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第40話 初船出と生魚デビュー

ブックマーク・ご評価・ご感想を頂いた皆様、本当にありがとうございます。


頑張る気力が湧いてきます。

 「お~し!野郎ども!今日は特別な客人として可憐なお嬢ちゃんを乗船させる!今度来る王子殿下の成人の儀に同行する回復役のミコト嬢だ!何かあったら首が飛ぶと思え!」


 「おお!」


 「おい、すっげぇ可愛いじゃないか。」


 「まだ子供じゃないのか?」


 「回復役だって?怪我しても安心だな。」


 船員たちがボソボソと囁き合っている。


 「私からも挨拶させて下さい。回復スキルの使い手のミコトです。山育ちなので海も船も初めてです。ご指導よろしくお願いします。」


 「おぉ~!!」


 いかついオジサンたちの雄叫びは人数が集まると迫力があるわね。


 船は大きく、帆という布を柱に張って風を受けて進むのだそうだ。


 凪と言う風がない状態になったら船の最下部にある漕ぎ部屋からオールを出して漕いで進むこともできるという構造なんだそうな。


 ちなみに、漕ぐのはやっぱり奴隷達の仕事なんだとか。


 今回は3日間ほど近海を回って多くの大型魚を獲りに行くのだそうだ。


 それ以上長い航海もあるにはあるが、あまり遠洋に出ると海にも魔物が出るらしく危険な上に船に積める獲物の数にも限りがあるので、結局効率を考えると3日ほどの航海が丁度いいらしい。


 それを考えると今度の7日間の赤竜島への航海は通常の倍以上、相当危険だと思った方がいいだろう。


 もっとも、危険な分海の魔物を仕留めると大変に高額な買取をしてもらえるらしく、一攫千金を求める若者はそれなりにはいるそうだ。


 その多くは帰らぬ人となるらしい。


 それでも航海に出る人は後を絶たないので、船を造るための木材の確保が非常に喫緊の課題らしい。


 今度山で木を切って持ってくればお金になりそうね。


 さて、いよいよ出航だ。


 私はせっかくなので、という船長の有難い申し出でブルブルを船倉に連れて行ったあとで船首近くで船が動くのを体感している。


 不規則に揺れる船の上は非常に戸惑ったけど、身体能力が異常に向上してる私としてはバランスを崩すことなく一番の恐怖だった船酔いも今のところはない。


 それよりも潮風を受けて水を切って進む船のスピードに感動しきりだった。


 こんなに大きなものが沢山の人を乗せて水に浮かんで進むなんて、それだけで凄い。


 半日ほど進むと、一度錨を下ろして停まって漁が始まった。


 私の体よりも大きな黒光りする魚を船の上から銛で衝いて魚を引き上げる男達の腕は筋肉が盛り上がってカッコイイ。


 あっという間に数十匹の大きな魚を採ったところで本日の漁は終了。


 明日に備えて食事の準備をしながら次のポイントに移動したところで就寝になる予定だそうだ。


 ちなみに、ブルブルは文字通り船酔いで酷いことになっていたので、何度も生命の玉で快復させつつ強化するのを繰り返したところでようやく慣れたようだ。


 今夜の食事はもちろん、先ほど獲った巨大な魚。


 名前をマグロと言うらしく、大変美味しいお魚だそうだ。


 私ももちろん手伝うのだが、調理法なんかも分からないので、食堂の掃除や配膳・皿洗いが担当だ。


 今日のメニューはお刺身と兜焼き、中落ちで作ったタルタルと見事なまでの魚尽くし。


 生の魚なんてまだ食べたことないからドキドキしたけど、調理担当のおじさんの勧めで魚醤という調味料につけて食べると美味しいと言うので、思い切って食べたら驚くほど美味しかった。


 脂ののった切り身が口の中で溶けていくような感触。


 脂の甘みが口いっぱい広がって幾らでも食べられる。


 「おいおい嬢ちゃんが全部食べちまったらあいつらが飯抜きになっちまうぞ?」


 「あ、ご、ごめんなさい。あんまり美味しくてつい・・・」


 「旨いだろう?一杯獲ってあるから心配すんな。こいつ一匹で俺ら船員50人分位軽く賄えるからな。」


 「50人ってことは奴隷も入れて全員ですよね?奴隷も同じものを食べるんですか?」


 「当たり前だ。奴隷と言えども一度船の上では生死を共にする仲間。役割は違えどもちゃんと仲間として扱うのは当然だ。」


 「こんなに美味しいものを食べられる奴隷もいるのね。」


 「ん?するってぇと他の町じゃ結構違うのか?」


 「ええ、私が知っている他の町での奴隷は『町の人』よりも遥かに貧しいものしか食べられませんでした。」


 「ん~まあ、他はどうか知らんけど、食べ物の恨みは怖いからな。昔は奴隷をちゃんと扱わずに漁をしていたら、怒った奴隷が船で反乱を起こして大変なことになった船があったそうだ。何とか鎮圧はしたけど、漕ぎ手を初め労働力を失った船はそのまま難破して、流れ着いた生存者は1人だけだったとか。」


 「確かに、船の上だと数の上でも奴隷の方が多いですもんね。」


 「そういうことだ。もちろん、船を乗っ取ったところで奴隷達が自由を手に入れられるってほど簡単じゃないけど、俺らは全滅だろうからな。そうならないように同じように扱うくらいなら安いもんだ。」


 なんか当たり前のように衝撃的なことを言われた。


 この船では奴隷は対等な仲間として扱われているということだ。


 限られた空間で助け合っていかないと結局共倒れになるということを学んだ結果だとは言っていたけど、なんか凄い可能性を示された気がする。


 元々罪を償うために奴隷をしているはずなのに、『町の人』に反乱を起こした結果残りの奴隷達の待遇が改善しているというのは、やはりそもそも罪を償うというのが嘘だということにならないだろうか。


 やはり力を示すことこそ大事なんじゃないか?


 この話を聞いたらサラヘの奴隷仲間たちはどうするんだろう?


 船を大陸に置き換えてこの話を考えたらどうなるんだろう?


 立ち上がって自分たちがいないと困るということを『町の人』に示すことができるのだろうか?


 そんなことをいきなり考えさせられる初日だった。


 もちろん、町に帰ったら絶対この魚醤と魚を何匹か買い取らせてもらおうと心に誓った。

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