第25話 初仕事5 完遂
私が傷ついたロジンパックの面々を癒し、全員の無事が確認できると流石に乱戦で気を張りつめていたのと安心感から、ドッと疲れが押し寄せてきた。
体は強化されているし、疲労回復に生命の玉を摂取したので元気なのだが、精神的な疲れは抜けない。
ハンスおじちゃんに勧められるままに休息を取らせてもらった。
荷車の端っこに横たわったのとほぼ同時に私は眠りに落ちた。
「それにして、嬢ちゃん凄かったな・・・」
「ああ、まさか癒しだけじゃなくて戦闘の方もあそこまで出来るとはね。」
「獅子奮迅ってのがピッタリだったな。俺らもうかうかしてられねえよ。」
口々にミコトの活躍を思い返しながら、後処理を進めるロジンパックの面々。
主にはフォックスハントの素材収集と死体の焼却だ。
血の匂いや腐臭は別の動物たちを引き寄せる可能性があるし、疫病が発生する可能性もあるので燃やしてしまうのが一番だ。
結構な重労働で、兵士達や人夫達にも手伝ってもらっているが、ミコトが寝ていることに関しては誰も文句を言わない。
むしろ、危ないところを助けてもらったし、誰よりもミコトが活躍していたことは皆分かっているので、感謝してもし切れないというのが実情だ。
『小娘のくせに生意気だ』なんて言う愚かな小者はここにはいない。
フリーランサーは実力が全て。
そこには年齢も性別も関係ない。
そのことはミコトにとっては僥倖だった。
これが軍や貴族社会になってくると、男尊女卑の風潮は根強いので、ミコトは不本意な扱いを受けただろう。
後処理が終わり、鉱石を満載した荷車にミコトをちょこんと乗せたまま、隊は帰路についた。
途中でミコトも目を覚まして大変恐縮したが、皆から感謝の言葉を掛けられ、引き続き荷車の上に座ったまま町を目指すことになった。
帰路は何事もなく過ぎ、また野営地の森でカメレオンスネークを何匹か狩って晩御飯の足しにした上にスキルの玉をゲットできたくらいで無事にエランの町に到着した。
「全員集合!これで無事に採取の護衛依頼は終了になります。兵士の方々には追って報告書をご提出させて頂きます。また、フリーランサーの諸君は戦闘含めて非常に良くやってくれたので、こちらも最高評価での依頼完遂を紹介所に報告するので各自依頼請書を持って並んで下さい。」
依頼主のリーダー格の鉱夫がそう言うと、兵士たちはその場で解散、鉱石を積んだ荷車は人夫達によって作業場へと運ばれ、ロジンパックの面々を含むフリーランサーの私達がサインを貰ったところで全員解散だ。
もちろん私は報酬をもらうためにロジンパックの面々と一緒に紹介所に向かい、カウンターで書類を出して無事に金貨を1枚もらった。
「ミコトさん、初仕事で高評価完遂なんて凄いですね。これからも頑張って下さいね。」
「あ、ありがとうございます。」
紹介所の人に朗らかに声を掛けられて何となく背中がむず痒い感じをまた味わった。
次に買取カウンターに行ってカメレオンスネークやフォックスハントの素材を買い取ってもらった。
ロジンパックの面々も沢山運んでいたので、結構な金額だ。
そして、ハンスおじちゃんはおもむろに全ての買い取り代金が詰まった麻袋を持ち、メンバーと目配せをした後、それを私に差し出してた。
「メンバー全員で話し合ったんだけどな、今回は嬢ちゃんがいなかったらまず間違いなく俺らの中で何人かは死んでいた。依頼自体は何とか達成できたかも知れないが、あのフォックスハントの群れを死人なしで撃退できたのは完全に嬢ちゃんのお陰だ。だから、この素材の対価は嬢ちゃんが貰ってくれ。」
「え、でも私だって助けてもらえたし自分で運んだ素材は買い取ってもらえたし、そんないいのに。」
「いや、そういう訳にはいかん。そもそも、嬢ちゃん程のスキルの使い手なら我々と同じ報酬ということ自体がおかしいんだ。もちろん、今回は初仕事ということもあるだろうから紹介所を責めるという訳ではないがな。いずれにせよこれは受け取ってくれ、大人の男に恥をかかせちゃいけないぜ。」
そう言ってハンスおじちゃんはニヤリと笑って片目をつぶって見せた。
「うん、じゃあせっかくだから貰っておくね。それじゃあさ、この後暇なら皆で打ち上げしない?私が驕るわよ。」
「ハッハ~!流石嬢ちゃん、分かってるね。よし!俺らが贔屓にしている酒場があるんだ。そこでパーッとやろう!」
素材を買い取ってもらって荷物も軽くなった私達は装備もそのままに酒場に直行した。
「お~い、オヤジ!久々に帰って来たぞ!さあさあ、酒と料理をジャンジャン持って来てくれ!」
「お~暫く見ないと思ったら、また護衛で出てたのかい?」
酒場のカウンターにはでっぷりと太った恰幅のいいおじさんが料理を仕込んでいるところだった。
「おうよ、今回は危なかったところをこの嬢ちゃんに助けられたのさ。」
「あ、初めまして。ミコトです。」
「え~こりゃ随分と可愛らしいお嬢ちゃんだけど、この荒くれどもと一緒に護衛任務に行ってたってか?」
「おうよ!大活躍だったんだぜ。嬢ちゃん、このおっさんはここ『蛇の牙亭』のマスターでドクってんだ。こんな体してるけど、元々は凄腕のフリーランサーでエラル所長とも仲いいんだ。この町については誰よりも詳しいから覚えてもらって損はないぜ。」
「よせやい、褒めたってタダにはならねえよ。まあ、まだ真昼間だから客もいねえし貸し切りだ。たっぷり飲みならが話を聞かせてもらおうじゃないか。お~い!クレア~、酒の準備だ!」
「なんだい、まだ開店前だってのに騒がしいと思ったらロジンパックの連中じゃないか。おや、初めて見る可愛らしい子がいるね、あんた達人攫いに転職したわけじゃないだろうね?」
ドクが声を掛けると奥から奥さんなのかこれまた恰幅の良いご婦人が姿を現した。
「早とちりすんなよおばちゃん。俺らと一緒に仕事を完遂した仲間だよ仲間。今日は打ち上げなんだ。」
「そうかい、そう言うことなら歓迎するよ。さ、ジャンジャン飲んで疲れを取って、次の仕事を頑張っとくれ。」
そして宴会が始まった。
たったの数日とはいえ生死を分かち合ったロジンパックの面々にミコトはロッソ先生にも似た親しみを覚えていた。
これまで奴隷という境遇・待遇に怒り、唯々諾々とその状態に流されている仲間にすら怒り、親しい人の命を奪った魔物に怒り、あまり他人と交わろうともしてこなかったミコトとしては格段の変化だ。
とはいえ、宴会すら初めてのミコトにとってどんちゃん騒ぎをするロジンパックのおじさん達の中に混ざるのはハードルが高く、程々のところでクレアに飲み代として十分なお金を払い、こっそりと蛇の牙亭を後にした。
確かに料理は美味しかった。
それがドクの腕によるものか、楽しい雰囲気が味を変化させたのかはミコトにはまだ分からなかった。
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