第36話 出張依頼
すっかり狩りを中心としたルーティーン生活に慣れた私は、家で食事を食べるときはより美味しいものを作るための工夫をしたりしていた。
中々これというものは難しいけど、調味料をふんだんに使えるので町の料理より味が濃いものが作れるのが嬉しい。
塩を始めとした調味料は他の町からの輸入に頼るのでどうしても値段が高く、みんな節約しているので味が薄くなりがちなのだ。
例外は職人用のご飯で、大量に汗をかく職人さんは塩をケチらない。
その分給金もいいし、彼らが作り出す製品が町の大きな収入源なので何かと優遇されているのだ。
今日は1日休みと決めて料理の研究に勤しんでいると、珍しく紹介所のミアさんが訪ねてきた。
広間でジュースを飲みながらお話を聞くことにする。
「突然済みません、実は指名依頼のお願いにやって参りました。」
「え!?誰か怪我か病気をしましたか?」
「いえ、幸いなことに今はそのようなことはありません。」
「では、一体何のご依頼でしょう?」
「実は、とある王族の護衛をお願いしたいのです。」
「護衛ですか?それも王族の?危険が迫っているってことでしょうか?」
「少し違いますね。王族の成人の儀式に『魔物狩り』と呼ばれるものがあります。」
「『魔物狩り』ですか?」
「はい、これは遠く建国の祖である初代アーサー王が集団を率いて魔物を倒し、領土を広げて国力を富ませたという歴史に由来するもので、王族の男子は15歳の成人を迎えた年に魔物を狩る必要があるのです。」
「でも、集団でってことは兵士とか色々連れて行くってことでしょ?なんで私が必要なのかしら?」
「そこも順を追ってご説明します。今回の儀式を行うのは第二王子のアラゴルン殿下です。アラゴルン殿下は武芸に通じ、活発で快活な方だそうです。王太子殿下は聡明で理性的な方なので対照的ですね。ただ、この国の王に求められるのは元々個人の武力よりも集団を率い、適材適所に役割を割り振って大いなる力を発揮させる『リーダーシップ』こそを重視します。その点で王太子殿下はその力を遺憾なく発揮されて大きなキマイラを3年前に狩りました。」
「キマイラって魔物はどんなの?」
「キマイラは獅子の頭にヤギの体、毒蛇の尾を持つモンスターです。強靭な体に強力な毒の尾や噛みつきの攻撃に加えて『火炎放射』で襲撃者を焼き払うのです。」
「凄い!そんな魔物見たことないな。どうやって倒したんだろう?」
「なんでも防火能力のあるサラマンダーの皮で作った防具を装備させた盾役を正面に立てて炎を防ぎながら襲撃ポイントまでおびき寄せ、巨大な落とし穴に落としたところで上から多くのアーチャーの一清掃射を昼夜を問わず繰り返して衰弱させたそうです。王都にはその剥製が飾られています。」
「へ~そういう戦い方もあるんだ。私はずっと1人だったから思いもつかないわね。盾役の人から犠牲者とか出なかったの?」
「残念ながら犠牲者ゼロとはいきませんでしたが、それでも相手を考えると相当に少なかったとのことです。一方でアラゴルン殿下は個人の武力を重視するという意味ではかなり王国でも珍しい方です。ですので、今回の魔物狩りでも身の回りの世話をする執事やメイド、荷運びをする奴隷達とその監督する最低限の兵士のみを連れて海の町ポートガスから船で赤竜島に渡ってレッドドラゴンを狩りに行くというお話のようです。」
「ドラゴン・・・話だけは昔聞いたことがあるわね。巨大な体で空を飛び、口から吐くブレスは山をも消し飛ばすとか・・・」
「ええ、我々も目撃情報が少ないので伝承でそのように聞いている程度ですが、恐ろしく強いことは間違いないでしょう。」
「そこに兵士もロクに連れずに単独で向かうってどれだけその王子強いのかしら?」
「それは正直分かりかねますが、万が一がないように高名な回復スキルの持ち主であるミコト様に護衛と治癒の依頼が王国から来たという訳です。」
「驚いたわね。所長の宣伝がうまく行ったってことかしら?」
「はい、ちょっとうまく行ったというか、予想をはるかに超える大きな依頼に驚きを禁じ得ないですが・・・」
「一つ聞きたいんだけど、そんな第二王子様は私の同行を許可するのかしら?」
「表向きは回復スキルの持ち主とだけ言っておりますので護衛は裏の任務ですので問題有りません。」
「なるほど。ちなみに報酬はどうれくらい?あと、港町までどうやって行けばいいのかしら?」
「報酬はアラゴルン殿下の生還が条件で成功報酬が金貨2,000枚です。長期出張が見込まれるので旅費等の準備金と合わせて着手金が金貨40枚になります。港町までは道案内に隊商を雇って頂くか、地図をお買い求めになって独力で行って頂くかになりますね。港町までは隊商の馬車でおおよそ1ヶ月ほどです。集合は3カ月後なので余裕をもって準備して頂けます。」
ミアというこの職員は私が聞いたことを何でもスラスラ答えてくれる。
余程優秀なんだろう。
「金貨2,000枚って凄い金額なのよね?」
「もちろんです。これを受けて成功して頂ければ我々もミコト様に投資した分を楽に回収できます。」
なるほど、断るなってことね。
もちろん、こちらとしても断る気はない。
大金が手に入るのもそうだし、うまく行けばドラゴンのスキルを回収できるかもしれない。
加えて王族に近付いて話をすることが出来れば奴隷制度についてどう思っているかとか、色々聞けるかもしれない。
「分かったわ。この依頼受けます。」
「ありがとうございます。それでは、これが依頼書と紹介状になります。ポートガスに着いたらこの依頼書と紹介状を持って先方の紹介所に行けば話は通じるはずです。それと、これが着手金の金貨40枚になります。」
「ありがとう。じゃあ頑張って来るからちゃんと報酬の金貨用意しておいてね。」
正直、金貨に関してはどうでも良いと言えばどうでも良いのだけど、持っておいて損はないかな。
生活は狩りの収入で間に合うどころか、この間の領主の息子さんを治した時にもらった金貨も手付かずで残ってるというか、むしろ増えているくらいだから。
「最後に、地図はどこで買えるの?」
「地図は紹介所で販売していますが、そう仰ると思ってお持ちしました。」
「随分と準備がいいのね。私よりミアさんが行った方が王子様の役に立つんじゃないかしら?」
「メイドとしてならそうでしょうが、私はミコト様のように治癒も戦闘もできませんので。」
「これも適材適所って訳ね。分かったわ、準備が出来次第出発するわ。」
金貨5枚で地図を買い、テーブルの上に広げると、初めて見る大陸の形や町の位置が記されている。
サラヘの町やエラルの町、来るのに結構かかった気がするけど思ったよりも近く見える。
ポートガスは港町ということで大陸の端っこにあった。
道も途中に3つ程町を挟んで一本道なので迷いようはないかなという感じだ。
大きな依頼にちょっと気持ちが高揚してくる。
「それでは、お気をつけて。朗報をお待ちしております。」
ミアさんはそう言って深く一礼して去って行った。
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