第59話 再びポートガスの町
オムを抱えて海上をすっ飛ばし、船で7日間かかるところを半日でポートガスの町に到着。
ぐったりしたオムを回復させて行動開始だ。
生命の玉がもったいなから、早く慣れて欲しい。
私たちは一旦別行動をとることにした。
私は買えるだけの塩や魚などのポートガスの町の特産品を買い漁る役目。
オムは一旦候補者に近づいて人となりを見極める方法を考える役目。
チルチルには上空から私たちの居所を教え合う連絡係を担ってもらった。
私の買い出しは順調で、魚醬や塩、干物や生魚、貝類などを買い漁った。
資金は高額な依頼料があったので全く問題ない。
港町では安価なこういったものも別の町でなら高価に売れるに違いない。
お店の品を買い占める勢いで買って収納を繰り返したところで、チルチルに案内してもらってオムと合流することにした。
「こっちは買い出し終わったわよ。そっちはどう?」
「ああ、こっちは近所への聞き込みをし終わったところだ。」
「聞き込み?直接話したんじゃないの?」
「もちろんそれはこの後する予定だよ。でも、人間を評価する上では他人の評価って結構大事なんだよね。立場によってものの見方も変わるから特にさ。」
「ふ~ん。それで、どうだったの?」
「悪くないね。候補者は奴隷人足の取りまとめ役の男でゴンゾ。自身も奴隷だけどきっちりと船主達と交渉して奴隷達が過労で倒れたりしないようにしたり、年老いた奴隷でも生活できるように色々と走り回っていて、周囲からの信頼は相当厚いね。」
「良さそうじゃない。それで、これからどうするの?」
「本当は一緒に生活をしながら信頼関係を作って見極めたいところだけど、残念ながら遠からず指名手配のお達しが届きそうなこの状態ではそんな悠長な時間はない。」
私が頷くと、ニヤリと笑ったオムは楽しそうに作戦を告げた。
「はぁあ!?」
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日も落ち始めて皆が帰途に着く中、ゴンゾは依頼主から今日の仕事の状況の聞き取りや明日の確認などを終えて人より遅く帰路を急いでいた。
まとめ役と言えども奴隷は奴隷、帰りに一杯引っ掛けて帰る余裕などない。
数少ない違いとしては、『町の人』と折衝する機会が多いので見た目に見苦しくない服を用意されたり、風呂に入って清潔にすることができたり、そして何よりも嬉しいのが“家族を持つ”特権を与えられていることだ。
ゴンゾは今28歳、妻と子供が3人いる。
食事は皆一緒だけど、個室に家族5人で寝起きすることができることが何よりも幸せだ。
ポートガスの町では奴隷の仕事の大半は男の場合は船の漕ぎ手である。
これは尋常ならざる力が必要なので、どうしても男じゃないと務まらない。
女と力の衰えた男の仕事は水揚げされた魚の加工などがあるが、若い娘の主な仕事は歓楽街での海の男を慰めることである。
ゴンゾはこれが非常に許せなかった。
自分の意志で仕事として選ぶ分には対価が貰えるので問題ないのだが、奴隷の場合は娼館が金をとっても奴隷利用料は領主に入り、彼女たちは特に対価を貰えない。
たまに良い客が付けばチップを貰えることもあるが、逆に酷い扱いを受けることもある。
全く持って割に合わない。
そんな中で少しでも奴隷の待遇の改善を進めてきたゴンゾは、その働きが認められて所帯を持つことを許されて妻と自分の娘の仕事の割り振りも選べるようになった。
本当は全員を守りたいのだが、所詮は奴隷の身で出来ることは限られている。
自分の手の届く範囲だけでも守れていることにゴンゾはささやかな幸せを日々感じていたのだ。
そんな家族の元へと急ぎ帰るゴンゾの反対側から40絡みの痩せた男と10歳から12歳位と思われる美しい少女が並んで歩いてきた。
少女の美しさに思わず目が向いた瞬間、少女が何かに躓いたのか転んでしまい、手に抱えていた瓶が落ちて割れてしまった。
瓶からは強い酒精の匂いが漂い、中身は酒だと分かる。
少女に怪我がないかと声を掛けようとしたところ、鈍い音と共に少女が横に転がった。
男が少女を殴り飛ばし、倒れた少女をさらに踏みつけながら罵る。
「てめえ!何してくれてんだよ!この酒がどんだけすると思ってんだ?お前自身よりもはるかに高いんだぞ!あ、どうしてくれんだよ!」
「済みません、済みません。お腹が空いて、お酒が重くてフラフラしてしまって・・・」
「ああ!?まるで俺が飯を食わせてねぇみたいなことを言うんじゃねぇよ!」
「済みません。済みません。」
明らかに奴隷とはいえ少女に対するその男の振る舞いにゴンゾは相手が町の人だということも忘れて無言で近付くと、問答無用で男を殴り飛ばした。
「お前!こんな小さな女の子を殴る蹴るするなんて恥を知れ!」
「ああ!てめえやってくれやがったな!俺様の奴隷に俺が何をしようと勝手だろうが?ん?お前、その恰好は奴隷のまとめ役ってことはお前も奴隷か?俺らに手を出してタダで済むと思うなよ。」
「奴隷だから何だっていうんだ!お前らと同じ人間じゃないか!?どうして同じ人間のお前らが俺らを勝手にして良いってんだよ?」
「いいのか?お前の顔は覚えたぞ。兵士に報告すればお前らは連帯責任で相当重い罰を与えられるぜ。」
「ぐ・・・(しまった・・・ついカッとなって・・・・・)」
ゴンゾは連帯責任という言葉に一気に頭が冷えた。
愛する家族に真っ先に累が及ぶ・・・どうにか打開できないかと必死で頭を働かせて悩み始めた。
「おじさん、大丈夫よ。誰も見てないから、この男の口さえ封じちゃえば・・・」
そこへ、少女から囁かれた提案はとても魅力的に聞こえた。
これまでの鬱憤も晴らせるし、海に死体を流してしまえば証拠もなくなる。
瞬間的に決意を固めたゴンゾは拳を固めて嫌らしく笑う男に近付いて行った。
すると、不思議なことに先ほど自らを唆した少女が間に立ちはだかるじゃないか。
そして、満面の笑顔で語りかけた。
「合格よ。騙すような真似をしてごめんなさい。」
ゴンゾは、何が何やら分からず混乱するのみだった。
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