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第38話 ポートガスの町

 早速町に入ろうとしたが、門番に呼び止められたので身分証と依頼書を見せて通してもらった。


 どうやら王子様が来るのに備えて町の治安維持含めてピリピリしているみたいだ。


 それでなくても女の子の一人旅なんて初めて見たということで門番の兵士も興味津々という感じだった。


 でも、私が王子の護衛兼回復役だと聞いたら最敬礼で通してくれた。


 紹介所の場所を教えてもらったので、取り敢えず行ってみることにする。


 町の中はサラヘともエランとも全く違った。


 何しろ匂いが違うのだ。


 海の強烈な匂いが全体に漂っている。


 あっちこっちで焼いた魚が売られているので、その匂いに釣られてついつい店先に目が行ってしまう。


 「さあさあ、お嬢さん。ここらじゃ見ない顔だね。よその町から来たばかりかな?ここの焼き魚はポートガス一番の旨さだよ。旅で腹が減ってるだろうから食べてごらん。」


 串に刺さって炭火で焙られている魚からは時折脂が落ちて『ジュッ』という音と共に得も言われぬ香りが立つ。


 「おじちゃん、この大きいの1本ちょうだい!」


 「あいよ、お嬢ちゃんいい目をしてるね。飛び切り旨い奴だよ。銀貨1枚な。」


 代金を払って串を受け取って齧り付く。


 パリパリに焼けた皮に歯を立てると口中に塩と魚の香りが広がって物凄く美味しい。


 塩味が濃いし肉と違って魚は身が柔らかい。


 それでいて噛むと脂が染み出してきて舌を蕩けさせる。


 あっという間に骨を残して身をしゃぶりつくしてしまった。


 「凄く美味しい!」


 「いや~お嬢さんいい食べっぷりだね。だから言ったろう、ここはポートガス一番の焼き魚屋だからね。」


 喉が渇いたので水筒から水を飲むと、ようやく一息ついた。


 「うん、本当に美味しかった。何ていうお魚なの?」


 「ああ、これはアジって言って焼いても刺身でも干物にしても美味しい魚だよ。」


 「アジって言うのね。覚えたわ。また食べに来るわ。他にも色々教えてね。」


 「おう、任せときな。毎度あり!」


 威勢のいいおじちゃんに見送られて再び紹介所に向かう。


 扉を開けると、カランカランとエランの紹介所と同じような音が鳴る。


 中の様子も代わり映えしない。


 待機所と言うか溜まり場のようなテーブルと椅子が多く置いてあるスペースに『素材買い取り』・『依頼受付』・『新規登録受付』といったカウンターが並んでいる。


 私が中に入ると、ガラの悪い屈強な体格をした男達が驚いた眼を向けてきた。

 

 私みたいに小さい女の子は見渡してもいないし、そもそも女性が少ないので物珍しいのだろう。


 気にしないでさっさと受付カウンターに向かい、身分証と依頼書と紹介状を渡す。


 「はい、依頼の受付ですね。ってこれは・・・拝見します・・・・こちらにお越し頂いても宜しいでしょうか?」


 受付のお姉さんが紹介状に目を通すと、驚きの表情を浮かべて奥へと誘ってくる。


 この展開も以前あったなぁと懐かしく思いながらおとなしく従う。


 目立つ以外に別に何のデメリットもないしね。


 広間の方からざわざわとどよめきが聞こえたけど、皆仕事しないで余裕なんだなぁ。


 「こちらで少々お待ち下さい。今上のものを呼んで参りますので。」


 居心地の良いソファーにテーブルが揃った応接室に通されると、妙に畏まった受付のお姉さんは書類を持って去って行った。


 それにしても、表のカウンターと偉い違いだなぁ。


 ガチガチの身分制度と言い、何でこんなに差を付けるのに拘るんだろう?


 なんてことをボーっと考えていたら、ドスドスという足音が聞こえたと思うと、荒々しいノックの後にいかつい男が入ってきた。


 背も高く、体中に筋肉という鎧を纏い、長髪の白髪を後ろで1つに結び、同じく白い髭は顔の下半分を覆って胸まで垂れている。


 「待たせてすまんの。俺がこのポートガスにおけるフリーランス紹介所の所長をしているエースだ。」


 「ミコトです。突然の訪問なのに所長に出てきて頂けるなんて嬉しいです。よろしくお願いします。」


 「フォフォフォ、こちらから頼んで来てもらったのだから当然じゃ。しかし、集合まではまだ2カ月以上あるし、そもそもエランの町からここまでの距離を考えて異常に早いのう。」


 「優秀な馬のお陰ですね。ブルブルは私の仲間で、友達なんです。」


 「ほ~その年でもう自分の馬を持っているだけでも驚きじゃな。しかし、何より驚きなのはそのスキルか。優秀な回復スキルの持ち主だと聞いているよ。」


 「ええ、他を知らないから比較はできないけど、自信はあるわ。」


 前回の依頼任務でのハンスおじちゃんの反応から、私の回復スキルがかなりのものだということは自信を持っていた。


 「それは頼もしい限りじゃ。それで、依頼開始までの2ヶ月ちょっとの間はどうするつもりじゃな?」


 「宿を決めたら、エランの町で買ってきた品々を売りたいのと、観光と買い物ですね。船で海にも出てみたいし。あ、もちろん良い仕事があればそれも受けるつもりです。」


 「それは有難い。それにしても、エランの町で色々買ってきたと言うが、どんなものを買ってきたんじゃ?」

  

 「ナイフや包丁なんかの刃物類とか消耗品の釘や鋸とかですかね。結構な量があります。」


 「それの買い取りだが、この紹介所を使ってくれんかな。もちろん、それぞれ個別に卸したりするのも良いとは思うが、本業を商人にするつもりがないなら下手に商人たちに警戒心を持たれない方がいいだろう?」


 「そうですね。これは『ついで』という感じなので一度に売れるなら私としても嬉しいからいいですよ。帰りに買い取りお願いします。」


 「ありがたい。これから王子殿下が来られる関係もあって船の整備や食料確保の漁は盛んでな。道具類は大いに越したことはないから今は売り時なもんでな。ここへ出してくれたら直ぐに買い取るぞ。」


 私が肩下げにしたサドルバッグの中に僅かな量があると思っているのだろうけど、無限収納なのでこの部屋に入りきらない位あるんだよなぁ。


 「えっと、ここでは入りきらない量なので後で広い場所で買い取りをお願いします。」


 「ん?馬車にでも積んできたのか?まあいい、買取はついでじゃからな。本題としては2か月半後に予定されている王子殿下一行とのドラゴン討伐の下準備に協力してもらえないかという話じゃ。」


 「下準備?」


 「殿下はドラゴンを退治しに赤竜島へ行くのじゃが、ドラゴンの棲まう島になど誰も行きたくはないじゃろう?なのでこれまで行ったことのある船乗りなんぞいない訳じゃ。なので多額の報酬と引き換えにようやく赤竜島に行ってくれる船乗りを見つけたので一度本番前に往復することになった。

  現地での船乗りの護衛と調査用にフリーランスも雇い入れておる。」


 「なるほど、王子殿下は皆が地均しした後で悠々とそこを通り、ドラゴンに止めをさして悦に入るという訳ですか。」


 「コラッ!そんな滅多なことを言うものではない。実際、これが為されたら王太子殿下以上の成人の儀の偉業になるのは間違いないのじゃからな。エランの町では幻と言われる竜の素材が手に入るかもと沸き立っているそうじゃないか。」


 「まあ、どの道海には行きたいと思っていたから丁度いいですけどね。いつ出発でどれ位の期間の予定ですか?」


 「出発予定は今から2週間後で、行きに7日間、調査に7日間、帰りに7日間の予定じゃ。」


 「分かりました。では2週間後にこちらに来ればいいですね?今回の依頼は別の依頼として報酬もちゃんと出るんですよね?」


 「ああ、王宮と違ってそんなに資金がないから金貨30枚しか出せないが、良いだろうか?」


 「いいですよ。私の役目は船乗りたちの回復や治癒ですね。」


 「ああ、フリーランスの連中もなるだけ助けてやって欲しいが、最優先は船乗りだ。特に船長や航海士は代わりが効かないからな。」


 「分かりました。では、2週間後に。買い取り品を出す場所を教えて下さい。」


 「ああ、せっかくだから儂がこのまま案内しよう。」


 エース所長の後をついていくと、表ではなくさらに奥に進んで裏口から出たところにある大きな倉庫に案内された。


 中には解体場があったり、素材の保管庫があったりと人がせわしなく働いている。


 「じゃあ、この辺りに出してくれ。」


 「はい、じゃあちょっと下がってて下さいね。」


 「うん?」


 そうして私は肩下げにしたサドルバッグを床に置くと、両手を突っ込んで木箱をどんどん出して積み上げていった。


 この収納拡張は入り口に物を近付けると吸い込むように入るし、出てくるときも小さな口から大きな物が出てくるので見た目には非常に不思議なことになる。


 また、出したい物をイメージして手を入れると、その物がある場所に手が繋がるので、探す必要がない。


 ただ、中に何を入れたか覚えておかないといけないというのが玉に瑕だ。


 定期的に全部出して整理する必要があるかもしれない。


 金貨50枚分の金物は箱にして100箱、強化した体とはいえ100回動作を繰り返すのは骨が折れた。


 「はい、じゃあ買取お願いしますね。」


 「・・・・・・」


 「あれ?エース所長?」


 「・・・・・はっ!一体どんな手品を使ったんだ?」


 「えへへ、このバッグは中に沢山物が入るんですよ。」


 「えへへって、そんな軽く言うがこりゃ一大事だぞ?これを使えば物流に革命が起きる!そのバッグ他にはないのか?売ってはもらえないか?」


 「う~ん、これは1点ものなので他にはないと思います。なので売れません。」


 「どこでどうやって手に入れたんだ?」


 「それは秘密です。」


 「むぅ、それも当然か。自らの優位性を軽々しく放棄する訳もないな。すまんすまん、あんまり興奮して無理なことを聞いてしまった。しかし、これほどのものを持つとなると、お前が襲われかねないな。。。」


 「それならそれで、返り討ちにします。それにしても、私としてはとっても便利な旅の品なのですが、他の方にとっても相当魅力的なんですね。」


 「ああ、それもとてつもなくな。」


 考えてみれば当然だろう。


 ロドリゲスさんを始め旅商人は旅をする上で商品の他に大量の食料や水を運んでいる。


 川沿いに街道があるとはいえ、どうしても一定距離離れたりすることもあるので備蓄は必要だ。


 このバッグがあれば備蓄の問題もなくなるし、商品だって別に馬車に積んで運ばなくても普通に馬に持って貰える。


 それで最低限の護衛と一緒に走ればスピードと取引量が一気に上がるのでかなり効率は良くなるだろう。


 まあ、分かってはいたけど襲われるとなるとちょっと予想以上だ。


 「気を付けますけど、できれば秘密にしておいて下さいね。今度の依頼が受けられなくなっても困りますから。」


 「ああ、もちろんだ。おい!お前らも絶対口外するんじゃないぞ!さあ、さっさと木箱の中を改めて査定だ!」


  「へい!」


 金貨50枚分の物資が幾らで売れるのか、という期待と、容積拡張バッグの存在が巻き起こすかも知れない騒動への不安を抱えながら、宿を探すために私は紹介所を後にした。

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