内輪話
そんな話をしていると、応接室に着いた。
応接セットのソファーには国王様とギネヴ様が座り、その後ろにはトリスタンさんが立っている。
その向かいには、黄昏の剣の三人。
そして、私とギルマスは向かい合うようお誕生席に座った!
「とりあえず、私は辺境伯様に報告に行ってきますので、皆さんはゆっくりお話しください。エルザも、お茶を出し終わったら依頼の処理を頼む」
「まあ、気を遣ってくれてありがとう♪」
……なんとなくだけど、対外的なことはギネヴ様が取り仕切っているのかな?
国王様よりも、ギネヴ様が指揮権を持っているような感じがする。
そんなことを考えている間に、ギルマスとエルザさんは応接室を出て行った。
部屋に残ったのは、私を含めて七人だ。
「改めて、挨拶はしなくても良いかな?」
国王様が笑顔で聞いてくる。
「はい、大丈夫です」
「緊張しなくて大丈夫だぞ。俺たちしかいないからな」
アーサーさんが笑顔で言う。
「ライザ、すまんな。出会いから迷宮を出るまでのことは、すべて師匠たちに話してある」
ランスロットさんが頭を下げると、マーリンさんも一緒になって、
「ごめんね」
と申し訳なさそうに言った。
「ん? 謝ることなんかないよ? 何かあったっけ?」
「いや、おまえ、ワンコだったじゃねーか!」
アーサーさんが思い出したように声を上げる。
「美少女になってるんだから、ワンコだったことはバレたくなかったんじゃないのか?」
「あ~、ここにいる人なら大丈夫だよ? 他の人に漏らされるのは困るけど……」
「だよな? ギルドから問い合わせが来た時、少し悩んだからな……」
「そうそう。アーサーがさ、神妙な顔して話してきたから面白かったわ」
「そうだな。ギルドから問い合わせが来たってことは、ワンコスタイルじゃないんだろうとは思ってたんだがな……」
「おまえたち、そこまで分かってて、ギルドに入った時には分からなかったのか……」
国王様たちが呆れたような顔をする。
「あの気配は、修羅場を潜り抜けた高ランクの者しか分からんかもしれんな……」
トリスタンさんが腕を組みながら呟く。
「まだまだ修行が足りないわね……」
……あ、これ、黄昏の剣の三人が怒られる流れかも。
ちょっと心配になって、私は慌てて口を挟んだ。
「そんなに変な気配が出てましたか?」
「そうだな……」
国王様が少し考える。
「変な気配というより……」
そこで一度、言葉を切った。
「逆らったら殺される、とでもいうような……圧倒的な力を感じたな」
「そうね。パルムの街に着いた時から感じていたものね」
そんなに?
私は頭の中でコアIIに尋ねる。
『コアII、気配を抑えることってできる?』
『はい、大丈夫です。平均的な人族の気配に調整します』
すると――。
「ん? 気配が変わったな……」
国王様が少し驚いたように私を見る。
「普通の少女のようになったな」
「そうね♪ これなら気付く人はほとんどいないわね」
国王様とギネヴ様が、今までよりも安心したような笑顔を浮かべた。
「う~ん……俺たちは、やっぱり修行が足りないか……」
「そうだね……気付かなかったのは事実だしね……」
「だな。アーサーなんか、ライザを見てからギルマスに会うまで、『すっげー美少女がいたな!』とか、はしゃいでたしな」
「ライザだったとはな……迂闊だったぜ」
黄昏の剣の三人が、揃って落ち込んでいる。
すると、トリスタンさんが厳しい目を向けた。
「おまえたちは、このまま修行を続けるように」
三人の背筋が伸びる。
「せっかくの武器も、まだ使いこなせておらんしな……」
「そうね。もう一度、ここの迷宮に潜ってくる?」
「うむ、そうだな」
国王様が頷く。
「実際、試練の部屋で戦ったのはワイバーンであろう? 次はベヒモスくらいでないとな……」
「えっ……でも、ベヒモスってレベル100を超えないと、試練の部屋では出ないですよ?」
思わず口から出てしまった。
「レベル100か……もう一度潜れば届くな!」
「そうね。今度は攻略もしやすいしね」
「じゃあ、行くか?」
黄昏の剣の三人は、もう完全に行く気だ。
「よし。なら、ベヒモスに勝てるまで帰ってくることはならん」
国王様の言葉に、三人とも真剣な顔で頷いた。
……あれ?
「ところで……ベヒモスの次ってあるの?」
ギネヴ様が気軽に聞いてくる。
私は少し考えてから答えた。
「ベヒモスが三連続で続いたあと、エンシェントドラゴンと対峙することになりますね~」
……一瞬、部屋が静かになった。
「……ベヒモスが三連続?」
「はい」
「……三体?」
「はい」
「連続で?」
「はい」
国王様たちの顔が少し引き攣っている。
……あれ? そんなに大変かな?
すると、私の頭の上に乗っていたティアが、なぜか胸を張っている。
私はティアを両手で掴み、皆の前に差し出した。
「あ、ティアがここにいるから、最後は誰になるの?」
「ワレが迷宮から離れたので、ベヒモスで最後じゃな」
ティアの言葉を聞いてから、私は皆の方を向いた。
……六人とも、さらに顔が引き攣ってる。
「えっと……聞き間違いじゃなかったら、ティアさんはエンシェントドラゴンなの?」
頬をピクピクさせながら、ギネヴ様が確認してくる。
「うむ、そうじゃな。ライザ様に負けて、今は従魔として仕えておる」
「ラ、ライザさんは……何者?」
ギネヴ様が恐る恐る聞いてくる。
「私は、ワンコですよ?」
そう答えて、ワンコ形態に戻る。
すると――。
ギネヴ様とマーリンさんの目が、一瞬で輝いた。
国王様もトリスタンさんも、ほんの少しだけ頬が緩んでいる。
次の瞬間。
「きゃー! やっぱり可愛い!」
「モフモフ~!」
女性陣二人に捕まった。
むぎゅむぎゅ、モフモフされる。
……横目で見ると、国王様もトリスタンさんも手が少し動いている。
触りたいんですか?
「うむ……その額のシンボルを見るに、神獣なのだな……」
国王様がポツリと呟いた。
「えっ? 神獣って?」
マーリンさんが聞き返す。
「子供の頃に教えたはずだが? 忘れたのか?」
トリスタンさんの重い声が響く。
「あらあら。そうね……」
ギネヴ様が苦笑しながら説明してくれた。
「この世界を創造した神様の使いで、最強の生物のことよ。目印は、今のライザさんの額にある印ね」
「ヒト形の時は、目に見えにくい場所に浮かんでいるはずよ?」
……ヒト形の時は、どこにあるんだろ?
私はコアIIに尋ねる。
『コアII、分かる?』
「右のお尻じゃな!」
『はい、右のお尻に――』
ティアが答えた!
コアIIが答えるより早く!
……そして。
「「「「「「右のお尻!?」」」」」」
お尻という言葉を聞いた瞬間、男性陣の目が見開かれた。
……怖いんですけど?
女性陣も一瞬、私のお尻の方を見ようとしている。
いやいやいや!
このままモフモフされ続けるのもまずいので、慌ててヒト形に戻った。
最近は、コアIIの制御のおかげで、ワンコからヒト、ヒトからワンコへ変身する時、服を瞬時にアイテムボックスへ収納したり、再び着用したりできるようになっている。
つまり――。
すっぽんぽんにならない!
これは本当に助かっている。
……特に、今みたいに女性陣が目を輝かせている時は。
本当に。




