VS自分
試練の部屋に入る。
「…………」
何もない。
ただただ広い。
大きさ的には、学校の体育館くらいかな?
バスケットコートが二つ並べて入るくらいの広さがあって、高さは三階建ての家がすっぽり入るくらい。
「広いなぁ……」
キョロキョロしながら歩いていると――
足元に大きな魔法陣が浮かび上がった。
「お?」
魔法陣が眩しく光る。
そして、光が収まると――
部屋の中央に、何かがちょこんと座っていた。
「ワンコだな!」
見た瞬間に分かった。
……というか。
「僕にそっくりじゃん」
ただし、色が反転している。
白を基調とした毛色。
胸元のハートは黒。
額のマークはない。
「なんか……白い方が正義って感じがする」
勝手なイメージだけど。
近くまで寄ってみる。
相手は動かない。
ただ、じっとこちらを見ている。
「……鑑定」
スキルを使ってみる。
【鑑定結果】
・名前:なし
・レベル:1
・体力:50
・魔力:50
・知力:80
・素早さ:120
・力:45
【スキル】
・空間魔法
・周囲索敵
・空膜
・自然治癒(微)
「ほぼ僕と一緒だな……」
ただ、加護はない。
なるほど。
ということは、ステータス的には互角くらい。
「さて……」
僕の武器は――
爪と牙。
……犬だからね。
どう戦えばいいんだろう?
考えながら、相手の周囲をグルグルと回る。
それに合わせて、相手もこちらを見続ける。
五メートル。
四メートル。
三メートル。
そして――
相手が動いた。
「来た!」
一気に突っ込んでくる。
うん。
普通のワンコくらいのスピードだ。
僕は身体を少し横へずらす。
そのまま相手の横をすり抜ける瞬間――
前足の爪を振り抜いた。
首元を狙う。
「ギャウ!」
一鳴きして、相手が距離を取る。
「……ん?」
違和感。
相手が――
浮いてる?
空中にふわっと浮かんでいる。
「空間魔法か、空膜かな?」
首筋からは血が垂れている。
でも、傷口がゆっくりと塞がっていく。
「自然治癒……?」
いや。
これは本当にゆっくりだ。
もしかしたら、空膜か空間魔法の効果なのかもしれない。
しばらくすると傷が完全に塞がった。
そして、相手が地面へ降りてくる。
お互いに睨み合う。
「ウー……」
僕もワンコらしく唸ってみる。
相手も唸る。
円を描くように動きながら、互いに隙を伺う。
そして――
「ワン!」
一鳴き。
ほぼ同時に、お互いが向かい合って突撃する。
「ゴンッ!」
……頭突き。
「…………」
星が舞った。
いや、漫画じゃないんだから……。
身体強化されている僕の方が威力は上だったらしい。
相手が吹き飛んでいく。
「……勝った?」
いや。
まだだ。
相手は倒れている。
僕はトドメを刺そうと、足に力を込める。
そして――
飛ぶ!
「……」
文字通り飛んだ。
「…………」
飛びすぎた。
「ゴンッ!」
壁に激突。
「いっっったぁ!」
頭突きのとき以上に星が舞った。
頭を振る。
クラクラする。
「……」
焦点を合わせる。
相手を見る。
まだ立ち上がっていない。
「……よし」
今度は慎重に。
トテトテ歩いて近づく。
右前足で、ちょっと小突いてみる。
……動かない。
虫の息だ。
「……ごめんね」
僕は相手の喉元に噛みついた。
次の瞬間――
白いワンコの身体が光の粒子へと変わっていく。
そして、その光は僕の身体へ吸い込まれていった。
「…………」
テレレテッテッテ~♪
……なんていう、某有名RPGのレベルアップ音が聞こえるわけでもない。
レベルアップしたのかどうかも、よく分からない。
でも――
光の粒子が収まったあと、地面には紫色の魔石が残っていた。
手のひらサイズくらいだ。
「魔石……」
そして、ステータスを確認してみる。
スキル欄に、新しい名前が増えていた。
【空爪撃】
「おお!」
新しいスキルだ。
どうやら試練の報酬らしい。
そのとき――
ピロン♪
目の前に四角いウィンドウが現れた。
【報酬を選択してください】
・武器
・防具
・宝飾品
・スキル
・食料
「……」
今の僕に、武器や防具、宝飾品は必要ない。
スキルも気になるけど――
「ご飯かな」
今のレベルで、すごいスキルがもらえるとも思えない。
それなら食料だ。
僕は前足の爪で、
【食料】
の項目を押してみる。
すると、ウィンドウが消えた。
そして――
「……肉?」
目の前に、大きな肉の塊が現れた。
「おお……」
とりあえず鑑定。
【オーク肉】
・一般的な肉。
・迷宮ではオークを倒すと必ず手に入る食料。
「なるほど……」
食料を手に入れたのはいい。
でも――
「どうやって持って帰ろう?」
大きな肉の塊を見つめる。
僕の身体は黒柴。
当然、両手で抱えることなんてできない。
……ん?
そういえば。
「空間魔法」
アイテムボックスみたいなものを作れないかな?
ちょっとイメージしてみる。
すると――
「おお!」
目の前に、黒い穴のようなものが開いた。
「これ……アイテムボックス?」
試しに、手に入れた魔石を咥えて近づけてみる。
魔石が黒い穴の中へ吸い込まれた。
すると――
頭の中に、何となく表示されたような感覚があった。
【アイテムボックス】
・魔石(転送部屋への鍵)×1
「おお!」
ちゃんと入ってる。
試しに取り出そうと念じてみる。
すると、魔石が目の前にポンッと現れた。
「便利だなぁ……」
入れるのも出すのも、念じるだけ。
これなら食料を持ち歩く必要もない。
「楽でいいよね♪」
僕は魔石をもう一度アイテムボックスへ収納する。
「一回戻って……」
そして、もう一つの肉を見つめる。
「ご飯かな?」
僕はオーク肉をアイテムボックスへ収納すると、試練の部屋を後にした。




