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第41話 赤竜島に行く前に

 成り行きで乗せてもらった漁船の漁はまさしく大漁だった。


 たくさんのマグロにアジ・サバ等の魚が船が沈むんじゃないかと思うくらい沢山獲れた。


 鮮度が命の魚だが、加工することでかなり保存させることもできるらしく、私も加工を手伝った。


 具体的には捌いて内臓を取ってひらいて干したり、塩漬けにしたりする辺りは肉と大差ない。


 冷やすともう少しもちがいいらしいが、こんな大量の魚を冷やすのは難しいだろう。


 私は時空干渉で作った時間停止機能付きの収納があるので腐らせる心配はない。


 なので、船長と交渉して釣ったばかりのマグロやアジ・サバ・タイ等の刺身にしても美味しくて料理しても美味しい魚を買えるだけ買って収納しておいた。


 大量の魚が吸い込まれるように小さな袋に消えていくのを見た船員たちは驚いていた。


 やっぱりこの袋を沢山作ったら欲しがる人は凄く多そうだ。


 海でしか食べられない新鮮な魚を沢山仕入れた私は港に帰り着くと、船長と船員の皆さんにお礼を言ってブルブルと共に船を降りた。


 『ミコト様、私もう船は嫌です!』


 ブルブルにとって船酔いは最悪の体験だったらしく、後生だからもう船は嫌だと泣きついてきた。


 『ブルブル、そうはいかないわよ。もう暫くしたら事前調査の航海があるし、島に着いた時にブルブルがいなかったら私困るわ。』


 『で、ですが・・・』


 『もういいんじゃないですか?こんな役立たず置いて行きましょうよ。私はミコト様の行くところ全てにお供して危険からお守りする覚悟はできてますからね。』


 『ぐ・・・チルチルめ・・・・』


 『私はミコト様に命を助けて頂いたのみならず新たな力まで授けて頂いた身、ミコト様のためになるならこの身などいつでも捧げます。』


 『それは私だって・・・』


 『だって船が嫌だから留守番するって言うんでしょ~?留守番するなら厩代もかかるし、何かミコト様の役に立てることってあるのかしら~?』


 『もちろん私だってお供させてもらうつもりさ!私がいなければ誰がミコト様を乗せるというのだ。そんじゃそこらの馬に代わってやるつもりはない!』


 『(単純な子・・・・)』


 『ありがとう。ブルブル!苦手な船でも私のためについてきてくれるなんて、最高の友達だわ!』


 『私の脚があればドラゴンのブレスからでも逃げ切ってみせましょう。』


 『ふふ、頼もしいわ。よろしくね。』


 私はブルブルの首をポンポンと叩く。


 3人の力が合わされば何でもできるような気がする。


 でも、相手はレッドドラゴン。


 伝説級の魔物だ。


 油断する訳にはいかない。


 王子殿下との本番前の調査航行に向けて、特訓をしておくことにした。


 具体的にはブルブルとチルチルの3人で野宿をしながらの魔物狩りだ。


 特に私は新しいスキルである瞬間移動や結界等の補助的なものを使いこなせるようにしなくてはならない。


 何しろ今回も護衛任務の要素が大きいからだ。


 自分単独で戦う分には問題は何もない。


 相手の背後を瞬間移動でとってから一気に攻撃しても良し、結界で相手を閉じ込めてしまっても良し。


 ダメージは受けた端から生命の玉で回復ができるし、『生殺与奪』で回復させても良い。


 しかし、人を護りながらとなると結構難しい。


 最初から結界内に閉じ込めてしまうということもできるが、それだと一定時間を過ぎると息が苦しくなるという危険もある。


 しかも、中からも相手に攻撃できないので、ドラゴンを討伐するということもできない。


 まあ、討伐が成功しなくても王子が死ななければ私としては問題ないんだけど。


 そんな訳で町で改めて食料や格安の塩、魚醤を大量に購入して保存した私達は町からも鉱山からも街道からも離れた荒野を特訓の場に決めて、集合時間まで泊まりこみでみっちりと修行した。


 残念ながらそう都合よく魔物には出会えなかったので、新しいスキルは手に入っていないけどスキルの使いこなしに関しては相当熟練してきたと思う。


 そして約束の日の朝、余裕をもってポートガスの町に戻った私達が体を洗ったり洗濯をしたりして身綺麗にした後、紹介所を訪れると、珍しく所長が飲み食い待機スペースに出てきていた。


 「おはようございます。赤竜島への事前探索航行に向けて来ました。」


 「うむ、おはようミコト。ずっと町で見かけなかったから来ないかと思って心配したぞ。」


 「ご心配なく、約束は約束ですから。ちょっと町の外で訓練してたんです。」


 「ほっ!それは見上げた心掛けじゃな。頼もしい限りじゃ。皆、紹介するぞ、希少な回復スキルの使い手のミコトだ。子供だが腕は確かだ。エランの町の所長のお墨付きだから、安心して怪我をしていいぞ!ガハハハッ!」


 所長の紹介に場がどよめく。


 好奇の目、嘲るような目、驚きの目、色々な視線が私達に浴びせかけられるが、気にしても仕方がない。


 「皆さんよろしくお願いします。さ、早く行きましょ。ブルブルも早く行きたがってるわよね~」


 『も、もちろんです・・・』


 「よし、じゃあ早速港に行くぞ。船乗りたちが首を長くして待っているじゃろう。」


 こうして私を含めた調査隊のメンバーは港へと向かった。


 船着き場につくと、我々を乗せる船の上から船員さんが大声で乗船を促してきた。


 早速ぞろぞろと船に乗り込む。


 船員さん達は出港準備で忙しそうに走り回ってる。


 あっちこっちにロープがあって何がどうなっているのか良く分からないけど、流石船乗りさん達の動きは機敏で迷いがない。


 所長が船長に我々を紹介し、別途既にやってきていた兵士達も集まっている。


 「よ~し!野郎ども、全員集合だ!」


 船長の大声は大きな船の上で波音にも負けずに良く通る。


 準備をしていた船員たちも瞬間的にやってきて甲板の上に整列する。


 「よし!全員揃ったところで出航前の確認を行う!俺がこの船、マーメイド号の船長のドンだ!」


 うん、日に焼けた肌に鍛えられた筋肉、白髪に白髭だけどそこら辺の兵士よりよっぽど強そうな覇気、海の男って感じがあって頼もしい。


 「海の上では俺の命令は絶対だ。兵士だろうとフリーランスだろうとな。陸に上がったら俺らは干渉しない、ドラゴンでも妖精でも好きなだけ追いかけて調査するといい。分かったら出航だ!野郎ども、帆を上げろ~!」


 「おお~!!」


 威勢のいい掛け声と共に海の男達が駆けずり回る。


 私はブルブルを他の馬と一緒に船倉の一角に設けられた専用スペースに連れて行き、再び甲板に戻って2度目となる出航を楽しんでいた。


 なんでだろう、私は守護の役目だったり漁師だったり、そういう自然を相手に生きる強い男が好きなのかな。


 人間の決めたルールなんて全く考慮せずに絶対的な力をもつ海や山、そしてそこに棲む魔物や動物達を相手にしていると凄くスッキリした気持ちになる。


 だからその中で生きている逞しい大人を見ると、頼もしいなと思う。


 ロッソ先生の陰を追っているのかも知れないな。


 2度目ということで少し余裕ができたのか、前回はただひたすらに感動していたけど、今は少しだけ感傷的な気分だ。


 幸いにして船員さんは皆忙しそうだし、兵士は兵士で固まって静かにしているし、フリーランスの男達も出航にはしゃいだり怯えたりで忙しそうで私に誰も話しかけてこない。


 お陰で静かにロッソ先生の想い出に浸ることができた。

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