第86話 古竜との戦い
一カ月の準備期間を終えた私の対戦相手はこれまでとは全く違った相手だった。
これまでは一応私達とかなり似通った外見で、人間と言って差し支えない相手ばかりだったけど、今回の相手はそのまんま竜だ。
赤竜島で戦ったレッドドラゴンをかなり大きくして、色は黒く、後ろ脚だけで立つことから二足歩行と言えなくもないというか何というか。
レッドドラゴンとの違いは、普通に念話ではなくお話が出来るということかな?
「ちょっと、これ反則じゃないの?」
「おぉ~っと今回の対戦は異色の対戦だ。これまで連戦連勝の最強美少女ミコトに対するのは、もはや山と見紛うほどの巨大なエンシェントドラゴンのウィネマシオ選手。ミコト選手の口から思わず弱音が飛び出したよ~!でも残念、反則じゃないんだ。頑張って~!」
私がブレスから逃れながら愚痴ると、それを拾った実況担当が私を絶望に引き摺り下ろす。
もう仕方がないから戦うしかない。
でも、エンシェントドラゴンの体は硬い鱗で覆われているので爆発系は効かないし、『断界』を含めた斬撃は体を薄っすら覆う薄紫の光によって無効化されてしまう。
「ちょっとちょっと何なのよ!こっちの攻撃がちっとも効かないじゃない。」
「ふふふ、伊達に4千年もの間生きてはおらんよ。あらゆる攻撃に対する対処は済んでおるつもりじゃ。」
こちらの攻撃が全く効かない。
でも、相手の攻撃だって『結界』がある限り効かない。
結界だって張り続けていたら疲れるしから本来持久戦だと不利だけど、幸い時間停止をドラゴンの周囲ごとごっそりと囲めば効果はあるので、停止させている間に休むこともできる。
なので、かなりの膠着状態になっていた。
お互いに決め手がない状態で時間だけが過ぎていく。
お互い一撃必殺の矛を持ちつつ完全防御の盾も同時に持つというこの状態なら1年経っても決着つかないんじゃないかな?
幸い私は潤沢な物資を携帯しているから食事にも事欠かないし、休息も取れるからいくらでも付き合えるけど、見たところエンシェントドラゴンは何も飲食できる状態じゃないから兵糧攻めが効くかも?
それからは相手を時間停止させるのは食事と睡眠に限って結界を張りつつ攻撃の手も休めずに攻撃を無効化する薄紫の光に構わず攻撃し続けた。
向こうからしたら自分が徐々に疲労していくのに全く疲れずに攻めて守り続ける小さな人間は凄く不気味に映るはずだよね。
そう信じてなるべく余裕の表情を崩さずに攻防を繰り返した。
「おかしい!その小さな体で一体どれだけ動き続けられるというのだ?」
お、流石に少し焦れてきたかな?
「あら、私はまだまだ余裕よ?体が大きいからお腹空いて疲れて来ちゃった?フフフ。」
敢えてちょっと挑発気味に自分を強く見せる。
本当は一手間違えたら大ダメージ必至なので一瞬たりとも気を抜けない緊張感で休憩なしならとっくに力尽きてたと思うけど。
「あらあら、自慢のその紫の光も少し弱まってきたかしら?」
「ぐっ!」
実は気付いていた訳じゃないんだけど、鎌をかけたら反応したので、かなり疲れて来ているのは間違いなさそうだ。
とはいえ、まだまだ油断できないのでじっくりと休憩を取るために、再びエンシェントドラゴンを時間停止の檻に閉じ込めた。
これでゆっくりできると、中が豪邸並みに広くて立派なテントを出してご飯を作って食べてベッドで一休みだ。
何しろ、時間の感覚が違うのかこんなにダラダラと長い試合なのに飽きもせずに見ている創造主達の前で寝るのなんて嫌だからね。
完璧にリフレッシュが終わった私はテントを仕舞って何事もなかったように時間停止を解き、再び戦いへと身を投じた。
疲れるどころかギリギリの戦闘と休息を繰り返すことで動きが鋭くさえなっている私に対して疲労が蓄積されていくエンシェントドラゴン。
ここで更に追い詰めていくとしよう。
伊達に新たな世界に復活させた代表たちとの修行を重ねてきた訳じゃない。
彼らは世界の代表であるに足るだけの技や技術をそれぞれ練り上げていたのだから。
それを『奪う』ことなく『習う』ことで身に着けたスキルを使うことにする。
瞬間移動でエンシェントドラゴンの背後に一瞬で移動し、攻撃を無効化する光を湛える漆黒の鱗に手を添える。
体中の力を練り上げて力を放つ・・・
「『徹し』」
エンシェントドラゴンの攻撃無効を突き抜けて衝撃波が直接エンシェントドラゴンの体内を揺さぶる。
「ぐぼっ!な、なんじゃと!?」
「へへへ、びっくりしたでしょ?もうあなたの防御は効かないよ~。」
絶対防御に余程の自信があったのだろう。
かなりパニックを起こしているようだ。
そして、賭けに出たのか紫の光を引っ込めてこれまで以上に凄まじい力をその口に集約させていく。
これは食らったら結界があっても無事じゃ済まない気がする。
『断界』を防げるということは空間にすら作用する攻撃を撃てたって何の不思議もないからね。
ただ、溜めが長いのが玉に瑕で、そんな隙を見逃すほどお人よしじゃないし、『相手の攻撃を全て受け止めて勝つんだ~』って言うほど戦闘狂でもない。
ようやくいつもの勝ちパターンである瞬間移動で接近、『生殺与奪』の形に持って行けた。
「奪う」
その瞬間、強大なエンシェントドラゴンは地響きを立てて倒れ伏した。
もっと前に『徹し』を使えば良かったと思うかも知れないけど、後で復活させる関係で止めは生殺与奪限定だったし、ある程度追い詰めてからじゃないと完全に光を解除するかどうかは分からなかったからね。
これまでで最長になる戦いもようやく終わった。
こんなドラゴンが沢山いる世界がくっつくとなると、また賑やかになりそうね。




