第68話 勝利
私は想像以上のラグナルの剣の腕の前に防戦一方となってからの記憶がなかった。
気が付いた時にはラグナルの右腕がなくなり、その腕は私の左脇に挟まれた剣と共にぶら下がっていた。
どうやら、相手の突きを紙一重で躱して脇に挟み込み、伸び切った腕を切ったらしい。
完全に無意識で戦っていたというのはちょっと怖い。
「ふ、見事だ。約束通り兵は撤退させる。お前も約束通り兵に手を出すなよ。」
「ええ、分かったわ。でも、あなたはこのまま返す訳にはいかないわ。」
「この傷ではどのみち助からんが、首が欲しいというのならくれてやろう。どの道帰ったところで戦犯として処刑される身、5万の命と引き換えなら安いものだ。」
「そう、なら私達と一緒に王家と戦わない?死ぬよりはいいでしょ?」
「ふ、そういう訳にはいかん。これでも一軍の将なのでな。そんなことをしては都に残してきた家族とてどんな目にあうか分からん。」
「分かったわ。首はいらないけど、あなたのスキルは私達にとって脅威だから命は貰うわね。」
どさりと腰を下ろしたラグナルの肩に手を置き、私は静かにスキルを発動した。
「奪う」
ラグナルは体を支える力を失って倒れた。
それを合図に何人かの兵士が私の方に駆け寄ってきた。
「小娘!よくもラグナル様を・・・・」
「よさんか!ラグナル様は正々堂々の一騎打ちの果てに敗れたのだ。ラグナル様の名誉を傷つけるのみならず、ラグナル様が我らを守って一騎打ちを受けたことが無駄になるぞ!」
「そういうことね。リーダーを殺されて怒る気持ちは分かるけど、これは戦争。殺されるのが嫌なら仕掛けなければいいのよ。」
そう言って私は地面に向かって剣を振り、街道に真一文字の傷を作った。
「この線を越えたら退却の意思なしとみなして全員殺すわ。大人しく帰るなら約束通り何もしない。何なら多少食糧を返してあげてもいいわ。」
「分かった。食糧の申し出は有難いが、我らにも誇りがある。直ちに撤退しよう。ただ、済まないがラグナル様のお体と剣を王都にお連れして帰って埋葬したい。線を超える訳にはいかないので、こちらに引き渡してくれないか?」
私が抱きかかえてラグナルの遺体を差し出すと、体格と力のギャップに驚いていたようだけど、丁重にお礼を言われた。
そして、言葉通り退却していった。
私は暫く見守っていたけど、特に騙して攻め込む雰囲気もなかったのでポートガスの町に帰ることにした。
帰って報告をすると物凄く感謝された。
まあ、そりゃそうだよね。
オムには少しだけ作戦が陰湿過ぎないかと咎めてみたけど、結果を考えれば最良だったとケロッとしていた。
中でも、大将のラグナルを倒したことに関しては戦果としては想定以上だったらしく、オムは殊の外喜んでいた。
今後の王都攻略においてかなり障害となる名将だったらしく、これで更に王都は混乱と弱体化を促進するだろうと読んでいた。
私としては最後の一騎打ち以外かなり後味が悪かったので、しばらく敵も襲ってこないだろうからゆっくりさせてもらうことにした。
本来サポート程度という約束だったのに、1人で5万の軍を退けた訳なので、もちろん誰も文句は言わない。
オムもこれは全滅を回避するための緊急避難で、あくまでも今後は自分の力で戦っていくべきことを強調していた。
私は奪った食糧の大半を引き渡して、ちょっとリフレッシュにとチルチルと2人で空の旅に出た。




