Chapter 1-(4) 継続のチャンス
「ねえ、私まだ読み終わってない本あるよ?」
「ああ、ほら。図書館で読むのは勉強になるから」
「なるほど。私も小学生に向けて賢い人にならなきゃ……」
「そういうこと」
「お兄ちゃんはいつも私のことを考えてくれているね!」
「当然だな」
お母さんと会った日から一日が経った。終わってしまえば時間はあっさり過ぎ去っていくもので、本当にお母さんと再会したのか疑いたくなるくらい、何でもない一日を迎えている。
拓斗は羽花を連れて今日も図書館へと行こうとしている。お母さんと連絡を取ってくれた相田さんにお礼を言うためだ。羽花はまだ借りている途中の本があるため、最初は行く気はなかったが、それっぽいことを言うとついて来てくれた。
本当は一人で行くのが若干怖いという情けない理由もあった。もっと怖いのはお母さんのことに関して神経質である悠馬や結希と一緒に行くことだ。だから拓斗の中では自動的に羽花しか選択肢は残されていなかった。
お母さんと会えばバラバラだった家族が結合はしなくとも集合くらいはするだろうと思っていたが、現実はそう甘くはない。お母さんが出て行った後の話を聞いても湧き上がる感情は寂しいものばかりだった。逃げる瞬間、お母さんの頭には拓斗たちは存在していなかったのだ。
元気そうで顔色もよく、若返ったようにも見えたお母さんは、拓斗にとって心を締め付ける要因にしかならなかった。
そうして歩くこと数分で図書館に到着した。前回よりも入館手続きはスムーズに行き、羽花は絵本コーナーへと向かった。今回も前回と同様に、羽花にはお腹を壊したと嘘を吐いて先に行ってもらった。
そして拓斗はカウンターの相田さんと話をする。
「母と会わせていただいてありがとうございました」
「いえいえ。……色々、聞いたかい?」
「はい。おかげさまで、母について気になっていたことを聞けました」
心が晴れはしなかったものの、事実としてのお母さんの動向を聞けたのは大きいことだった。知らないままという状態はあまりに恐ろしい。
すると相田さんは椅子から立ち上がって深く頭を下げた。
「すみませんでした。僕が百合子さんと結婚しようとしなければ、拓斗君たちからお母さんを奪うことは……」
「……いえ、相田さんは何も悪くないです。むしろ、母を連れ出してくれなかったらどうなっていたか分かりませんでしたし」
拓斗たちから母親を奪ったことに対して相田さんにも恐怖があったのだろう。それ故に、拓斗たちの名前を見たときに動揺も大きかったのだ。
お母さんから相談を受けていたということは、お母さんに夫がいることは知った上での結婚だったのだろう。自分がその立場で考えると、前の夫との子と会うのが気まずいのは当然だ。
それでも嘘を吐かずに接してくれる相田さんの人柄に、拓斗は有難く思った。それと同時に羨ましくもあった。
「まだ百合子さんも宮葉家の皆さんと会うことに完全な決心ができたわけではないみたいで、今回僕を経由させてもらいました。昨日帰ってきた後も、結構疲れていた様子でしたし」
余裕そうに見えていたお母さんだが、拓斗に必死で隠していたようだ。小さいながらも、母親としてのプライドというものだろうか。
「ですが、何かあったらまた僕に連絡をください。最大限、協力しますから」
拓斗は真っ直ぐ突き刺すような相田さんの視線に押されたが苦しくなかった。相田さんは本当に協力しようとしてくれているようだ。きっと、拓斗たちのためでもあるが、何よりも愛する妻のためになると思っているのだろう。
「ありがとうございます。お仕事中にすみませんでした」
「いえ。ゆっくりしていってください」
相田さんに礼をして拓斗は羽花の元へと戻った。心なしか、足取りが軽い。
今回は久しぶりのお母さんとの再会に緊張していたところもあったが、何もあれがラストチャンスだったわけではない。やっとお母さんと繋がる手段を見つけたのだから、それをプラスに捉えていくべきなのだ。
絵本コーナーに足を運ぶと、拓斗の姿を確認した羽花が笑顔で寄ってきた。
「あ、拓斗お兄ちゃん。お腹大丈夫?」
「……ああ。ちょっとマシになった」




