第76話 役割
「まずは私がこの世界を創った目的から話さないといけないわね。我々創造主は広い宇宙で独自に産まれた自我を持ったエネルギー体なの。それぞれ独自に産まれて自分の世界で環境に適応しながら変化を繰り返して高い知性と力を得た。そうすると次にどうすると思う?」
私は途方もなさ過ぎて想像すらできなかったので黙って首を横に振った。
ルーナさんは黙って微笑むと続きを話し始めた。
「移動を始めたの。自分と似たような存在を求めて、あるいは自分をもっと強くする何かを求めて。」
そこでルーナさんは一度区切ってお茶をすすった。
私もそれに倣う。
「そうして徐々に私達が出会うことになった。そこで始まったのが仲良しこよしだったら良かったのだけど、私達は相手の持つエネルギーを貪欲に求めて食い合った。それはそれは壮絶な食い合いの果てに勝ち残ったものはどんどん強くなった。」
「その結果、最強のエネルギー体が一体だけ残ることになった。でも、今度は孤独に苦しむことになった。彼にとって幸いだったのは、その孤独が長くは続かなかったことかな。私達の世代がまた宇宙のあちこちで産まれて彼の強大な力に引き寄せられるように集まったから。
彼の下に集まる過程で小さな食い合いが起こり、ある程度の力を持ったものが彼の下に集まることになったの。そこで、彼はその強大な力を示して食い合いを禁じたわ。私達に選択の余地はなかった。彼に逆らったらあっという間に吸収されてしまうことが直ぐに分かったから。」
「集まった私達はそれでも更なる力を求めて飢えていた。そこで、話し合って決まったのがとあるゲームなの。私達はそれぞれに自分のエネルギーを少しずつ使って自分の世界を作り出し、そこに生命体を創って育てて、その世界の代表同士を戦わせるの。そして、勝った方の創造主が創った世界に負けた方の世界が吸収されるって言う訳。」
「それってつまり・・・」
「そう、ミコトちゃん、貴女がこのキータの代表選手に選ばれたのよ。宜しくね。」
「冗談じゃないわ!なんで私が戦わなきゃいけないの?私は自由を勝ち取るために戦って勝った。それが結局また別の創造主の奴隷として戦うってこと?」
「そうよ。貴女たちはそのために私に創られたんだから言うことを聞いてもらわなくちゃ困るわ。」
「じゃあ最初っから強い戦士か何かを創れば良かったじゃないですか?なんでこんなに時間をかけて回りくどいことしてるんです!?」
「実は、最初は皆そうしてたのよ。でもね、それだと負けた場合創った戦士の分だけエネルギーを削られて終わりなの。ところが、こうして世界を創るとね、その世界自体がエネルギーを産み出してどんどん増えることが分かったの。命そのものが増えて世界がエネルギーに満ちると私達創造主にも還元されるから、直ぐにこの方法が定着したの。」
「それなら無理に戦って奪う必要ないんじゃないですか?」
「まあねぇ、確かにそうなのよ。実際にそうやって戦わずに自分の世界を見守ったり、一緒に中で暮らしたりして満足しているのもいるのはいるのよね。」
「じゃあ、ルーナさんもそうすれば」
と言いかけたところで被せるように言葉が続いた。
「でもね、それじゃ詰まらないのよ。」
「え・・・それだけ?」
「そう、それだけ。だって前に他の世界の代表同士の戦いを見たけど、それはもう興奮したわ。」
そう言ってルーナさんはニヤリと笑った。
さっきまでの底抜けに明るい雰囲気が急に妖しげになり、遠い目をしながら想い出しているのだろうか・・・思わず鳥肌が立った。
「個性的な戦士が自分の世界を背負って必死で戦い、勝ち目がなくても最後まで足搔く姿なんか最高だったわ。だって自分が負けたら世界が消滅しちゃうのよ。自分の大事な人達と一緒に。降参なんか許されない。負けたら全てを失う。その条件はお互い一緒の戦いで見せる表情がたまらないのよ・・・」
そう言ってうっとりと笑う創造主であるルーナさんの顔はゾッとする美しさだった。
でも、怖い・・・・つまりそれって私がチルチルやオムやゴンゾ達を背負って戦わなきゃいけないってことよね。
「あの・・・・どうしても戦わなきゃいけないんですか?」
「当然よ。あなた達の住む世界はあなたの様な強い代表を生み育てるために創ったのよ。物凄い苦労したんだから。戦いの日々の中で強い人を産み出そうとしたのに、個人じゃなくて集団としての強さで統一しちゃうから圧政の下での反発力に期待したけど、社会システムがうまく行き過ぎて何百年も同じような状態が続いてたから、もう駄目かと思ってたところにミコトちゃんが出てきてくれた時には嬉しかったわ~。期待してる。」
「え、でも・・・そんなの嫌です・・・やっと奴隷制度を布いていた王国を打倒して皆が自由に暮らせるようになったのに、その世界の存亡を賭けての戦いなんて、私には荷が重すぎます。」
あまりの話の展開に圧倒されて拒絶すると、それまでの底抜けに明るかったルーナさんの雰囲気が一変した。
周囲が楽園のような浜辺から無機質な白い世界に戻り、見るだけで石になりそうな恐ろしい目で見つめられて私は凍りついた。
「勘違いしてもらっちゃ困るわね。私は創造主。絶対の存在。私がその気になったらあんた達の住む世界なんていつでも潰して最初から作り直すことなんて造作もないのよ。私を怒らせた分だけ苦しめてから潰してやろうかしら?」
耳に言葉は入ってくるけど、反応できない。
体が本当に石になってしまったように固まってしまっている。
ただただ恐怖だけが体中を占めている感覚だった。
彼女の言っていることは嘘じゃないんだと直感的に理解した。
どれくらい固まっていたのか分からない。
いきなり空気が弛緩し、ルーナさんの雰囲気が元に戻った。
「分かってくれたわよね?」
先ほどと変わらないにこやかな笑顔で私を見る目とさっきとのギャップにかえって私は恐怖を覚え、何とか首を縦に動かした。
「良かったわ~。もうエントリーは済ませてるから、具体的な試合の日程とかが決まったら教えるから、それまで普通に生活していていいわよ。鍵を肌身離さず持っていれば私が呼んでいるのが分かるようになっているから。でも、ここで見聞きしたことは一切口外しては駄目よ。それを破ったらどうなるかは言わなくても分かるわよね?」
「(はい)・・・」
返事しようとしたけど、言葉が出ず、また首を縦に振るだけで終わってしまった。
でも、その様子に満足したようで、飛び切りの笑顔を向けたルーナさんはいつの間にか消えてしまい、私も気が付いたら王宮の隠し扉の前に立っていた。
「ふ~~~~~~~~~~」
気が付けば長いこと息すら止めていたようで、一気に弛緩した私はその場に座り込んでしまった。




