何故にワンコ?
目を覚ますと、大きな木の根元にいた。
正確には――
根元にできた洞の中だった。
「……ここ、どこだ?」
どうやら、かなり大きな木みたいだ。
何しろ、身長一七〇センチあった僕が横になれるくらいだから。
ただ、洞の高さはそれほどない。
頭をぶつけないように、四つん這いになって外へ出る。
そして、大きく伸びをする。
手を前に伸ばして、足を後ろに伸ばし、背中を反るように――
「……あれ?」
なんか……違う気がする。
もう一度、体を伸ばしてみる。
「ん、よし」
まあ、いいか。
それより、まずは状況確認だ。
記憶は――
「……まあ、省こう」
自分が自分だという認識はある。
前世の記憶もちゃんと残っている。
なら、とりあえず身体の確認だ。
「手は……」
動く。
「足も……」
動く。
「尻尾も……」
……動く?
「ん?」
ちょっと待て。
身体を見下ろす。
手足には――肉球。
そして、お尻には――
「尻尾……」
フサフサの毛。
身体全体も、毛で覆われている。
耳は……。
「横じゃなくて、上にあるね……」
ペタペタと耳を触ってみる。
……触れる。
というか、普通に動く。
「…………」
これは……。
「夢だな!」
きっとそうだ。
「クロくんに会いたくて、こんな夢を見てるんだ!」
そうに違いない。
「もう一度寝よう!」
僕はそう決めると、洞の中へ戻った。
丸くなって目を閉じる。
そして――
目の前に、何かが浮かんだ。
「……ん?」
目を開ける。
消えない。
ゲームなんかでよく見る、ステータス画面。
「……」
もう一度、目を閉じる。
開ける。
やっぱりある。
「…………」
頬をつねってみようとする。
……つねれない。
仕方がないので、前足で頬を叩いてみた。
「いたっ!」
痛い。
「……夢じゃないらしい」
どうやら、本当に転生したらしい。
とりあえず、確認してみよう。
目の前に浮かんでいるステータスを読み上げる。
【ステータス】
・名前:???(旧:五月 薫)
・種族:神獣・人狼族
・性別:♀
・レベル:1
・体力:50
・魔力:50
・知力:80
・素早さ:120
・力:45
【加護】
・聖フェンリルの加護
【スキル】
・状態異常無効
・自然治癒(小)
・身体強化
・聖魔法
・空間魔法
・アイテムボックス
・周囲索敵
・空膜
「…………」
なんだろう。
いろいろ突っ込みたいところはある。
でも、まず気になるのは――
ステータスウィンドウの上部に表示されている、自分の姿。
「……人狼族?」
どう見ても――
「柴犬だな……」
黒い毛。
立った耳。
丸い顔。
そして――
「黒柴……」
思わず呟く。
「クロ君じゃん……」
まるで、前世で毎日会っていたクロそのものだ。
ただ、額には少し変わった模様がある。
そして胸元には、白い毛がハート型に入っている。
「……まあ、これは可愛い♪」
どうやら僕は、人間ではなく――
ワンコとして転生したらしい。
「……ん?」
ステータスをもう一度見る。
「ん~?」
性別――♀。
「ワ、ワンコはまあ……」
犬になったことは、もう受け入れよう。
「♀かぁ~……」
前世でも使わなかったし。
「雄雌どっちでも同じかぁ~」
……そういう問題なのか?
まあ、いい。
自分がどういう存在なのかは、だいたい理解できた。
次は周囲の状況を確認しないと。
洞から顔だけを出して、辺りをキョロキョロと見回す。
上を見る。
「……高っ」
木が大きすぎて、かなり上まで続いている。
だけど、空が見えない。
というより――
「ここ、空じゃないな……」
周囲を見渡す。
大きな木。
その前方には――
「湖……かな?」
水面が見える。
そして、湖の近くには滝のようなものもある。
「綺麗だなぁ……」
まるで観光地みたいだ。
……まあ、今の僕は黒柴だけど。
周囲を見渡してみる。
なんとなく、近くに生き物の気配は感じない。
「……あ」
そういえば。
「索敵……」
スキルにあった。
意識を集中してみる。
すると――
頭の中に、この周辺の映像が浮かび上がった。
「おお……」
まるで地図を見るように、周囲の様子が分かる。
しかも、普通に見るよりも鮮明だ。
木々も地面も――
透けて見えているような感覚。
「すご……」
これが周囲索敵か。
しばらく確認してみる。
……危険な感じはない。
近くに敵らしい存在もいない。
「ん?」
ただ――
湖の方から、何か力のようなものを感じる。
「なんだろう?」
それと、もう一つ。
上の方からも、生物……なのかな?
何かが動いているのが分かる。
「まあ、ここにずっといるわけにもいかないし」
とりあえず、湖の方へ行ってみよう。
「湖には注意しながら……ね」
僕は洞から出る。
そして、ゆっくりと湖へ向かって歩き始めた。




