迷宮の外へ
管理者の部屋からは、どの階層へでも行けるらしい。
コアによる転送で、僕たちはルルの湖の前へ戻ってきた。
すると――
ザバァッ!
突然、水面が大きく盛り上がり、その中からウンディーネさんが姿を現した。
「ちょっと! 何があったの? そのドラゴンは何?」
『あ、ウンディーネさん。この子はエンシェントドラゴンのティアです。僕の従魔になりました♪』
「エ、エンシェントドラゴン?」
ウンディーネさんが目を丸くする。
『試練の階層で戦って、勝ったらドロップしたんです。で、そのあと、なぜかこの迷宮の管理者にもなっちゃいました』
「はぁ~?」
若干、呆れたような声が返ってくる。
『まぁ、それは置いといてですね……』
「置いとけるわけないでしょ!」
スコーン!
小さな水の玉が、ものすごい勢いで僕の額に直撃した。
『置いとけないですか?』
「当たり前じゃない!」
ウンディーネさんが腰に手を当てる。
「まず、エンシェントドラゴンが出るなんて聞いてないわよ?」
「うむ、それはワレが説明しよう」
ティアが一歩前に出る。
……なんか、話し方がおじさんっぽいんだよなぁ。
「まぁ、この迷宮を作成された女神ノア様のイタズラみたいなものだ」
「女神ノア様?」
「うむ。本来、ワレを打ち破るほどの強者は、そうそうおらん。勇者とて単独では難しいじゃろう」
ティアは、少し誇らしそうに胸を張る。
「本来はそれで構わんのだ。ワレに敗れることで慢心せず、さらに強くなることを目指す。それが試練の目的でもある」
「でも……」
ティアが僕を見る。
「いかんせん、ライザ様は強すぎたのじゃ」
『え?』
「ワレを打ち破るほどの強者を、神界としても捨て置くわけにはいかん。そこで、迷宮の管理を任せ、この迷宮から出られないようにする予定だったのじゃが……」
「ノア様に気に入られたのね?」
「うむ」
ティアが頷く。
「その結果、迷宮の管理はコアに任せ、ライザ様は自由に動けるようになった。まぁ、ワレも従魔となって監視するし、コアの分体もライザ様に宿っておるから、問題はないじゃろう」
「……なるほど」
ウンディーネさんは少し考えたあと、
「ん、まぁ……判らないけど、判った!」
納得したらしい。
『今まで通りで大丈夫ですよ。転移も覚えたので、外に行ってもすぐここに戻れますから!』
「えっ? 外に行くの?」
『はい! いろんなところを見てみたいですから!』
「そっかぁ……」
ウンディーネさんが少し寂しそうな顔をする。
「まぁ、綺麗な湖や浄化された水に対して呼んでくれたら、私はすぐに行けるし……大丈夫ね」
『そうなんですね。なら、ウンディーネさんにはいつでも会えますね♪』
「そうよ」
ウンディーネさんが優しく笑う。
「でも、世界は広いから気を付けなさいよ。ワンコとミニドラゴンが揃ってたら、皆が興味を持つでしょうから……中には悪いことを考える人もいるってことは、覚えておきなさい」
『ワフン!』
はーい。
「じゃあ、行ってきます!」
「ええ。元気でね」
ウンディーネさんに見送られ、僕たちは管理室へ戻った。
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管理室に戻ると、コアが僕を待っていた。
「ライザ様。外へ出るための準備を整えておきました」
『準備?』
「はい。迷宮にある装備品や素材を使い、迷宮へ来る冒険者と同じような服を用意しました」
目の前に服が現れる。
『あ、ありがとう♪ 着てみるね』
ヒト型に変化し、服を着てみる。
……ピッタリだ。
『さすがコアちゃん!』
ただ――
『……なんか、フリル多くない?』
胸元にも、腰回りにも、やたらとフリルが付いている。
「まだ成長段階にあるライザ様の寂しい胸が目立たないように、また寸胴に見えないよう、フリルを多めに使用しました」
『ふ、ふ~ん……』
釈然としない。
成長中だもんね。
……成長するよね?
野菜多めの食事にした方がいいかな?
そんなことを考えていると――
「ぶはっ!」
横からティアの笑い声が聞こえた。
『……』
見ると、ティアが床を転がりながら笑っている。
「コ、コアが……悪気なく言うから……!」
『ヒト型になれないくせに! 笑わないでよ!』
「だって……!」
確かにコアは悪気がない。
僕に似合うように作ってくれたのだから、怒るに怒れない。
「不味かったでしょうか?」
『うぅん! めっちゃ良いよ。ホントにありがとう♪』
「良かったです」
コアがホッとしたように明滅する。
「武器も用意しております。ショートソードを二振りと、クローを作りました」
差し出された武器は、金色が混じった銀色に輝いていた。
『これ……材料は?』
「オリハルコンです」
『……』
「ライザ様の魔力に馴染ませれば、虹色に輝くヒヒイロカネへ進化する可能性があります」
『あ……そ、そうですか……』
なんか、とんでもない武器を貰った気がする。
「なお、衣服についてはドラゴンブレスでも破れない仕様となっております」
『服まで……』
嬉しくて涙が出そうになる。
だって、女の子だもん。
……昔、母さんからそんな言葉を聞いたような気がする。
ちょっと違うかもしれないけど。
『ありがとう、コア』
涙目になりながら、コアを見る。
『迷宮の管理、よろしくね。何かあったらすぐに連絡して。僕に何ができるか分からないけど、すぐに帰ってくるから!』
「イエス、マム!」
『……そういえば、コアⅡは?』
「あ、はい。現在、少し調べものを……」
『ん、いいよ。好きにしてて。何かあれば教えてね』
「ありがとうございます。ライザ様」
ふと、思う。
コアとコアⅡに、お願いがある。
『あ、コアとコアⅡにお願いがあるんだけど……』
「はい」
『兵隊さんじゃないんだから、マムって呼ぶのはやめてほしいな。名前で呼んで。ティアも!』
「宜しいのですか?」
『うん。みんな仲間でしょ? コアⅡなんて僕の中にいるんだし!』
「「「判りました。ライザ様」」」
『あ……「様」は残るのね……』
まぁ、いいか。
『じゃあ、行こうか! ティア、コアⅡ、準備はいい?』
「は~い!」
「ワレも外に出るのは何千年振りになるか……」
『じゃあ、コア。転送をお願い』
「イエス、ライザ様」
光の輪が僕たちを包み込む。
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次に目を開けると、小さな部屋にいた。
壁には小さな穴が一つ開いている。
「その穴に紫の魔石を入れてください。出口が開きます」
コアⅡが教えてくれる。
『これだね』
アイテムボックスから紫色の魔石を取り出し、穴へ入れる。
魔石は、そのまま穴の中へ吸い込まれていった。
すると――
ゴゥン……
ゴゴゴゴゴ……
大きな音と共に壁が横へずれていく。
『わっ!』
その先から、眩しい光が差し込んできた。
ティアは、いつものように僕の後頭部にしがみついている。
僕は一歩、外へ踏み出した。
『……眩しい』
久しぶりに見る、外の世界。
右手にはテントのような建物があり、その前には何かの受付らしき場所がある。
そこにいた人たちが、一斉にこちらを見た。
「……」
「……」
「……」
みんな、ものすごく驚いた顔をしている。
『ん? なんかマズかったかな?』
「大丈夫じゃろ?」
頭の上からティアの声がする。
「そんなことより、街に向かうのじゃろ?」
『そうだね♪』
僕は前を向く。
迷宮で出会ったウンディーネ。
黄昏の剣の三人。
ティア。
コア。
そしてコアⅡ。
たくさんの出会いを経て、僕はようやく迷宮の外へ出た。
ここから先に、どんな世界が待っているのかは分からない。
だけど――
『行こう、ティア!』
「うむ!」
僕たちは、外の世界への一歩を踏み出した。




