第20話 眠れる男と呪いの魔女
俺は満腹感から、椅子に座ったままちょっと気怠げになる。
あれだな。飯食ったら副交感神経が働いて血流がどうのこうのしてリラックスするてどっかで見た気がする。
副委員長が親切に俺が消し忘れていた換気扇を切りにキッチンに行った。
ついでにお皿を代わりに下げてくれる副委員長。
「副委員長、なんか片してもらって申し訳ないす!後で洗うので水槽の中に入れといてくれればいいす!」
俺は副委員長に感謝して、テーブルの椅子にもたれてかけていた。
なんか今日久しぶりに料理したから、疲れが出たのかも。
実は洗い物は割と好きなんだ。ゴシゴシする時に汚れが落ちるからいい気分になれる。
虹が帰ってくるまでに洗ってないと怒られるな。だりぃーな。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一
副委員長は、虹ちゃんが帰るまでにもう少しだけ居たいというので。
俺は彼女とゲーム話をしながら、虹の書斎で見つけたパズルをテーブルに持ってきて二人で広げていた。
半分ほどすぐに埋まった。どうやら鈍臭い俺と違って副委員長は要領がいいらしい。
嵐みたいな絵が見える。この全体図は悪天候の崖の灯台かな?
手に持った使い道がよくわからない四方に出っ張ったピースを指で弄ぶ。
「モリハンですよね。私もよく遊んでました!」
彼女はどうやらサバイバルモノや、モンスターを狩るタイトルが好きらしい。
大人しそうなのに意外だなと思っていると、彼女は俺にそれ以外の雑学について教えてくれる。
ふと、鼻が敏感になる。さっきまでしていたレモンの匂いがかなり濃くなってきた気がする。
なんか心地いいような。包み込んでくれるような匂いだ。
でもなんでだろう。さっき膝枕してもらった時にはしなかったのに。
俺は手がだらーんとなり全身の力が抜ける。
パズルを運ぶ気にもなれない。
隣の副委員長がさらに捲し立てる。
「田中君、実は私毒についても詳しいんです。」
わかるぞ、ギャップ萌えだな。
腹黒美少女てやつか?
俺もたまに刺激の強いゲームやってたからそこには萌えるぞ?
お兄さん的にはそこも加点です。
ぽちぽち。
心の中のボードで副委員長に加点していると。
「田中君、毒には即効性のものと遅効性のものがあるんです。どう言う違いかわかりますか?」
ときた。
眠くてあくびが出る。あくびを噛み殺して俺は返す。
「ええと、なんか遅効性の方が獲物を安全に仕留めれるとかすかね?」
もう寝る時間なのかもしれない。もう数分経ったら副委員長には帰ってもらおう。
「古来より狩猟に使われたのは実は即効性の方なんです。すぐに動きを止めないと獲物は逃げちゃいますから。♡」
「逆に遅効性の毒は何に使われたと思いますか?
….そう。獲物がすぐに逃げない時、相手に気づかれないように使うんです。
獲物が気づいた時にはもう手遅れですから。♡」
言葉を発したくても口が動きたがらない。
この子やたら雑学博士系の女の子なのかな。
やっぱ普段はインドアだからぽよーんぽよんしてるのか。神よ。
俺は納得したように彼女の大きさを再度確かめる。
俺は適当に相槌をついてうなづく。
「さて問題です。警戒心がある獲物にはどうすればいいでしょうか。一度毒を頂いた獲物は同じ手に引っかかりません。」
え???
警戒心?獲物?毒?一度毒を食らった?
俺の額をすごい勢いで冷や汗が流れ始める。
ちょっと待て。
走馬灯のように映像が流れる脳内で、サンドを運んできた九里ちゃんとニコニコしている副委員長の顔が重なる。
おいおい。嘘だよな。俺らさっき一緒に飯食った仲じゃん。
副委員長だって。カレー完食したじゃん。
まずい。はやくここから逃げないと。
俺は動悸が上がり、椅子から腰を起こそうとする。
指がいつの間にかプルプルしていて力が入らない。
呼吸困難になった肺がすごい勢いで空気を吸う。
頼む。動いてくれえええ。指いいぃい。
持っていたパズルが地面に飛び散る。
副委員長は微笑を崩さない。
「昔の人は考えました。ならば吸い込むだけで、毒になる気体を使えばいいのではと。これが現代ガス兵器のルーツです。」
気体。レモンの匂い。副委員長の笑み。無害のカレー。
俺の脳は最悪の可能性を弾き出す。
ガタン。辛うじて動いた足のせいで椅子ごと俺は地面に横に倒れる。
虹いいいぃいいい。頼む。早く帰ってきてくれええ。
朦朧としてきた意識の中で俺は瞼が閉まりそうになる。
俺は必死に息を止めようとする。
そうすればするほど酸素が足りなくなり、呼吸が苦しくなる。
俺はまどろんでいく思考の中で、薄ら目を開けて副委員長の方を見る。
副委員長は近くに置いてたバックからゴム手袋を取り出して手に嵌める。
「さあ賢い田中君に再び問題です。
あなたは誘拐犯と二人きりになりました。彼女はあなたをどうするでしょうか。
一、その場で彼女のふりをして泥酔した彼氏として連れ去る。
ニ、運転してきた車の後部座席に乗せる。
三、虹ちゃんが遅れてくるように小細工をする。
どれでしょうか。♡」
副委員長は今日一ニコニコした笑みでノリノリで俺に聞いてくる。
どれでしょうかじゃねーよ!!全部じゃねーか!
だめだ。もう意識が持たな……
コトン!
瞼に、聖母のような慈しみを浮かべ、俺の頭を撫でる副委員長の姿を最後に焼き付けたまま。
俺の意識はそこで途切れた。




