第25話 チルチルとブルブルとの会話
宿でゆっくり休んで目が覚めると疲れはすっかり取れて体が軽く感じられた。
やっぱり壁がちゃんとあって藁のふかふかのベッドで眠るのは野宿と全然違うわね。
体を起こして思いっきり伸びをして体をほぐすと、サイドテーブルに乗せておいた荷物が目に入った。
何気なくその中からズシリと重い麻袋を掴み出す。
「ふう、すっかりお金持ちになっちゃったな。」
麻袋の中には大量の金貨や銀貨に銅貨が詰まっている。
元々兵士から奪ったものに加えて依頼の報酬、カメレオンスネークやフォックスハントを売却した代金なんかで、もう数えるのも面倒なくらいだ。
当面の生活に心配がなくなったということで一旦これは置いておこう。
それよりも大事なのは別の袋にこっそり溜め込んだスキルの玉の方だ。
スネークハントを倒したことで手に入れたの『迷彩』とフォックスハントから入手した『念話』のスキルの玉だ。
「迷彩の方は隠れるのに最高よね。正直、私も結構危なかったし。即死の毒とかだったら生命の玉があるとはいえ本当に大丈夫だったか分からないものね。」
一応、生命の玉は直ぐに吸収できるように服の下に身に着けてはいるのだけど、死んだときに自動的に吸収してくれるのかは未知数だ。
もちろん、おっかないので試すつもりはないけどね。
『迷彩』のスキルの玉は自分では既に吸収しているのだが、使ったことはなかった。
取り敢えず余っているのでチルチルにも吸収させてみた。
外に出たら実験してみよう。
「問題はこっちよね・・・『念話』か。これでチルチルとブルブルとお話が出来るようになると凄く嬉しいんだけど・・・・試してみよっか。」
チルチルと自分で念話のスキルの玉を吸収してみたところ・・・
『チルチル、聞こえる?』
『はい!ミコト様!私の声が聞こえますか?』
『き、聞こえるわ!あなたチルチルなの?』
『はい、やっとこうしてお話できるようになりましたね。その節は助けて頂きありがとうございました。』
『いいのよ、単なる気まぐれだし、1人は寂しかったらね。あなたのお陰で私も随分助かったから。』
『そう言って頂けると嬉しいです。これからはもっとお役に立てるようになると思います。』
『そうね、夜の森でも私にカメレオンスネークが近付いていたのを教えようとしてくれてたでしょ?』
『はい、姿かたちは見えずとも音と気配と殺気で充分奴の接近が分かりましたからね。これからはもっとちゃんとミコト様に害なす奴らを見つけてお知らせしますよ。』
『それは頼もしいわね。チルチルは空からも見えるから助かるわ。それならいっそ、これも使えるようにしようかしら。』
私は余っていたホワイトクローの玉をチルチルに差し出し、吸収させた。
『おお!これはミコト様のお得意なホワイトクローのスキルではないですか!これで先日のようにミコト様を守れずに蛇ごときに傷を負わせることはもうしないと誓います。』
『ふふ、ありがとう。頼りにしてるね。じゃあ、早速だけど迷彩のスキルを試してみよっか。』
『はい。では使ってみますね。』
そう言うが早いか、チルチルは目の前から消えてしまった。
「す、凄いわ・・・完全に見えなくなった。」
『私はちゃんと目の前から動かずにおりますよ。』
『全然見えないわ。本当にスキルって不思議ね。私も使ってみるから変わったら教えてね。』
そう言って私は自分の中に根付いたスキルを意識して発動する。
『ミコト様・・・・お顔は見えなくなりましたが、服は見えますね。浮いている状態です。』
『え?じゃあこれをまともに使おうとしたら裸にならなきゃいけないってこと?う~ん、ちょっと使うのは悩みどころね。』
『人間以外は元々服を着ていないから問題ないんですけどね。』
なるほど、後で町に出て試そうと思っていたけど、これは微妙だ。
むしろ『念話』の方が圧倒的に私にとっては価値がある。
『まあ、『迷彩』はちょっとおいといて『念話』を早速ブルブルにも使いたいから、一緒に外に出ましょう。普通に見えるようにしてちょうだい。何だか寂しいから。』
『畏まりました。ご一緒します。』
宿を出る前に朝ご飯を食べていないことを思い出して食堂でチルチルと一緒に食べた。
元々パンくずとかをついばむ姿が愛らしかったけど、会話が出来るようになって益々食事が楽しくなった。
『よし、さあブルブルに会いに行こうか。ずっと留守番だったからきっと寂しがってるわね。』
宿を出てブルブルを預けている厩に向かう。
町中でも荷運びしたり、馬車が通ったりと馬がいることは普通なのだが、依頼でしばらく留守にする間の世話をお願いしていたのだ。
宿の前に繋ぎっぱなしだと水は飲めるようになっているが、餌を食べさせたり糞の始末ができないので、少し離れたところで纏めて預かってくれるようになっている。
厩のおじさんに挨拶して料金を払ってブルブルを迎えに行くと、ブルブルも私に気付いたのか近付いてきて顔を摺り寄せてくる。
「ブルブル、寂しかった?お陰で依頼はバッチリよ。しばらくはお休みにするから一緒に町をブラブラしましょっか。」
嬉しそうなブルブルと一緒に町を出て、久しぶりにブルブルの全力疾走で草原を走る。
私の生命の玉で強化されたブルブルはスピード・スタミナ共に他の馬なんてぶっちぎりなのは嬉しいんだけど、乗ってる方は乗ってる方で風圧や揺れに耐える必要があるので結構しんどい。
「オッケーブルブル、そろそろ停まって。」
私はブルブルから飛び降りるとブルブルにスキルの玉で新しいスキルを覚えてもらうことを説明してから、『迷彩』と『念話』のスキルの玉をたて続けにブルブルに吸収させていった。
『ブルブル、聞こえる?』
念話で話しかけてみると、驚いたブルブルが周囲を見回したかと思うと、ジッとこちらを見つめてきた。
『ミ、ミコト様ですか?なんか頭の中に直接声が聞こえます。』
『それが新しい念話のスキルの効果よ。これで私とチルチルとブルブルの3人で一緒にお話しながら旅ができるね。』
『ふふふ、驚いたでしょう?私もさっき初めてミコト様とお話できるようになって驚いたのよ。』
『いや~驚いたわ。でも、これでやっとお礼が言えるわね。ミコト様、その節はありがとうございました。命を救って頂いただけではなく、ミコト様のお供にして頂き、不思議な力を授けて頂きました。ミコト様にこの命捧げさせて頂きます。』
『ふふふ、いやねぇそんな大げさな。3人で楽しくやりましょうよ。ここではちゃんとしたお世話してもらえてる?』
『ええ、ミコト様が代金を多めに支払ってくれたお陰でご飯も他の馬より豪勢です。』
『あら、それじゃあ僻まれたりしないの?』
『多少はありますけどね、実際に何かしてくる奴はいません。そんなことをしたらいくら預かり中の馬でも馬番にひっぱたかれますからね。鞭は痛くて嫌いです。』
そのブルブルの言葉を聞いたミコトは穏やかだった表情を急に引き締めた。
『鞭・・・そう言えばあなた達も走る時に鞭で叩かれるのよね。』
『『ミコト様?』』
急に雰囲気の変わったミコトに、チルチルもブルブルも戸惑って声をかける。
『鞭は、痛くて嫌よね。』
『はい、ミコト様も鞭で打たれたことがあるんですか?』
『ええ、私は元々奴隷だったから。小さいころから打たれていたわ。あまりの痛さに声も出せず、息もできない。のたうち回ると変なところを叩かれるからジッとするしかなくて・・・・』
『ごめんなさい。せっかくの初めてのお話なのに湿っぽくなっちゃって。ブルブルに荷物もってもらって町を散歩しましょう。私、お金持ちになったから皆で何か買いましょうよ。』
『『はい!』』
だめだめ、どうしても『鞭』とか聞いちゃうと奴隷時代のトラウマを刺激されちゃうわね。
せっかく自由になったし、こうして話せる友達もできたんだからもっと楽しくしなくっちゃ。
さ、お買い物よお買い物。
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次回更新も翌日7時の予定です。
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