第64話 初陣
ゴンゾが出ていった後で私は周囲を警戒するために空中に陣取った。
突然空に浮き上がった私に皆がびっくりしていたけど、そんなことは気にしている場合じゃない。
オムが私をここに残したということは、ここを絶対に守らなきゃいけないし、敵が来る可能性が高いということだ。
辺りを木々に囲まれた集落は見通しが悪いので上空から警戒する方が早く敵の接近を察知できると考えたのだ。
かと言ってずっとここで待っているのも暇なので、チルチルにオムたちの方に行ってもらって念話で様子を伝えてもらうことにした。
チルチルによると、今まさに門に辿り着き、門番とひと悶着しているところらしい。
門は閉ざされ、領主の館に伝令が走り、町の中は騒然としているようだ。
領主を呼び出して要求を突きつける手順のはずだけど、チルチルによれば伝令は領主の館に入ったっきり出てきていないようだ。
門の前は膠着状態と言うか全く動きがないらしい。
弓兵が壁の上から狙っているようだが、それは想定内だろう。
動きがないと見たのか、危険と考えたのか、オムたちは門から少し距離を取ったようだ。
依然として睨み合っているらしい。
私もそっちに行って様子を見たかったけど、オムが決めた持ち場から離れるのはちょっと怖い。
チルチルにオムの様子を聞くと、内容は分からないけど非常に口数多くゴンゾ達に話しているらしく、念話で邪魔をするのも気が引ける。
ジリジリと焦れているとチルチルから念話が届く。
『ミコト様!別の門から軍隊が出て来ました。大きく迂回しているので、背後から挟み撃ちにしようとしているのかも知れません。』
『ありがとう!直ぐにオムに知らせるわ。』
『オム!チルチルからの報せで別の門から出た軍隊が大きく迂回しながら進軍しているらしいわよ!』
『おわっ!びっくりした、念話はまだ慣れないなぁ。でも、報せてくれてありがとう。予想通りだね。恐らくその隊はこっちじゃなくて集落に向かうはずだよ。』
『何で分かるの?』
『確実じゃないからこっちも警戒はするけど、労働力である奴隷をいきなり皆殺しにはしないと思うんだよね。もちろん首謀者は見せしめに殺すだろうけど、皆殺しにするよりも子供達とかを人質に取って言うことを聞かせた方が得だろう。』
『なるほど、だから私をこっちに残したって訳ね。』
『そうそう、だからきっちりと守ってよ。結界とか使ってもいいからさ。』
『じゃあ、こっちは守ること前提で別に実戦経験積ませたりはしなくていいってこと?』
『そうだね。今回はこっちの半分に実戦経験を積んでもらうよ。こっちが当分睨み合いになるだろうと踏んでいるだろうから、その間に集落に攻め込む兵士を結界で足止めしてもらって、その背後から彼らを襲えば相当な被害が出るはずだ。』
『それは良いけど、その間に門から別の隊が攻めてきたら、今度はオムたちが挟み撃ちにならない?』
『ああ、その可能背は否定できないけど、恐らくはないと思う。』
『どうして?』
『そうなったら本当に町の防衛力が無くなってしまうからね。私が敢えて少ない人数で門に行ったのも別動隊の可能性を考えさせるためさ。』
『なるほど、色々考えてるのねぇ。まあいいわ。私の目でももう軍隊が見えたわ。もうそろそろ森に入ると思う。』
『了解、集落を結界で覆った上で適当に注意を引き付けてくれ。こっちも下がって後ろを突く。』
『任せて!全滅させないように気を付けるわ。』
『あぁ、頼むよ。』
オムとの打ち合わせを終えた私は集落をすっぽりと包むようにして結界を展開した。
空気がなくならないように天井のない見えない壁で覆われている感じだ。
かなり高くしているので矢でも相当なことがなければ大丈夫だと思う。
一旦地上に戻って近くにいた人に作戦を伝えてもう一度上空に戻って見下ろすと、全体の動きが良く見えた。
領主の軍勢は集落を包囲するように展開していて、その後ろからオムたちの軍勢が間合いを維持するようにじわじわと動いている。
オムの言うように、確かに町から増援が来るような感じじゃない。
念ためにチルチルを見張りに残ししつつ、観察を続ける。
完全に集落を囲った軍隊は恐らく人質になるだろう奴隷を誰一人として逃さないことを考えているのかな。
結果があるとはいえ、中の人達が焦って変なことをしないかが怖いので、ここからは集落で一緒に様子を見よう。
「お、おい、あんた空を飛んでなかったか?」
地上に降り立つと、さっき伝言を頼んだ男が驚愕の表情で寄ってきた。
「ん、ええ、飛んでたわよ?」
「凄いな、どうやって飛べるようになったんだ?俺にもできるかな?」
「ん~それは内緒。強く願えばもしかしたら叶うかもね。それより、ちゃんと伝言は伝えてくれたの?」
私が聞くと、男は真剣な顔に戻って答えてきた。
「ああ、もちろんだ。見えない壁に立て籠もって戦うって作戦だろ?伝えはしたけど、壁なんて本当にあるのかい?正直、皆も不安なんだけど。」
「バッチリあるわよ。試しに弓で外を射ってみる?」
頷いた男は弓を引き絞って矢を外に向かって放つ。
しかし、矢はコツンと見えない壁に当たって地面に落ちた。
どよめきと共に安堵が広がる。
「この集落の柵の中に居れば安全よ。私は外に出て少し攻撃して注意を引くわ。後は最初に出ていったゴンゾさん達が後ろから攻め込むから、兎に角無茶しないでね。ここには戦えない人も沢山いるから。」
そうこうしているうちに包囲が終わったのか、集落の外に続く道という道から兵士達が攻め込んできた。
結界で入れないと分かっていても武装して雄叫びを上げて殺意を向けながら突っ込んでくる集団を見ると身が縮む思いがする。
しかし、集落の境に差し掛かった瞬間、今度は相手が驚愕することになる。
見えない壁に先頭が衝突し、転んでしまうけど、後ろからは突撃が続いているので踏み潰されたり、結界の壁に圧迫されて押し潰されたりして自滅していく。
その凄惨な光景にあちこちで戻す音が聞こえる。
幸い外の血や糞尿の匂いはこちらに届かないけど、中では吐瀉物のすえた匂いがする。
上を開けておいておいて本当に良かった。
流石に異常に気が付いたのか周囲の兵士の突撃による自滅は終わった。
驚きながら槍で壁を突いたり矢を放ったりと様子を見ている。
『オム、敵は完全に防げているし、結界に混乱しているけど、そろそろ攻める?』
『ああ、だけどもう少し相手を崩してから攻め込みたいからミコトの方で適当にかき乱してくれると嬉しい。』
『オッケー任せて。』
瞬間移動で結界の外に出て上空から空間を圧縮して方々で爆発を起こすと、辺りは大混乱に陥った。
それを好機と見たゴンゾ隊も突撃を開始したのだけど、混乱した兵士達は初陣の元奴隷達にバタバタとやられていく。
もちろん、元々の戦闘技術に差があるのでこちら側もかなり倒れているが、かなり善戦していると言えるだろう。
後々治療がかなり必要そうだと思った私は乱戦となっている反対側に降り立って神速で移動しながら生殺与奪を発動して次々と兵士を倒して生命の玉やスキルの玉に替える。
バタバタと理由も分からずに兵が倒れていくことでこちら側も大混乱だ。
結局領主軍はあっさりと退却を始めたので戦闘は割と早めに終結した。
オムたちが集落に戻ってくるところで結界を解除して迎え入れた。
生き残った男たちは全身に傷を作っている者も多いが、勝利の喜びと興奮と自信が漲っていた。
オムがゴンゾを促すと、ゴンゾは大きな声を張り上げた。
「この戦い!俺たちの勝利だ!俺たちはもう奴隷じゃない!俺たちは自由だ~!!!」
ゴンゾの勝鬨に集落が呼応して空気が震える。
知らず私も手を振り上げて声を上げ、一緒に興奮に酔っていた。




