第8話 新入生ケイデンス
ありがたい説教のおかげで少し遅刻してしまったと悠里は内心で憂いた。しかし時間はまだたっぷりある。
入学から一週間。今日から新入生の部活が解禁される。
あの入部届をようやく出せたのだ。向かう場所は決まっていた。
校舎の階段を駆け下りて一階。部室の場所を聞いていなかったと途中で気づいたが些事だった。
丁度通りかかった生活指導の教師から呆れ顔で教えてもらい、校舎の最奥にある地下階段へとたどり着く。
鋼鉄製の堅牢な扉には張り紙で236部の文字がある。迷わず開くと、遠い花火のようなか細いモーター音が聞こえてきた。
遂に足を踏み入れるのか。緊張と興奮が入り混じった心音が胸を叩く。
ゆっくりと階段を降りたら、体育館ほどの巨大な空間と張り詰められたバリケードの数々が出迎えてくれる。
「来たなー新入部員」
ツカツカと金属を踏む音で振り返ったのは凛々しい出で立ちの安土 涼だ。
「一年にしては随分と良い身分じゃないあいつ」
「奏。新入生をそうチクチク刺すなよ。やる気削がれたらどうする」
「それくらいでヘコむようなら端からいない方がマシだわ」
「新井 悠里君だったかな。来て早々にすまない。奏はキツイ物言いしか出来ないんだ。私に免じて許して欲しい」
「あんたがそう甘いから先輩達にも浮ついた空気感が流れるのよ! 今年からこの部を背負うんだから少ししっかりしなさいよ」
華奢な腕を組んで鋭い目線を据える彼女『三城 奏』のキツイ物言いは癇に障るが、彼女達の本気度がジリジリと悠里の肌を撫でている。
それとは裏腹にいつの間にか涼との漫才になっていて場は和んでいた。
「おほん。気を取り直してだ新入生諸君。私は部長の安土 涼。こっちはメカニックの三城 奏だ。さっき言ってたことだがあながち間違いじゃない。BB弾は当たれば痛いし容赦がない。生半可な気持ちで来たのなら先に言っておくが帰ってカジュアルに楽しんだ方が良い。だが本気で上を目指そうと努力してる奴は見捨てない。本気で上を目指す奴はどんどん使っていくから期待してるぞ」
涼の一言で他の新入生たちは息を飲んでいた。
「ま、堅苦しいのは置いといて、これより通過儀礼を行う!」
ニシっと笑う涼。悠里が首を傾げていると、新入部員の前へ行き、
「貴様にとってエアガンとはなんだ!」
耳を劈くような声音と剣幕を立てて問う。傍から聞けば怒号だ。
「え、エアガン? えっと、俺」
「なんだ自分の獲物が何か説明できないのか? 最後に聞いてやるからそれまでに考えておけ! 次にお前!」
「は、はい! 俺にとってこいつは、戦うための武器です!」
「ただの武器か弱いな。所詮ただの武器としか思ってない奴は真っ先に死ぬ。次、はいお前!」
「私にとっては素晴らしい銃を作るための研究材料に過ぎませんねぇ。より早く、遠くへ、正確にBB弾を届けるための踏み台達。その中でも磨かれた一丁だけが私の最高傑作として戦場に花咲く……」
「終わったらフィールドに叩き込んで、じっくり扱いてやる! 奏からもな! 次!」
1列に並んだ部員たちに次々と迫る涼。海兵隊のブートキャンプを思い出す。
そして列の最後、悠里の元へと彼女が来る。
「次、お前だ双眼鏡少年」
「はい! 俺にとってエアガンは……家族です!」
その答えでそこにいた誰もが面食らって固まった。
「ほう……家族か」
「あぁいやその……ふぅ。こいつは俺にとって居なくてはならない相棒なんです。ずっと一緒に戦ってきたから、かけがえのない家族のような、そんな存在です! ダメでしょうか?!」
実際に人になれるし、間違ってはないと思う。けれど、周りは完全に引いていると思った。
しかし涼は、険しい剣幕を崩して、
「ぷっなはははは! やっぱお前面白いな! 家族って答え出した奴は初めてだよ」
「おかしいでしょうか?」
「おかしくて結構だ。やはり私の目に狂いはなかった。追加の質問だ少年。君にとって、サバゲーってなんだ?」
考えることでもない、と悠里は間髪入れずに返した。
「生き甲斐で、これだけは絶対に負けたくないってスポーツ……負けたら俺じゃ無くなるから。絶対に勝たなければいけない戦い……です」
負けたら俺じゃ無くなる。そうだ。
涼も満足そうな顔をして、
「負けたくない、勝たなきゃいけない、じゃまだ詰めが甘いな悠里少年。負けない、勝つって心だ。それを私が持たせてやる」
「……はい!」
「さぁ、終わりだ。早速練習を始めよう。まずは新入生の体力を見せて欲しい。フィールドの方は奏に任せる」
「はいよ」
涼は新入生たちを率いれ、悠里の航行最初の部活は幕を開けた。




