表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/124

103.不思議の国と次元解放戦(後編)

 分厚い銀幕の向こう。

 【セイレーンの瞳】は巨兵を相手に奮戦していた。

 彼女たちを苦しめるのは、一撃で命を葬らんとする巨剣と、圧倒的なサイズ感、そして膨大ともいえるHPであった。

 斬れど斬れど、撃てど撃てど。

 巨兵が怯む様子はまるで無い。

「【ホワイトプレッシャー】!」

「【九頭竜刃】!」

「【パピヨンスライサー】!」

「【百合之太刀】!」

 外装に傷を帯びていることから、まったく効いていないというわけではないことが見て取れる。

 しかし、終わりが見えないバトルに疲弊は募るばかり。

「こちらの方が先に限界を迎えてしまうのでは…」

「弱気になるな。我々に敗北はあり得ぬ」

「そのとおりです!みっともないとこ見せてたらあいつらに笑われる!」

「ええ。泣き言は胸の内に…勝って誇りましょう。彼女たちに並び立つのではない。いずれ越えうる者として」

 雪風が一陣。

 彼女たちは力を解き放った。

「モード、【千呪観音(せんじゅかんのん)】!」






「メルティア」

「なにホロウ、どうかした?」

 銃撃の雨を回避し防御しているとき。

 ふとホロウは懐かしんだ風に訊いた。

「私たちがプロになってどれだけが経ったかしら」

「大学在学してるときにスカウトされたからニ年?いや三年?」

「今年で四年目だよぉ。忘れっぽいなぁ」

「も、もうすぐ…ま、ま、丸三年…経ちます…よ…」

「そう。……不思議ね」

「なにが?」

「ずっとこのゲームをプレイしているのに、全然飽きないんだもの」

「飽きたときもあったけどね。ダレてログインしなかったときもあったよ」

「なのに今では、始めたときみたいなドキドキでいっぱいだねぇ」

「あ、あの人たち…と、バトルして、から…です、ね」

「そうね。この先もずっと楽しんでいられるように。私たちも全力を尽くしましょう。……砕けなさい、【永遠の氷晶燈】」

 氷魔は冷たく世界を凍らせる。

「モード、【氷皇女(ひょうこうじょ)】!」

 白銀の両目は、ただまっすぐ未来を見据えた。












「ぜえりゃあぁぁぁぁぁ!!」

 数秒が長く感じる。

 ココアたちの息もつかせぬ怒濤の攻撃にも、灰被り姫(シンデレラ)は表情を変えない。

 むしろ変幻自在のガラスの攻撃が、変わらず四人を苦しめた。 

 速く、鋭く、広い。

 ガラス自体の強度は大したことはないもの、存在そのものが戦術兵器と呼んで差し支えない。

 加えて槍と盾のさばき方も達人級で、それが超回復とダメージ代替、軽減のスキルを内包している。

 四人は着実に疲弊を蓄積した。

灰被り姫(シンデレラ)を倒さないと向こうも倒せないっていうのに…」

「私たち四人でも苦戦を強いられるとは…」

「弱音は禁止にしましょう。このまま攻めますよ。怖じけづいて拓く活路があるでなし」

「そーゆーこと!行くぞお前ら!!モード――――――――!!」




「【英雄王(アーサー)】!!」




「【四聖王:白虎】!!」




「【月読命】!!」




「【天照】!!」



 

 王たる姿に、灰被り姫(シンデレラ)は微々たる動揺も見せない。

「まだまだ踊ってくれるのね。ダンスパートナーにはもってこいだわ」

「踊り明かしてその手足もぎ取ってあげる!【栄光の聖王剣エクスカリバー・グロリアス】!!」

「【白刀(はくとう)綾神裁刃(あやがみのたち)】!!」

 ナッツの剣を槍で、ルナの攻撃を盾でそれぞれ防ぐ。

「【エクスターミネイトムーンフォース】!!」

 空いた正面を警戒しガラスを展開したが、亜光速を誇るルナの銃弾が彼女諸共撃ち抜いた。

「通常ならば必死のはずなのに、これでもまだ再生の方が速い…!」

「気にすんな!いい働きしてる!」

 《デスサイズ》を手元で振り回したかと思えば、武器がふと消える。

 ガラスの剣を受けながら、そのまま彼女に力強く抱きついた。

「あら、熱い抱擁ね。ドキドキしちゃうじゃない。一曲踊ってくれるのかしら?」

「踊り潰してやんよ。離れて言っても遅いぜエセ主役(ヒロイン)!」

 途端、灰被り姫(シンデレラ)の身体を複数の刃が貫いた。

「…!」

 刃はココアの体表から突き出し、更に腕や指がそのまま刃に変化している。

 【神罪の罰】。自身の身体と武器を同一化することで肉体を武器に変質させる、《デスサイズ》の内包スキルだ。

 スキルの発動中は被ダメージと消費MPが二倍になるが、与ダメージも同じく二倍になる。

 アリスほどではないにせよ動けるタイプのプレイヤーであり、尚且つ防御を考えないスタイルのココアとの相性は高い。

 回避を封じられた灰被り姫(シンデレラ)は、灼熱と業火に身を焼かれた。

「熱っちぃのが好きって?ならイキ狂え!【ジャッジメントプロミネンス】!!」

「ぐっ…!!」

 【炎熱無効】で自身へのダメージは無効に、【噴火】で炎の威力を上げたダメージが持続しているとはいえ、まだ回復速度の方が上回っている。

 そんな中、炎に包まれながらココアが叫んだ。

「ウチごとやれ!!」

「最初からそのつもりよ!【神速】!!【リフレイン】!!」

 直前の攻撃をそのまま顕現するナッツのスキルにより、光の剣が交差する。

「【霊刀解放】!!」

 代償にしたHP分、STRとINTを上昇させるルナのスキル。

 光り輝く刀が万物を断った。

「【金色の聖王双剣ゴールデンエクスカリバー】!!」

「【神威(かむい)絶刀(ぜっとう)(らん)】!!」

 ナッツとルナの刃は、ココアの身体ごと灰被り姫(シンデレラ)を斬った。

 ココアは首と上半身、下半身に分かたれたが、それでも命を繋ぎ止めている。

「首だけになっても生きているのですから、立派な化け物ですね!」

「お褒めに預かり!」

 シズクは燃えたココアの髪を鷲掴みにし振り回すと、灰被り姫(シンデレラ)の側頭部へと思い切り叩きつけた。

「おいって!棍棒かウチは!」

「強いて言うなら…相棒です!【フルムーンフィニッシュ】!!」

 極大の月光が一帯を呑み込み、その余波で異界に衝撃が走る。

 彼方まで空いた風穴を眼前に四人は整息しモードチェンジを解いた。






 ココアはスキルで肉体を再生する中、隣のシズクに訊いた。

「さっきなんか言った?」

「さあ」

 シズクは肩を上下させながら一度髪を払った。

「手応えはあったように思えますが…」

「消えないわね。嫌な予感」

「ったくよぉ…こっちはもうほとんど出し切ってんだぞって」

 風穴の向こうから届いた声に、彼女たちは一層悪寒を強めた。




「モード、【薄幸少女(アイネクライネ)】」




 再び姿を現した灰被り姫(シンデレラ)は、美しい装いを他所にボロボロの布で身体を包んでいた。

 髪は汚れ頬は煤ける様は、魔法をかけられる前の、虐げられ輝きが褪せた少女そのもの。

「モードチェンジまで使うのは反則すぎない…」

「見た目がショボくなったからって、別に弱くなったわけじゃないんだろうな…」

「逆境に耐える者の方が強いなんて、そんなの常識です」

 一瞬。

「――――――――!!」

 投擲した槍がルナの腹を貫通した。

「ルナ!!」

「っ!!」

「【旋律変化】!!」

 三人がカバーに入るより速く、灰被り姫(シンデレラ)はココアの顔面を殴り飛ばし、シズクの頭を蹴り砕き、飛び蹴りをナッツの腹にめり込ませた。

「十二時まで踊れなかったのは、あなたたちの方だったわね」

 







「【アクセラレーション】!【アルフィリアス】!」

「【機導剣流アーティファクトアーツ:コード02-ACCELERATION】」

 黒と桜色の軌跡が混じり合う。

 幾十、幾百という剣戟が音を立てては過ぎていった。

「もうお前らのスピードは見切った。絶えず掌の上だ」

 二人の剣を容易にあしらう白ウサギに対して、アリスは、

「だよね…だったらこれならどう!【Pride】!」

 金色のオーラを立ち昇らせて加速し白ウサギの目から消えた。

 1v1において、相手のステータスを上回る【傲慢】のスキル。

 【Pride】へと進化したそれはステータスの上昇幅を大きくするだけでなく、相手の感情に応じて強制的なスロウ状態を付与する。

 屈服。降伏。

 絶対的な優位を押し付けることでこそ、【Pride】の真価は発揮される。

 それこそがアリスが【Pride】の使い勝手を良く思っていなかった理由なのだが。

「【Sloth】!」

 加えて発動するのは、極狭範囲における意識を含めた完全時間停止。

「モード【風妖妃】!【ゴッドウィンド・アルフィリアス】!!」

 オーバーキルも甚だしいコンボから放たれる神域の絶剣を、緑色の箱が阻む。

「そんな!時間は止まってるはずなのに!」

「一瞬、箱だけを自分から離したようです。マスターの攻撃を先読みして」

 箱はそのままアリスの剣を弾くと、

「え――――――――」

 バクッと身体を呑み込んだ。

 時間停止から解き放たれ、白ウサギは指を鳴らした。

「【サウザンドミステリー】」

 空中に現れた千本のナイフが一斉に箱に向かい、白銀の刃を突き立てる。

「マスター」

 針の筵へとサクラが駆け寄ろうとしたとき、黒い光が一閃空を焼いた。

「モード、【兇龍帝】!!」

 箱は爆散し原型を留めない。飛び出した巨大な龍は、そのまま白ウサギへ腕を伸ばした。

 闇を纏わせた爪が水色の箱を引き裂き、紫色の箱をかち上げ牙で噛み砕く。

「【マジシャンズボックス】を破壊するか…!【モンスターズパレード】!」

「【ダークエンド・エクスプロージョン】!!」

 黄色の箱から次々と飛び出す百獣の群れが、アリスのブレス一つで灰燼に帰る。

「サクラちゃん!」

「【技巧記憶マギアライズリコレクション】」

 地盤を陥没させるほどの超脚力から繰り出される超高速の閃き。

「【機導剣流アーティファクトアーツ:コード06-ALFIRIAS】」

 一振りの下、激しい火花を散らしながら四つ目の箱が両断された。

「【魔龍鎧装】!!ダブルモード、【混沌王(カオス)】!!」

 紅黒の爆雷が迸る。

 【兇龍帝】と【黒雷姫】。二つの力が生み出す一撃必殺の天災。

「【プリンセスストーム・ラグナロク】!!」

「【マジカルイーター】!」

 青色の箱が荒れ狂う雷の奔流を呑み込むも、一度、二度と箱が膨らむ。

 吸収容量を超えた箱はやがて限界を迎え塵と消え、遮るものが無くなった【プリンセスストーム・ラグナロク】は白ウサギへと直撃。

 星空に穴を空けた。






 すでに息は絶え絶えだが、煙る向こうの気配は死んでいない。

 ゆらりと輪郭がボヤけたのも束の間、白ウサギの闘気が煙を晴らした。

 身体にはダメージエフェクトどころか、土埃の汚れすら見られない。

 白ウサギは拍手と称賛を贈ると、アリスたちの身体が光に覆われる。

 HPとMPが全回復し、モードチェンジスキルの再使用時間がリセットされたようだった。

「見事の一言だ。【マジシャンズボックス】を破っただけでなく、通常ならば二度は死んでいる攻撃を見舞わせたんだからな。並大抵じゃない。それはここに辿り着ける時点でわかってはいたんだが。ハハハ、悪いな顔がニヤける。緊張感に欠けるが…いかんな楽しくなってきた。お前たちはどうだ?」

「うん。燃えてきた」

「それは何より。奇術師冥利に尽きる。このまま遊んでいたい気持ちでいっぱいだ。だが、そうもいかないよな」

 赤い箱が白ウサギの前で浮く。

 剣で一度軽く叩くと、びっくり箱のように中から大量の剣と銃が飛び出し空を埋め尽くした。

「本当の奇術はここからだ。第二幕…いや、終幕を飾ろうじゃないか」

 最後に箱から現れたのは道化師の仮面――――――――《ペルソナ》。

 モノクルを外し地面に落とし、《ペルソナ》を装着する。

「モード、【奇術王(フーディーニ)】。ボスらしく在るためにおれが常に発動しているユニークスキルだが、まあそれはここへ辿り着いた者たちへの最大限の敬意だと思ってくれ。【マジシャンズボックス】は言わずもがなこのスキルの能力だ。ここに不可逆を可逆へ、可逆を不可逆へ変える《ペルソナ》の内包スキル、【矛盾(パラドックス)】を合わせることで、【奇術王(フーディーニ)】は力の壁を越える」

 星空を仰ぎ、力の奔流に身を委ねる。

「モード、【奇術王(フーディーニ)】……フォーム、【矛盾(パラドックス)】」

 彩り鮮やかな虹色の光が煌めく度、アリスの心が早鐘を打った。

 早く、早く。

 腕は剣を振りたいと、脚は地面を駆けたいと逸る。

 絶対に強い、絶対に楽しいという確信に頬が緩む。




「エボリューションモード――――――――【幻想帝王(ジョーカー)】」




 最後まで楽しもう。

 愉悦の魔人はそう言った。






 


「【幻想帝王(ジョーカー)】…」

「夥しい数の武器。念動力系のスキルと予想されます」

「概ねはな。だが手動(マニュアル)じゃない。【幻想帝王(ジョーカー)】は全自動(フルオート)で全ての武器を操る」

 剣を指揮棒のように一度振るうと、剣の突風が巻き起こる。

 アリスは向かってくるそれらを紙一重で躱してみせた。

「速いけど…避けられないほどじゃない…!」

「そうかな?」

 アリスを以てして、その動きは捉えられなかった。

 白ウサギは容易に間合いを奪い、首すじ目掛けて剣を振る。

「【機導剣流アーティファクトアーツ:コード02-ACCELERATION】【装甲可変:大盾形態(シールドフォーム)】」

 間に割り込むサクラの盾によって攻撃そのものは阻まれたが、剣の重さに耐えきれず吹き飛ばされ、身体を地面に叩きつけられた。

「サクラちゃん…!」

「【幻想帝王(ジョーカー)】は武器を操るスキルじゃない。武器を装備し、数値そのままにステータスを上昇させるスキル。装備枠を増やすだけの、夢のようなスキルだ」

 およそ数千を超える武器。

 その上昇幅を考えて、アリスの思考が一瞬止まった。

 一つの装備がATK一つを500アップさせるとしても、元のステータスを合わせ優に10000は超える計算になるのだから。

 それが30000、40000…………50000に及んだときの脅威など、平均ステータス1000そこそこのアリスには考えるまでもないことであった。

 剣と銃弾は絶えず二人を襲い、本人までもが能力に胡座をかくことなく前線に出る。

 愉快な絶望。

 そんな言葉がこれ以上なく似合った。

「【ダークナイトサーカス】」

 武器全てに闇が覆い威力と速度が格段に増す。

 そんな絶望の中でも、

「――――――――!!」

 少女は変わらない。

 白ウサギは違和感に眉根を寄せた。

「攻撃が当たらない…?」

 紙一重どころではない。

 徐々に攻撃とアリスとの間に大きな差が出来始める。

 操作する剣と銃など、最早置き去りにされていた。

「未来予測…違う、極限まで洗練した洞察力…!ステータスの壁を打ち破るほどの…!」

 常人ならば打ちひしがれ、肩を落とすところ。

 アリスはめいっぱい笑った。

 なまじステータスが上がったことで、少々の被弾を覚悟で突撃するプレイングになっていた彼女だが、本来は見て躱しスピードで撹乱するタイプのプレイヤーだ。

 白ウサギの攻撃が、忘れかけていた彼女本来のプレイングを呼び起こしたと言っても過言ではない。

 見る者を魅了し虜にする。

 それこそがアリスが人を惹き付けるスタイル。

「マスター…」

 それは感情の名前を知らないサクラの目を釘付けにするくらい。

 太陽のような満面の笑顔で、戦場を自分の色に染めていった。






 楽しい。

 楽しい。

 楽しい。

 全身が痺れる。血が加速する。

 窮地だからこそ。

 相手が強いからこそ。

 鼓動は高鳴り、全身が仮想の現実を享受する。

 アリスは、同時に感謝した。

 この時間を創った者たちへ。

 この時間を共にしている者たちへ。

「ありがとうと大好きを…全部全部!ぶつけるんだ!!だって私たちは!!」












 武器以外のスキルを使用不可にするのを代価に、使用者に格闘系スキルを与え、既存の武器スキルのレベルを最大に、ステータスを大幅に上昇させるモードチェンジスキル、【薄幸少女(アイネクライネ)】。

 その実力は、猛者四人を瞬時に地に伏せさせる様から容易に窺えた。

「おーい…生きてるー?」

 砕かれた頬が再生するのを押さえ、ココアがか細く声を出す。

「なんとか…」

「一撃で体力ほとんど持っていかれたわ…。私たちよりルナが…」

「平気…とは言えませんね…。【西風の眼】でなんとか急所を逸らしましたが、HPは残り僅かです…」

 回復する隙は与えてくれそうにない。

 MPも底を尽きかけ、集中が続いたことで疲労は困憊している。

「とーぜんだけどさー、先に行けば行くほど敵って強くなるよね」

「自然の摂理ですね」

「今まさに実感しているものです」

「この先も苦しくてつらい戦いが待ってるって思うと気が滅入るわ」

「あーね」

 窮地に立たされた少女たちは、

「クク…」

「フフッ…」

「クスッ…」

「フフ…」

「アッハハハハ――――――――!」

 楽しそうに笑った。

 底抜けに明るく。

 まるでそこが学校帰りのファミレスであるかのように。

 平凡で。普通な。ありふれた非日常な一つの日常として。

「はーヤッバ。この先も楽しいことばっかとか幸せの極みかよ」

「やってやりましょうとも」

「この戦いも、この先の困難も全て乗り越えて」

「輝き続けてやろうじゃない」

「まだ立つの?」

 諭すように。

 しかし受け止めるように、灰被り姫(シンデレラ)は微笑む。

「何度だって立ち上がって見せます」

「何度だって剣を握る」

「私たちが私たちである限り」

「だってウチらは!!」








「【不思議の国のアリス】なんだから!!!」


 






 高らかに。雄々しく。仰々しく。可憐に。

 少女たちは最強を名乗った。

 意気消沈など似合わない。似つかわしくない。

 最強は強いからこそ最強で、誰よりも楽しむからこそ最高なのだと、彼女たちは知っている。

 そしてまた一人。

 その輪の中に足を踏み入れようとする者が。







「越えられるか、おれを」

「倒せるかしら、私を」




「越えるよ!」

「ぶっ倒す!」

「命を燃やして!」

「全身全霊で!」

「覚悟しなさい!」




 胸に灯る炎の名前は知らずとも、彼女たちの熱さに触れ、造られた者でありながら本能を突き動かされる。

「私も、マスターたちの隣に」

 炎は大きく。熱く。

 少女を掻き立てる。

「勝つよサクラちゃん!」

「了解」

 片や雷と暴風を纏い、片や桜色の放電を帯びた黒い球体を出現させ、球体の中から顕現した機械の鎧を装備した。

「ダブルモード、【混沌王(カオス)】!!」

「モード、【屑鉄の亡霊姫デウス・エクス・マキナ】」

「モードチェンジが並ぶ様は壮観だな。それでどうする。おれの【幻想帝王(ジョーカー)】を破れるのか」

「破るよ!私たちに不可能なんか無いんだから!」

 ニヤリとして向かってくる剣を薙ぎ払う。

 すると数本の剣が音を立てて砕けた。

「本当ならイモータルオブジェクトのはずの武器が壊れる…【幻想帝王(ジョーカー)】のデメリットなんでしょこれ。装備枠を増やす代わりに、装備した武器に耐久限界を与えてる。だから打ち合いを嫌がるんだよね」

 ここぞという場面で退き、質量でそれを誤魔化す。

 肝心要を見せないことが、むしろゲーマーであるアリスの琴線に触れた。

「素のステータスは私たちより上だけど、武器はそうじゃない」

「どんな能力も無敵であるはずがありません。武器が破壊されれば、当然それだけステータスも低下するのでしょう。加えて、あなたの能力は私の能力と相性が良いようです。【機械仕掛けの剣舞マーシナリーオルケストラ】」

 繰り出される剣戟と砲撃とレーザーの雨が、白ウサギが蓄えた武器を次々と破壊していく。

 するとその破片が吸い寄せられ、更なる装備としてサクラの武装を強化した。

 【屑鉄の亡霊姫デウス・エクス・マキナ】は、限定された環境……鉄やそれに由来する金属が存在する空間においてのみ、破損した瓦礫や破片を用いて能力を上昇させるという性質を持つ。

 破壊されれば弱体化する【幻想帝王(ジョーカー)】と、破壊すればするほど強化される【屑鉄の亡霊姫デウス・エクス・マキナ】。

 その優劣を以てして、白ウサギもまた瞬間を楽しんだ。

「タネがわかれば怖くない、か?侮るなよ。タネを教えて尚も観客を驚かせ魅了する。それが奇術師だ。忘れてないだろう?おれにダメージが通らないことを」

「問題無いよ。みんなのこと、信じてるからね」

 少女は勝利を祈らない。

 知っているからだ。

 勝利以外、ありえないことを。

 

 








 

「もうボロボロ。そんなあなたたちが、十全な私とどう戦うつもり?」

 上からの物言いではない。

 むしろ期待を込めた問いだ。

 ナッツは三人にこう言った。

「三分…二分でいいわ。灰被り姫(シンデレラ)を押さえなさい。そうしたら私が勝たせてあげる」

 ギターの形をした剣を構え自信ありげに。

「やれる?」

「二分?あのフィジカルおばけ相手に?ハッ、ヌルゲー。てかそんだけあったら倒しちゃうけどいいの?」

「何か策があるのですね。いいでしょう、乗って差し上げます」

「お願いしますナッツさん」

「さあ…奏でるわよ、【演奏者】!!」

 髪に五線譜を走らせたナッツが弦を爪弾く。

 激しくも柔らかな音が周囲に反響した。

 ルナの意思に呼応し、異界の廓は急激な乱回転を始める。

 五者の身体は宙へ放り出され、遥か下方へ向かって落下した。

 深い深い奈落の底へと。

「空中なら機動力も関係ないだろ!」

 上方から降り注ぐココアの【詠唱破棄】から放たれる【陽光魔法】と【白焔魔法】の雨を、槍の一薙ぎで消し飛ばす。

「はああああっ!!」

 シズクの銃撃もまた盾によって阻まれた。

「知らないの?灰被り姫(シンデレラ)はどんな場所でだって踊れるの。灰被り姫(シンデレラ)が踊った場所が世界の中心になるのよ。何か狙ってるっていうなら、何かされる前に潰すのが当然。そうでしょう!」

 槍を壁に突き立ててブレーキをかけ、壁から壁へと三角跳びし立体的に駆動する。

 狙いはナッツ。

 灰被り姫(シンデレラ)は恐るべき脚力で瞬く間に距離を詰めた。

「世界の中心は何時如何なるときも私たちです!【風刃(ふうじん)乱刃(みだれば)】!」

 ナッツの元へは行かせまいと【天駆】を用いて駆け上がりすかさずカバーを入れるルナ。

 目を瞑らされる突風の刃も盾で防がれる。が、ルナの攻撃はそこで完結しない。

「?!」

 盾が見えない力によって弾かれる。

 ルナの【炸裂】のスキルだ。

 対象に命中した技は爆ぜ、周囲狭範囲に追加ダメージを与える、シンプルかつ初歩的なスキル。

 ならばこそ刺さる。

 一瞬生じた虚に、ココアとシズクは牙を立てた。

「ナイッスー!」

 【黎明の白翼】と【黄昏の黒翼】。

 それぞれ翼をはためかせ急上昇する。

 ココアは左腕を黒い触手に変化させ四肢を絡め取った。

「おぉりゃあぁぁっ!!」

 力任せに振り回し壁を抉る。

「こんなもの…!」

「チッ、引き千切られて…!シズク!」

「【ダイヤモンドラピッド】!」

 《ラプラス》が火を吹き、ダイヤモンドの槍が放たれる。

 【金剛の槍】。イモータルオブジェクトのダイヤモンドを生成するスキルにより、灰被り姫(シンデレラ)の右肩と左腿を串刺しに壁に磔にした。

「【颪斬り】!!」

「【エンジェリックハザード】!!」

「【へカーティスロア】!!」

 上と左右、三方向からココアたちは畳み掛けた。

 《マリシャスファミリー》の超回復が無ければ、或いは【薄幸少女(アイネクライネ)】がダメージを負うごとに強くなるスキルでなければ。

 そこで勝負は決まっていたのかもしれない。

 灰被り姫(シンデレラ)は槍が身体を抉るのを構わず、磔から強引に脱出した。

 槍を乱暴に振り回し、衝撃で攻撃諸共三人を吹き飛ばしてみせた。

「っあ!!」

「くっそ…!!」

「もう少し…!!」

「終わりよ」

「ええ…そっちが、ね!!」

 雷鳴のような音が木霊する。

 すると、空間に五線譜が走り音符が舞った。

「一分半……上出来よあなたたち……!!」

 【速弾き】による補正を加えた、ナッツ本来のプレイヤースキル。

「私の音に痺れなさい!!」

 それによって譜面は最終局面を迎え、けたたましい一音で堂々の完成を見せた。




「【第九階位奏技(ナインスコード):運命の聖譚曲デスティニーオラトリオ】!!」




 踊るように漂っていた音符たちが、ココア、シズク、ルナ、ナッツの元で光となって弾ける。

「これは…!」

「力が漲っていく…!」

「自分のHPとMPを最大量の半分回復させ、スキルのクールタイムをキャンセルする……それが【運命の聖譚曲デスティニーオラトリオ】の効果。ずば抜けて譜面が長いし、性能もイマイチだからとてもじゃないけど実戦向きとは言えないけど、私のスキルがそれを可能にする。そして…【演奏者】で対象を私を含めた全員に行き渡らせた」

「やっぱり…先に潰しておくべきだったわね」

「残念だけどもう遅いわ」

 【演奏者】は範囲を拡大し能力を三人に行き渡らせただけではない。

 能力も最大限に上昇させている。

 HPとMPの全回復。そして、ユニークスキルにまで及ぶクールタイムのキャンセル。

「夢見る時間は終わったってことだよ灰被り姫(シンデレラ)!!」

 異界が球体状に形を変える。

 襖が輪を描き回廊が無造作に交錯する中心で黒い光が爆発した。




「モード、【輪廻王龍(ウロボロス)】!!」




「モード、【絶海王龍(バハムート)】!!」




「モード、【救恤王龍(ヒュドラ)】!!」




「モード、【創世王龍(ティアマト)】!!」




 四体の龍が翼をはためかせ、裂けた瞳孔で獲物を見射る。

「如何に超回復だろうと」

「それを上回るダメージを与えてしまえばいいだけのこと」

「最早これまで」

「ケリをつけようぜ」

「言ったでしょう。絶対に負けないから主役(ヒロイン)だって。絶対に諦めないのも主役(ヒロイン)の努めなの。心は折れない。揺らがない。心までガラスだなんて、そんなのはシンデレラ()じゃないわ」

 その様は優雅で、可憐で、純情で。

 深い度量は対峙する者たちに心地良ささえ感じさせた。

「来なさい!【薄汚れ尚、気高き祈り(ナハトムジーク)】!!」

「受け止めてみろ!ウチらの思い!!」

 四人のブレスが溶け混ざり合い、濃密な黒で彩っていく。

 光を吸収する漆黒は胎動し膨らみ、龍の王たちは悠然と君臨した。

 命を拒絶する、夜会の主として。




「【滅龍のワルプルギス】!!!」

 



 強く、速く、大きく。

 夜は破壊の力を齎し影響を及ぼす。

「っ!!防ぎ…きれない…!!」

 万象を滅ぼすエネルギーは肉体を侵食し、逃れられない死を与える。

 だがそれは彼女たちとて同様であった。

「凄まじすぎる力故に…私たち自身でさえ制御しきれない…」

「ただの自爆技…。ですが…」

「今この瞬間、勝てればいい」

 鱗が裂け、翼が朽ちていく。

 瞳に宿る輝きだけが褪せていない。

「【不思議の国のアリス(ウチら)】……ナメんなよ!!」

 次へと繋ぐ。繋がる。

 喉が枯れるくらい必死に吼え、奮えた。

 一瞬を全力で生き抜く様に灰被り姫(シンデレラ)は笑みを溢した。

「だから好きよ。あなたたち」

 その言葉は届くことはなかったけれど。

 安らかに、穏やかに。灰被り姫(シンデレラ)は踊るのをやめた。

 そして。

「勝てよ……って、勝つか。頑張れよ、サクラ。アリス――――――――」

 少女たちもまた、静かにそっと目を閉じた。







「!!」

 別段、何か見た目が変わったわけじゃない。

 ただそうわかっただけだ。思っただけだ。

「うおおおおおおお!!」

 みんなが勝った。

 なら次は自分たちだと。

 勝利の希望が伝播する。

「【テンペストブリンガー】!!」

「【荷電粒子砲(エボルゲイザー)】」

 風雷が渦を巻き宙に浮かぶ武器を吸い寄せたところへ、サクラは光線を拡散した。

 一条の光が白ウサギの腕を掠め、赤い傷を走らせる。

「あれを倒したのか…!【クレイジーサーカス】!!」

 数段と苛烈に二人を攻める。

 足の踏み場さえ無いほどに剣が地表に突き刺さり、弾幕が吠え立てた。

 その全てを、混沌の王は否定する。

「喰らえ【Gluttony】!!」

 エネルギー波を尽く喰らいつくし己が力へと変換。

 黒いオーラが迸った。

「みんなが作ってくれたんだ!このチャンス…絶対に無駄にするもんか!!」

 黒雷と暴風を両の刃にアリスは飛んだ。

「【カオスセイバー・アルフィリアス】!!」

 天を裂く一振りを一つ、二つ。

 天災を顕現する十七連撃が白ウサギに傷を負わせていく。

「この、力は…!!おおおおおおおお!!」

 剣を集結させた盾ごと左腕を斬り落とす。

 にも関わらず、白ウサギのHPは半分すら切らない。

 アリスは【混沌王(カオス)】を解除し、最後の力を振り絞って決着を臨んだ。

「モード【兇龍帝】!!フォーム【冥王】!!エボリューションモード、【冥王神龍(タルタロス)】!!」

 大口を開け白ウサギを捕らえる。

「このまま…噛み砕く!!」

「やってみろ!!【ダークトリックカーニバル】!!」

 全身で踏ん張り咀嚼を耐えながら、喉奥に向けて魔法を撃ち、尚も現存する剣を浴びせた。

 ものともしないアリスに、白ウサギは大規模な魔法陣を展開した。

「【ジャイアントブレイク】!!」

 魔法陣から伸びる巨人の腕に殴られ、アリスは白ウサギを取り逃したもの、

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!」

 衰えぬ闘志のままに腕を振り回し、爪先を腹に掠ませた。

 赤く散るダメージエフェクト。

 コンマ数秒の怯みを見落とすことなく、サクラは大地を蹴った。

 勝利への執念。飢餓。

 アリスにあって自分には無い渇望。

 熱狂する闘争の渦に在って陶酔する。

 サクラは自分の中に燻る炎を熱く燃え滾らせた。

 新たなる力――――――――【繚乱(ラ・フルール)】として。

「フォーム…【繚乱(ラ・フルール)】――――――――バーストモード」

 新たなる力。新たなる感情として。




「【屑鉄の亡霊姫デウス・エクス・マキナ機龍血装(オーバーフロー)】!」

 

 


 鋼鉄の鎧装が龍翼を象り、まるで大輪の桜のように全身から閃光を走らせる。

「私は…人造人間(ホムンクルス)。造られた者。いつか来たる方を彼の地へと導くだけの存在…。ですが」

 無機質で無表情。

 だがしかし、確かに瞳の奥に光が宿る。

「今この刹那に存在したい…マスターたちのために戦いたいひ勝ちたい…この胸に湧き出るものが私を突き動かそうとします。たとえ世界が、運命がそれを許さないとしても。私は人造人間(ホムンクルス)……それ以上に【不思議の国のアリス】のサクラで在りたい」

 芽生えた自我のままに、サクラはブースターを機動させ空を飛んだ。

「【装甲可変:双剣形態(デュアルフォーム)】【技巧記憶マギアライズリコレクション】」

 膨大な《霊子核(エーテルコア)》の放出に身体が軋む。

 剣に思いを乗せ、サクラはアリスの技をその身に写した。

 世界を呑み込む混沌の嵐を。

「【機導剣流アーティファクトアーツ:コード07-CHAOSSABER ALFIRIAS】!」

「ぐっ、おおおおおおおおお!!」

 抵抗の一突きがサクラの頭部を狙うが、剣はサクラに届きすらしない。

「【魔龍鎧装】!!」

 白ウサギの右腕が、アリスの剣によって宙を舞う。

「これで――――終わりだよ白!!」

 次なる世界を夢見て。

「マスター!」

 アリスはその手に希望を掴み取る。




「【ラストホープ・アルフィリアス】!!!」




 【冥獄魔法】の真髄である破壊の力。

 そしてそれを強化する【冥王】の力を剣に宿した、星さえをも滅ぼす技。

 防ぐことも避けることも抗うことも叶わず。

 或いは本人にその気も無かったのかもしれないが。

 アリスの剣は確かに白ウサギのHPを尽きさせた。

 黒の光が爆ぜるのを視界に捉えながら、白ウサギは無邪気を口にした。

「最高に…楽しかったぞ!!」

 高らかに吼えて。

 高々と右腕を掲げて。

 アリスは喜びに打ちひしがれながら勝利を謳った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ