迷宮の管理と女神様
その部屋には、真ん中に台座らしきものがあり、その上に一つの球体が浮かんでいた。
大きさ的には、学校の教室くらいかな。
天井もそれなりに高い。
迷宮の最下層……と言われているけど、転移してきたせいか、迷宮の外にいるような不思議な感覚がある。
「アレが、コアってやつじゃな……」
ティアが答えてくれる。
特に害意も感じないので、コアに近づいてみる。
そして――
前足でちょこんと触れた。
「起動……管理者ノアより、ライザに管理権限が譲渡されます。今後、アロンは管理者ライザに従います。速やかに迷宮の管理をお願いします」
「……え?」
管理?
ノアって誰?
疑問が一気に増えた。
どうしたらいいのか分からず悩んでいると、コアが明滅する。
「現在の迷宮の状態で維持しますか? 難易度の設定も可能です。また、宝物等は迷宮での魔物素材、冒険者の残した武器、防具、装備品等から自動作成を継続しますか?」
『とりあえず、今まで通りでお願いします』
「イエス、マイ、マム!」
……コアは優秀らしい。
ただ――
先ほどコアから分離した光の珠が、薄いホログラムのような姿に変わっていた。
そこに映し出されたのは、美しい少女。
今までウンディーネさんやマーリンさんなど、前世では見たことがないような綺麗な人は見てきたけど……
この少女は、その中でも別格だった。
あり得ないほど美しい。
「何万年、何千年経っているか分からんが……初の迷宮攻略者じゃな」
少女は微笑みながら、こちらを見る。
「妾はノア。この世界を支える神の一柱にして、慈愛の女神じゃ」
女神様!?
とにかく、座って頭を下げる。
隣ではティアも平伏している。
……いや、ティアはうつ伏せになって羽を広げている。
これは……
土下座ならぬ、土下寝?
「この姿はコアに残した記録のようなものじゃ。普通にしてて良いぞ」
『は、はい』
頭を上げる。
ティアもチョコンと座り直した。
「まずは攻略おめでとう。そしてエンシェントドラゴンよ。今までの役目、ご苦労だったのぅ」
「畏れ多きお言葉、ありがとうございます」
「うんうん。ちょっと堅苦しいのが面倒くさくなってきたから、妾もいつも通りにするぞ。そちたちも楽にな♪」
「ノア様は変わりませんね……」
ティアが苦笑する。
「まぁ、妾達にしてみれば、そこまでの時間が経過したわけでもないしの。お主は大きくなったのであろう?」
「はい。今はノア様が知る身体の大きさになっております。この世界でも最大に近い身体を得ています」
「ほぅ……」
ノア様がティアを見る。
「まぁ、ここに居るということは、お主が負けて、生まれ変わって主を得たということじゃな」
「はい」
「ちっこいお主は可愛いからな」
「あ、ありがとうございます」
「で、お主が負けた相手は?」
「先ほどから隣におりますよ?」
「なに?」
ノア様がこちらを見る。
「この、ちっこいワンコに負けたのか?」
……なんか、ものすごく驚かれてる。
「ちょっと、コアちゃん! 最終試練の状況を見せて!」
「否。現在、ノア様は管理者権限をお持ちではありません」
「ふぉ!? いけずじゃのぅ! 権限を渡した途端にそれか?」
ノア様がコアに詰め寄る。
「ちょっとだけじゃ。見せてちょうだい、コアちゃん♪」
「……」
コアが沈黙する。
「宜しいでしょうか? ライザ様」
今まで空気だったコアから、突然話しかけられた。
『あ、はい。お願いします』
それから、ふと思いつく。
『あと、ノア様はアロンの作成者なんですよね? 頼まれたら答えてあげてもいいんじゃないですか?』
「……イエス、マイ、マム」
なんだか、ものすごく不満そうだ。
「あら、良い子ね♪ コアちゃん、少しだけ見せてくれる?」
「イエス。前方に映し出します」
コアの前方に、スクリーンのようなものが現れた。
上部には、
HP
MP
と書かれたバーが表示されている。
……昔懐かしの格闘ゲームみたいだ。
そこに映っていたのは――
チョロチョロと動き回る黒い小さな影。
そして、それを追いかける巨大なドラゴン。
先ほどの戦闘だった。
「うわぁ……あの小ささじゃ、ドラゴンには狙い辛いねぇ」
ノア様が楽しそうに眺めている。
「しかも、狙ってくるのも急所ばかりって……えげつなくない?」
『……』
なんか、僕……
卑怯だったかな?
「ノア様、ライザ様は小柄な身体を活かし、数倍ある敵に挑んでいるんです」
ティアがフォローしてくれる。
「しかも、体力残量を見てください」
HPバーを見ると、僕の攻撃でドラゴンの体力がかなり削られている。
それに対して――
僕のHPは殆ど減ってない・・・
「ライザ様に挑んだ私を褒めてください。めっちゃ怖かったんですから!」
『えっ?』
ティアがそんなことを言う。
「怖かったって……あぁ、だから会話で終わらせようとしてたのね」
ノア様が笑う。
ティアは苦笑い。
『えぇ~、ティア、めっちゃ上から話しかけてきたじゃん。強者感出してたし……』
僕が言っている間にも、スクリーンの中では五大龍王撃がティアに襲い掛かっている。
「あ、あれは無理ね……」
ノア様が苦笑する。
「私でもちょっと怖いかも」
……怖いってことは、押さえ込めないわけじゃないんだ。
そんなことを考えていると――
「うん。まぁ、何とかならないわけじゃないけど、結構な力が必要になるわね」
ノア様が僕を見る。
「う~ん……ここまで力があるのは困るわね」
『困る?』
「迷宮から出ないなら良いんだけど……」
ノア様は少し考え、
「せっかく転生したんだもんね? 外に出たいでしょ?」
『はい。異世界を回ってみたいです』
「そうだよね♪」
ノア様が笑う。
「ん~……コア!」
「はい」
「作成者権限で命じます。分体作成、実行」
「イエス、オーナー」
コアから、先ほどとは違う銀色に輝く珠が作られた。
「ん。コアⅡはライザに宿りなさい」
銀色の珠が僕の胸元に飛んでくる。
そのまま身体の中へ入っていった。
「うん。そのまましばらくすれば馴染むわ」
ノア様が説明する。
「コアⅡには、あなたの監視みたいなことを頼んでいるけど、あなたの力にもなるはずだから、面倒を見てあげてね?」
『あ、はい。僕にできることなら……』
「あと――」
ノア様がニヤリと笑う。
「前世は男の子だったのかもしれないけど、今は女の子よ?」
『……』
「僕っ子も捨てがたいけど……女の子らしくね♪」
……女神様、そこを弄るんですか。
「そろそろ良いかしら?」
ノア様がコアを見る。
「コアちゃんにいろいろやらせたから、力が足りなくなってきてるみたいね」
そして、こちらを見る。
「まずは、ライザちゃん。この世界を楽しんでね♪」
『はい!』
「たまにコアⅡ経由で頼み事をするかもしれないから、その時はよろしくね」
『分かりました』
「ティア……良い名前を貰ったわね。大事にね」
「はい」
「今まで、ありがとう。これからはライザちゃんを支えてあげてね」
「承知しました」
「コアちゃんも、たまに覗きに来るから邪険にしないでよ? ライザちゃんの力になってあげてね」
「イエス、オーナー」
「迷宮もよろしくね♪」
そう言って、ノア様は見惚れてしまうほどの笑顔を見せた。
そして――
ホログラムのような姿が消えていった。
『……』
しばらく呆然としてしまう。
『うわっ! なんか普通に会話してたよね? 記録映像とかじゃないの?』
「ノア様のホログラムを映すと同時に、神界へのパスが繋がるようになっていたようです」
コアが答える。
『だから、ただの記録じゃなかったんだ……』
「そういうことですね」
そんなやり取りをしていると――
『情報処理終了。コアⅡ始動により、アカシックへの干渉が可能になりました。また、身体変化も可能となりました』
頭の中に声が響いた。
『あ、コアⅡ?』
「コアⅡ経由で、私へのアクセスも可能です。また、私からコアⅡへのアクセスが可能なため、ノア様とのアクセスも可能になりました」
『今後ともよろしくお願いします』
「イエス、マイ、マム!」
『……あ、はい』
自分の中に、もう一人いるような感じだ。
アカシックって……
アカシックレコードってやつかな?
全ての記録が保管されていると言われる場所。
『イエス。ただし、管理権限により閲覧できないものもあります』
『そっか。ありがとう、コアⅡ』
『……』
なんか、照れてる?
『照れてません!』
……ちょっと可愛い。
とりあえず――
『ウンディーネさんに会いに戻ろう!』
その前に。
『あ、身体変化ってできるんだよね?』
『可能です』
『じゃあ……人族に変化できるかな?』
「実行します」
ブワッ!
身体から魔力が吹き出した。
それが人の形へと集まっていく。
やがて――
僕の身体は、人間の姿へと変化した。
目線の高さからすると、中学生くらいかな?
身長は……140cmくらい。
胸は……
おぉ~。
Bくらいはある!
下は……
……ない。
前世で慣れ親しんだバットとボールは、どこにもなかった。
『……』
すっぽんぽんである。
着るものもない。
これは――
『ワンコに戻ろう』
そう考えた瞬間。
身体が黒柴の姿へと戻った。
どうやら身体変化は、考えるだけでスムーズにできるらしい。
『便利だね♪』
さて。
『よし、湖に戻ろう』
まずはウンディーネさんに会いに行こう。




