第29話 時空干渉の使い道
クロノタイガーを倒した後、現場を離れた私は何食わぬ顔をしてはぐれたハンスおじちゃんとで合流して、ブルブルと一緒に領主邸を後にした。
ハンスおじちゃんは引率の責任感から私のことを必死で探し回ってくれていたらしく、合流できた時は物凄く喜んでくれた。
「嬢ちゃんなら絶対大丈夫だと思ったけど、無事でよかった。さっさとこんな危ないところからはトンズラしようぜ。」
「ええ、早く安全なところに行きましょう。」
気付けばすっかり夜も更け、暗くなっていたが、夜目の効く私達には何でもなかったし、ハンスおじちゃんにとっても勝手知ったる町なのでそんなに苦も無く、『ドワーフの森』まで帰って来た。
「いや~まさか初めての闘技場であんなことになるとは嬢ちゃんもついてないね。でも、無事でよかった。」
「ううん、凄く勉強になったわ。ハンスおじちゃんありがとう。闘士にはなりたいとは思わなかったけど、他にも色々知れたしね。」
「ああ、あの状態じゃあ当分闘技場は開かないだろうからね。こりゃあドクにまた怒られるな。まあ、無事でよかった。また紹介所かドクのところで会うだろうから、今後共よろしく頼むよ。」
「こちらこそ、またね。おやすみ~。」
どうやらクロノタイガーをやっつけたのが私だとは気付いていないようだ。
まあ物凄いパニックだったし、神出鬼没なクロノタイガーには目もくれず全員出口の門を目指していたから当然か。
宿に戻った私は、早速スキルの玉を確認する。
玉には『時空干渉』と書かれていた。
難しい言葉なので良く分からなかったけど、クロノタイガーのような瞬間移動とかができるのなら早く使えるようになりたい。
でも、流石に夜も更けて眠かったので明日の朝からスキルの把握をすることにして、吸収だけして眠りに落ちた。
次の朝、朝食を食べた後でブルブルに乗って町を出て誰もいない草原に行った。
言うまでもなく新しいスキルの把握と練習をするためだ。
荷物はブルブルの背にまとめて金貨なんかの貴重品は全てサドルバッグに入れている。
重いかと心配したけど、馬車に何人も乗せて引っ張ってきた上に、生命の玉の効果で強化されているブルブルにとっては全く気にもならないレベルらしい。
「さて、うまくいくかな・・・」
新しいスキルを得た時はいつもワクワクする。
自分が強くなるし、出来ることが増えるのはそれだけで単純に嬉しい。
取り敢えずはこのスキルについて理解しなくてはいけない。
これまでのは全て分かりやすいスキルばかりだったけど、はっきり言って『時空干渉』なんて意味が分からない。
ちゃんと教育を受けた訳じゃないし、知識を吸収した兵士もそこまで物知りでもなかった。
クロノタイガーがやっていたことから、スキルは『瞬間移動』とかになるのかなと思っていたけど全然違った。
離れたところに移動するイメージでスキルを発動しようとしても失敗してしまうのだ。
「う~ん、こんなに難しいのは初めてね。」
『ミコト様、私が上から見ていた時に感じたのですが、虎は早く動いているのではなくて瞬間的に消えて、別のところから出てくるというのがしっくりきました。移動する場所と自分の場所を入れ替えているといった雰囲気でしたよ。』
上から索敵をずっとやってくれていたチルチルが面白いことを言ってきた。
「なるほど、『入れ替える』ねぇ。空間や時間に干渉するスキルってことは、言われてみれば確かにそっちの方がしっくりくるわね。」
そこで、前方の岩の上の空間と自分のいる場所を入れ替えるイメージでスキルを発動する。
パッ!っと一瞬で自分の体が岩の上に移動して、慌てたので着地をミスって岩から転げ落ちてしまった。
『ミコト様!大丈夫ですか?』
チルチルとブルブルが慌てて駆けつけてきてくれた。
「大丈夫よ、ちょっと怪我したけど直ぐに治せるから。」
いくら強化した体とはいえ、油断したところだったのであちこちに擦り傷ができた上に足を挫いてしまっていた。
持っていた巾着袋から生命の玉を取り出して吸収すると、無事に体は全快し、余剰なエネルギーでまた体が強化されていく。
このサイクルで私の身体能力は物凄いことになっていた。
「しっかし、私も迂闊だったわ。いきなり岩の上じゃなくて普通に地面にすれば良かったわね。」
まあ、丁度空間を固定するのに目印があった方が良かったのでついつい安易に試してしまったのだけど、次回からは気を付けよう。
その後、成功に気を良くして『転移』を練習した。
コツを掴めば結構簡単で、目視さえできれば結構遠くまで一瞬で行けるし、チルチルとブルブルの位置を入れ替えることも出来る。
空に転移すれば空を飛んでいるように移動もできる。
何よりも空から見る景色は気持ち良くて病みつきになりそうだった。
試しにブルブルも空に飛ばしてみたけど、二度とやらないでくれと涙目で怒られてしまった。
楽しいのになぁ。
空高く上がって落ちていくのは凄く気持ちがいいし、連続使用すれば物凄い距離を一気に進める。
本当に画期的なスキルだ。
「でもさあ、ハンスおじちゃんから教えてもらったクロノタイガーの技ってこれだけじゃなかったよね?」
『ええ、確か振動で吹き飛ばしたりバッサリと切断したりとかって言ってましたね。』
一緒に聞いていたチルチルが良く覚えている。
『へえ、それじゃあまだこのスキルには色々な使い道があるってことですか?』
「うん、その可能性はあるわね。この瞬間移動は空間にだけ干渉する訳だから、時間の方への干渉もできるはずだからね。今日はキリがいいから帰って、また明日から暫くこのスキルの研究してみましょう。」
それから暫くは日々お弁当を持って草原に日参して誰にも見られないようにスキルの研鑽に努めた。
別に野宿しても構わなかったのだが、急ぐ話でもないし宿の方がゆっくり休めるから、できればそっちで寝たい。
色々な試行錯誤の結果、結構な空間干渉スキルの応用的な使い方を見出すことが出来た。
瞬間移動・・・指定した空間と空間を入れ替える(範囲内に入っているものも一緒に)
容積拡張・・・袋や部屋の中を本来よりも広くすることができる。
結界 ・・・指定した空間を外部からの影響から断絶する。声も届かないし、空気も換気できない。
時間遡行・・・指定した空間内を過去に戻す。怪我や壊れた物の修理なども可能。記憶も過去に戻るので使用時は注意が必要
時間順行・・・指定した空間内の時間を未来に進める
時間停止・・・指定した空間内の時間の流れを止めることができる
振動波・・・指定した空間を高速で振動させることで衝撃波を発することが出来る
断絶・・・空間を裂くことで、その裂け目にあるものを全て切断してしまうことができる
圧縮爆発・・・空間を圧縮した後に解放することで大爆発を起こす
これらは強力過ぎて、もはや不可能なことはないんじゃないかと思ってしまう程のスキルだ。
ちなみに、実は殆ど空間干渉のスキルの新し使い道はチルチルがアドバイスしてくれたことで習得できた。
実はチルチルは相当頭がいいので、本当に心強い。
もちろん、ブルブルも頼りがいのある大切な仲間だけど、肉体労働担当ってところかな。
私とチルチルが相談しながらスキルの使い方を練習している間、のんびりと草を食んでいたからね。
これらのスキルはまだホワイトクローのように手を振るだけで簡単に発動とはいかないけど、徐々に慣れていけば素早く発動できるようになるだろう。
特に時間遡行は死んだ動物でも蘇らせることができた。
私の回復能力は更なる高みへと至ったことになる。
その上、容積拡張と時間停止を組み合わせてサドルバッグと巾着袋には無限にも等しい量の荷物を劣化なしで入れることができるようになった。
しかも、どういう原理かは良く分からないけど、重さも感じない。
これで荷物問題は解決だし、小さなテントの中の空間を広げたら野外でも広々家具の充実した快適空間でも野宿が出来るようになった。
『スキル持ち』はフリーランスでもかなり希少らしいし、その中でもこれだけの数のスキルが使えるって多分他にいないのじゃないかな?
一応私は紹介所には『生殺与奪』のあらましだけは伝えてあるけど、他の魔物から奪い取ったスキルには一切言及してない。
何となく怖かったからだ。
回復なら有難がられても怖がられることはないけど、簡単に大量虐殺できるとなると皆から嫌われちゃう気がしたんだ。
私自身、いつも鞭とか槍とかで私達奴隷を脅してた人達が大嫌いだったからね。
そんなこんなで修行に一区切りついたかなと思いながら宿に帰ると、宿の受付に私宛の伝言があるということで聞いてみると、紹介所からの呼び出しだった。
丁度新しいテント用の家具を買い込んだり、空間拡張の練習に大量の袋やバッグを無駄にしてしまったので沢山あったお金も少しずつではあるけど減ってきていた。
まあ、お陰でかなりできることが増えたので問題はないけど、そろそろ仕事をするかと考えていたタイミングだったので丁度良かった。
とはいえ今夜はもう疲れたので、明日朝一番で紹介所に行くとして、今日はゆっくり休もう。




