第33話 家をもらってしまった
翌日、午前中はチルチルとブルブルとだらだら雑談しながら過ごした後で約束の報酬を貰いに紹介所を訪れると、当たり前のように所長室に通された。
「昨日はご苦労だったな。金額が金額なので時間がかかったが、約束通り金貨100枚だ。確認してくれ。」
「1、2、・・・・・100。はい、確かに頂戴しました。」
「うむ。それとな、これは儂からの提案なんだがお前ここに家を持たないか?」
「家ですか?」
「そうだ。宿屋も悪くはないが、やはり自分の家を持つと落ち着くし、使用人や奴隷を使えば身の回りの世話から家の手入れまで全てやってもらえる。もちろん、世界中を旅するのも自由だし、その旅のきっかけになるように全ての町に対してミコトの存在をアピールする。そうすれば仕事ということで出張ができるようになるぞ。」
「なるほど、旅をするにしても目的がないのも確かになんですもんね。家を買ったらやっぱり人を雇わないと駄目なんですか?」
「旅をするとなると治安上色々問題だろうからな。それに金持ちはある程度雇用を生み出して市場に還元しないと世間から寒い目で見られることになるぞ。」
う~ん、正直言ってることが分かるような分からないような。
奴隷として搾取され続けていた印象しかない私にとって、微妙に腹落ちしない。
ロッソ先生に怒られたことはあるけど、エラル所長は信用できそうなのでちょっと聞いてみることにした。
「でも、奴隷達はひたすら搾取され続けているだけですよね?還元って言ってもそれは市民以上にってことですか?」
「ああ、その通りだ。奴隷は全て領主様の持ち物と言う扱いだからな。彼らも搾取されているというよりは正直な労働の成果を納めることで罪を濯いでいる訳だから、必ずしも搾取と言う言葉は適切ではないだろうがな。」
「・・・奴隷って領主様の『もの』なんですか?」
「ああ、どこの町でもそうだ。犯罪奴隷もそうだし、この町で奴隷を使って仕事をしているやつらは全て領主から買い上げたか借りている。領主の貴重な収入源という訳だ。」
なんてことだ。全然知らなかったけど私もユイちゃんもロッソ先生もサラヘの町の領主のものだったということか。
なんか聞くだけで胸がムカムカする。
「ちょっと話が逸れたな。まあ、人を雇う雇わないは後で考えればいいとして本格的にここに住むなら丁度いい空き家があるから、そこをお前にやろう。」
「え、ただで貰えるってことですか?」
「ああ、その通りだ。もちろん、我々にとって利があるからこそだがな。正直言うとお前ほどのスキルの持ち主のマネジメントは何としてもこの紹介所でやりたいからな。」
「分かりました。取り敢えず人を雇うというのはちょっと置いといてですけど、仕事を探してくれる上に家まで貰えるなら私としては断る理由がないですね。」
「ありがたい。この町のみならずあらゆるところから仕事が舞い込むのは間違いない。早速案内しよう。」
案内されたのは紹介所から然程遠くない大き目の大邸宅が並ぶ通り・・・を抜けた色々な小さな商店が立ち並ぶ一角にあるこじんまりとした平屋の一軒家だった。
門を開けると庭があり、ブルブルをそこに待たせて玄関を入ると広間になっていて、3か所のドアはそれぞれ食堂兼調理場と寝室と水場になっていた。
寝室にはベッドが4台もあり、家族連れが住んでいたことが伺える。
水場は井戸が部屋の中にあり、風呂と洗濯板とが出来るようになっている。
水場にはさらにドアが付いていて、開けてみると外に続いていた。
裏庭とでも呼ぶのか、そこには簡単な屋根と壁だけがある物置のような場所が2つあり、1つは用を足すための穴があることからトイレで、もう一つは物置にでも使うのだろう。
「こんな立派なお家を本当にただで貰えるんですか?」
「ああ、丁度ここの住人が借金で首が回らなくなって手放したばかりでな。今のご時世家を買おうって豪気な話も殆どないから引き受けたものの、使い道がなくて困っていたんだ。」
「紹介所って家の売り買いとかもするんですね。」
「ああ、仕事柄沢山の伝手ができるからな。色々と頼られることが多いんだ。」
「因みに、この家って売るとしたら幾らになるんですか?」
「本来ならそうだなぁ、庶民の家だから金貨50枚ってところかな。」
「それなら買いましょうか?」
「いや、これは紹介所としての投資だから気にしないでくれ。要らなくなったら返してもらえばそれでいい。」
「分かりました。せっかくなので頂いちゃいますね。まさか私が家に住むようになるなんて信じられないわ。」
「隣近所には挨拶をしておくといいぞ。招待して宴会とかすると喜ばれるな。留守も多いだろうし助け合いは重要だからな。」
「分かりました。何から何までありがとうございます。」
「これから色々頼むことになると思うから、そん時頑張ってくれな。」
そう言ってエラル所長は家の鍵を渡して去って行った。
さて、いきなりの家持ちになってしまったので、取り敢えず住めるようにしないといけない。
幸い家財道具はそのまま残っていたのでベッドもある。
掃除も予めしておいてくれたのか綺麗なものだ。
もっとも野宿とか集団生活が基本だった奴隷時代に比べれば大抵の状態は天国なんだけどね。
庭はそこそこ広いのでブルブルが草を食べるのに加えて畑でも作るか木を植えればその内果物が採れるかな。
食堂は竈がちゃんと2口ついているので鍋を2つ同時に使って料理ができる。
ただ、薪がなかったのでこれは用意する必要がある。
取り敢えず近所に挨拶に回り、3日後の夜に家で食事に招待する旨を伝えて回る。
幸い、エラル所長が事前に触れ回っていてくれたらしく、すんなりと受け入れられた。
後は食べ物と飲み物をしっかり用意しないといけない。
正直、こんなこと初めてなのでどうしたらいいか分からないけど、私が考える最高のご馳走を用意すればきっと喜んでくれるかな?
私は早速ブルブルに乗って町を出て、近くの山に向かった。
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