辺境伯と初の買取
ヒト形に戻って席に着くと、国王様とトリスタンさんは、なんだか凄く残念そうな顔をしていた。
反対に、ギネヴ様とマーリンさんは満足そうだ。
……そんなにワンコをモフモフしたかったの?
「うむ。では、黄昏の剣はパルムの街に拠点を持ち、迷宮の攻略を進めるように」
国王様が指示を出した、その時だった。
コンコン。
応接室のドアがノックされる。
「辺境伯ザックス・フォン・パルムです」
「おお、ザックスか!」
国王様が返事をすると、エルザさんがドアを開けた。
入ってきたのは、口髭を蓄えた、彫りの深い顔立ちの男性。
鋭い目付きをしているけど、どこか貫禄がある。
その後ろにはギルマスもいた。
すると、黄昏の剣の三人が一斉に席を立ち、私の後ろに並んだ。
私も慌てて立ち上がろうとしたけど――。
ぐっ。
アーサーさんとランスロットさんに両肩を押さえられ、座らされる。
「ライザは座っててね」
「えっ? なんで?」
この中で、何の立場もないのは私だけなんだけど?
すると国王様も、
「うむ。我らの目的がライザ殿でもあるからな。座っていてもらえるか?」
「えっ……あ、はい」
返事をしたところで、辺境伯様が国王様たちに向かって一礼し、空いている椅子に腰を下ろした。
「ご無沙汰しております。ザックス辺境伯、遅くなりましたが、ただいま御前に参りました」
「ザックス、そんなに堅く挨拶せんでも良いぞ。王宮ではないのだからな」
「そうですか……。なら、普段通りにさせてもらいます」
「うむ。同じパーティーで戦った仲なのだからな」
「一時的ですがね……」
「それでも仲間なのは違いないわ♪」
ギネヴ様が楽しそうに笑う。
「ありがとうございます」
私はそのやり取りを、ぼーっと聞いていた。
……国王様と辺境伯様って、一緒にパーティーを組んだことがあるんだ。
「いや、西門にチュールのハグレが出たらしく、その対処の報告などを聞いていたので遅れました」
その言葉を聞いて、黄昏の剣の三人が反応する。
「ハグレのチュールか……。すぐ俺たちが行こう!」
「そうね。警備隊でも大丈夫でしょうけど、あの魔物は卑怯だから時間が掛かるし、被害が増えるわね」
あれ?
……私が倒したのとは違うのかな?
私はギルマスを見る。
するとギルマスは、辺境伯様の方を向いた。
「チュールの討伐は済んでおり、その際に負傷した警備隊の兵も、死傷者を出すことなく街に戻ってきている。大丈夫だ」
辺境伯様が答える。
「チュールの討伐って時間が掛かるはずよ? 発見はだいぶ前なの?」
ギネヴ様が尋ねる。
するとギルマスが口を開いた。
「失礼します。ハグレチュールの報告は今朝です」
……なんだか、こっちをチラチラ見ながら話している。
「討伐はAランク冒険者に依頼し、すでに討伐済みです。さらに、負傷した警備隊には回復魔法を掛け、その場から姿を消したとのことです」
……全員の視線が刺さる。
詳しく話せ、と言っているような目だ。
「えっと……黄昏の剣の皆さんを待つ間、暇だったので、何か依頼がないかなと思って……」
「ちょうど高ランク依頼があったので、お願いしました。ライザ様の実力なら、昼前には戻ってくると思いましたので……」
エルザさんが続ける。
「エルザさんの見る目は間違いないようね」
ギネヴ様が笑う。
「それでは……この方が?」
辺境伯様が驚いたように私を見る。
「まあ、そうだな……」
国王様が頷く。
「ライザちゃんなら、そうね♪」
ギネヴ様も頷く。
「うむ。我らより強いかもしれん」
トリスタンさんまで、そんなことを言う。
すると、その後に黄昏の剣の三人も、
「「「さすが、ライザだな!」」」
……なぜか、皆が納得している。
「そうか……。確かに報告には少女とあったが、見間違いだろうと思っていたのだが……」
辺境伯様が立ち上がった。
そして、私に向かって頭を下げる。
「ライザ殿。我が隊の兵たちを守ってくださり、ありがとう」
「いえ……警備隊の方たちが追い詰めてくださったので、見つけるのが早くて倒せたんです」
私も慌てて立ち上がり頭を下げる。
「私は、横から手柄をさらったような感じになるかと……。お褒めの言葉や手柄は、警備隊の皆さんにお願いします」
そう言ってから、思い出した。
「あ、チュールは私のアイテムボックスに入ってます」
「なら、あとでギルドで買い取ろう」
「ありがとうございます」
「うむ、とりあえずはこんなところか?」
国王様が立ち上がる。
「あとはギルマスとエルザに任せて、私たちはザックスの屋敷にお邪魔しに行こう」
「そうね。あなたたちは、拠点を作るのとライザさんとのお話もあるでしょ?」
ギネヴ様が黄昏の剣に尋ねる。
「そうですね。拠点となる場所を探して、ライザと食事でもしようかと思います」
アーサーさんが答えた。
「うむ。なら行こうか、ザックス」
「そうですな……。ゆっくり酒でも飲んで語りますかな」
皆が席を立ったので、私も立ち上がる。
一人ずつ握手を交わし、国王様たちは部屋を後にした。
「ライザは少しギルドで待っててくれ。書類の処理や買い取りもあるだろうからな」
アーサーさんが言う。
「俺たちは、拠点になる借家を探してくる」
「そうね。拠点が決まったら呼びに来るから、食事を一緒にね♪」
「そうだな。食材も探してご馳走しよう」
「あ、はい! 楽しみにしてます」
黄昏の剣の三人も部屋を出て行った。
部屋に残ったギルマスとエルザさんが――。
「ふ~っ」
同時に息を吐き、ソファーに腰を下ろす。
「災害レベルの顔ぶれだったな……」
「そうですね……。失礼があれば、首が飛んでもおかしくなかった面々ですね」
「あ、そうなんですね……」
「そうよ? この国のトップ10のうち、7人がここにいたのよ?」
なるほど……。
……いや、そんな人たちが一部屋に集まってたの?
「まあ、国王様が『闘わせろ』と言わなかったのが幸いだったな!」
「聞いた話だと、ギルマスよりバトルマニアだとか?」
「おう! この国のギルマスは全員、国王様と剣を交えてる」
ギルマスが遠い目をする。
「俺もボコボコにされた……」
そうなんだ!
……ヤバかったかな?
途中で刃向かったりしたから、あとで何か言われるかな?
「そうだ! ライザ」
ギルマスがこちらを見る。
「狩ってきたチュールを倉庫に出してくれ。解体して、値段を出さないとな」
「倉庫?」
「案内しますね」
エルザさんが立ち上がり、付いてくるように促す。
私はギルマスを置いて、エルザさんと一緒に倉庫へ向かった。
倉庫は闘技場の横にあった。
扉を開け、中に入る。
指定された場所にチュールを取り出した。
すると、倉庫の事務室から一人の男性が出てくる。
……ハゲたおっさんだ。
ツルツルだ!
しかも、なんだか光ってる?
いや、反射か?
顔立ちと相まって、ちょっと格好いい。
「チュールか……」
男性がチュールを確認する。
「こいつは頭以外、全部使い道があるからな」
そう言うと、慣れた手付きで解体を始めた。
あっという間に、甲殻、肉、魔石などに分解されていく。
エルザさんが査定を始める。
「魔石はA等級なので金貨100枚。甲殻も傷が少ないので、少し高めの査定で金貨30枚ですね」
そして肉を確認する。
「お肉は72キロなので、銀貨72枚になります」
「あ、お肉は10キロ持って帰りたいんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
エルザさんが計算し直す。
「となると、金貨130枚、銀貨62枚ですね」
さらに依頼書を確認して、
「討伐報酬と合わせて……金貨185枚と銀貨62枚です。すぐに持ってきますので、ギルドの受付でお待ちくださいね」
「はい」
エルザさんは倉庫を出て行った。
私は10キロ分のチュール肉をアイテムボックスに収納しながら、解体をしてくれた男性の頭を見ていた。
「ん?」
男性が私を見る。
「ハゲが珍しいか?」
「いえ。手入れがされてて、格好いいです」
「おう、ありがとな!」
男性が嬉しそうに笑った。
「俺はモリソンだ。元Bランクなんだが、娘ができたんで、今はここで働いてる」
「あ、私はライザです。よろしくお願いします」
そして、にっこり笑う。
「モリソンさんの娘さんなら、きっと可愛いでしょうね♪」
「おっ? おう!」
モリソンさんが胸を張る。
「世界一だ!」
二人で笑い、握手をしてから倉庫を出た。
受付へ戻り、端の方に座って待っていると――。
「おう、姉ちゃん! 見ない顔だな!」
酔っぱらったおじさんが絡んできた。
「何ですか?」
「ん~。このギルドは食堂も酒場もあるからな~」
おじさんは千鳥足で近付いてくる。
「若い女の子は、あんまり遅くまで居たら駄目だぜ~」
……それだけ言って。
おじさんは千鳥足で酒場へ戻っていった。
……お約束の絡みではなく、ただの忠告だった。
見た目は反社会的な集団に所属していそうな、ちょっと怖いおじさんだったのに。
いい人だった!
『アリソンという、このギルドの面倒見の良い冒険者のようです』
コアIIが教えてくれる。
『他の冒険者が迷宮で助けられたり、面倒を見てもらっている様子を、コアが記録していました』
なるほど。
ちなみにティアは、ずっと寝ている。
肩車状態なのに、よく落ちないな……。
「ライザさ~ん」
呼ばれた方向を見ると、エルザさんが袋を持って立っていた。
「では、これが報酬ですね」
ずっしりと重そうな袋を差し出される。
「高額なので、襲われないように気を付けてくださいね」
「あ、はい」
「それで、今日はこのあと黄昏の剣の方たちとお食事ですね?」
「そうですね。少しお話ししてきます」
「宿泊先など、困ったことがあればすぐに私に相談してくださいね」
「はい♪ ありがとうございます」
しばらくエルザさんと雑談していると、ランスロットさんが迎えに来てくれた。
どうやら、拠点が決まったようだ。




