第72話 激戦
「ねえオム、やっぱり私がやっちゃった方が良くない?」
その晩、作戦会議のために領主館に集まったゴンゾ以下幹部の中に私はいた。
「いやいや、その話は終わったはずだろう?」
「そうなんだけど、やっぱり目の前で仲間が死ぬのは辛いよ。『聖女』なんて呼ばれたって逆に辛い。」
「うん、気持ちは分からなくはないけど、長い目で見たら絶対に必要なことだ。実際に士気は高いし、ミコトのお陰で犠牲だって普通に考えたら信じられない位少ないんだ。」
「そうですとも、ミコト様のお陰で我々は自信をつけつつあります。我らの力で自由を勝ち取るために、ミコト様のお力は重々承知ですが、我らにも活躍の機会を与えて頂きたく存じます。」
なんかゴンゾの言葉遣いが妙に丁寧になっているのが気になったけど、そう言う話なら仕方がない。
厳密にはオムと私の関係では私がリーダーだけど、この作戦の細かい段取りはオム任せだからね。
それに、ゴンゾ達には私は一切指揮権を持っていない。
「じゃあ、明日からもこれが続くのね?」
「ああ、籠城戦は基本的に根競べだ。相手が引くまでひたすら耐える。物資は十分なだけに精神的なところで崩れなければ大丈夫だ。」
「分かったわ。私、かなり疲れたから先に寝るわね。まさか普通に戦うより安全な後ろで治療に走り回る方が辛いなんて思ってもみなかったわ。」
「済まない。相変わらず負担をかけるね。」
「ミコト様に何かあったら我々は総崩れです。どうか、ご自愛ください。治療も本当に必要最低限で行って頂けるように手配します。」
「そう、ありがとう。」
私はそう言って下がった。
結構これは堪える。
戦場と違ってここには兵士の家族や仲間がいる。
彼らも必死に後方支援をしている訳だけど、犠牲者が出たときの彼らの嘆きは戦場で味方をやられたときの怒りとは種類が違う。
本当にこんなのを何日も続けなきゃいけないのかと思うと憂鬱になる。
次の日も次の日も同じような戦いが続いた。
話を聞くと、向こう側も盾が流石に痛んできたのか、徐々に犠牲が増えているようだ。
3日目になって急にどの城壁も騒がしくなった。
ついに先方を変えて城壁をよじ登る作戦に出たらしい。
敵は梯子をかけて登り、こちらはそれを上から矢で落としたり、梯子そのものを押しやって外したりと応戦する。
その城壁で応戦する兵士達を敵は下から矢で援護して、こちらもアーチャーを狙って妨害する。
これにより一気に敵方の消耗が加速する。
しかし、敵は攻め方を変えただけじゃなくて昼夜交代で1日中攻めるようになってきた。
これは物凄く堪えた。
こちらもシフトを組んで交代で守って休んでをするようにはなったけど、慣れない戦で攻められている状態で充分に休めるはずもなく、疲労が蓄積してきた。
私もシフトを組んでもらって休みながら治療に回っているけど、目に見えて死傷者が増えてきた。
治療が追い付かない。
後方支援部隊もかなりしんどそうで、壊れた弓の修理から炊き出し、手当等多岐に渡る業務全てに対応の悪さが目立ってきた。
前線で負傷してきた兵士達のイライラも最高潮で、あちこちで怒声が響いている。
私は休憩時間に入るや否やゴンゾ達がいる本部に駆け込んだ。
「ちょっと!結構こっちがやられ始めてるじゃない!本当に大丈夫なの?」
すると、そこには飄々としたオムと緊迫したゴンゾが睨み合っていた。
「ああ、ミコトか君もゴンゾと同じ意見ってことかな?」
「ゴンゾさんが何て言ったかは知らないけど、このまま犠牲者を増やしながら戦っていたらいつかは押し込まれるわよ!快復だって全然追い付かないんだから!」
「心配はいらないよ。ハッキリ言って犠牲者ということだけで言えば向こうの方が圧倒的に多い。無理に壁を登ろうとして落ちたりしているから心理的にもそろそろ限界が近いはずだ。」
「でも、こっちは人数が少ないから碌に休めないし、こんなに間断なく攻められたら限界近いのはこっちなんじゃない?」
「大丈夫だ。今夜は向こうも休みに入る。流石に連日の昼夜攻勢で全く壁を越えられてないことに現場から反発が強い。既に逃亡者も出始めてる。ここでこっちも休息を取って、我慢強くしていれば勝手に瓦解するよ。食糧だってもう最初の方から見たら配給が三割程度に減っているみたいだからね。」
「そっか、向こうも辛いのは一緒って訳ね。」
「ああ、こっちにはミコトの回復と腹いっぱい食べられる食糧がある分、こっちの方が分がいいさ。」
私が何となく納得していると、これまで黙っていたゴンゾが口を開いた。
「オムさん、あなたの言い分は良く分かった。しかしな、こっちも士気は大分下がってきている。特に元々奴隷じゃなかった者たちは我々を差し出せば助かるんじゃないかと思っている者も出てきているようだ。」
「そうだろうね。」
「分かってるんだったら何か対策はないのか!?」
「う~ん、打てる手はいくつかあるっちゃあるけど・・・」
「どんな手だ!早く教えてくれ!」
「一番いいのはさっきの作戦だけど、逆にこっちから打って出る手がある。食糧の備蓄場所は3か所に分かれているけど、そこを夜襲で襲うという手かな。それだと一気に相手は食料がなくなって瓦解スピードが加速する。」
「あの軍勢の中を突き進むのか?無謀にも程がある!」
「まあ、夜半に忍び込めたら何とかなる気がするけど、他にはゴンゾが演説で皆を鼓舞するってのもお勧めだね。あと一息だと自信をもって知らせたら安心感が生まれるから何とか気持ちも落ち着くだろうからね。」
「なるほど。それなら簡単そうだ。」
「ああ、ゴンゾなら大丈夫だろう。何なら、ついでに夜襲の決死隊でも募ってくれたら食糧壊滅作戦ができるんだけどなぁ。」
「分かった。強制をしない程度に聞いてみよう。」
「助かる。いずれにしても後少しだ。頑張って耐え忍んでくれ。」
不思議とオムが言うと何となく納得しちゃうな。
日が暮れると、オムが言っていた通り全軍が弓の射程外に引いて行った。
ゴンゾは最低限の見張りだけを残して全員を集めてオムが言っていた敵の逼迫した現状を説明し、高らかに勝利が間近であることを宣言した。
そして、休息を促すために酒を飲む許可を出し、その上で勝利を近付けるために決死隊を募ると、我も我もと想像以上に人が集まってきた。
流石はリーダーシップスキルがなくてもリーダーだったゴンゾは人望が厚い。
ゴンゾはメンバーを厳選してオムの示した位置を伝えて3隊に分けて全ての食糧保存拠点を襲うことにした。
これまでポートガス勢は守るばかりで攻めたことがないから、向こうは完全に油断しているとの読みだ。
私は付いていくのを止められたために、仕方なく残って相変わらず治療中。
代わりにチルチルに様子を見てきてもらった。
敵陣の荒れ方は結構酷いようで、空腹で眠れない男たちが文句を言って騒いでは喧嘩になったりで本当に追い詰められているらしい。
そんな混乱と夜陰に紛れて3部隊は見事1人も欠けることなく戻ってきた。
しかも、壁の上からでも3か所に赤々と一際大きな火が立ち上っているのが見える。
帰還した決死隊たちは皆に褒め称えられ、得意そうだ。
なんにせよ、これで戦局は大きく動くだろう。
自棄の突撃を警戒して少し見張りを増やし、久しぶりに静かな夜に皆たっぷりと眠って過ごして休みを取った。




