第58話 2度目の旅立ち
「ねえオム。本当に王を殺しちゃわなくて良かったの?」
私たちは今テントの外で例によって私が作った遅い朝ご飯を食べながらまったりしている。
深夜に王宮に忍び込んで帰って来て少し疲れていたのと、オムに頭を撫でられたら安心して眠くなってしまったので少し遅くまで寝てしまったのだ。
因みにオムは料理なんて全くだから私がご飯を作らないと平気で机に向かって何かを考えていられるようだ。
「良いんだよ。こういうのはただ武力で制圧すれば終わりって訳じゃないんだ。今の王は俺やミコトにした仕打ちを考えてもらえば分かるけど、結構我がままな王だ。それでもリーダーシップのスキルのお陰で国として破綻しないように根幹の部分はしっかりと守ってきた。だけど、このスキルを奪ったことでバランスが崩れて、遠からず王宮内は混乱に陥ることは間違いない。」
「うん、それは聞いたけど、何でそんな回りくどいことをするのかなっていうのが今一つ分かってないのよね。」
「それはね、ミコトが王に取って代わるならそんなことをしなくても良いっちゃ良いんだけど、別の人を立てるなら、その人がちゃんと王位に納まって統治がしやすい状態を作ってあげなくちゃいけないんだ。」
「私が王ならいいの?」
「ああ、何しろミコトの力はハッキリ言って人間の枠を遥かに超えているからね。軍隊だって役に立たないから誰も逆らえないだろう?」
「そうなの?私はまだ実感沸かないけどオムが言うならそうなのかしら。それなら私がその新しい王様に絶対逆らうなって言ったら良いんじゃないの?」
「う~ん、まあそれはそれでできなくはないけど、そうするとミコトもどっぷりと政治の世界のしがらみに纏わりつかれることになるからね。そんなの嫌だろう?」
「あ~それは確かに嫌かも。」
「だろう?だからまずは今の王族が混乱を極めて皆が嫌になったところで俺達が見込んだ人に立ち上がってもらって民衆の圧倒的な支持のもとに王に迎えられるのがベストな訳よ。」
「なるほどねぇ。改めて思うけど、オムって凄いのね。」
「頭でっかちなだけさ。ミコトがいなかったら遠からず獄中死していたさ。せっかくの知識も気を付けて使わないことで結局自分を苦しめていた大馬鹿さ。でも、お陰で熟考する時間があったからね。ミコトの理想とする打倒現王国と理想的な国家建国に向けて全力でこのスキルを活用するよ。」
「ふふ、ありがとう。私が勢いに任せて王族皆殺しとかしていたら国が混乱して、結局普通の人が苦しむだけだったかもね。」
「まあ、今の作戦でも一時的には苦しんでもらう必要があるんだけど、苦しみの期間は大分短くできると思ってるよ。」
「分かったわ。じゃあ、次は何するんだっけ?」
「次にやるべきことは2つかな。王太子からのスキルの奪取と新王の人選と接触だね。」
「王太子の方はこないだと同じ要領で良いのよね。新王の方はどうすればいいの?」
「それは今は俺の仕事だね。流石に俺のスキルでも”未来に名君になる人”なんてお手軽に教えてくれる訳じゃない。何人か候補を見繕って2人で会いに行く感じだね。」
「そっちの方が難しそうだね。どんな人を探しているの?」
「前提として①奴隷制度に反対なこと②年齢は15~20代③健康であることの3つを満たすことが条件かな。後は会いながら調整していくしかないね。」
「そっか、凄く地道なのね。」
「そうだよ。『アーサーは1日にしてならず』ってね。今の王国だって小さな村からスタートしている訳だから焦らずやるしかないね。」
「分かったわ。で、王太子の方はいつ頃行けばいい?」
「そっちは急がなくていいから、良さそうな候補が見つかった時点で動こう。なので、それまでは旅をしながら候補者に会ってもらって、その間に物資を蓄える感じかな。王国を打倒しようというんだから相当な軍資金が必要になるからね。」
「そういうものなの?」
「そういうもの。これと決めた人にはリーダーになって集団を形成・率いてもらわなくちゃいけないからね。その人たちを食べさせるだけの食糧や、当然抵抗する王国との戦いも発生するから武器防具なんかも含めて用意すべきものは沢山あるよ。」
「なんか気が遠くなっちゃうわね。もっと簡単に考えていたわ。」
「大丈夫大丈夫、戦いと言ってもミコトの武力は相当頼りになるし、治療もできるなら薬なんかは当面必要ない。じっくりゆっくり自由な旅を楽しみながらやればいいよ。」
「そうね。旅は私も好きだし、お金なら無限収納で物を運んだり狩りをすればかなり稼げるから大丈夫でしょ。」
「よし、そうと決まれば善は急げだ。最初の候補者に会いに行こう。」
「ええ、どんな人か楽しみだわ。」
「近いところから行くから、まずは港町ポートガスだね。そこに1人候補がいるよ。」
「ポートガスかぁ。ちょっと有名になっちゃったからマズくない?」
「だから早く行くのさ。幸い王都からミコトを指名手配する連絡はまだポートガスに届いていないからね。」
「そっか、じゃあとっとと行きましょう。」
「あ~でも、ちょっとゆっくり飛んでもらえると嬉しいかな・・・」
「何言ってるの!さ、さっさと片付けて行くわよ!ついでに沢山塩とか魚とか買い付けなくちゃ!」
「はぁ、やる気だしてくれたのは有難いけど、あれは怖いんだよなぁ・・・」
何やらオムがブツブツ言っているけど、気にしない気にしない。
新たな出会いとか仲間を作って国を造るとか、元奴隷の私なんかには想像もつかなかった大きな目標が出来て自分で分かる位興奮してる。
私は逸る気持ちそのままに、後片付けを終えて荷物を全部巾着袋に収納してから、オムを抱えて全速力でポートガスの町を目指して海の上を飛んで行った。
また間が空いてしまって済みません。
新たにブックマーク登録して頂いた方、ありがとうございます。
引き続き応援宜しくお願い申し上げます。