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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
第七章 あの日にあったもの
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Chapter 1-(2) 前向きの約束

 翌日、悠馬は靴の紐を結んで出かける用意をしていた。目的地は駅付近のスーパー。普段は結希の任せきりの買い出しだが、休みの日は悠馬がその仕事を引き受けることにしている。

「いってきまーす」

 結希と羽花のドアによって小さくなった「いってらっしゃい」を聞いて悠馬は玄関を出た。すると同時に家のチャイムが鳴り響く。目の前にはTシャツにハーフパンツというラフな格好をしたミラアが立っていた。


「出たわね」

「某猛虎球団の監督か。で、何か用か?」

 ミラアはバッと悠馬に一枚のチラシを見せつけた。そこには『京安市花火大会』と大きく書かれている。

「一緒に行こう」

 ミラアは瞳を輝かせながらキョロキョロと視線が定まらない何とも奇妙な状態で言ってきた。それでも声は明るく、花火大会に行きたいのは揺るぎない本心のようだ。


 正直、悠馬はあまり乗り気になれなかった。というのも、羽花の運動会があった日から全員が暗く、こういった娯楽行事に参加するほどの前向きな気持ちが持てない。

 でもここで断ると呪いによるミラアの身体に影響が出る可能性がある。それは非常に困るため行くという選択肢しかなさそうだ。同情で参加しようとするなど、自分でも感じの悪いことだと思うが、ポジティブになれないものは仕方ない。


「良かったわ。悠馬は最近、何だか暗かったから」

 ミラアは優しく笑って軽くスキップして部屋に戻って行った。その際には「真菜とかも誘う」と楽しそうに声を弾ませていた。

 悠馬は大きく溜息をついて頭を掻いた。

「俺がミラアに心配されてるのか……」

 さっきまでの自分の思考を恥ずかしく思いながら、悠馬はマンションの階段を下りて行った。

 ミラアが明るい場を用意してくれたように、ずっと暗いままというわけにもいかない。家族で一番年上の悠馬がしっかりしないと、他の三人も思うように動けないのだ。


「よし!」

 悠馬は両手で頬を叩いてスーパーへ向かった。今日は特売日だそうなので、数多のおばちゃんたちと決戦だ。



 ☆



 悠馬が出かけた後のリビングは相変わらず静かだった。それぞれが自分のやることに手をつけていて、何も語らない状況である。

 結希は勉強を、羽花は図書館で借りてきた絵本を読んでいる。そして拓斗は何もせず、画面の消えたスマートフォンをじっと見つめていた。

 昨日、相田さんから連絡先を教えてもらってからすぐに拓斗はメールを送信した。リターンメールもないということは無事に相田さんの元にメールは届いているはずだ。しかし、お母さんと話し合ってくれると言っていた昨日から着信が来ていない。会うか会わないか。その二択の中でこんなにも時間がかかるということは、お母さんも相当悩んでいるのだろう。


 よく考えれば驚く話だ。二年前、別れたはずの子どもと急に連絡が繋がるなんて、向こうも身構えていないはずである。

 でもそれは拓斗たちだって同じだ。何の前触れもなく、お母さんは突然いなくなった。今回のことくらい、許してくれないと困る。それくらいの図太さは自然と持ち合わせていた。


 そうして自分の行動を正当化しようと頭で考えていると、拓斗のスマートフォンが小さく揺れた。画面には『新着メッセージが一件あります』と表示されている。送り主は相田さんだ。

 拓斗は餌を与えられた金魚のように携帯電話を手に取り、メールボックスを開く。


『返信が遅くなってしまい、申し訳ありません。昨日は京安図書館にお越しいただいてありがとうございました。

 仕事から帰った後、百合子さんに話したのですが、今日の夕方であれば会うことができるそうです。明日以降は仕事の関係で一週間ほど予定が空かないみたいで。急な連絡ですみません』


 拓斗は小さく震える右手を空いている左手で押さえた。お母さんは会うという決意をしてくれた。それが嬉しくもあり、怖くもある混沌とした感情。それがお腹の底から込み上げるようにやってくる。

 拓斗は安定しない指先を画面に滑らせて文字を入力していく。

 とりあえず今日の夕方に会うことの了承と集合場所を京安駅にしたいことを伝えてもらうように書いた。お母さんはお母さんで唐突な話で驚いただろうが、結局今回も心の準備ができないのは拓斗の方らしい。


 早まる動悸を何とか隠そうとしながら、拓斗はソファに雑に置いていた鞄を手に取った。

「あれ? 出かけるの?」

「ああ。ちょっとな。もしかしたら遅くなるかもしれないから、その時は連絡するよ」

「はーい。ご飯のこともあるからなるべく早くね」

 そう言って結希はまた勉強へと意識を戻した。


 現在の時刻は十三時。夕方までにはまだまだ時間が余っているが、このまま家にいるのも落ち着かない。何かで気を紛らわせないと、どうにかなってしまいそうだった。

「久しぶりにゲーセンでも行こうかな。あいつらいるかな」

 拓斗は物憂げになかなか進もうとしない時計の針を見てマンションを出た。




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