第43話 赤竜島の探索①
赤竜島に上陸してレッドドラゴンの棲む山をめがけて草原を突っ切って行こうこうとするが、何しろ草が多い。
人が住まない未開の島なので道もなく、騎乗した兵士と私は問題ないけど、徒歩の人達は足元がとにかく悪いので大変そうだ。
兵士達が斥候を兼ねて交代で先行しては戻ってきて報告する、という流れを繰り返しているが、今のところ危険はない。
もちろん、あちこちに動物はいるが、見慣れない人間の団体を警戒しているのか特に襲ってくることは取り敢えずない。
食糧確保の観点から、むしろ私が大きな角のあるバッファローを弓で狩った以外には特に変わりなく、ただ淡々と進んでいった。
「なんか、こうも何もないと拍子抜けしちゃうわね。」
「何言ってるんだ、何事もないのが一番じゃないか。」
「それもそうね。」
思わず退屈していたのが独り言になって口に出てしまったみたいで、隣を進む兵士に怒られてしまった。
サラヘの町を出て以来、盗賊やら護衛中の魔物との戦闘やらでトラブル続きだった上に、ドラゴンの棲まう未踏の島の調査という、いかにも何かありそうな仕事に無意識に色々イベント的なものを期待してしまっていたのだろう。
気を引き締めて森の淵まで進み、いよいよ樹々の生い茂る原生林を抜けて山登りとなるところで今日の探索は打ち切って野営となった。
久しぶりに揺れない地面で眠れたことと、新鮮なバッファローの肉をお腹一杯食べられたことで鋭気を養えた。
一番大変だったのは朝一番で野営の痕跡を消す作業だったけどね。
会う前から王子に対する印象はかなり悪くなったのは私のせいではないと思う。
翌日からはいよいよ見通しの悪い森の中を抜けての探索だ。
私はこっそりチルチルに斥候をお願いして念話でマメにやり取りしながら脅威となる動物か魔物がいないかを探してもらっていた。
皆も口数が少ない。
昨日までの行程とは打って変わり、見通しが悪いだけでも皆消耗が激しい気がする。
こまめに休憩を取りつつ、ドラゴンの棲み処を見つけるために進んでいく。
ここまでは特に危険とは遭遇しなかった。
森に入っても未知ゆえの恐怖はあるものの、実際に脅威に晒されたわけじゃない。
鳥や虫はいるものの、大きな動物すら見かけなかった。(実際にはチルチルによると、ポツポツとはいるようだが、幸い距離が離れているので問題なかっただけだったのだが。)
ただ蒸し暑さが体から水分と体力と気力を削いでいった。
休憩の時に体力回復をしようかと進言したのだが、それでは体感としてどの程度の難易度なのかを調査できなくなるといって固辞された。
次に問題になったのが水分の確保だ。
はっきり言って赤竜島は暑い。
その上森の中は湿気も多く、大量に汗をかくので直ぐに脱水になりかねない。
しかし、各自が用意した水筒の中身は私のと違ってほぼ無制限に入っているわけではなく、通常の状態で1日分か節約して2日分だ。
もちろん、樽に水を入れたものをブルブルを始め馬には持たせているが、馬の飲む量も半端ではない。
その水がこの大量の発汗を補うために、すでに底を尽きかけている。
「まずいな。ここまで過酷な環境だとは思わなかった。」
「いったん休憩して水分補給できそうな果実や植物を採取する。馬にも草から水分を取ってもらうことにする。」
隊長の号令でいったん水分確保のために休憩となった。
幸いここは暑いからか木の実も多く実っているし、草も豊富だ。
空いた樽に大量の果物を入れて当座の水分を確保できた。
私も勿論採取に協力したし、実はチルチルにお願いして川の場所を教えてもらっている。
だけど、さらっと教えるのは不自然だし、さっきも出しゃばり過ぎると調査にならないと言われたばかりなので黙っておくことにした。
いざ、本当に命が危ないとかになったら教えるつもりだけど。
私が山暮らしをしていた時は川を中心にしていたから水で困ることはなかったけど、初めて行くところではこういう危険があるんだなと知ったのは勉強になった。
兵士はこういう状況に慣れているのか冷静に果物を集める指示を出してくれたのも今後の参考になりそうだ。
果汁の滴る甘い果物をたらふく食べて元気が出たところで再び進み始める。
もちろん、ブルブル達馬も美味しく食べてご機嫌だ。
そのまま森を突っ切ると、そこはこれまでとうって変わったゴツゴツとした岩場だった。
目の前には切り立った岩壁がほぼ直角に突き立っていて、山といえば山なんだろうけど、坂道を登っていくようなものではなかった。
皆で上を見上げて無言で佇んでいる。
「どうすんだよ?」
フリーランスの1人が呟いた。
ゴドリエル隊長はまだ固まったままだ。
「上りますか?」
身軽な私が声をかけてみた。
ぶっちゃけ瞬間移動を繰り返せばあっという間に着きそうだけど、使わなくても身体能力がかなり向上している上に身軽な私なら問題ないと思ったから。
「行けるのか?たまたまここが切り立っているだけで別のところからは登れるかも知れない。だからぐるりと壁沿いに回ってみようかと思ったんだが・・・」
「おいおい、冗談じゃねぇよ。そんなことしてたら船が帰っちまうぜ?もう3日もかかってるんだ、後4日で帰らないといけないの分かってるのかい?」
先ほどのフリーランスが文句を垂れる。
「お前こそ分かっているのか?これでのこのこと帰ったら竜の存在を確認できなかったとしてお前たちの依頼は不達成、成功報酬はもらえないんだぞ。ミコト嬢ちゃんと船員たちは別だけどな。」
「な、なんだと?」
「お前たちの契約は竜の実態調査だ。竜がいないと判断できるくらい調査しきったなら成功と言ってもいいが、最も疑いの濃い山頂部を見もしないで帰ったら依頼は不達成になっても文句は言えないだろう?」
「く・・・じゃあ何で船乗りと嬢ちゃんはいいんだよ?」
「それは彼らの依頼内容が航海の成功と傷病者の手当てだからだ。理解できたか?我々は何としても山頂を覗く必要があるんだよ。」
「ち、マジかよ。そんならさっき嬢ちゃんが登るって言ってくれてるんだから行ってもらおうぜ。なあ、ミコトちゃん、頼むよ。」
「ふむ・・・本当に良いのか?」
「ええ、私もドラゴン見てみたいですし、これくらいの岩山なら問題なく登れると思います。」
「分かった。本来我々かこいつらが行くべきところなのだが、とてもじゃないが登れる気がしない。恥を忍んでお願いする。」
そう言うとゴドリエル隊長は私に頭を深々と下げた。
次いで部下の兵士達も揃って頭を下げてくる。
フリーランス連中は頭をかきながら気まずそうにヘラヘラしてるのはどうなんだ?
なんかモゾモゾする一方で胸のあたりが暖かくなってきたのを感じて、荷物を全部容積拡張済みの巾着袋に仕舞って、ひょいひょいと岩壁を登り始めた。
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