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【完結・BL】転校生に学年トップを奪われたから弱みを握ろうと友達のフリして近付いたらとんでもない修羅場が待っていた  作者: Ru
【中編 / 01】 一人目のファウスト

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 捨て台詞とともに去っていく父の背中を、ただ、呆然と見つめていた。


 無駄に仕立てのいいスーツ、それが角を曲がって消えていったとき、少し遅れて実感がやってきた。

 もう二度と母に会えないという実感が。


「……っ、……」


 指先が絶望に震えた。

 なにもかももう駄目だと思った。


 俺を止めてくれるものも、抑えてくれるものも、すべて奪い去られてしまった。

 俺の傍には誰もいない。もうなにも、なにひとつ、俺を守ってくれるものはない。


 崩れ落ちるのを止めることができなかった。がくりと膝をつく。

 衝動のまま地面を殴りつけて、打ち付けた部分がひどく痛んだ。背を丸めて、勝手に嗚咽がこぼれだす。


「……くそ、くそ……ッ……!」


 あんまりだと思った。

 俺にはもうなにもない。誰も傍にいてくれない。守ってくれるものがない。

 これから一生、ずっとひとりで戦っていくのか。


 ぼたぼたと涙が地面の色を変えて、そのとき、ざっ、と静かな足音がした。三島だった。

 ああ最低だ、と思って、それなのに、したたる水を止めることができない。


(嫌だ──嫌だ……ッ)


 叫ぶように何度も繰り返す。胸の内を、失意と絶望がしきりに打ちのめした。


 嫌だった。叫ぶように思った。


 他の誰でも構わない、でも、こいつだけは嫌だ。

 こんな最低の、卑怯で、ずるくて、ちっぽけで、見苦しい奴の前で泣きたくない。

 こんな男の前なんかで。


 ひどい嫌悪と情けなさとみじめさが入り混じって、ありとあらゆる感情が胸を乱した。

 ぐしゃぐしゃになった精神で、それでも体裁を保とうとする。見苦しい咳が何度か吐き出された。


 俺はぐっと目元を拭って、立ち上がろうと腿に力を込めた。


 だが、それより先に、目の前に影が落ちた。三島だ。痩せた人影が、俺の前にひざまずいていた。


 そっと手を伸ばされ、熱を帯びた指先が頬に触れる。訪れたのは間違いなく、この男への嫌悪と反発だった。

 それなのに、なにかが尽き果てた俺は、三島のことを払いのけることすらできなかった。


 そっと顔を上げさせられ、生っ白い、思ったよりはきれいな顔が、静かに近寄る。

 眼鏡ごし、薄いガラスを隔てて、あの名前のない宝石のような色の瞳が、俺をじっと見つめている。

 それが薄く細まって、発声の直前の呼気の音、三島のくちびるが開かれて。




「なあ宗像、──……」




(……──なんだ、それ)


 耳に流し込まれたのは、信じられない言葉。


 呆然と目を見開く。

 ほとんど絶望的な気持ちで息が詰まって、喉の奥が小さく音を立てた。


 目の前の最低な男が、淡く目を細めて微笑んでいる。




 ──俺の中のなにかが動き出す、どうしようもない音がした。




 

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