第7話 ストーカーはスナイパー……?
早速、悠里は行動を開始した。
作戦の第一段階は情報収集。敵情を知らずして勝利なし。
まず彼女の『何』がサバゲーを辞めされるのか、その動機を探ろう。
たった一人の想像力を総動員させても答えを導くことは不可能だ。
咲良が抱く気持ちは咲良にしか分からないのなら、直接本人から聞き出すのが一番てっとり早い。
「おはよう片岡さん!」
「お、おはようございます……」
ホームルーム三十分前に教室に来た咲良を悠里は屈託のない笑みで出迎えた。
「236部、入る気になった?」
「け、結構です。昨日辞めたって言ったじゃないですか」
朝一番の勧誘は一瞬で折られた。早々に落ちるとは思っていない。
悠里の作戦は猪突猛進。相手が折れるまでひたすら誘い続けるというもの。
「でも辞めたのはなんでなんだい? 顔面にキツイ一発喰らったりした?」
「勝手にそう思っててください」
咲良は悠里から離れるように教室から逃げていった。
辛辣な物言いにはたじろいだが、ここで諦めては男が、いや狙撃手としての矜持が廃る。
悠里は両頬を赤くなるまで叩いて彼女の影を追った。
あるときは休み時間の教室で。
「片岡さん。236部どう?」
「嫌です」
またあるときは草むらの中からギリースーツ姿で出てみたり、
「片岡さん!」
「だから嫌ですって!」
またあるときは下駄箱の中にいたり、
「か」
「もう追わないでください! というかなんでそんなとこ入ってるんですか?!」
「そりゃ勿論、人が入れるようにしたからってぶへぇ!」
きつい一発を貰った。さすがにこれはやり過ぎたか。
そしてあるときは下校途中の通学路で。
「変態ですかあなたは!」
草陰に擬態して隠れていたのに僅かな色彩の差異で見抜いた。その目も鋭く、ますます彼女が欲しくなる。変な意味じゃないよ。
逃げていく彼女の背中を見て、悠里はそう感嘆を漏らしていた。
その日から悠里と咲良の追跡劇は一週間続いた。
「で、君が呼ばれたわけ」
剣呑とした雰囲気で担任教師は呼び出した経緯をつらつらと語った。
「授業抜け出して何かと思えば、草と同化したり下駄箱壊して中に入ったり、あなた学校で戦争でも始めるつもり?」
「いえ! 全く」
「その恰好じゃ説得力皆無なんだけど。モリゾウって言うんだっけ?」
「ギリースーツです」
「そう」
発覚したのは咲良が相談したからに他ならない。最初は入学一週間でさっそく恋心でも芽生えたかと青春を感じていた担任の教師だが、教職に就く者としてはそんな悠長な感慨に浸ってる場合ではなかった。
深く嘆息して、悠里に詰問する。
「なんで追い回したの?」
「サバゲーをやって欲しいからです」
「……それだけ?」
「他に理由なんてないですよ」
担任教師は思う。こいつ頭おかしい。
「人のこと付け回すって、学校の外でやったら犯罪よ犯罪。いやまぁ外でもやってるから片岡さん次第で君のことしょっぴけるんだけどさ」
「でもここは学校ですし、警察の方にはバレてないですよ」
「残念ながらね。本来なら片付けなきゃいけない仕事が山ほどあるのに貴方の一件で進められないの。わかる?」
「わかります」
淡泊な返事に担任も苛立っている。こめかみには青筋が立っていて美人な顔が台無しだ。
「はぁ……好きな女子を追い回したい気持ちは分からなくもないけど、本人や近隣に迷惑を掛けるようなことはしないでね」
「好き? 誰がです?」
「……貴方、なんで片岡さん追っかけ回してたの?」
担任教師のあ然とした顔が悠里を据える。
まさか片岡さんのことが好きでストーキングしていたと勘違いしていたみたいだ。さっきも言ったがそんなことに感けていない。妄想も甚だしい。
「んーイマイチ君のことが掴み切れないんだけど……」
「恋愛とかそういうのは興味ないです」
「ほんとに部活の勧誘ってことなの?」
「さっきそう言ったんですけど」
少しばかり棘のある口調で返すが、納得の行かない顔で聞いてくる。
「ますます分からない。ならなんで片岡さんに執着するの? 勧誘だった他のクラスメイトでもいいじゃない? なぜなの?」
「あいつじゃなきゃ駄目なんです。たった一人でゲームを覆す強さを持ってて辞めるなんて、絶対にない」
「……それは、新井君が思ってる感想でしょ?」
「感想なんかじゃないです。本心は絶対に違う」
「じゃあ、もしそうだとしても人の嫌がることはしない。いいこと?」
圧を掛けるような険しい目つきに悠里も頷くしかなかった。
その後、もう彼女に付き纏わないという約束をさせられて説教は終わった。ついでに入部届を出したら呆れと一緒に殺気も纏い始めたので、ライフルバックを担いで早々に退散した。
かったるい説教が終わって伸びを一つ。
「知ったような口を利く。あの女」
ラプアが脳内に語り掛けてくる。
「癪には触るけど、致し方ない」
「なぜ反論しなかったのだ?」
「反論したところで立場を悪くするだけだよ。正直に話はしたけど、あの手の場合は適当にあしらっておけばいいのさ」
「まぁ立場なんて守る気サラサラないけどね」と悠里は事も無げに付け加える。
しかしラプアは思案する。
「だが、このまま突撃を続けても事態が好転するようには思えん」
「あははは……それ言われると意外と心に来る」
「あぁすまない。私としたことがついぞ否定的なことを」
「突撃が愚策。前進してるのに戦況は悪くなるばかりか」
慌てて訂正するラプアだが、何かを察して悠里は深く考え込む。
「まるで攻城戦をやってるみたいだ」
「……なんか心配してた私がバカだった」
やはり頭はサバゲー中心、と心配した自分にラプアは呆れてしまった。
「もしかしたら前に進むだけじゃ難しいのかもね」
前進するには障害が多い。フラッグ戦でも前線が停滞したときなんかは同じシチュエーションになる。
そう、押してダメなら。
「一度、引いてみるのもアリだね」
悠里は妙を得たように顔を上げて言い、廊下を進んだ。




