↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/25

ギルドマスター

ギルドマスターになって、五年か……。


 こんなに面白そうなことは、初めてか?


 いや……アーサーと手合わせした時も楽しかったな。


 ギルドマスターなんてものになっちまったが、暇があれば冒険者と手合わせしたり、一人で迷宮に潜ったりしている。


 おかげで、現役の頃より強くなっている自覚はある。


 だが……今回はダメだ。


 あの娘を見た瞬間から、背中の冷や汗が止まらなかった。


 平気な顔であの娘と対峙していたエルザには、少し感心したが……。


 あの異様な気配は、実際に戦う者でなければ分からないのだろう。


 それも、高ランクの冒険者。


 少なくとも、Sランクに近い実力がなければ気付けないはずだ。


 執務室の奥にある扉を開ける。


 そこには、長年の相棒が眠っている。


 大剣――グラン。


 ミスリルをふんだんに使って鍛え上げた、レジェンド級には届かないものの、間違いなくS級に分類される武器だ。


 グランを手に取り、執務室を出る。


 ――ライガー・ニールセン。


 32歳。


 元Aランク冒険者。


 現プラム支部ギルドマスター。


 そして、自他共に認めるバトルマニア。


 そんな俺が、久しぶりに本気で戦える相手かもしれない。


 そう思うと、自然と口元が緩んだ。


 闘技場へ向かう。


 扉を開けると、中央に一人の少女が立っていた。


 手にはショート丈の木剣。


 一緒にいたミニドラゴンは、闘技場の壁際にちょこんと座っている。


 観覧席には、暇を持て余した冒険者達。


 そして四方には、結界を張るための魔法使い達が配置されている。


 準備は万端だ。


「待たせたか?」


 ギルドマスターとしての余裕を見せながら、声をかける。


「いえ。武器をどうしようか悩んでいたので、大丈夫でしたよ」


「そうか……」


 ……武器を悩む?


 まさか、木剣を選んだことを言っているのか?


「本気でやる。死なないようにな」


「あ、はい♪ 頑張ります」


 ……おいおい。


 頑張られると、こっちが辛いんだが。


 だが、やるしかない。


「エルザ! 頼む!」


「はい! この鐘が鳴ったら模擬戦開始です!」


 エルザが鐘の前に立つ。


 そして――


 コォーン♪


 少し間の抜けた鐘の音が響いた。


 瞬間。


 俺は構えてもいない少女へ向かって踏み込んだ。


 グランを振り下ろす。


 ――獲った!


 そう思った。


 だが――


 少女の持つ木剣が、まるで踊るように優しく円を描いた。


 そして、グランに触れる。


 たったそれだけ。


 なのに――


 俺の剣筋が、逸らされた。


 ドォーン!


 グランが闘技場の床へ突き刺さる。


 何が起きた?


 理解するより早く、少女の木剣が俺の首筋へ添えられていた。


 ……くっ。


 負けだ。


 完全に取られた。


 だが――


 簡単に終わらせるつもりはない。


 俺は木剣を片手で握り、そのまま少女ごと背負うように投げ飛ばす。


 ……軽い。


 いや、違う。


 重さを感じない。


 まるで、自分から飛んだみたいだ。


 着地点を予測し、グランを横薙ぎに振るう。


 だが――


 落ちてこない。


 少女は空中に膜のようなものを張り、そこを足場にしてさらに飛び、距離を取った。


 ……なんだ、今のは。


 魔法?


 それとも――身体能力か?


 俺はグランを構え直した。


 ――面白ぇ。


---


 ふぅ……。


 さすがにギルドマスターだよね。


 ……っていうか、首筋に木剣を当てたんだから、普通は終わりじゃないの?


 手掴みで投げられたけど……。


 もし本物の剣だったとしても、ああやって鷲掴みにされたら斬れないのかな?


 ……斬れなかったら、剣の意味ないよね。


 とりあえず距離を取ったし、魔法でも撃てばいいかな?


『ラ、ライザ様! 魔法を撃つのであれば、私が制御しますので、お任せいただけますか?』


 コアIIが、珍しく慌てた様子で提案してくる。


『ん? なら、コアIIお願いね』


 体の制御をコアIIに任せる。


 すると――


「火龍」


 えっ?


 ヤバくない?


 前に突き出した右手の前に、巨大な炎の龍が現れた。


 ……ギルマス、めっちゃ冷や汗流してるんだけど。


「コアII? やりすぎじゃない?」


『大丈夫です。お任せください』


「いや、そういう問題じゃ――」


『どうも、皆様はライザ様を下に見すぎているようです。少し懲らしめる必要があるかと』


 いやいやいや!


 ダメでしょ!


 みんな僕のことなんて知らないんだから。


 小娘一人を下に見たって、普通だよ!


「踊れ! 火龍!」


 コアIIが叫ぶ。


 すると、火龍が右手から離れた。


 そのまま闘技場を駆け抜け――


 観客席を守っていた結界に直撃する。


 バリィィン!


 結界が砕けた。


 ……え?


 そのまま火龍は、ギルマスへと標的を変える。


 ギルマスも大剣を構えた。


 受けるつもりだ!


「行け!」


 コアIIぅぅぅ!


 手加減!


 手加減して!


 止めてぇぇぇ!


 頭の中で必死に叫ぶ。


 そして、黒焦げになったギルマスの姿が脳裏に浮かぶ。


 ……終わった。


 もう迷宮に戻って、大人しくしていよう。


 そんなことを考えながら意識を戻すと――


 右手を握り締めるような動作をするコアIIの姿が見えた。


 すると――


 ギルマスの目前で、火龍が消えた。


『ライザ様、お体をお返しします』


「……」


 なんだろう。


 妙にスッキリした感じで、コアIIから体の制御が返ってきた。


 とりあえず、目の前のギルマスを見る。


 ……無事だ。


 良かった。


 コォーン♪


 間の抜けた鐘の音が響く。


「そこまで……」


 エルザさんの力ない声が闘技場に響いた。


 呆然としているギルマスに近づく。


「大丈夫ですか?」


「お、おう……」


 まだ、若干現実に戻ってきていないみたいだ。


 そこへエルザさんが、何かを手に持ってギルマスのところへやってくる。


「返事が来たみたいだな……」


 ギルマスが受け取り、手紙を読み始める。


 そして――


「一つ聞きたい。『ワンコのライザ』とは?」


「あ、僕のことですね。ワンコみたいだと言われていたので……」


 ちょっとだけ誤魔化した。


「そうか……。もう少し早く、この手紙が来ていればな……」


 ギルマスが呟きながら、手紙をエルザさんへ渡す。


 エルザさんも手紙を読み――


 その場に力なく座り込んだ。


 ……震えてる。


「えっと……どうでした?」


 無言のまま、エルザさんから手紙を受け取る。


 そこには――


『プラム支部ギルドマスター

 ライガー・ニールセン殿


 黄昏の剣の三名より、言葉をお伝えします。


 俺たちの知るワンコのライザならば、身元の保証はしよう。


 また、そのライザには手を出すな!


 俺たち三人でも勝てないのだから』


 ……と、書いてあった。


 あ。


 そうか。


 アーサー達は、僕がヒト型になれるようになったことを知らないんだ。


 それでも『ワンコのライザ』でちゃんと僕だと分かって、身元保証までしてくれる。


 ……アーサーって、やっぱり人が良いなぁ。


「えっと……どうしたら良いですか?」


「お、おう……そうだな。執務室まで来てもらえるか?」


「はい♪」


「エルザ、飲み物を頼む」


「は、はい……」


 こうして、僕達はギルマスの執務室へ移動することになった。


 応接セットへ促され、ソファーに座る。


 僕の隣には、偉そうに短い手足を組んでふんぞり返っているティア。


 テーブルを挟んだ向かいには、ギルマスが座っている。


 ……なんか凹んでる。


「ど、どうかしましたか?」


「いや、まぁ……」


 ギルマスが頭を掻く。


「済まなかったな。ギルドの長として、ギルドでの扱いの悪さを謝罪する。それと、俺の我が儘な要求に付き合ってくれて感謝する」


 そう言って、テーブルに両手を付き、頭を下げる。


「えっと……ギルドで悪い扱いなんか受けてないですよ?」


 実際、そんなに気にしてない。


「それに、対人戦は初めてだったので楽しかったです。ちょっとやり過ぎてしまって……こちらこそ、申し訳ありませんでした」


「……そうか」


 お互いに謝っていると、コンコンとノックの音が響く。


「入れ」


 扉が開き、エルザさんがお盆にコップとティーポットを乗せて入ってきた。


 僕とギルマスの前に、それぞれコップが置かれる。


「ワレのは?」


「えっ……?」


 ティアが当然のように尋ねる。


 エルザさんの顔が、みるみる青ざめていく。


「あ、あの……」


「ぼ、僕のあげるから、良い子にしてて」


 慌てて自分の前にあるコップとソーサーをティアの前へずらす。


 するとティアはソファーから降り、短い手でカップを持った。


 ……どうやって飲むんだろう。


 頑張っても、その短い手じゃ口まで届かなくない?


 そう思って見ていると――


「むぅ……飲めん!」


 うるうるした目で、こちらを見てくる。


「はいはい」


 仕方がないので、カップをティアの口元へ持っていく。


 するとティアは、上を向いて口を大きく開けて待っている。


 ……流し込めってことね。


 そのまま紅茶を流し込む。


 豪快だな……。


「ワッハッハッハ!」


 向かいで見ていたギルマスが、大笑いする。


 そして笑いながら、自分の飲み物をこちらへずらした。


「こっちも飲んでくれ」


「え?」


「いや、俺はもういい。それより――」


 ギルマスがこちらを見る。


「冒険者登録はするのか? するのなら、約束通りプラム支部ギルドマスターの権限でAランクで登録してやるぞ?」


「あ、そうですね」


 Aランク……。


 ちょっと凄そう。


「身分証も何も持っていないので、冒険者登録はしておきたいです」


「分かった。エルザ、登録を頼む」


「はい」


 エルザさんは頷くと、部屋を出ていった。


 そして、部屋に残ったギルマスが少し真剣な顔になる。


「でな……答えられなかったら答えなくていいんだが……」


「はい?」


「……何者なんだ?」


 直球だった。


「えっと……実は、僕自身もよく分かってないんです」


「ほう?」


「気付いたら迷宮にいて、迷宮から出るにはレベルを上げなきゃダメだと、ウンディーネさんに言われて……」


「ウンディーネって……精霊のか?」


「はい。47階層のルルの湖でお会いして、暫く色々教えてもらいました」


「なるほどな……」


 ギルマスが考え込む。


「アーサー達、黄昏の剣とは、その階層で知り合ったのか?」


「そうですね。三人から外の話を聞いて、それで外に出てみようかなって……」


「ずっと迷宮で鍛えていたのか?」


「えぇ。冒険者に比べると弱いから、鍛えなさいって……」


「比べたのは、47階層のオアシスに来た冒険者か?」


「あ、たぶんそうですね。ウンディーネさんが知っている冒険者達だと言ってました」


 そういえば――。


「たしか、黄昏の剣の師匠さんのパーティーだと聞いてます」


「おいおい……」


 ギルマスが苦笑する。


「英雄王と、その仲間だぞ。そりゃ強いよな」


 英雄王……。


 アーサーのお父さんか。


「久しぶりに全力を出したのに、あしらわれちまったな」


「いえ、ギリギリでしたよ!」


 これは本当。


「大剣なのに打ち込みの速さにはビックリしましたし、その後も気を抜かないところは勉強になりました」


「そうか……」


 ギルマスがニヤリと笑う。


「次は負けん!」


「えっ?」


 ……またやるの?


 これが、ギルマスかぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。