第11話 ナスとトマトと四足歩行の俺ら
夕暮れ時、ナスやトマトが生い茂る学校の裏庭の畑。
作物のなった支柱の列の裏を、俺は地面で体を低くして4本足で這っていた。
前を這う虹のスカートの中身が風に吹かれて見えそうで見えない。
なぜこうなったか、話せば長い……
2階職員室を出てから、虹は下水道を目指していることを俺に伝えた。
表のグランウドは黒メットに遭遇しやすくて、登校路の下校生を始末してから、奴は正面から来るらしい。
あの黒いメット野郎のことを思い出して身震いする。
だから監視の目が少ない裏庭のマンホールを目指すとのこと。
18:25分まで、俺らは一階の物置部屋で虹が持っていたトランプで時間を潰すと、5分後には裏庭に辿り付いていた。
どうやら伏兵がいるかもだから俺に伏せろ、物陰に隠れて這って進むと虹が言う。
俺は地面を這いなら、隅田に貰った腕時計のボタンをカチカチしていた。
これ、押すと表面光るのな。
薔薇みたいな紋章がすらりと、薄く光って浮かび上がる。
ふと、九里ちゃんのことを思い出す。
俺がトイレに篭ってる間に下校したのかな。
あの子、生きてるかな。俺を殺したけど、優しく俺を包み込んでくれた君のむっつりパイを、俺は生涯忘れない。
世界は1人貴重なむっつりパイ美少女を失ったと悔やんでいると、
前を進んでいた虹が突然、真面目な顔になって振り返る。シーッと、指を口に当てて声を出すなと俺に諭す。
どうならまずいことが起きたみたいだ。
このクソゲーは簡単には行かないらしい。
俺は作物の葉っぱ掻き分けて、隙間から虹が指差す方向を見ると、前回の黒メットと全く同じ服を着たやつが畑の真ん中で見張っていたのを発見した。
前回の奴と違うのは、畑の黒メットがより小柄でサバイバルナイフみたいのしか持っていないことだ。
チームで襲ってきてるのか。ただでさえ、アサルトライフルの奴でも俺らは勝てそうにねえのに。
つか前回の絶対負けイベじゃん。
虹が柄にもなくもまじで緊張した表情をして、白磁色の健康的な肌を汗が流れる。
次の瞬間目を疑うことが起きる。観察していた小メットの隣の空間がぐにゃーと揺れると、中から奴にそっくりの2体目の小メットが現れる。
目的地のマンホールまであと20m。まだ二つもの作物の列を渡る必要がある。
虹が奴の視線が途切れた瞬間を狙って1人ずつ行けと俺にジェスチャーで必死に伝える。
俺らはコソ泥のように、隠れて進む。虹がマンホールの手前までだとりつく。
よし、次は俺も最後の列だ。
小メットが視線を俺がいた作物の支柱に少し留める。
俺の心臓がまるで暴走列車のように止まらずに脈打つ。手のひらから嫌な汗が滲み出る。
くそ、おれ、見つかっちったか?
暫く俺の方を見つめると小メットはまた、ゆっくりと視線を真っ反対に移す。
俺は安堵から胸を撫で下ろす。
俺は列と列の間を、一気に進もうとする。
今のうちに渡りきれ、俺は身を乗り出して、立ち上がって急いで渡っていたその時。
ボトンッ!
俺の近くのナスが自由落下し、音を立てる。
さっきまで真裏を見ていた小メットは物音に気がついたのか、高速で俺の方を向く。
渡っている俺を発見をすると同時にこちらに向けて凄まじいスピードで向かってきた。
「チクショーー!!こうなるって、わかってたよ!!このクソゲーが!!」
怒号を上げて俺はなりふり構わず走り出す。虹はすでにマンホールをこじ開けて、下に降りかけていった。
ついでに律儀にマンホールの蓋も閉めていきやがった。
て、おい、虹ぃいいいい!余裕で俺を見捨てていくなぁああ!
もういい走れ、間に合え、
あと、
3m、
2m、
1m……
マンホールの前をさっきまで居なくなっていた小メット2号が塞ぐ。
後ろには、こちらに走りながら加速する小メット1号、前には小メット2号、虹は俺を置いて逃走済み。
あれ、俺、詰んだくね?
俺は緊張して上ずった声で小メットたちに交渉する。
「あの、話せば分かると思うんだけど。とりあえず、俺なんでも言うこと聞くから命だけは助けてくれないすか」
2体の小メットは止まって首を少し傾げると、また俺に向かって加速しながらナイフを振り上げた。
どこか、どこか、
逃げ場はないのか。
ナイフが迫り来るまであと数秒。俺の頭が高速で回転し、ある事を思いつく。
逃げ場あるじゃねーか。
目の前のナスの支柱を蹴ってよじ登り、俺はナイフが肉薄する一秒前に作物の列の反対側に尻餅をついた。
小メットの攻撃は俺の背中の制服を少し切りつけ、空ぶった。
目視できる遠くには木造の小屋が見える。一か八か賭けて隠れてみるしかねー。そう思って俺は駆け出した。
走りながらさっき居た所を振り返って見ると、ブチ切れた小メットたちが俺の行方を探していた。
どうやら獲物に逃げられたのがかなり我慢できないらしい。
俺は木造の建物の前に辿り付くと、少し鼻を刺すような獣臭さがする。
くさっ!
ここ、飼育小屋じゃん。
まじでなんで俺の行く所はみんなどこもクソくっせんだよ。
そう思い、木の扉を開けて俺は鼻を摘みながらとりあえず中に隠れた。




