家族が出来た。
三人は、ワイバーンと対峙していた。
ワイバーンが大きく翼を広げ、三人へ襲い掛かる。
「任せろ!」
ランスロットさんが盾を構え、ワイバーンの攻撃を受け止める。
ガキィン!
その隙に、アーサーさんが横から斬り込んだ。
「はぁっ!」
剣がワイバーンの身体を切り裂く。
さらに――
「アイススピア!」
マーリンさんが放った氷の槍が、ワイバーンの翼を貫いた。
「ギャアアア!」
翼を失ったワイバーンがバランスを崩し、地面へ落下する。
「今だ!」
ランスロットさんが盾を構えたまま突っ込む。
「シールドバッシュ!」
ドンッ!
盾を叩き付けられ、ワイバーンの身体が大きく弾き飛ばされる。
そこへ――
「終わりだ!」
アーサーさんの剣がワイバーンの首を切り裂いた。
ワイバーンの身体が光の粒子へと変わり、三人の身体へ吸い込まれていく。
「やったな!」
「ええ!」
「まだだ」
光が消える。
すると、その場に三つの人影が現れた。
真っ黒な人影。
よく見ると、姿形は黄昏の剣の三人とそっくりだ。
……ワイバーンと戦った直後に、自分達の影と戦わせるとか。
鬼のような仕様だよね。
でも――
三人とも、むしろ嬉しそうに相手を見ている。
アーサーさんの前には、ランスロットさんそっくりの影。
マーリンさんの前には、アーサーさんそっくりの影。
そして、ランスロットさんの前にはマーリンさんそっくりの影が立っている。
「ライザ! 俺のこと適当に扱ってないか?」
『ワフン!』
……バレた!
そんなやり取りをしている間にも、戦いは始まった。
そして――
あっという間に終わった。
「やっぱり苦手意識と弱点も一緒なんだな」
「最初から影なら楽勝だったのに」
「これで終わりか?」
どうやら三人とも、自分達の弱点をよく理解していたらしい。
さすがパーティーを組んでいるだけはある。
◇
試練の部屋の奥へ入ると、三人とも座り込んでいた。
見た目より厳しかったらしい。
そして――
「これ……」
そこにあったのは、三つの武器。
剣。
盾。
杖。
それぞれ、
エクスカリバー。
プリトウェン。
アロン。
神話クラスの武器だった。
「こんなの……貰っていいのか?」
『試練をクリアしたんだから、いいんじゃない?』
僕がそう言うと、アーサーさんは剣を握り締めた。
「……凄いな」
ランスロットさんも盾を持ち上げる。
「これなら、もっとみんなを守れる」
マーリンさんも杖を見つめている。
「これ……師匠達が使っていた物と同じ名前だわ」
そして、僕は三人に紫色の魔石を見せる。
『それと、これが転移の部屋を開ける鍵です』
「これで帰れるのか?」
『うん。あっちに転移魔法陣があるよ』
三人を転移の部屋へ案内する。
そして――
扉の前で、僕は三人に向き直った。
『じゃぁ、また会おうね♪』
「あぁ……いろいろありがとう」
「またね、ライザ♪」
マーリンさんが笑う。
「早く来ないとダメよ~?」
「ん。ありがとう」
僕も前足を差し出す。
三人が順番に僕の前足を握ってくれた。
……なんだろう。
前世では味わったことのない、妙に温かい感覚だった。
「じゃあな、ライザ」
『うん。またね』
アーサーさんが扉の窪みに紫色の魔石を嵌める。
カチッ。
扉が開いていく。
完全に開ききったところで――
コロン。
魔石が扉から落ちた。
「おっと!」
アーサーさんが慌てて拾い上げる。
そのまま三人は、部屋の中央にある転移魔法陣へ向かった。
「じゃあな!」
『気を付けてね!』
三人が魔法陣に乗る。
光が一気に広がった。
そして――
三人の姿が消えた。
しばらく、その場で見送る。
……行っちゃった。
少し寂しい。
でも、また会える。
そう思いながら、僕は湖畔へ戻った。
◇
湖畔には、ウンディーネさんが待っていた。
「行かなくて良かったの?」
『まだ、力が足りない気がして……』
僕は少し考えてから続ける。
『それに、行くにしてもウンディーネさんに挨拶なしとか有り得ませんよ♪』
「そう?」
ウンディーネさんが少し寂しそうな顔をする。
「ちょっと寂しくなっちゃったかな?」
『いえ』
僕は胸を張る。
『目標ができたし、僕にはウンディーネさんが居るから!』
「……」
ん?
ウンディーネさんの目が、なんだかウルウルしている。
「な、何言ってるのよ……」
顔を背ける。
「と、とりあえず修羅場の続き見てくるから!」
そう言って、湖へ消えていった。
……まだ続いてたんだ。
蟹さんの修羅場。
長いな。
さてと。
『僕も行こうかな』
そう呟いて、僕は試練の部屋へ向かった。
◇
そして――
僕の前に立っているのは。
巨大なドラゴン。
エンシェントドラゴンだった。
デカい。
大型の重機より、さらに一回り大きいんじゃないか?
僕は仔犬サイズ。
……圧倒的な体格差である。
すると、エンシェントドラゴンが口を開いた。
「知性ある相手との戦いはしたことがあるのか?」
『……無いよ』
「完全に敵対したとき、その相手を殺す覚悟はあるのか?」
『わからない……』
「何故、わからない?」
『その時の相手の状況や、自分の状況によるんじゃないかな?って思うから』
エンシェントドラゴンは、じっと僕を見る。
「それでは、自分が殺されるかもしれないことは理解しているのか?」
『それは、そうかもしれない』
僕は少し考える。
『でも、相手が完全に支配されていたり、利用されているだけなら……殺さずに無力化したい』
「それには強さが必要だ」
低い声が響く。
「その強さがお前にあるのか?」
『今は……無いと思う』
だからこそ。
『だから、ここで戦うんだ!』
「……そうか」
エンシェントドラゴンが、ゆっくりと口を開く。
「それならば――戦うしかないようだな!」
直後。
大きく口を開き、ブレスの溜めに入った。
来る!
ドラゴンブレスは強力だけど、放つまでに時間が掛かる。
僕は小さな身体を活かして、一気に懐へ潜り込む。
足元へ回り込み――
『ウォーターカッター!』
水の刃をアキレス腱へ放つ。
しかし――
ガキンッ!
ドラゴンの鱗に、ほとんど傷が付かない。
……やっぱり硬い!
なら――
『空爪撃!』
前足の爪に魔力を集中させ、何度も同じ場所を狙う。
ザシュッ!
ザシュッ!
少しずつ傷が深くなる。
エンシェントドラゴンの足に力が入った。
飛ぶつもりだ!
僕は足を掛け、そのまま身体を駆け上がる。
そして――
背中に爪を立ててしがみついた。
エンシェントドラゴンが飛び上がる。
次の瞬間――
ゴォンッ!
背中が天井に激突した。
ドラゴンの背中と天井に挟まれ、僕の身体が潰される。
「ぐっ……!」
一瞬、意識が飛びかける。
それでも必死に意識を繋ぎ止める。
爪を立てながら、首筋へ這い上がる。
そして――
鱗の少ない首の内側に牙を突き立てた。
『ぐっ……!』
噛む。
噛む。
噛む!
肉を食い千切る勢いで、ひたすら噛み続ける。
牙へ魔力を流し込む。
ブチッ!
ついに肉を食い千切った。
その勢いで身体がドラゴンから離れる。
しかし――
ブンッ!
尻尾が飛んできた。
ドゥンッ!
身体を叩き付けられ、そのまま壁へ激突する。
ズザァッ……。
……痛い。
でも、身体強化と空膜のおかげで、思ったほどのダメージではない。
床へ着地する。
中央へ降りてきたエンシェントドラゴンと、再び向き合う。
「むぅ……」
ドラゴンが唸る。
「的が小さすぎて戦いにならん!」
『……』
まぁ、こっちは仔犬サイズ。
向こうは巨大ドラゴン。
そりゃそうでしょうね。
「もっと大きくならんのか!」
無茶を言わないでほしい。
『なかなか成長しなくて……これが精一杯の大きさです』
「むぅ……こうなると、我に打つ手がないのぅ」
そう言いながら、尻尾を横薙ぎに振ってくる。
ジャンプして避ける。
すると――
小さなブレスが飛んできた。
『空膜!』
水壁も展開して防ぐ。
その間にも、先ほど付けた首筋の傷が少しずつ塞がっている。
完全に治る前に――
『黒雷!』
黒い雷撃を傷口へ叩き込む。
傷が焼ける。
これなら修復も遅くなるはず。
エンシェントドラゴンが再びブレスの溜めに入った。
……なら。
こっちも最大の技を使う。
火。
水。
風。
木。
土。
五つの属性。
それぞれの力を龍の形にする。
五本の龍を生み出し、相手へ絡み付かせる。
イメージを固める。
これが、今の僕が使える最大の魔法。
『――五大龍王撃!』
五本の龍が一斉に飛び出す。
同時に、エンシェントドラゴンのブレスも放たれた。
轟音とともに、五大龍とドラゴンブレスが激突する。
――ドォォォン!
ブレスが五大龍によって拡散される。
そして五本の龍が、そのままエンシェントドラゴンへ絡み付いた。
「ぬぉぉぉぉ!」
エンシェントドラゴンが必死に抵抗する。
しかし――
五大龍は、さらに強く締め上げていく。
ギリギリと身体を締め付ける。
やがて――
エンシェントドラゴンの身体が光の粒子へと変わっていった。
光は僕の身体へ吸い込まれていく。
そして、役目を終えた五大龍も消えていく。
試練の部屋に、静寂が戻った。
……勝った。
ドサッ。
目の前に、ドロップアイテムが落ちる。
赤い魔石。
そして――
卵?
その瞬間。
身体の中に、新しい感覚が生まれた。
『……転移?』
新しいスキルを獲得したらしい。
まずはステータスを確認する。
ステータス
名前 ライザ
(旧:五月 薫)
種族 神獣・人狼族
性別 ♀
レベル 280
体力 325
魔力 410
知力 600
素早さ 1000
力 580
加護
・聖フェンリルの加護
スキル
・状態異常無効
・自然治癒(超)
・身体強化
・聖魔法
・結界
・浄化
・五属性魔法(火・水・風・土・木)
・空間魔法
・アイテムボックス
・万能感知
・空間操作
・万能言語理解
・念話
・転移
……。
『結構、強くなったかな?』
素早さ1000って……。
自分でもちょっと引く。
そんなことを考えていると――
パキッ。
『ん?』
ドロップした卵にヒビが入った。
パキ……パキパキッ。
そして――
パカッ!
中から、小さなドラゴンが顔を出した。
先ほどのエンシェントドラゴンにそっくりだ。
大きさは……僕の頭と同じくらいかな?
『鑑定』
ステータス
名前 なし
種族 エンシェントドラゴン(ライザの従魔)
性別 ♀
レベル 250
体力 550
魔力 420
知力 520
素早さ 380
力 1200
スキル
・状態異常無効
・自然治癒(超)
・身体強化
・結界
・浄化
・ブレス
・風魔法
・火魔法
・万能感知
・万能言語理解
・念話
『……従魔?』
「お~、だいぶ小さくなったな♪」
突然、小さなドラゴンが喋った。
「まぁ、先ほどのように大きくもなれるから、便利だぞ!」
『どういうことです?』
「ん? 我に勝ったから、従魔になったってことだな!」
なんともあっさりしている。
「よろしく頼む」
『えっと……断ることは……』
「出来ぬよ♪」
ニコニコしている。
「それより、名前を付けて貰えるか?」
『名前ですか……』
う~ん。
ポチとか……。
『ポチとか――』
ボッ!
小さなドラゴンの口から火が飛んできた。
「真面目に頼むぞい」
『はい……』
怒られた。
さて。
ドラゴンの名前……。
『ティアで良い?』
「ティア?」
『太古の文明の女神様、ティアマト様から一部貰ってみたんだけど……』
「ティアか!」
小さなドラゴンが嬉しそうに笑う。
「気に入った! ありがとう♪」
『良かった』
どうやら気に入ってくれたらしい。
『でさ、ティア。この赤い魔石って何? 転送魔法陣の部屋にあったのは紫だったよね?』
「あぁ、それは我を倒すと出てくる、最下層の鍵じゃな」
『最下層の鍵?』
「そうじゃ。この迷宮の管理階層へ行ける鍵じゃ」
『管理階層?』
「この迷宮の管理権限を得られる場所じゃよ」
『管理権限……』
なんだか重要そうだ。
『行き方は?』
「転送魔法陣の部屋を開ける時と一緒じゃよ」
「紫の魔石で開ければ、迷宮一階層の出口付近へ」
「赤の魔石で開ければ、管理室へ行ける」
『管理室に危険は?』
「無いと思うぞ?」
ティアが首を傾げる。
「この迷宮のコアが居るだけじゃからな」
『コア……』
それなら――。
『今から行っても大丈夫そうかな?』
「うむ。問題ないじゃろ」
『じゃぁ、行ってみよう』
ティアが僕の頭へよじ登る。
ちょこん。
頭の上に乗った。
「では、行くとするかの」
『うん!』
僕は赤い魔石を咥え、転送魔法陣の部屋へ向かった。
そして――
赤い魔石を使って扉を開く。
扉の向こうには、今まで見たことのない空間が広がっていた。
僕とティアは、その中へ足を踏み入れる。
――迷宮の管理室へ。




