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第67話 対スキルホルダー

 弓を持った男が矢も持たずに弓を引くと、そこに光り輝く矢が現れて、放つと共に一筋の光となって壁にぶつかった。


 轟音と共に壁は崩れ、崩れ落ちる土砂が穴を埋めていく。


 第2射、3射と続けて放ち、土煙が晴れたときには壁は跡形もなく崩れ、穴も大半が埋まってしまい、ちょっと頑張れば通れる程度になってしまってた。


 大地を揺るがすような歓声が上がり、意気消沈していた兵士たちの目に光が戻る。


 この壁を越えたらもう1日か2日でポートガスの町に着いてしまう。


 町を覆う壁もこの光の矢の前では意味をなさず、一気に侵入を許したが最後、腹を減らした兵士達が町を殺戮と略奪で染めるのは間違いない。


 あの男だけはここで私が止めないとまずい。


 驚いていた隙に、もう男は人混みに紛れて見えなくなってしまった。


 仕方ないので、私は更に前方にもう一度壁を作り、その前に立った。


 すると、思った通り再び壁を壊すべく光の矢を放つ男が前に出てきた。


 「こんなところで女の子が何をしている?迷子か?そんな訳ないな、まさかとは思うが、物資の奪取に壁による妨害、敵の見えない夜襲、全部お前1人でやったってのか?」


 「さあ、どうかしら。答える必要あるのかしら?」


 「ないな。だが、確信したよ。お前が全ての元凶だな。長い王国の歴史の中で奴隷の反乱など聞いたことがない。まして、実際に町を支配するに至るなんて耳を疑ったが、今回の遠征で合点がいったよ。」


 「元凶だなんて、何だか私が悪い人みたいじゃない。奴隷だの町の人だの貴族だのって身分を固定して何の疑問も抱かずに奴隷から搾取し続けてる寄生虫達に言われたくないわね。」


 「ほう、言うじゃないか。これまで姿を見せずに陰湿な嫌がらせに徹してきたお前が姿を表したということは、俺の存在に脅威を感じたってことだな?お前たち、勝利は目前だぞ!この小娘を倒せば腹いっぱい飯が食える!」


 「おおおおおおお!!!!!」


 あまりの声量に思わず耳を塞ぐ。


 男が手を挙げると、静まった。


 「娘、名を聞いておいてやろう。俺の名は王国大将軍ラグナル。お前を殺す男の名だ、覚えておくがよい。」


 そう言いながら弓を構えると、また光の矢が現れた。


 「残念だったわね。興味もないし、名乗る気もない。一瞬で殺しちゃっても良いんだけど、それじゃ詰まらないから遊んであげるわ。」


 正直、これは本音だった。


 これまでスキル持ちの魔物と戦ったことはあるけど、スキル持ちの人間とは戦ったことはない。


 神速で背後に回って生殺与奪で殺してしまえば話は早いんだけど、それじゃあこのところラグナルの言う通り陰湿な活動しかしてこなかった私の心は晴れない。


 だから、悪いけどギリギリまで本気で遊ばせてもらうつもりだ。


 そんな私の本音を挑発と受け取ったのか、ラグナルは怒りの形相で光の矢を放ってきた。


 ドガン!


 危なかった!


 神速を使って避けなければ粉々になっていたところだ。


 私を外した光の矢は私の作った壁を一撃で打ち崩した。


 「ほう、まさか我が『神矢(かみや)』を躱すものがあろうとはな。」


 「ざ、残念でした。そんな矢止まってるのかと思ったよ。どんなに強くても当たらなきゃ意味ないもんね~だ!」


 「小娘が、賊の分際で我が『神矢』を愚弄するか!」


 怒ったラグナルがバンバン矢を連射してきた。


 避けるたびに地面が爆発したり、山が抉れたりするので大騒ぎだ。


 このままじゃ埒が明かないので、空に逃れる。


 まさか私が空を飛べるとは思っていなかったラグナルは完全に私を見失ったようだ。


 すかさず私は上空からホワイトクローを乱射する。

 

 もちろん、ラグナルを直撃しない程度に離れたところを狙ったが、破壊された街道から土や岩の破片が飛び散り、多少の傷を負わせることはできたようだ。


 「き、貴様!わざと外したな!愚弄する気か!?」


 「え?だから直ぐに殺しちゃ詰まらないから遊んであげるって言ったよね?」


 「まさか言葉通りの意味だったというのか?」


 「だからそうだって。スキルを使った勝負だったら悪いけど勝負にならないってことは分かってもらえたかな?」


 私が言うと、ラグナルは悔しそうに顔を歪めた。


 「く、、、まさかここまでとはな。口惜しいが、確かにスキルでは敵わんようだ。一体どれほどのことが出来るというのだ?まるでアラゴルン王子のような速度で動き、空を飛び飛ぶ斬撃を放つ、物資を隠したことも含めると訳が分からん。夜中に暗殺された者たちも外傷一つ負っていなかった。」


 「へえ、流石は総大将だね。そんな訳だから提案だけど、お互いスキル無しで一騎打ちしない?」


 「何だと?」


 「私が負けたらあなた達の軍を止められる力は今のポートガスの町にはないわ。だから私達の負け、あなたが負けたらあなた達の負けだから大人しく撤退してもらうってのはどう?」


 「願ってもないな。正直こっちはもう勝てる道が全く無い状態だったからな。」


 「じゃあ、皆に伝えといて。もし約束破って撤退しなかったら、今度は容赦せずに全滅させるからそのつもりでって。」


 そう言って私は上空で盛大な空間圧縮爆発を行った。


 文字通り全滅させることが出来るというデモンストレーションだ。


 「わ、分かった。しかし、これほどの力を持ってすれば最初から我らを全滅させることなど造作もなかったのではないのか?」


 「まあね。でも、そう言われなかったから。じゃあ、行くよ。」


 「ああ、私の部下に欲しいな。どうだ、私の下に来ないか?」


 「えっと、何で私より弱い人の部下にならなきゃいけないの?」


 「ふっ、強さのみを基準にするとは、まだまだ子供よな。しかし、我とて伊達に大将軍にまで上り詰めた訳ではないぞ。己の過信を後悔するがよい。」


 そう言ってラグナルは腰の剣を抜いた。


 私もエグゼイビアを取り出して鞘を払う。


 「貴様・・・その剣はアラゴルン王子の・・・そういうことか、貴様、倒した相手のスキルを奪えるのか?」


 「ご明察。一騎打ちに勝ったら、あなたの『神矢』も頂くわね。」


 「させるか!王子の仇!」


 怒りを力に変えたのかラグナルは物凄いスピードで突進してきた。


 私も強化に強化を重ねてきた身体の全力で持って前に出る。


 お互いの間合いが重なる刹那に正面から振り下ろした2本の剣が交錯する。


 ガギィィィン!


 凄まじい音と衝撃波が広がる。


 なるほど、一騎打ちに応じるだけの実力はあるということね。


 私の剣術は所詮一般兵士から奪った技能レベルなので技では全く敵わない。


 不思議なフェイントや困惑させる緩急のついた動きでタイミングを外される。


 筋力と視力を強化しておかなかったら正直もうやられていただろう。


 幸い、稚拙な剣術でも私の異常な身体能力が加われば何とか攻撃をしのぐことができた。

 

 でも、既にあちこちが傷だらけだ。


 どうやら、ラグナルは頭や胴体といった即死させる急所狙いではなく、手足などに傷を負わせて確実にダメージを与えて弱らせていく作戦のようだ。


 なるほど、これは勉強になる。


 私は馬鹿正直に頭から一刀両断にしようとしたり、胴体を真っ二つにしようとしたり、喉や胸を突いたりと一撃で倒そうとばかりしていたけど、ラグナルの戦い方は敢えて頭から切りつけたかと思えば手首を狙ってきたりと変幻自在だ。


 いつしか私は防戦一方になっていた。


 周囲の兵士達の歓声が煩かったけど、何も聞こえなくなっていた。


 ただただ襲ってくる剣を弾く。


 時折拳打や蹴りが混ざってくるのを躱す。


 それをひたすら繰り返している内に、段々頭が真っ白になってきた。


 (ラグナル視点)


 何かがおかしい。


 我はスキルである神矢はもちろんのことだが、剣においてもアラゴルン王子を除いて遅れを取ったことはない。


 その私がこんな小娘を捉え切れないだと。


 時折掠めることはあっても、決定的な一撃は入らない。


 最初はあった反撃も今は完全になく、防戦一方になっているのだが、凌ぎ切っている。


 いや、むしろ反応速度が速くなっているのではないか?


 最初は楽しそうだった小娘から表情が消えている。


 一旦下がって間合いを切り、息を整える。


 追撃してくるかと思ったが、剣を右手にもって構えるでもなくだらりと両手を下げて突っ立っている。


 しかし、何だろう隙が無い。


 どこに打ち込んでも受けられて返されるイメージしか湧かない。


 これはもしや昔剣の師から聞いた『結界』というやつか?


 自らの間合いに入ったものは無意識で瞬間的に切りつける絶対の攻防一体の境地。


 試しに足元の石をいくつか投げてみると、間合いに入った瞬間に剣で斬られて地面に落ちていった。


 私には見える。


 娘を中心に球形の絶対防御の間合いが。


 どうしたものか。


 スキルを使わない一騎打ちとして受けた以上、同時に多人数で押し込んで結界を破るということは無理だ。


 いや、敵は1人なのだからやってしまっても問題はないのだろうが、流石に武人としての矜持が許さないし、そもそもそれで通用するかすら怪しいレベルの結界の完成度だ。


 失敗したら5万の部下が全滅させられるというのもハッタリではないだろう。


 正直、この娘の底が見えない。


 軍に入って30年。


 大きな戦こそはないものの、賊の討伐や模擬戦、小規模な騒乱の鎮圧等で様々な敵と対峙してきたが、これほどの脅威を感じるのは初めてだ。


 しかし、この娘には感謝せねばならんな。


 スキルに目覚めてからというもの、このようなギリギリの状況下は味わうことがなかった。


 しかも、完全な負け戦で戦うこともできずに朽ちるのかと思っていた矢先でこれほどの戦いを味わえるとはな。


 正直、人を舐めた娘の言動に苛立ちを覚えていたが、今は感謝しかない。


 今回の陰湿な作戦を考えたのは別の人間だろう。


 正直、効果的だったが、どちらかと言うと心を挫くことに主眼を置いた作戦だった。


 そんな作戦を練るものとの一騎打ちがこんなに心躍るはずはない。


 こんなに澄み切った心で最後を迎えられるとはな。


 我に残された使命は部下たちを生かして帰すことだけだ。


 勝っても負けても部下たちは生きられる。


 ならば、最高の一撃を持って勝ちを掴みに行くとするか。


 私は体を半身にして腰を落とし、剣を地面と水平にして構えを取る。


 そう、私が選択したのは小細工なしの全力全速の突きだ。


 一足で相手を貫ける間合いまでじりじりと近付き、溜めに溜めた足の力を開放して全力で前に飛び、その勢いを剣に乗せるようにして剣を突き出していく。


 間違いなく人生最高の一撃だ。


 剣は娘の結界を突き破り、娘の体に吸い込まれていった。

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