13,Sランクの首。
さっそくオリ子に交渉しに行くことにした。
まず最低ボーナス額は、500万円で維持。ここは外せない。
その上で冒険者のランクが上がれば、ボーナスも500万円に上乗せしてもらう。
ところがオリ子がいない。さては逃げたかな。
だがオリ子はお金に困ってはいなさそうだけど。
「そもそも【無限ダンジョン】って、お金はどこから入るんだろう。スポンサーでもいるのかな?」
「知樹くん。何も知らずに【無限ダンジョン】で働くことにしたんだね」
「うーん」
僕の影からのぞく早苗さんの顔。シュールだ。かといって、裸体なので上がってくればとも言えないし。
などと考えていたら、目の前にやたらと大きいゴブリンが現れた。
「知樹くん。ホブゴブリン、ゴブリンの上位種だよ」
モンスターに詳しい早苗さん。なんでも子供のころの愛読書は、モンスター図鑑。
「ホブゴブリン──ゴブリンの親方さんみたいなものだね」
「なんか違う気もするけど」
「どうも親方さん。先日はゴブリン一家が不幸なことに──」
瞬間。
ホブゴブリンが、装備していたこん棒を振り下ろした。
僕の頭がパックリと割られる。
早苗さんが悲鳴を上げているので、早く完全再生してあげよう。
「すいませんけど、いきなり頭を殴るのはゴブリン流の挨拶ですか?」
「小僧。貴様のせいで、オレ様の弟一家が死ぬことになったんだぞ」
このホブゴブリンの返答は、日本語ではなくモンスター共通語だ。僕だけでなく、モンスター化した早苗さんも理解できる。
「ああ。昨日のゴブリン父が、あなたの弟だったんですか。なるほど。確かに第1階層に誘ったのは、僕です。ただ彼らは自分たちの意思で、冒険者たちに挑んだわけですよ。僕が無理強いしたわけではない。それなのに僕を攻撃するというのは、ゴブリン一家に失礼なんじゃ──」
またこん棒が振り下ろされた。
僕の頭が割れる→早苗さん悲鳴→完全再生。
「早苗さん。僕は死なないから悲鳴とか上げなくて大丈夫だよ」
「そんなこと言っても──目の前で、好きな人の頭が割られたら悲鳴あげるよね」
「好きな人?」
「あ、今のは忘れてっ!」
了解、忘れた。
「あのね、ホブゴブリンさん。これ以上の暴力沙汰は、互いに無益──」
「うるせぇ! 貴様は人間臭ぇんだよ!」
またこん棒→頭が割られる。
しかし、今回は変化を付け加えた。
頭を割られたまま、僕は前へ出る。
そしてホブゴブリンの右ひざに、《地獄神》で穴を開ける。
「ぐぁぁぁ!」
「ホブゴブリンさん。あなたは間違っていますよ。怒りをぶつける相手は僕じゃない。冒険者たちでしょうが。
あと僕が人間臭いのは当然だ。つい先日まで人間だったんだから。あんたもゴブリン臭いですよ。まぁとにかく、同じモンスター同士仲良くやりましょう」
ホブゴブリンは何やら考えている様子だった。が、ふいに右手を突き出してくる。
ので、《地獄神》を使い、その掌に穴を開ける。
「ぐぁぁ! 何しやがる! 今のは友好の握手だろうが!」
「え? そうだったんですか」
「癪だが、オメーの言う通りだ。憎むべくは冒険者ども。モンスター同士でいがみ合っていても、冒険者どもの利益にしかならねぇぜ」
「分かってくれて嬉しいです。じゃ左手で握手を」
ホブゴブリンは渋々といった様子で、握手した。
「この流れだと、第1階層に来てくれるんですね?」
「そうするしかあるめぇ」
「歓迎します」
ホブゴブリンと別れたあと、早苗さんが感動した様子で言う。
「凄いよ、知樹くん! あんな怖い人、じゃなくてモンスターと冷静に話し合って。なんか、もう大人という感じだったよ!」
「それはありがとう」
その後、やっとオリ子を見つけた。ホブゴブリンとの話し合いに続いて、こちらも成功させよう。
「殺した冒険者のランクによって、ボーナス額を上乗せして欲しいんですよ」
浮遊玉座の上で眠たそうなオリ子が、「ほう」と言う。
「ボーナス上げ交渉か。お主、そんなことする暇があったら、Aランクの一人でも殺したらどうなのだ?」
「昨日、殺しましたよ。橋場重樹というAランクを」
「おー。ならお次はSランクだな」
「ですから、Sランクを殺したときのボーナス上乗せをお願いしたいわけです」
オリ子はあくびしてから、楽しそうに言う。
「SランクとAランクは、まるで別物だぞイコライザーよ。真の化け物たち。通り名を有する者たち。それがSランクだ。今の貴様ら第1階層メンバーで、果たして狩れるのか?」
「狩ったら?」
「ふぅむ。Sランクの首を獲ったら、ひとつで5000万円くれてやろう」
5000万円だって!
なんて太っ腹なんだろう。オリ子は雇用主の神様だ。
話を聞いていた早苗さんが、ボソッと言った。
「それって──Sランクの首を獲れると思われてないんじゃ……」
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




