第37話 出発、ポートガスの町へ
依頼を受けてから数日は準備に奔走した。
ご近所さんに暫く依頼で留守にすると伝えて金貨を10枚ほど預けて留守中の家の様子をたまに見てもらうようにお願いする。
盗まれて困るものはないが、たまに掃除とかしてもらえると嬉しい。
何しろいったいどれだけ帰れないか分からないのだから。
それからロドリゲスさんを見つけてポートガスの情報を少し聞くことが出来た。
名産の海産物や塩、真珠と呼ばれる海でしか取れない貴重な宝石等について教えてもらい、逆に向こうでは手に入りにくいエラル製の工業製品で人気があるものを教えてもらった。
人気があるのは包丁とナイフ等の刃物や船の工事に使うトンカチや釘らしいので、どっさりと仕入れて行くことにした。
ロドリゲスさん達隊商も利が大きいので食料に余裕があるときはたまに行ってはいるらしい。
ただ、どちらかと言うと塩専門の隊商がメインでポートガスの町を担当しているらしく、彼らから聞いた話だとエランの町の工業品は造船や整備に必須らしくていつでも品不足状態なんだとか。
そこで私もロドリゲスさんの真似をして金貨50枚分の釘や包丁を買い込んで旅商人を体験してみることにした。
旅をするのはもちろん私1人、旅の目的は指名依頼の現地への出張なので別に商隊みたいに護衛を雇うことは必須じゃない。
あくまでも売買は副業だからね。
そもそも、金貨50枚分ともなると物量は本来なら大型の馬車10台分くらいにはなるのだけど、サドルバッグ1つで済んでしまうのが私の強みだ。
ちなみに荷物は整理して私の巾着には食料やお金、武器、野営具等私が個人的に使うもの、サドルバッグには商品を始め当面使う必要はないけど念のためにとってあるものを入れることにした。
そう言えばロドリゲスさんにこの無限収納の袋を教えてあげたら一体幾らで買ってくれるんだろうか?
旅商人にとってはかなり魅力的だと思うんだよねぇ。
まあ、でもそういうことは依頼が無事に終わってからだよね。
私は行きつけの店や蛇の牙亭に暫く留守をすると伝えて、ブルブルに跨り、チルチルを肩に乗せてポートガスの町に向けて出発した。
新しく買った乗馬服は股のところが頑丈な皮で出来ていて、鞍と擦れても痛くない。
ブルブルも全力疾走できるのが嬉しいのか調子よく走っている。
チルチルも上空で異常がないか観察してもらいながら機嫌よく大空を飛んでいる。
私も久しぶりの旅だし、新しい町に行くのでウキウキする。
それになにより『海』を見ることが出来るのだ。
サラヘやエランにはもちろん川はあったし、小さいながらも湖や沼は見たことがある。
でも、海となると話は別だ。
聞いた話では果てが見えない程の水があって、しかもその水は塩味がするのだという。
そして、海の中には沢山の種類の生き物がいて、大変に美味しいという話だ。
もう楽しみでしょうがない。
エランの町でも海の魚を加工したものとかは売られているらしいけど、まだ見かけたことはない。
考えてみればエランの町も自分の家の近所位しか良く知らないな。
ついつい狩りで町の外に出ちゃうし、それ以外の日も近場で事足りてしまうから。
途中休憩と野宿を繰り返して、7日間ほど走り抜けたところで丘に差し掛かると、上空からチルチルの念話が届いた。
『ミコト様!海です!あれが海に間違いありません!それに町も、あれが船ですか・・・凄いです・・・』
『え、もう着いたの?』
『そのようです。』
『チルチルだけずるい!ブルブル、丘の上まで急いで!』
『はい、私も海を早く見たいです!』
猛ダッシュでブルブルが丘の上に立つと、想像を絶する景色が広がっていた。
見渡す限りの青い水・・・スケールが違い過ぎる。
街道沿いの川はそのまま海に流れ込んでいるが、あんなに沢山の水が流れ込んで海は溢れないんだろうか?
キラキラと日の光を受けて輝く水面が美しい。
よく見ると街道の先には町があった。
海に面して作られた町で、大小様々な船が近くに浮かんでいる。
『なにあれ、、、なにあれ何あれ何あれ~!』
こんな景色はサラヘの領主だって絶対見たことがないはずだ。
本当に抜け出して良かった。
というか町の人だって領主とか旅商人とか兵士以外は殆どその町で一生を終える訳だから、いかに自分が恵まれているのかを実感する。
『生殺与奪』に目覚めた幸運に感謝だ。
それにしてもブルブルの機動力とスタミナは本当に凄い。
ミアさんが1ヶ月かかると言っていた距離を7日間で駆け抜けたんだから。
しかも、容積拡張のテントのお陰で外で寝るのもご飯を食べるのも快適だし、今回の旅は言うことなしだ。
いくつか商隊を追い越したりすれ違ったりしたけど、特に盗賊に襲われているなんてことはなかった。
この前の一件はさすがに特殊過ぎたのかな。
新たな町ではどんな生活を送っているのか、海ってどんなものなのか。
王子様護衛の仕事はちょっと心配だけど、どうせ集合はまだまだ先だし、一旦忘れておこう。
私たちは心を弾ませながらポートガスの町めがけて駆けていった。




