第26話 お買い物と観光
チルチルを肩に乗せ、ブルブルの手綱を引きながらエランの町を改めて散策する。
武器なんかは依頼前に買ったので特に不要だけど、保存食や調味料を補充しつつ、社会科見学を含めてブラブラ歩く。
到着したばかりの時と違って、黙って歩いているように見えて実は念話で3人で色々話しているので、本当に楽しい。
たまたまだけど、チルチルもブルブルもメスだったので女3人集まってショッピングだ。
しかも、奴隷出身の私にしても動物の彼女たちも本格的なショッピングなんて初めてだからただ歩いているだけでも楽しい。
服屋さんで動きやすい乗馬服を買ったり、ブルブルの鞍やサドルバッグを買ったりして楽しんだ。
サドルバッグは基本的に馬の背に引っ掛けて両側にポーチが付いてる革製品だが、人間の肩に前後にかけても使えるかなり便利な一品だ。
しかし、チルチルのために買うものがないのがちょっと困った。
そこで、革紐の短いのに生命の玉を通して首飾りにしたら凄く喜んでくれた。
最初は生命の玉に穴を空けようとしたのだが、針が全く通らなかった。
ところが、完成形をイメージしながら革紐を押し付けつつ試行錯誤していると、ぐにゃりと変形してイメージ通りに玉の真ん中に紐がピッタリと収まるった状態になった。
これは大きな発見だった。
そうこうしているとお腹が空いたので蛇の牙亭に行ったらロジンパックの面々もお昼ご飯を食べていた。
こういう時ブルブルが一緒に入れないのは可哀想だな。
「よお嬢ちゃん。昨日はいつ帰ったんだ?すっかりご馳走になっちまったな。」
「まさかみんな昨日からずっといるの?元気ね。私は眠かったんでお腹いっぱいになったら直ぐに帰ったわ。クレアさん、代金は足りましたか?」
「あら、いらっしゃい。お代は十分足りましたよ。お昼ご飯でしょ?直ぐに用意するわね。表のお連れさんの分も昨日頂いた分から出すからね。」
「ありがとうございます。ブルブルも喜びます。」
結局ロジンパックの面々と合流して昼ご飯を食べるが、彼らからは何とも言えない酒臭さが漂ってきたのでちょっと閉口してしまった。
奴隷出身の私なので体臭とかは慣れっこなのであるけど、飲酒の習慣なんて誰もなかったのでこの臭いはちょっとキツイ。
「今日は嬢ちゃんも休みかい?」
相変わらずハンスおじちゃんがニコニコしながら話しかけてくる。
「ええ、今日はお金が入ったから仲間と買い物をしているの。初めてだから出歩くだけでも楽しいし。」
「そうか、嬢ちゃんたっぷり稼いだからな。次の仕事はどうするんだ?」
「う~ん、まだ何も考えていないけど紹介所に行って相談してみる。」
「なあ、また俺らと組んで護衛依頼とか討伐依頼受けようぜ。」
「そうねぇ。それも悪くないわね。どこか別の町に行く輸送隊の護衛とかだと面白そうかな。」
「ああ、それは実入りがいいからな。殆どが兵士だけでの護衛が多いけど、予算の関係でフリーランスを雇うことは結構あるからな。危険が大きいけど嬢ちゃんなら問題ないな。」
「でも、まだこの町も着いたばかりだし、もう少し滞在できればいいかなとも思うんだけどね。」
「それもそうか。まあ、どうせ俺らも紹介所に行くから飯食ったら一緒に行くか?」
「せっかくだからそうするわ。実はブルブルって私の馬なんですけどね、ブルブルに荷物を持って貰ってるんだけど量が増えてきて乗り辛くなってきたので荷車とか買うのにいい店を教えてもらおうと思ってるんですよね。」
「嬢ちゃん馬持ってるのか?凄いな。さっき言ってた仲間って肩の鳥だけじゃなくて表の馬もそうか?」
「ええ、ここへ来る途中で山賊に襲われている小隊を助けたお礼に貰ったの。凄くいい子で、力も強くて足も速いのよ。」
「へ~それなら受けられる依頼の幅もグッと広がるな。急ぎの手紙の配達なんてのもできるようになるしな。」
通常町から町への移動には危険が伴うしコストもかかるので頻繁に往来する輸送隊が手紙の配達なんかも請け負うのだけど、どうしても足が遅いので急ぎの案件の場合は馬を持ったフリーランスに頼むことがある。
そんなに滅多にないので専門の業者もいない上に、受け手も少ないので受けられると結構実入りはいいらしい。
「なるほど、仕事って色々あるんですね。」
「まあ、どうしても単発が多いのが難点だけどな。たまに専属契約とか結んでもらえる奴もいるけど、相当レアケースだな。」
まあ、それはそうなのだろう。元々フリーランスなんて家の仕事を継げない人か、気ままに生きたい人のどっちかだからね。
私はもちろん後者だけど。
そもそも安定した仕事の口が沢山あったらフリーランスなんて紹介所ができるほど沢山いるわけがない。
「ああ、嬢ちゃんなら『アレ』もできるかもな。」
何やらハンスおじちゃんがロジンパックの面々と顔を見合わせながら話ている。
「『アレ』ってなあに?」
素直に聞くと、ハンスおじちゃんが頭をボリボリとかきながら教えてくれた。
「ん~あんまりお勧めって訳じゃないんだけどさ、『闘士』で名を上げることもできそうな強さだなと思ってさ。可愛い女の子が強かったら人気も出るだろうし。」
「『闘士』ってあの皆の前で殺し合うやつですか?」
兵士から奪った記憶には確かにその存在があった。
農業中心のサラヘには闘技場が存在しなかったので兵士も詳しくは知らかったようだが、そういう仕事があることだけは知っていた程度だ。
「ああ、この町は鍛冶屋に鉱夫にと血の気の多い奴が多い上に娯楽が少ない。そこで活躍しているのが『マッチメーカー』と呼ばれる奴らだ。日々客の楽しめそうな試合を組んで客を呼び、入場料と賭けの胴元として両方で儲けてる。」
「それってどこでやってるんですか?」
「あんまり大っぴらにはやってないよ。野蛮だって嫌がる連中も多いから、領主邸の庭でやってるんだ。毎日じゃないけど、結構な頻度でやっていて、その時は誰でも金さえ払えば領主邸の庭に入れる。金持ち程こういう娯楽に飢えているから賭けも盛り上がるし、領主も小遣いが稼げてお得って訳だ。何よりここで強い奴を見出して王宮に紹介して認めらられると褒美が出るから色々の町でやってるようだぜ。」
「王宮に紹介って結構凄いことよね?それってどういう人が闘ってるの?」
「昔は奴隷同士だったんだけど、貴重な労働力を失うのは勿体ないから仕事にあぶれた腕自慢とかが多いな。ぶっちゃけたまに動物とか魔物を相手に闘ったりするのもある。活躍すると人気が出て金持ちお抱えの用心棒とか軍の指南役になったりすることもあるんで結構人気ある仕事だよ。買っても負けてもファイトマネーは出る、但し生き残っていたらね。一応、紹介所でも出場希望は受け付けてるよ。」
「ふ~ん。。。」
しばし考え込んでいると
「オヤジっ!今日は場が開くんだったっけか?」
「ああ、いつも通り夕方から開くよ。しかし、お嬢ちゃんみたいな女の子が行くところじゃねえよ。」
ドクさんが顔をしかめる。
確かに聞いているとあんまり気持ちのいい場所じゃなさそうだけど、領主邸の門内に入れるというのはちょっと魅力的だ。
何しろ私は社会勉強の真っ最中。
フリーランスとして普通の生活の楽しみを覚え始めた反面、奴隷制度の上にふんぞり返る連中に一泡吹かせたいというドロドロしたものが自分の中にあることも自覚している。
この先どうやって生きていくのかを考える上でも知識と体験は多い方がいい。
「行ってみるわ。入場料は私が払うからハンスおじちゃん連れて行ってくれる?」
「ん~ドクに怒られそうだけど、言い出したのは俺だしな。いいぜ、連れて行ってやるよ。」
「しょうがねぇなぁ。しっかり引率しろよ。」
こうして、私の夜の社会科見学が決まったのだった。
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