辺境の街パルムとギルド
ギルド職員のエルザさんと一緒に、辺境の街パルムへ入る。
迷宮から馬車で一時間くらいかな?
……お尻が痛い。
街の周囲は、高くて強固そうな壁に囲まれている。
中へ入るには検閲があるみたいだけど、エルザさんと一緒だからか、特に止められることもなく、そのまま街の中へ入ることができた。
馬車の後ろから街並みを眺める。
古い西洋の建物みたいなものが多い。
……転生あるあるな気がする。
暫く馬車に揺られていると、とんがり屋根の大きな建物の前で馬車が停まった。
「こちらです」
エルザさんに促されて馬車を降り、建物の正面から中へ入る。
中に入ってみると、前世の銀行のような雰囲気だった。
受付だろうか?
いくつか窓口が並んでいて、何人かの職員が座っている。
……ん?
受付には綺麗な人や可愛い人がいるところと、厳つい男の人が座っているところがある。
そして、なぜか厳つい男の人の窓口だけ空いている。
他の窓口には長蛇の列なのに……。
みんな、分かりやすいなぁ。
エルザさんは、迷うことなくその厳つい男の人のところへ向かい、何やら話をしている。
暫くすると、
「どうぞ、こちらへ」
エルザさんに促され、その後をついていく。
周りの人達が一瞬こちらを見るものの、すぐに興味を失ったように掲示板らしきものを見たり、仲間同士で話をしたりしている。
そして案内されたのは――
……取調室?
窓もなく、机と椅子しかない。
ここに机の上の照明でもあれば、前世でテレビで見た取調室そのものだ。
「こちらにお座りください」
言われるまま椅子に座る。
そして――
ティアの足には鎖が付けられた。
……とりあえず、ティアには我慢してもらおう。
あまりにも扱いが酷かったら、一暴れして迷宮に戻ろう。
そんなことをティアと念話で話していると、暫くして部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、体格の良いイケメンのおじさん。
年齢は……たぶん四十代くらいかな?
顔の左側には、爪で引っ掻かれたような大きな傷跡がある。
その傷跡のせいで、かなり迫力がある。
イケメンおじさんは、エルザさんの斜め後ろに座ると、無言でこちらを見つめてきた。
「今、ギルドの専用通信でティンジルのギルドに問い合わせています。黄昏の剣は、現在ティンジルに滞在しているようなので、早ければ今日中には返事が来ると思います」
「今日中ですか……。それまで、僕達はどうしたら?」
「まず、黄昏の剣の方達が貴女を知らなかった場合、貴女は罪に問われることになります」
「えっ?」
「逆に、もし本当にお知り合いで、身元を保証してくださるのであれば、何も問題はありません」
なるほど。
エルザさん、めっちゃ疑ってる。
まぁ……冒険者登録もしていない。
身分証も持っていない。
それなのに、迷宮の奥から出てきた。
しかも、自称Sランク冒険者達と知り合い。
……うん。
僕がエルザさんの立場でも疑うわ。
そんなことを考えていると、後ろから声がした。
「おう! それなら返事が来るまで暇だな?」
「そうなりますね……」
「なら、そっちのミニドラゴンか、お前と戦わせろよ」
「えっ?」
突然、何を言い出すんだ、この人。
「お前、結構強いだろ? それに、そのミニドラゴン……普通のドラゴンじゃねぇな」
鋭い眼光。
そして、ものすごい威圧感。
どうやら、この人も相当強いらしい。
「また、そんなことを言って……。ギルマスにこんな小さな子が敵うわけないじゃないですか……」
エルザさんが止めようとする。
すると――
「ワレは構わんが……」
ティアが普通に声を出した。
「えっ? 喋った?」
エルザさんが慌てる。
「ほれ、普通のドラゴンじゃない。話せるということは、ドラゴンでも数百年生きている種ってことだろ?」
「ワレが戦うとなると、この街が無くなるぞよ? それでも構わぬかの?」
いやいやいや!
ダメだって!
それじゃ大量虐殺になるでしょ!
「はぁ……そうですね。ティアと戦わせるのは不味いかな……」
さすがにティアと戦わせるわけにはいかない。
「あ、ティアっていうのは、このドラゴンの名前です」
「なら、お前が相手をしてみるか?」
ニヤニヤしながら、ギルマスがこちらを見る。
……あれ?
さっきまでの厳ついイケオジの顔が、なんだかスケベ親父みたいな顔になってるんだけど。
「はぁ……。僕が負けたら、どうなりますか?」
「そうだな……。返事を待たずに奴隷落ちでどうだ?」
「ど、奴隷ですと?」
なんて恐ろしいことをサラッと言うんだ、この人。
「なら、僕が勝ったら?」
「勝てたなら、無罪放免。そのうえ、Aランク冒険者として登録してやるよ」
……なかなかの取引に思える。
少なくとも、悪い条件ではない。
『ライザ様、よくお考えください。このまま待っていれば、アーサー様達から身元の保証を受けられます。わざわざ危険を冒す必要はありません』
コアIIの冷静な判断。
うん。
確かにその通りだ。
『コアIIは、僕が負けると思う?』
『いいえ。手加減をしなければ、相手を殺してしまう可能性があります』
『そうよな。この男が人間で言うSランク冒険者だとしても、ライザ様なら余裕じゃろう』
ティアまで参戦してくる。
『なら、戦ってみようかな?』
『『手加減を忘れずに』』
……二人から念を押されてしまった。
「分かりました。僕がやります」
「おう!」
「ただ、条件があるんですが……」
「なんだ?」
「えっと……僕は木刀で、ギルマスさんは得意な武器で、真剣勝負をお願いします」
「舐めてんのか?」
ギルマスの顔から笑みが消えた。
「これでも元Aランク冒険者だぞ? 殺されてぇのか?」
「ふぉっ!」
めっちゃキレてる!
傷のある方のこめかみがピクピクしてる。
「あ、いえ。そうじゃなくて……その方が安全かなぁ~って……」
「お前……殺す!」
「えぇ~?」
な、なんで?
『『ライザ様、煽っていますよ?』』
えっ?
煽ってる?
……そんなつもりは全然ないんだけど。
「おう! すぐに下の闘技場へ来い! エルザ、ギルドにいる冒険者へ通達しておけ!」
「ギルマスが女の子をなぶるところを見せるんですか? 見世物にするつもりですか?」
「バカ! こいつは強いんだよ。本気を出すから、結界を張れる奴らに結界を張らせろ!」
「分かりました」
エルザさんは、すぐに部屋を出ていった。
「なら、俺も準備して下に行く。闘技場は、この部屋を出て左の階段を降りた先だ。得物も闘技場にある」
そう言いながら、ティアの足に付けられていた鎖を外す。
そして、そのままギルマスも部屋を出ていった。
「まぁ、適当にやるしかないじゃろうな」
ティアが僕の後頭部に張り付きながら呟く。
……適当にって。
まぁ、確かに本気でやったら危険だしね。
「とりあえず、闘技場に行こうか……」
『その前に、ライザ様。聖魔法で「回復・超」が使えるようになりました』
「えっ? なんで?」
『ティアに勝利した時のスキル進化が残っておりましたので。今後必要になるかと思い、習得しておきました』
「そうだね……」
湖に浸かれなくなった今、回復魔法は必要になる。
「ありがとう♪」
さて。
いよいよ闘技場か。
……まぁ、なるようになるよね。
「じゃあ、行こうか!」




