第73話 攻勢
翌日に異変は起こった。
日が昇っても敵が攻めてこないのだ。
お陰で負傷者も増えず、何とか治療できる人を治療し切ったところで、再び本陣を訪ねた。
「オム、ゴンゾさん、今どういう状況なの?」
「おお、これはミコト様!オム様によりますと敵は既に統制を失って瓦解。逃亡兵が続出し、傭兵たちによって正規兵が殺され、内部で略奪が行われているとのことです!」
興奮気味のゴンゾが目をキラキラさせながら説明してくれた。
「フフフ、予想通りだ。ちょっと時間はかかったけど、最後の一押しが効いたね。間違いなく今回の殊勲は昨日の決死隊の皆だね。」
一方のオムは策がハマって余裕綽綽だ。
「さあ、喜んでる場合じゃないよ。最低限の守備兵を残して残党狩りに打って出るんだ。ここでさらに戦闘経験と勝利による自信をつけさせれば、ポートガスの兵はかなり強くなる。ゴンゾ、頼むよ。」
「任せて下さい!」
ゴンゾは鼻息も荒く飛び出していき、次々と指示を飛ばして隊を編成、門を開けて突撃した結果、大勝した。
多くの捕虜も得て、結果としては防衛線は大勝利だった。
それからは戦後の処理として論功行賞が行われたり、犠牲者の家族への補償、捕虜の扱いなどでゴンゾは大忙しだ。
ゴンゾのリーダーシップスキルのお陰か捕虜はほぼ全員がポートガスの兵として組み込まれた。
結果として人口も兵力も増え、ポートガスの力は増した。
一方で王国の国力と王家の求心力は大きく削がれることになった。
独立宣言と賠償の交渉も行われ、多くの物資と金品を王都から奪うことに成功。
王都は活気を失って、噂を聞きつけた町の人がポートガスに移民としてやってくることも多くなってきた。
そのため徐々に開拓を続けて食糧生産力をつけている。
「ねえ、オム。もうポートガスは王都に攻め込んでも大丈夫なんじゃない?」
「そうだねえ、こちらは強くなってあちらは弱体化が止まらない。何しろ十万人以上の兵を投入した大戦で連敗しているからね。ボロボロだろうさ。」
「じゃあ、いよいよこっちから攻め込むの?仇が討てるの?」
私が高ぶって詰め寄ると、オムは鷹揚に頷いた。
「ああ、もういつでも行けるよ。個人的にはもう少し他の都市を併合したりしたいと思っていたけど、それは王都を落としてからでも十分可能だし、今現在ポートガスに対抗できる勢力何て大陸中にどこにもないからね。」
ついにこの時が来た。
長かった・・・
ブルブル、ようやく仇を取ってあげられるね。
奴隷制を撤廃したら一度サラヘに帰ってユイちゃんに会いに行こう。
そして、自由に旅をして回るんだ。
私はワクワクしながら準備を手伝った。
今回はポートガス始まって以来初の遠征になる。
防衛線しかやったことがない私達には考えなきゃいけないことがいっぱいだ。
幸い、捕虜にした後で仲間にした兵士達は遠征経験があるので、そのノウハウがフルに活用された。
兵站・兵士に持たせる背嚢の中身等事細かに検討が行われて準備が進んでいった。
私も兵糧を始めとする物資を大量に収納していった。
そして、いよいよ出陣の時を迎えた。
ゴンゾの号令の下、大盛り上がりで総勢1万の軍が進軍を開始した。
流石に全軍という訳にはいかないし、今回は私も参戦するので最低限で十分というオムの判断だ。
とはいえ1万人もの軍隊となると移動一つとってもこんなに大変なんだなと実感させられた。
慣れない野営ではテントを張るのも一苦労する部隊が続出するし、環境の変化で眠れないもの、逆に夜の見張り中に寝てしまうものが出たりなどで統率が大変そうだ。
でも、士気は高いようで不慣れなこと以外でのトラブルが起きていないことが幸いだ。
幸い、王都までは一本道だし何の襲撃もなく辿り着いた。
これまで町を出たことがない人が殆どだから、ポートガスの町よりもはるかに大きな王都に皆が驚いている。
「ゴンゾさん、あれが王都です。城壁は高く、堀は深い。普通に攻めたら10万の軍勢でも簡単には落とせないでしょう。」
「な、オム殿、それでは2万しかいない我らは一体どうすれば?」
「慌てなくて良いですよ。“普通に攻めたら”ということですので、我々は普通には攻めません。単に唯一の王都の門を弓が届かない範囲で包囲して待てば良いのです。中の王都民は奴隷も含めればその数50万人。彼らの消費する食料を支える各農業都市からの物品を止めてしまえばあっという間に干上がります。」
「なるほど、壁を攻めるのではなく、中の人を攻めるという訳ですな。」
「ええ、ですが、ひょっとしたらそれすら不要かも知れませんがね。さあ、行きましょう。」
オムとの会話を終えたゴンゾは部下の隊長たちに指示を出して全方向の王都の門に繋がる道を封鎖すべく進軍していった。
「ねえ、オム。王は私がやっていいのよね?」
「ああ、戦いになるにせよ、投降して処刑するにせよ、その役目はミコトのためにちゃんと確保してあるよ。処刑の時はスキルじゃなくて普通に剣で首を刎ねてもらうことにはなるけどね。」
「どっちでもいいわ。早く終わらせてのんびりしたいわ。」
「そうだね。そうなると良いね。私は多分ゴンゾのアドバイザーとして残ると思うけど、ミコトはどうするんだい?」
「私は一度サラヘに帰って仲の良かったお友達に会いに行って、その後のことは決めてないわ。」
「本当はゴンゾとしては一緒に残って欲しいと思うけどね。何しろこの戦いでミコトは”聖女”と呼ばれるくらい圧倒的な支持を得ているからね。もはや信仰の対象と言っても過言じゃない。」
「う~ん、聖女って良く分からないけど、少なくとも私はそんなに清らかな体じゃないわよ。そんな窮屈そうな役目はご免だわ。」
「まあ、そう言うと思ったよ。でも、たまには遊びに来てくれよな。」
「ええ、勿論だわ。でも、まだ終わってないんだから先のことは後で考えましょう。オムのスキルでも先のことは分からないんでしょ?」
「ああ、他にも人の考えや気持ちなんかの表に出ていないものは分からない。発言した言葉は知ることが出来るけどね。」
「だから考えるのは止めましょう。どの道もう直ぐ決着は着くんだから。」
そして、その言葉通り、決着は直ぐにつくことになる。
なんか本当に忙しくて、更新できなくて済みません。




