第14話 ドブネズミと、マルゲリータと。
壁際で狸寝入りの虹。
俺は定規を構える。
今度こそどうだ!小メット!俺の宝刀のサビにしてくれよう。
一一一一一一3分後一一一一一一
傍で仁王立ちする小メット2号。
馬乗りになる小メット1号、顔を庇って俺は叫ぶ。
「虹!今だ!」
叫びながら小メット1号に抱きついて奴が動けないように拘束した。
暴れる小メット1号は苦しいのか、俺の背中をバシバシと叩き、もう片方の手に握ったサバイバルナイフがグサグサ俺の背中を切りつける。
突然の事態に困惑する小メット2号。
飛び起きた虹が、慌てて切り付けようとした2号の見え見えの大振り攻撃を疾走しながら、ひらりとかわす。
虹はそのままスピードを落とさず、俺の所まで辿り着いて小メット1号の背中にタッチする。
途端に『金縛り』で拳を売り上げたまま間抜けな姿で動きが止まる小メット1号。
同じく動きが固まって、煙みたいに虚空に消えた小メット2号。
やつを突き放して。俺は一息つく。
あと5秒はあるな。さてどうしてやろうか。
ポキポキと拳を鳴らしながら俺らは1号に近寄る。
邪悪な微笑みを浮かべる俺と虹に小メット1号のひっ、という悲鳴が聞こえた気がした。
虹はすでにやつのサバイバルナイフを奪っていた。
丸腰になった小メットに俺の持って来た帽子を被せて視界を奪う。
動き出しそうな小メットの肩を拘束し、2人で息を揃えてせーので下水の流れの中に担いでぶち込む。
流れに放り出されて大きな水飛沫をあげて、小メットがどんぶらこと流れていく。
「ひゃっ!?!?」
泳げないのか、ふはは、小メットよ、さらばだ。
にしても一瞬、何か甲高い悲鳴が聞こえた気がしたけど気のせいだろう。
虹が彼女の制服上着を脱いで布を切り裂き、簡単に俺の傷口を包んで手当てすると
俺と虹は流れの上流に向かって歩き出した。
一一一一一一一一一一一一一一一
戦闘から3時間以上経ったみたいだ、
時計は22時に差し掛かっていた。
もうかなり歩いたけどまだ付かないのかよ。
幾度となくマンホールの下の通りすぎて俺は虹を恨めしそうな目で見つめる。
グゥーー。
俺の腹が情けない音をあげる。
てかまじで腹すいた。
虹は俺をスルーして、ポケットから持って来ていた地図を広げながら考え込んで歩きながらぶつぶつ何か言っている。
話しかけずらい。
俺の視線に気がついたのか、虹が俺を諭す。
「もう少しだから我慢して。」
あとどのぐらいだよ。てかまじできったねえ。ここ。
俺の足元をネズミが素早く通り過ぎる。
暫くクネクネした道を行った所で虹が立ち止まる。
「ここ。登るよ。準備して。」
俺は水を得た魚のように生き返って彼女の後ろを追ってマンホールのはしごに登る。
蓋をひょいっと持ち上げ外の安全を確認した虹は、俺にゴーサインを出す。さかさず俺はついていった。
地上に出た瞬間、
澄んだ空気を供給された俺の肺と、腐った生ゴミの匂いから解放された俺の鼻が同時に歓喜する。
「ふぅーー、生き返る。」
力強く息を吸い込んで吐き出した。
虹がアホを見るような目で俺を見つめる。
「ほら、早く行くよ」
俺らが出てきたマンホールはどっかの住宅街の路地裏みたいだ。
虹は俺の肩についた泥を振り払ってから。先頭を歩く。
曲がり角を曲がるとそこには巨大なスーパーがあった。
よっしゃ!飯だ!
喜ぶ俺に虹はやれやれと言いそうな顔をしつつ、俺ら2人はきったない格好で中に入っていった。
一一一一一一一一一一一一
俺は美味しいそうな匂いに釣られて、ピザコーナーに辿り着いた。
マルゲリータ。1400円。めっちゃくちゃ美味そうな焼けたパン生地に溶けたチーズ、トマトの濃厚な匂いが俺のお腹を刺激する。
俺は垂れそうなよだれを拭いて、ポケットをまさぐる。うーん。財布あるかな。
ポケットには謎の黒いネジ、よれよれの紙の切れ端、腐ったバナナの皮。
西宮錦改、田中悟。まさかの無一文でした。
あまりにも寂しいぞ、経済的に!
ここは虹に奢ってもらうしかないな。さっきおんぶしたし、マルゲリータ食べたいなあ。
俺はうるうるの瞳で虹を見つめる。
「虹様、これ欲しいす」
虹は捨てれた子犬の目をした俺をスルーしようとする。
てか距離遠くない?虹は俺の服が臭いのか室内で5メートルのソーシャルディスタンスを取ってくる。
俺は愛しのマルゲリータのために虹の足にしがみつく。
パートタイムの店員さんがやばいやつを見るような目で俺らを見る。
「虹様、一個だけでいいからお願い!」
「今日はピザの気分じゃないの、別のにするよ。ほら」
虹の顔が烈火の如く赤く染まる。
虹は脚に絡まる俺を振り落とそうとするが、俺は簡単には離れない。
こうなったらもう捨て身の攻撃だ!虹よ、大人の汚さを教えてあげよう。ふははは。
俺はお目目に涙を溜めて、虹のストッキングを履いた脚に頬ずりする。
「ママアン、買ってくれるまでここからどこにも行かないもん」
パート店員の目が軽蔑と哀れの混じった視線を俺らに向け、店員たち同士でひそひそ何かを言っている。
ふははは、虹よ、残念だったな。俺にもう失うものは何もない。
「?!?」
虹はまるで金縛りにあったかのように数秒フリーズする。
みるみるさらに、虹はトマトのように耳まで真っ赤になって、俺の口を塞ごうとしてきた。
「わ、わかったから、今すぐ買うから。は、早く黙って!!!」
虹は慌てて俺を連れて無人レジに並び、俺の裾を引っ張ってフードコートから疾風の如く去っていった。




