっそ」
右腕をもがれ、左脚を食い千切られた姿で、ココアは倒れ空を仰いだ。
ボスモンスターでない、ただの通常湧きモンスター相手に苦戦するなど、未だかつて在っただろうかと思い返して。
【天照】の紅炎が力無く揺らぎ、モードチェンジが解かれたとき。
「さいっこーだな」
天使は白い歯を露出させた。
乾いた風を胸いっぱいに吸い込んで立ち上がる。
「ウチつえーで無双するのも大好きだけど、PvPとかボス戦以外でもヒリつけるとかマジでアガる。ほんっと神ゲー」
《リンクス・星の残照》。山猫座の残照が自分の脚を噛み砕き光の粒子と化すのを傍目に、両腕を広げて世界を抱いた。
「頂点っていうのはもっと気分いいんだろうな。ウチらはそれを確かめに行くからさ……おいニャンコ。いい加減見下ろすのやめろ」
獣の唸りと《霊子機関》の稼働音が混ざり、ココアは耳障りだと憤慨した。
「頭が高いって言ってんだよ!モード、【輪廻王龍】!!」
粘性めいた呪詛のオーラ。
濃厚な闇から出る邪悪な龍が姿を現すと、残照は更に強く唸った。
「どうしたニャンコ。じゃれてこいよ」
挑発に乗ったわけではない。
飛び掛かったのは単なる敵性反応だ。
牙を剥き爪を立て、《リンクス・星の残照》はココアを引き裂いた。
翼をもぎ、首に噛み付き、倒れた死骸を踏み躙り、
「終わり?」
無傷の王龍に振り返る。
気付けば足下にあった身体が無い。
落とした翼も首も。
まるで初めからそこに存在しなかったかのように。
「機械相手に効くかは賭けだったけど、問題無さげで安心した」
【輪廻王龍】は、他の王龍のスキル程の爆発的なステータス上昇を持たない。
その代わり、【輪廻王龍】のみに与えられた権能がある。
モードチェンジ発動時、一度だけ行使出来る究極の不死。
実際に起きた出来事を、何も無かったことにする。
つまり、現実の虚構化だ。
幻影幻術の類とは一線を画し、因果そのものを拒絶し輪廻を司る。
システムに由来しているという点では、ユニークスキルというよりもスペリオルスキルに近いかもしれない。
そして【輪廻王龍】は、行き場を失い因果律を彷徨うそれを対象に与える。
「散り晒せ」
拒絶された現実。逃れられない破滅と死を。
「【ラストフェイト】!!」
本来ならばココアが負っていたはずのダメージが、《リンクス・星の残照》を襲う。
身体は鋭い傷によって斬り裂かれ、見るも無惨に爆散した。
「ダメージを与えれば与えただけ返されるか…チート技じゃん」
ココアは笑った。
チート技と評するまでの強大な力に酔いしれてなどではない。
こんな反則級の技さえ、いつか破る強敵が現れることを想像してだ。
「ひとまずは通用するのがわかったし、後は対策かー。【輪廻王龍】だけで生き抜けるわけもないだろうし」
現状に満足などしない。
ココアは未だ爆音が鳴り響く方に首を立てた。
「アリスならどうするのかな?」
興味を唆られ牙を覗かせたとき、
「…っ?」
ふと、言い表せない悪寒が背中を走った。
「なんだ…今の…」
《ペガサス・星の残照》が放つ光弾とミサイル。
それら全てを掠らせもせず、アリスは絶えずトップスピードで翻弄した。
「モード、【黒雷姫】!」
【奇術王】を解除するなり、紅黒の雷に尾を引かせる。
巨体を相手にスピードで撹乱する作戦を選択したが、【黒雷姫】だけでは攻撃力で劣ると、先のシズクの攻撃から推測した。
「フォーム、【冥王】!」
故に速く。故に強く。
黒雷を冥雷へと進化させる。
「エボリューションモード、【冥雷神姫】!!」
加速の衝撃で地面が割れ、過ぎ去った跡は雷の熱で融解している。
【冥王神龍】に比べれば破壊力は見劣りするが、それでもただの蹴りで天馬をぐらつかせ、頭部の装甲に亀裂を走らせた。
損傷を負うなり、天馬は翼から複数の無線ユニットを射出した。
それぞれが高速で空中を飛び回り、《霊子光線砲》をアリス目掛けて放つが、直線的な軌道がいくら重なったところで少女には回避のルートが見えていた。
「【ゴッドオブリパルサー】!!」
【ソードオブリパルサー】の強化版たる技だ。
しかし放たれる二属性の魔法剣は、威力も数も比べ物にならない。
ユニットは瞬く間に迎撃され地面に落ちた。
その隙に空へ飛び上がる天馬。
どうやら体制を整えるつもりらしい。
だが、アリスはそれを是としない。
「【アクセラレーション・マキシマムバーニア】!!」
最早時空の壁さえ突き破るかのような加速で飛び、天馬の背後を取る。
続けて黒雷を解除。
身体に鋭利な風を纏った。
「モード【風妖妃】!フォーム【冥王】!」
それは魔界の風を顕現する神の姿にして、自身の領域を侵すものを斬り裂く黒き災害の体現者。
「エボリューションモード、【風獄神妃】!!」
鋭さという一点において極限まで高められた剣は、残照の身体をバターのように容易く両断する。
はずだった。
「【リトル――――――――ッ?!!」
突然のことに剣が止まる。
身を翻して着地し、突如割り込んできたものに視線をやった。
アリスよりも速く。
アリスよりも強く。
空から降ってきた流星が、《ペガサス・星の残照》の首を爪で引き裂いたのだ。
倒れた天馬を力ずくで押さえつけ翼を噛み砕き、余力を振り絞って起き上がろうとする天馬へ極大のブレスを吐く。
残照は跡形もなく爆発した。
「…………………!!!」
乱入者。或いは介入者の。神々しく荘厳たる姿を前に、アリスは呆然とし剣を下ろした。
そこへココアたちが戻ってくる。
「アリス!」
「アリスさん!」
安否を確認する彼女たちの声すら遠くに。
「なん、で…」
その瞳は"金色の獅子"を見射った。
「レオリス――――――――」
そして意識を途切れさせる。
膨大な《霊子核》の奔流に呑み込まれて。




