12,期待の新人デビュー。
冒険者が来たというのに、うちの期待の新人は泣いているばかりだ。
ここはひとつ、荒療治ということで。
「小梨くん。あっちに出口がある。帰るといいよ」
「で、出口だって? ふざけろ、こんな化け物の姿で出られるか」
「まぁまぁ。とにかく、このダンジョンから出るのが先決だ。本当にモンスター扱いされることになるよ。いまならまだ、人間社会との接点が残っている!」
僕の熱弁が心に届いたようで、小梨も気持ちを持ち直したようだ。
「てめぇ、タダで済むと思うなよ! 警察に突き出してやっからな!」
不良が警察を脅しに使ったらお終いだよね。
などと冷ややかには思わないのが、上司というものだ。
さて小梨が飛んでいく。
僕はそれを見届けながら、冒険者視点で思うわけだ。
ノリノリで第1階層に入る。第1階層にいるのは、どうせ雑魚モンスターだ。第1階層に脅威があるなど考えちゃいない。
そこに現れるのが、小梨祐一。
さっきまではただの不良高校生。
それが今や、巨大蝙蝠。
ランクの低い冒険者なら悲鳴を上げてもおかしくはない──
ほら、本当に聞こえてきた。
悲鳴が2つ。男女だな。
僕は急ぎ足で、第1階層の入り口を目指す。にしても何だか体が重い。まるで誰かを引きずっているように。
何となく、僕は自分の影を見下ろしてみた。
瞬間、影から手が出てきた。
白くて繊細な手が。続いて早苗さんの顔も出て来て──あ、苦しそうだぞ。
「お、溺れる!」
「えー。人さまの影に勝手に入っておきながら、溺れ死にそうなの?」
しかし影の中で溺死体ができても困るので、早苗さんを引っ張り出した。
なぜか全裸だ。
「露出狂?」
すると早苗さんは涙目になりつつ、
「ち、違うよぉ~! モンスターになったら、こんな感じになっちゃったの! それで知樹くんの影の中に沈み込んでいて、はじめはストーキングしやすいなって。けどそのうち息苦しくなって」
いまストーキングという単語が聞こえた気がしたけど。
それは置いておくとして、早苗さんは影内に入るモンスターとなったのか。
「命名、影女だね」
「もう少し可愛い名前がいい」
「……影子とか?」
「……影女でいいよ。ありがと知樹くん」
さて。早苗さんの件で忘れていたけど、今は小梨の晴れ舞台だ。
早苗さんはまた僕の影に潜水。
僕は重くなった影を引きずりつつ進む。しかし間違っても『重くなった』と言ってはいけないのだ。なぜなら早苗さんは女子だから。
ようやくダンジョン入口へ到着。
男と女の冒険者が、小梨に向かってハンドガンを発砲していた。そういえば銃声が聞こえるなと思ったんだ。
銃刀法も最上級国民には通用しない。
とはいえランクの高い冒険者なら、わざわざ銃を持ち込んだりはしないだろう。攻撃用の魔法を会得していないランクの低い冒険者だけが、銃などに頼る。
ということは、モンスターデビューの小梨にとっては好都合の相手だ。
さぁ、頑張って小梨くん。
否、蝙蝠男よ。
あれ。これだとアメコミに先人がいるか。ふむ困ったな。
踵を突かれたと思って見たら、早苗さんが影から顔をのぞかせていた。
「フィリピンでは蝙蝠のことをパニキというそうだよ」
じゃあ、蝙蝠男でいこう。
そこまで考えて、ハッとした。
なぜ早苗さんは僕の思考が分かったのか。
新手の恐怖を覚えていると、早苗さんは愛らしい微笑み。
一方、蝙蝠男こと小梨はどうしたかというと。
はじめ小梨は必死に訴えていた。自分がモンスターにされた人間であることを。被害者であり助けが必要なことを。
しかし冒険者たちには通じない。
理由は2つある。
1つ、見た目の説得力がゼロ。
そしてもう1つ、致命的な理由。
それは蝙蝠男と化した小梨は、実はヒト語を話せていないのだ。ようはモンスター共通の言語。これは僕や美弥とは違うところ。
そりゃあ巨大蝙蝠になったら、日本語なんて発声できないよね。というわけで冒険者からしてみたら、巨大蝙蝠がギャーギャー喚いているようにしか聞こえない。
これはどう考えても、敵でしょ。銃撃したい気持ちは分かる。
対して小梨が、ついには激昂してしまった気持ちも分かる。
「ふざけやがってぇぇぇ! 俺は被害者だと、人間だと言っているだろうがぁぁぁ!」
瞬間、アンバランスなくらいに肥大している右腕を、振り下ろした。
当人は自覚なしだが、スキル《拳落》だ。ただのパンチより破壊力は倍増。
まともに食らった女冒険者が、潰れた。びちゃりと。
隣にいた男の冒険者が悲鳴だか怒声だかを上げる。
「うぉぉぉぉぉぉ! この化け物がぁぁぁぁぁぁ!」
「俺は化け物じゃねぇぇ!」
小梨くん、2発目の《拳落》を発動。
2人目の冒険者も潰れた。
僕と早苗さんは同時に拍手しだした。示し合わせたわけでもないのに。それくらい小梨のモンスターぶりに感動したわけ。
それにこれは待望の即戦力だ。
ところで──今のボーナスって、誰がもらうの?
同時に僕は、『冒険者を一人殺すたび500万円ボーナス』の致命的な欠陥に気づいた。
SランクとDランクの値段が同じというのは、おかしいよね。
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