第35話 新生活、町に馴染む
家を手に入れた私は新たな生活をスタートさせた。
朝一番に紹介所に行って目ぼしい仕事があるかをチェックして、なければそのままブルブルに乗って町の外へ出かけて狩りをする。
草原ではチルチルが高いところから獲物を見つけてくれるので結構簡単に草食獣の群れを見つけてブルブルに乗って近付き、弓矢とスキルで交互に狩っていく。
特に活躍するスキルは時空干渉の1つである『断絶』だ。
首をスパッと切断できるので即死だし、血抜きがやり易い。
弓も大分筋力が強くなったので威力も上がり、馬上から狙うのも上達した。
トレーニングを兼ねて獲物を狩っては袋にしまい、ブルブルで追いついてまた狩るというのを繰り返して大型草食獣であるシマウマやバッファローを4~5匹狩ったら家に帰る。
その日は獲物を血抜きのために裏庭の木にぶら下げて休む。
次の日は裏庭で血抜きが終わった獲物の解体を行って、素材を売るものと自分が使うものに分ける。
肉や内臓は基本的に食べるので自分で保存するが、一部膀胱などは水筒を作るのに便利ということで人気があるので売ったり、蛇の牙亭に肉を卸したりもする。
ちなみに私用には自作して『容積拡張』をかけたものがあるので、ほぼ無限に近い水が入る水筒がある。
日々井戸水を汲み上げて消費した以上に入れているはずだけど、未だに満杯になる気配がない。
そして皮や骨などの素材に加えて卸す肉を以前貰った荷車に乗せて売りに行く。
ついでにご近所の食べ盛りの多い家にお裾分けとして持って行ったりもする。
鉱業の町なので食料の大半は近くにある食料生産の町からの輸入に頼っており、中でも肉はやはり高級品なので物凄く喜ばれる。
肉の代わりに留守中の留守番や掃除を買って出てくれたので、これが近所の助け合いかと繋がりを実感する。
ブルブルという移動手段と大容量でも持ち運びができる容積拡張をした収納、そして断絶のスキルが私を優秀な狩人にしてくれた。
まずは生ものなので肉を蛇の牙亭に持っていくと、いつも通りクレアさんが出迎えてくれる。
「ミコトちゃん、よく来てくれたね。今日もお肉を持って来てくれたのかい?」
「はい、今日はバッファローの肉を一頭分持ってきました。いつものようにお願いしていいですか?」
そうして大量の肉と一緒に大きな空の寸胴鍋を3つ渡した。
「ああ、任せとくれ。じゃあ夜にまた寄っとくれ。」
実は蛇の牙亭には肉を卸す際にお金の代わりに料理を肉の代金相当受け取ることになっている。
先程渡した鍋にシチューやスープ等を作って入れてもらい、加えてパンなんかも夜に受け取るのだ。
そうすることで私はいつでも作り立ての料理を食べられるようにストックしておけるし、肉料理が評判になって蛇の牙亭はお客さんを呼べるのでお互いに利のある物々交換ってわけだ。
次に紹介所に行って素材を買い取ってもらう。
魔物程ではないけど、やっぱり工業の町では毛皮や骨・爪・牙は色々なものに加工される貴重な材料なので常に需要があるようでしっかりと買い取ってもらえる。
そこで得た現金を元に追加の寸胴鍋を買ったり、自分で料理する時用の調味料やお酒なんかを仕入れながらお店を回る。
お店の人とも段々と顔馴染みにもなってきて、おまけを付けてくれるおじちゃんおばちゃんもいて、その後にはお裾分けでお肉を渡したりするとやっぱり喜ばれた。
着実に現金収入も得ながら食料や水、酒や調味料のストックを増やし、近所付き合いも肉を媒介にうまくいっていた。
お店回りを終えると蛇の牙亭で晩御飯をご馳走になって帰りに満杯になった寸胴鍋とパンを荷車に載せて家に帰る。
ここでたまにロジンパックの面々と会うことがあるが、依頼を一緒に受けることは中々なかった。
正直、フリーランスの細々した仕事を受けるよりも狩りで得た獲物を売ったり物々交換したりした方が遥かに効率が良いことが分かったからだ。
もちろん、私にしかできない治癒の仕事なんかは受けようと思うのだけど、普通の医者に対応しきれない程の病や怪我をする大金持ち何てそんなに頻繁に出る訳じゃないし、エラル所長が全大陸に宣伝してくれているようだけど、情報が伝わった上で依頼が来るのはまだまだ先だろう。
こうして、私は町の生活に馴染んでいった・・・・と思っていた。
しかし、後で分かったことだけど、実は私は相当浮いていたらしい。
大人以上に大量の大型の獲物をコンスタントに狩ってくる狩りの力量や持ち家で1人暮らしをする10歳の女の子。
更には引っ越し前に紹介所の所長から申し送りがあるような子が普通である訳はない。
引っ越しの顔合わせのパーティーの猪の丸焼きには度肝を抜かれたんだとか。
しかも高級品の酒まで樽で振舞うという豪気さ。
全てが規格外だったらしい。
幸いなことに気前よく狩りのお裾分けを定期的にしたりとかを繰り返していたお陰で警戒心も薄れて行ったのだ、と随分後になってから教えてもらったのだ。
それを聞いたときには驚いたけど、結果としては受け入れてもらった訳なので良しとしよう。
町になじむと同時に『町の人』の生活が思ったほど良いものばかりではないことも分かってきた。
奴隷を使っているのは実はほんの一部であり、後はそんな余裕もなく日々の暮らしに一杯一杯という家庭が殆どのようだ。
奴隷と違って7歳から労働力になるわけでもないので、子供が多い家などは益々大変だ。
奴隷と違って各家庭家庭で独立して子供を養わなければいけない分、苦労が多そうだ。
幸い私はスキルのお陰で不自由なく暮らしているけど、一部の『町の人』は最低限の衣食住が保証されている奴隷以下の生活を送っていることもありそうだ。
本当にこの国の王様は何をやっているんだろう?




