第10話 て、お前もド底辺じゃねーか!
最悪の目覚めだ。
あの黒ヘルメット何モンだよ。職員室の時は見逃してくれたじゃん。くそ。拳銃を拾ったのが不味かったか。
蜂の巣になったお腹の痛みで暴れ出す膝が机の裏を連続してヒットする。
「いててっ。」
オッサン教師が宇宙人を見てドン引きしたような顔でこちらを見る。
「ミスター田中、大丈夫ですか?先生心配一//」
黒板の栄養素の板書。壁時計が指す15:59。ひとまずリープ地点はこの保健体育の時間で固定のようだ。
そうだ。今度は最初から18時まで虹について行けば良いじゃねーか。
近くをチラチラ見渡したが、窓際の虹の席は空席のようだ。
あいつ、どこ行きやがったんだよ。オッサンは教壇に戻り、授業は終わる。
チャイムの音と共に、外にダッシュする。
俺は男子トイレの個室で便座の上にスタンバっていた。
虹のやつ、絶対18時半のやべー奴らの襲撃分かってただろ。
だから18時にこいって言ってたのかよ。
でも、そうなら事前にはっきり言えよ。
あの憎たらしい顔が脳裏にチラつき、イライラして個室の壁を蹴る。
「ひっ!、」
隣から悲鳴が聞こえる。
やっぱ18時より早めにに行くしかないよな。で早めに行くとヤンデレどものイベントが起きそうなんだよな。
18時ぴったりに行くしかねーじゃねーか。くそ、時間さえ、分かれば…..
時間、時間、時間、夕日、壁時計、腕時計、隅田。
俺の天才的な脳がフラッシュバックで、腕時計をしている隅田を思い出す。そうだ。隅田の時計で時間を確認して5分前に出れば良いじゃねーか。
俺は自分の天才的な発想に我ながら才能を感じた。
すぐに隣の個室の便座からよじ登って上の隙間から気絶した隅田の個室に侵入した。
俺は地面に華麗な着地を決め、
「今は呑気に寝てる場合じゃねーぞ。隅田!!」
隅田を起こすために隅田の顔を左右往復ビンタした。
はっと目を覚ます隅田。目と目が合う瞬間。
「え、え、ひゃっ。」
また気絶しそうになったので差かかさず両頬を引っ張る。
「隅田、今何時だ、さっきしてた時計を見せてくれ!」
隅田は、涙目になりながら、
「うぇ、え、どうぞ、持っていってください」
確認すると17:45分だった。もうちょっとだけ時間が経ったら行くか。
その場で隅田に感謝のハグをする。隅田は口噤んだまま和やかな表情のまま眠りに落ちたみたいだ。個室のドアを開き、男子トイレを後にした。
一一一一一一保健室前一一一一一一
ゼーゼー。
まじで間に合った。
17:58分に息を切らして、俺は職員室前の椅子で偉そうに足を組んで踏ん反り返るパズル女の隣で、激しく息を付く。
東宮虹が口を開く。
「よく来たね。結構死んだ?当ててみよっか。3回?3回は死んだでしょ。君。」
虹は俺の表情を読み取っているらしかった。やたらと嬉しそうなのを見ると無性に往復ビンタしたい欲求が湧いてくる。
1発だけならセーフじゃねーか?手加減して、いや手加減できねーわ。
てか何でサラッとタイプリープのこと知ってんだよ。転生者はみんなリープでもすんのか?
虹はさらに楽しそうに続ける。
「へー。一回だけなんだ。もっと死んでると思ったのに、つまんないのー。」
虹はポケットからカプセルが入ったシートを俺にポイっと投げつける。
「それ、能力抑えるやつ。必要な時に飲んどいて。多分あんたの能力も一旦はオフになるから。」
やっぱこの女、神かも。なんかツンデレ美女に見えて来た。横顔も可愛いし、良い匂いもして来たような気がする。
「あ、きっしょ。その服、くっさいね。www」
虹は俺が壁をよじ登った際に、少し汚れた服を指差して無邪気に煽る。
やっぱ今のなし、こいつ、張り倒してえぇえぇええ。
「ね、それより、今あと数十分で『死神』が来るから、ここを出たいんだけど、付いてきたい?』
急にシリアスな顔をして虹は俺にそう言う。
死神て前回のリープの黒メットのことか?
聞きたいことは山ほどあるが、俺はシートを握り締め虹に付いて行くことにした。
途中で虹はこの世界について色々教えてくれた。
この世界の女の子は何かしら能力を持っていて武器とかを出せたりすること、変身できる子たちが別格の強さを誇ること、『死神』というやばい奴らが定期的に『清掃』と言う大量虐殺をすること。そのメインのターゲットリストに自分が載っていること。
て、お前に付いて行ったら俺即死しねーか!お前のせいで襲撃されてんじゃねーか!!
そして、彼女の能力のことについても
「あたしの『金縛り』は触れないと発動しないから」
まあそりゃそうだよな。そんな強力な能力がポンポン簡単に発動できたらゲームバランス崩壊だもんな。でも、接近すれば最強じゃん。ハメ技で何度もタッチすれば理論上俺らのコンビは無敵ー//
「クールタイムは1分。てへ⭐︎」
は?クールタイム1分、持続時間は10秒?
???
俺の脳が最悪の可能性に気がつく。
「つまり、お前は手でタッチしないと発動しないし、発動しても10秒しか持たなくて、終わったら1分逃げるしかないと?」
「そうよ(ドヤァ)」
虹は無駄に自信たっぷりのドヤ顔をして俺にうなづく。俺の幻想が音を立てて崩れ去る。
「て、お前もド底辺じゃねーか!!!」
一階の廊下で俺の声がこだました。
「何よ、ド底辺なわけないでしょ。あたしの『金縛り』こそ最強の能力よ。アンタ、本当バカね!」
両頬を真っ赤にして、虹は恥ずかしそうに吐き捨てる。
あ、終わったわ、生存ルートどころか、お先真っ暗だわ、これえぇえ。
俺は静かに頭を抱えるのだった。




