第27話 ファイトクラブ
夕方まで時間を潰す意味でも紹介所に行って他にどんな仕事があるのかを見てみたり、相変わらず町をブラブラしたりして過ごした。
いよいよ夕方になって、私はハンスおじちゃんに連れられてチルチルと一緒にブルブルに乗って領主邸に向かった。
ハンスおじちゃんはブルブルの手綱を曳きながら案内してくれている。
門の前には既に人だかりができており、衛兵に交通整理をされながらそれぞれ入場料を払って入っていく。
流石に騎乗したまま領主邸に入る訳にもいかず、ハンスおじちゃんに抱き下ろして下馬して列に並ぶ。
「俺と嬢ちゃんと馬で銀貨3枚だ。用意しておいてくれ。それと、武器と馬は入り口で預ける必要がある。引換券をもらうから絶対に失くさないでくれよ。」
「うん。ブルブル、またお留守番させちゃってごめんね。」
『気にしないでいいですよ。のんびり他の馬たちとお話してます。』
特に私が小さな女の子ということも問題にされず、中に入ると広大な庭の一部に観覧席が階段状に設けられていて、その中心には円形の広場があった。
恐らくあの円の中で皆に見られながら闘うのだろう。
周囲には屋台で酒や食べ物を売る店も出ていて、まるでお祭りって感じだ。
中でも一際人が集まっているところがあるので、何かをハンスおじちゃんに聞いてみる。
「あそこは賭け札を買ったり精算するところさ。次の対戦表を見ながらそれぞれが好きな方に賭ける。締め切られると配当が発表されて試合開始だ。」
「どっちか1人にしか賭けられなかったらどうなるの?」
「その場合は賭けが不成立になるが、テラ銭として5%・勝者へのボーナスとして5%の合わせて10%を引かれた金額が返金になるから丸損になる。そうすると客の不満が溜まるからマッチメーカーに避難殺到するから、そんな大人と子供みたいなカードは組まない。それに、沢山人間が絡むと大体大穴狙いな奴はいるもんよ。」
「ふ~ん。」
まあ、賭けの仕組みはまだ良く分からないけど、こうやって賭けで生計を立てる人のことを『ギャンブラー』と呼ぶらしい。
何もしないで人の勝負の勝ち負けを予想するだけで生活するって信じられないな。
本当に『町の人』の生き方は奴隷と違い過ぎる。
私は取り敢えず誰が誰かも分からないので賭けもせず、アルコールの入っていない飲み物と串焼きの肉を買って観客席に座った。
ちなみにハンスおじちゃんはガッツリお酒を買っていた。
闘技場の中では既に両闘士が武器を持って演武して観客にアピールしたり、ウォーミングアップをしている。
なるほど、知らなくても本人を見て賭けができるから初めての人でも参加しやすい。
暫くすると、鐘がなった。
「これが賭けの締めきりの合図。ほら、あそこに枠があるだろう。そこにオッズが発表になるぞ。」
指さす方を見ると、出場選手名が書かれた大きな看板があり、その下に大きな枠が見える。
そこに大きな板を持った人たちが集まってきて、数字の書いた板がはめ込まれる。
「あれはつまり、疾風のクロンゾに怪力のガオンの対戦で、疾風のクロンゾが勝つと配当が2.5倍だけど怪力のガオンが勝つと1.2倍ってことね。」
「飲み込みが早いな。2人とも初めての参加だろうけど、圧倒的な体格が目立つガオンに素人さんの賭けが少し集まった感じだな。クロンゾのスピードに勝機を感じた玄人がクロンゾに賭けたか。」
「へぇー、ハンスおじちゃん詳しいんだね。」
「まあ、俺も若い時には金が欲しくて出たりしたし、その時は良く見学してたからな。」
「勝ったの?もう出ないの?」
「勝たなきゃここにいないだろ?それに、いつまでもこんないつ死ぬか分からん博打で生計たてるのはなぁ・・・さあ、始まるぞ!」
領主の挨拶とマッチメーカーの煽りで観客席は相当にヒートアップしている。
領主の話によるとこの町の闘技場で実績を上げると王都の闘技場にお呼びが掛かり、そこで活躍すれば王への謁見もかなうとか。
国家の威信をかけた戦力増強事業の一環なんだそうだ。
内々で殺し合ってたら戦力は低下する一方なんじゃないかと思うのは私だけだろうか?
さて、いよいよ試合開始だ。
疾風のクロンゾは短い曲刀の二刀流、一方のガオンは両手に金属の手甲装備した格闘術か。
お互いに一気に勝負に出るかと思ったが、じりじりと間合いを詰めながら睨み合っている。
時々半身を入れ替えたりする辺りは、隙を伺っているのだろう。
クロンゾが動きを変え、曲刀を逆手に持ち替えてトーントーンとステップを踏みながらリズムを取り始めた。
「!仕掛けるか!?」
周りも含めて息の詰まる状態から、一気に動き出した。
クロンゾが直進し、右の曲刀で擦り抜けざまにガオンの脇腹を狙う。
これをガオンは体を捻って回転させて体捌きで躱し、その捻りを使って通り抜けるクロンゾに拳を叩きつけようとするが、クロンゾが一歩早く駆け抜けて距離を取った。
一瞬の交錯に観客からも溜息が漏れる。
再びリズムを取り出したクロンゾは、今度はガオンを中心に回りだす。
「さっきのガオンの回避からの反撃は見事の一言に尽きる。破壊力に劣るクロンゾとしてはあれだけの回避力を魅せられると脅威にしか感じないだろうな。」
「でも、ガオンのパンチをクロンゾも躱してたよね。」
「ああ、これは前座にしては存外面白い試合になりそうだ。」
昔の血が騒ぐのか、ハンスおじちゃんも前のめりになって試合に集中している。
闘技場ではクロンゾが間合いを詰めて一撃を放ってまた距離を取るというのを繰り返している。
時折かすり傷程度は負わせているが、決め手になる訳ではなく、ガオンも反撃ができずにイライラしているように見える。
クロンゾも高速で動くので消耗が激しそうだし、ガオンもイライラしているのか自分から攻撃に出て躱されてカウンターに一太刀浴びたりするシーンも出てきた。
しかし、常に動いているクロンゾは消耗も激しく、ガオンの突撃のプレッシャーもあるのか、徐々に疲労の色が出てきて動きが遅くなってきた。そして、遂にガオンの突きがクロンゾの左肩を掠めた。
体勢を崩したクロンゾは転がるように距離を取って立ち上がったが、左手がぶらりと垂れ下がったままだ。
2人とも肩で息をしている。
「そろそろ決まるな。」
ハンスおじちゃんがボソッと呟いたのが合図になった訳ではないだろうが、片手の不利を乗り越えるためか、クロンゾが猛突進した。
迎え撃つガオンも腰を深く落として渾身の一撃を放とうと左手を前に牽制で出し、右手を腰だめにおいて力を溜めている。
クロンゾが突き出す曲刀に向かってガオンも左手を突き出す。
どうやら左手を犠牲にして右手で勝負をつける気だ。
しかし、クロンゾは突き出した剣をガオンの顔面目掛けて投げつけると、慌てて首を傾けて躱したガオンの隙をついて一瞬で背後に回り、壊れていた左手から曲刀を右手に持ち替えて背後から深々とガオンの心臓に曲刀を差し込んだ。
驚愕と苦悶の表情を浮かべたガオンが身体を回転させながら肘を見舞おうとしたが、その時には既にクロンゾは間合いの外に退避しており、ガオンは追撃もできずにその場に崩れ落ちた。
「わ!」という歓声と共に観客は総立ちになり、負けの賭け札が宙を舞い、試合場には金銀のコインが投げ込まれていく。
「ふぅ、恐ろしく緊張感のある死合だったな。クロンゾも無事ではなかったけど、作戦も見事だった。」
「っていうかガオンって人死んじゃったのよね?」
「ああ、ここでは相手が死ぬか降参するまで闘うのがルールだからな。」
「そんなの観て楽しいの?」
「嬢ちゃんは嫌いか?俺も別に相手が死ぬ必要はないと思うが、ルールはルールだからな。」
「じゃあ、勝ったクロンゾって人も罰せられる訳じゃないんだ?」
「当たり前さ。今回は負傷が激しかったから今頃治療中だろうけど、ファイトマネーに今投げ込まれた祝儀をもらって英雄さ。用心棒のオファーだって来るだろうし、年に1回開催されるトーナメントへの出場資格も得た。で、優勝すれば王都でのトーナメントにも出られて、そこで優勝すれば陛下直々に叶えられるどんな望みでも叶えてもらえるからな。」
「ふ~ん、そのトーナメントってこういう試合で勝てば出場できるの?」
「ああ、そうだ。だから実際にはそんなに参加者は多くない分、強い奴ばかりだぜ。」
う~ん、確かに凄い武芸だと思ったけど、なんかこんな皆に見世物にされて殺されるのはちょっと可哀想だと思う。
色々こんなものを開催している理由も聞いたから頭では納得してるんだけど、高見の見物決め込んでる連中が気持ち悪い。
既に次の闘士たちが出てきて次の賭けのためのアピールが始まっていたが、私の目や耳には何もはいって来なかった。
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次回更新も翌日7時の予定です。
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